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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第十五話 新事実

 走り続けること数分、僕は衛兵隊の南門詰め所の前にいた。数人の衛兵が慌ただしく出入りしているので、どうやらダニエラは無事に辿り着いたらしい。中に入ろうか迷っていると衛兵と共にダニエラが出てきて、その後ろからラッセルさんも出てきた。


「アサギ!」

「ダニエラ、無事に着いたんだな」

「あぁ、ラッセル隊長に事情は話した」


 ラッセルさんが頷き、これから冒険者の捕縛に向かう旨を話してくれた。


「正直、お前さんを馬鹿にする風潮には腹が立っていたんだ。俺が助け出した奴を悪く言うのは許せんからな。任せとけ、どんな些細な罪でも牢にぶち込んでやる!」

「ラッセルさん、気持ちは嬉しいけれど職権濫用は拙いよ」

「ハッハッハ!」

「ラッセルさん」


 スッと目を逸らして歩き出すラッセルさん。いや本当に気持ちは嬉しいんだけどね。


「アサギ、ラッセル隊長は真摯に話を聞いてくれた。きっと大丈夫だ」

「信用はしてるんだけどね……」


 ガチャガチャと軽鎧を鳴らしながら町に散っていく衛兵を見ながらポツリと漏らした。僕みたいな脇役人生には無縁の大騒動にどこか息苦しい思いをしながらダニエラと二人で立っていると、若い衛兵くんが詰め所内へ案内してくれた。


 中は結構物で溢れている。書類やら、謎の箱やら……聞けば押収品だとか。何か物騒だな。その辺の物に触れないように奥へ進み、4畳程の部屋に通された。椅子、机、ベッド。窓はあるがご立派な鉄格子付きだ。これ、悪いことした人が案内される部屋じゃないの?


「申し訳ないのですが今日はここで休んでください」

「何か悪いことした気分になりますね……」

「ははは、出ることが難しい部屋は逆に安全ですから」


 物は言いようとはまさにこの事だな。だが仕方ない。外に居てゴミ共に絡まれるのも嫌だし。しかし一つ問題がある。


「ベッド、一つしかないんですけど」

「すみません、余ってないんです。申し訳ないです。二人で使ってください」


 何言ってんだ此奴…阿呆野郎なのか? 僕は精一杯呆れた視線をぶつけてから椅子に座った。


「余ってないなら仕方ないです。僕はここで休みます。ベッドはダニエラが使ってよ」

「良いのか? そこじゃ休むに休めないだろう」

「いや、慣れてるからいいよ」

「慣れてるのか……」


 そう、何を隠そう僕は机に突っ伏して寝るのに慣れている。昔、夜勤明けで退勤してからあまりの睡魔に事務所の机に突っ伏して寝てしまったことがある。店長がいいよいいよとそのまま寝かせてくれたのだが、それ以来退勤後に机で寝ることが多くなった。だからこうして机で寝るのは慣れてるのだ。


「では解決したようなので自分は見張りに戻ります!」


 ビシっと敬礼して駆けていく衛兵くん。何も解決してねーよ! 妥協したんだよ! と、心の中で叫び、代わりに口からは溜息を漏らす。とりあえず休もう。久しぶりに走り過ぎた。公園を出た時はあんなに眠かったのに今は眠気なんかちっとも無い。暇だ。


「そういえばダニエラ、足速いんだな。あの後すぐに後を追ったんだけど、姿がどこにも無くてびっくりしたよ」


 暇なので話し掛けてみた。少し気になっていたのもある。もしかしたらAGI仲間かもしれない。

 ダニエラはベッドに座り、僕の方を向いて話し始める。


「あぁ、それなら姿が見えないのは当然だ。屋根伝いに走ったからな」

「はい?」


 屋根の上? あんな場所に梯子なんかあったっけ?


