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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百五十一話 脱出

 剣を弾き、肩でタックルを入れて壁際まで突き飛ばす。出来る限り傷つけたくないと、この期に及んでまで甘いことを言っていると思われるかもしれないが、彼らは衛兵だ。今だその全てが解明されていないので何だかんだ、後が怖い。盗賊の味方をしているが、殺してしまうと責任問題になるかもしれない。


「ダニエラ! 彼奴何なんだ!?」

「イヴは盗賊の首領だった女だ! つまり此奴等は……ッ」


 衛兵の皮を被った盗賊だってのか!?


「いいや、此奴等はちゃんと衛兵さ。正規のルートで就職させた私の部下だ」

「させたって何だ、させたって!」


 完全に違法ルートじゃねぇか! 此奴等揃いも揃って盗賊か!

 再び振り下ろされた剣を鎧の魔剣(グラム・パンツァー)で受け止める。ギリギリと押してくる衛兵はニヤニヤと笑っていやがる。元・盗賊って顔してんな……!


「さっさと殺せ!」

「あいさ、ボス!」


 衛兵の皮を破った盗賊達が群がってくる。僕の背後からの攻撃を『氷剣』で防ぎ、左右から斬りかかる盗賊に『氷矢』を放つ。腐っても衛兵として生活していたからか、鎧は国からの支給品。矢がその鉄板を貫くことはないが、怯ませるだけの威力はあった。

 一度に2つの魔法で防いだことに驚いたのか一瞬、剣の圧力が緩む。その隙を突いて押し退け、返す刀で手首を斬りつける。戦闘不能にすれば、此方の勝ちだ。


「ダニエラ!」

「あぁ!」


 とっとと逃げるぞ、と。ダニエラの魔法が入口を塞ぐ集団に向けて放たれる。……が、その風はイヴによって防がれる。此奴、いつの間に移動したんだ? それにダニエラの魔法を防ぐなんて。


「私も風魔法は得意でね」

「対消滅か……!」


 同じ属性には、同じ量の魔力をぶつけるとこれは対消滅となる。小癪な真似を……しかし言い換えれば此奴はダニエラと同等の風魔法を扱えるということだ。逃げ出したいが、焦っては仕留められる。

 ゆっくりとダニエラと距離を縮め、剣を構えながら2人で対峙する。


「お前、どうして衛兵隊長になんかなってるんだ?」


 ダニエラがイヴを睨みながら尋ねる。


「ふん、簡単なことさ。私達を追ってきた衛兵隊長を捕まえて拷問の後に洗脳。そして、私の奴隷にしたのさ。後は業腹ではあったが妻を名乗れば、この町の指揮権は私の物だ。それから長い時間を掛けて腐らせたのさ」


 なるほど、長命な種族だから出来ることか。しかし拷問に洗脳か……恐ろしいな。しかし、この町は元々、治安の良い町だったことが分かった。国が何度もこの町を浄化しようとしていたが、此奴が衛兵隊長なんて名乗る所為で、上手くいかなかったんだ。つまり、此奴さえ仕留めれば町は元通りになるのでは……? いや、駄目だ。それこそ膨大な時間が掛かる。一気に是正しなければ汚れは広がるだけだ。


「それこそ、僕達の仕事じゃないな……」

「あん? なんだって?」

「何でもないさ。僕達は此処から逃げ出すだけだ!」


 魔力を漲らせる。その色は藍色。上社朝霧お得意の氷結魔法だ。


「なん……ッ」


 逸早くイヴが反応するが、遅い。既に僕の魔力はこの空間を支配している。ただし、床だけだけどな。


氷縛り(フロストヘイム)


 僕とダニエラを除いたこの部屋に居る人間全ての動きを氷が封じた。


「クソッ!」


 イヴが必死に藻掻いているが、その魔法は僕が魔力を解除しなければ解けない。ちなみにこの空間の水分を凝固して生成したのでなかなか溶けない。


「ダニエラ、今のうちに!」

「あぁ! 仕留める!」

「違……ッ」


 最大速度で駆け出したダニエラが真っ直ぐ死生樹の細剣をイヴの胸に突き立てた。


「は、ぁ……ッ」

「お前との腐れ縁も此処までだな」

「クソ、が……!」


 僕はダニエラへ手を伸ばしたまま動けなかった。なんで、殺す必要があったのか……?