「風魔法でな、体を軽くして、ジャンプ時にブーストを掛ければあれくらいの高さなら簡単に登れる」

「風魔法……」


 魔法の存在を初めて身近に感じた。まさかダニエラが魔法使いだったとは。騎士っぽい雰囲気なんだがな。


「魔法得意なの?」

「そうだな。魔法と剣を使った混成武術が得意だ。あ、魔法が使えるのは内緒だぞ? 知られると冒険者に囲まれるからな」

「ふぅん……そういうこともあるんだ。でも僕は魔法使えないから羨ましいよ」

「アサギは適性がないのか?」

「いや、分からない。調べ方も分からない」


 そういうとダニエラは立ち上がり、僕の向かいの椅子に座った。


「適性テストなら簡単だ。体内魔力の色を見れば分かる。ちょっと待て」


 懐から出した仮面をかぶるダニエラ。仮面越しに僕を見つめる。ちょっと緊張してきたぞ……この適性テスト如何に拠っては僕の人生設計が大きく変わることになるぞ。


「よし、そのまま集中して、自分の体の中を何かが流れて循環するイメージをしてくれ。そうすると魔力が体内を巡る」

「ん……」


 目を閉じてイメージしてみる。すると《器用貧乏》が発動し、魔力を流すという感覚が再現される。魔法の使い方、というか具体的な存在をダニエラに聞かされた事で《器用貧乏》で行使のイメージが固まったのだろうか。

 それに従って僕は力を込める。するとそれは体の中心から始まり、全身へ何かが流れ、巡り巡ってまた始まりの場所へ辿り着く道のイメージとなった。


 そこへ、最初はチョロチョロとした魔力の源流を流す。そしてそれは様々な場所を流れ、他の支流と合わさり大河となって流れ行く。体全体を巡る大きな川。

 しかしその川の中に異物を感じた。腹の辺りだ。少し考え、理解する。そこは強盗に刺された場所だった。理解した途端、あの時の熱が蘇る。熱い、とても熱い。だがそれは一瞬のことで、あれほど熱かった場所はスッと冷め、どんどん冷めていき、やがて凍りついた。川の流れが滞る。どうにかこの魔力の流れを止めないようにと、流れを強くしてみる。

 すると氷はゆっくりと押し流された。氷河だ。氷河となった魔力は体を巡る。だんだんと氷は溶けてなくなるが、傷の部分を通るとまた大きな氷の塊が流れ出す。

 僕の体を雪解け水のような冷たい清流が流れ巡った。


「よし、いいぞ」


 その声に目を開ける。研ぎ澄まされたような感覚は霧散し、ここが詰め所であることを思い出す。


「ふぅ……何か疲れた。どうだった?」


 問われたダニエラは仮面を外し、腕を組んで思案する。


「不思議な色だった。最初は無色の流れだ。これは誰にでもある魔力、その大本だ。それが一瞬、紅に染まった。その後は紺碧だ。その色が体内を巡っていたが、紺碧の流れが藍色になったり、また紺碧になったり……非常に不安定だ。けれど、その状態を安定と呼ぶことも出来る。不思議な色だ」


 先程感じた熱さや冷たさが色として表れているみたいだ。僕のイメージがそのままダニエラにちゃんと伝わった証拠だ。


「なるほどな…それで、属性として使える魔法は?」

「無色は無属性だ。これは誰にでもある魔力そのものの色とも言える。紅は火属性。燃やしたり爆破したり、だな。アサギは見えたのが一瞬だったから使えるが得意ではないと思う」


 ふむふむ。盛大に爆破してチートを気取ることは出来ないと。


「そして紺碧は氷属性だ。色んな変化があった後は主に紺碧だった。アサギは氷魔法が得意なんだろう。最後に藍色は水属性。氷よりは多少劣るかもしれないが、氷は熱を与えれば水となる。水は熱を奪えば氷となる。アサギの中でこの流れが完結しているんだ。なるほど、そう考えると火魔法は氷魔法と水魔法のクッションとしてアサギの中で存在しているんだな。なので氷と水。これがアサギの得意魔法だ」


 なんと、ころころと変わった色にそんな流れがあったとは。自然と笑みが溢れる。


 ふふふふ……くははははは……あーはっはっはっはっは!!!


 僕はただの素早い器用貧乏じゃあない! 魔法が使えて素早い器用貧乏だったのだ!!

 嬉しすぎて涙が出てきた。

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