「クソ、クソ、クソクソクソクソォ!! クソがァァァァァ!!!」

「!?」


 しかし、胸を貫かれたイヴは死ぬどころが元気に吼える。意味が分からない。明らかに様子が変だ。


「ッ!? ダニエラ、離れろ!!」


 氷に縛られたイヴの身を魔力が覆うのが見えた。嫌な予感しかしない。ダニエラが風魔法の技で後方に逃れた瞬間、イヴの身が赤い炎に包まれた。


「チッ……やはり駄目か」

「どういうことだ!?」

「イヴは風魔法と共に火魔法も操る。そして昔、身代わりの魔道具を、私から奪ったんだ」


 身代わり? つまり、さっきの一撃は無駄に終わり、僕の氷も溶かされて脱出の最大のチャンスが無くなってしまったということか?


「クソッ! 折角の身代わりの魔道具を……ダニエラァァ!!」

「ふん、それは私の物だ。私がどうこうしようとお前の知ったことではないな!」

「あああああ!! 死ねェェェ!!」


 火炎の渦が僕達に向かって放たれる。それをダニエラが土壁で防ぐ。が、半端なく熱い。直接当たっていなくても身が焼かれそうだ……!


「ダニエラ、どうする!?」

「強行突破は難しい。アサギ、何とか凌いでくれ。建物ごと吹き飛ばす!」

「竜巻だな! 任せろ!」


 例のアレで綺麗さっぱり更地にしてしまえば、退路は360度に出来上がる。

 《森狼の脚》を両足に纏い、チャンスを待つ。火炎の渦が途切れた瞬間が狙い目だ。その一瞬で、彼女の動きを再度、封じる。


「あああああッ!!!」


 イヴの苛ついた声と共に渦が途切れた。今だ……ッ!


「はぁッ!」

「何!?」


 鞘に収めた剣(・・・・・・)で彼女の腹を思い切り突いた。抜き身の剣なら間違いなく致命傷のそれも、鞘越しであれば死ぬ程痛いで済む。その痛みにイヴは為す術もなく蹲る。


「ボス! てめぇ!!」


 未だに動けない盗賊達が剣を投げてくるが、『氷盾』がそれを防ぐ。そのまま後退し、ダニエラの魔法を待つがあの時より遅い。


「ダニエラ、まだか!?」

「…………ッ!!」


 しかし返事はない。膨大な魔力だけがこの空間を埋める。

 数秒ともしない間が、ジリジリと僕の精神を削る。まだかまだかと焦りつつ、盗賊共に睨みを効かせていると視線の中でイヴがゆっくりと起き上がるのを見た。拙い!!


「てンめェェェェェ!!!!」


 起き上がり、血走った目で僕を睨むイヴの両手に魔力が集中する。驚いたことに左右で別々の魔法だ。右手に風、左手に火。そんな技まで持っているなんて……!

 慌てて僕も魔力を漲らせる。先程の火炎の渦よりもデカいのが来ると予想して何重にも氷盾を重ねる。8枚まで用意したところでイヴの魔法が炸裂した。


「死ねェェェェェェェェェ!!!!」


 右手の暴風が火炎を巻き込み、巻き込まれた火炎が更に燃え上がる。火と風の相乗効果で跳ね上がった威力の火風魔法が一気に僕の盾を4枚もぶち抜いた。とんでもない威力だ。予想外過ぎる……!


「死ぬ、死ぬ!!」

「死ねやァァァ!!!」

「くぁぁ……!!」

「…………ッ!! よし!! 離れろ!!」


 離れろって言われても! 動けない!


「ッ、駄目だ! 僕ごとやれ!!」

「そうはいくか!! 何とか逃げろ!!」

「今動いたらお前までやられる! 早くッ!!」


 これ以上はダニエラの魔力が行き場を失って暴走してしまう。それじゃあ意味がない。


「大丈夫だ、僕には風の加護がある! やれ!」

「……ぅぅぅぅうう!!」


 唸りながらもその魔力が僕に向かってくるのが分かる。振り向けばダニエラは目にいっぱい涙を浮かべながら僕を見つめていた。悪いな……でも絶対何とかなるから、安心してくれよ。

 僕は身に纏うウィンドドラゴンの衣服に精一杯の魔力を込める。状況が状況だからか、何だか淡く輝いて見えるが、気の所為だろう。


「クソ野郎がァァァァァ!!!」


 正面からはイヴの魔法が迫ってくる。いつの間にか氷盾も残り1枚だ。でも、何とか耐えた。偉いぞ朝霧。よくやった。

 でもイヴも頑張ったらしい。烈帛と共に威力が上がり、最後の一枚にヒビが入る。

 その時、背後から凄まじい風が僕を襲った。ダニエラの魔法だ。服の加護のお陰か、それほどでもないなと感じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の件は主人公の甘さが招いたことだな ここまで来て主人公の下らない考えのせいで愛する人の命を危険に晒した訳だしな 主人公は大切なものの優先順位をつけた方がいいぞ
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