第百三十八話 寄り道発見
「やったぁぁぁぁぁ!!!」
穴の中で僕の歓声が反響する。土に汚れた頬を土の付いた手で拭えば伸びてさらに汚れが広がった。が、そんなことを気にするような余裕はない。何故ならば……何故ならば……!
ついに、地下への入口を発見したのだ!
「これが喜ばずにはいられるか! ダニエラに報告したい! やったー!!」
□ □ □ □
穴に向けて収束した《森狼の脚》を放つこと数回……と聞くと簡単に思えるが、これが結構な重労働だった。掘って柔らかくなった土は出さなきゃいけないし、何より一度に出る量が半端ないのだ。
それを何度か繰り返すうちにクタクタになった。スキルを何度も神経を使うやり方で行使した為に精神的にもヘロヘロだった。そんな状態で土を掘り返していたら硬質な何かが手に触れた。
慌てて掘り返すと、そこに現れたのはハッチだった。潜水艦やらで見掛ける密閉されたエリアで使う円形のハンドルの付いた扉。それが土に埋もれていた。これが入口ではないなら一体何なんだと問い詰めたい。
こうして僕はついに隠されたエリアへの入口を発見したのだ。
□ □ □ □
冒頭での歓声での理由は入口発見だ。だが、発見しただけだ。僕はこれからこの中へ入る。
「さぁ……行くぞ……!」
ハンドルを両手で握り、回すために力を込める。……が、動かない。ひょっとして反対かな? と、反対側へ力を込める。すると普通に開いた。フシュウ、と中の空気と外の空気が繋がる。1000年以上密閉されていた空間だが、特に変な匂いはしない。やはり環境保存の魔法が掛かっているらしい。
しかし入口が開いて良かった。子孫のエルフ族しか開けない扉だったらどうしようかと思った。古代エルフはその辺大らかなようで安心した。
入口を持ち上げて中を覗くと梯子が見えた。壁には何本かのラインが刻まれ、薄っすらと発光しているようで、照明器具の必要は無さそうだった。
何があるか分からないので警戒しながら中へ入る。梯子に手足を掛けてゆっくりと下る。握ってみても材質は分からない。
カツカツと硬質な音を鳴らしながら3分程下ると足の裏が床に付いた。両足で降り立ち、辺りを見回すと梯子を背に道が伸びている。他に道は見当たらない。出来損ないのゲームのような一本道だ。
一応、気配感知を広げながら前へ進む。当然ながら生物の反応は無く、感じるのは環境保存の魔法だけだ。ここがこの状態で維持出来ているのも魔法のお陰なのだろう。恐れ入ります。
てくてくと歩いていると横の壁に扉が現れた。道はまだ続いているようではあるが……ちょっと進むのは中断して探索してみる。こういう風に見つけた部屋を一つ一つ探索するタイプのアサギなので、見過ごすことは出来ない。
「お邪魔しまーす……」
ドアノブを捻って押し開く。鍵は掛かってないし、罠もないようだ。中は四畳半くらいの空間だった。奥の壁際には何やら沢山色んな物が積まれていた。
入った瞬間、扉が閉じて閉じ込められました、なんてことになっては元も子もないので、扉は限界まで開いて氷魔法で固めておく。押しても引いても動かないことを確認してから奥へと進む。
この部屋もラインが走っていて通路同様に発光しているので視界は問題ない。積み上げられた物もよく見える。
「はぇぇぇ……これは凄い……」
幾つも折り重なって積まれていたそれは人形だった。動いてないが、多分これ自動人形だ。オートマタって奴だ。骨組みが丸見えだったり、皮膚のような物が張られた物もある。仕組みがわからないので起動することは出来ないが、研究者とかマニアが見れば垂涎の逸品なのだろう。無造作に積まれているが。
「おぉ……」
その内の一体……出来るだけ綺麗な物を引っ張り出して観察する。見た限り傷はない。腕も足も変な方向は向いていないので、新品同然だ。ちなみに女性型だ。服は着ていないので当然、何もかも丸見えなのだが、そんなところまで精巧に作る必要ある? と疑問を持つが、そういった使い方もあったのかもしれない。古代エルフはHENTAIなのかもしれないな。
「持って帰りたいが……これを担いで歩くのは勇気がいるな」
全裸の息をしていない体だ。完全に殺人者だった。人形とはいえ、迂闊に運び出せない。死んでたり動かない物とかであれば虚ろの鞄に収納出来るかもしれないが、もしこの人形が動くのであれば……どうなんだろう。動く物になるのだろうか。動く無機物は収納出来るのか?
「疑問は尽きないが、先を急ごう」
もしかしたら奥まで行って、戻ってくる頃には持って帰る勇気がついてるかもしれないので一応入口から運び出して通路に寝かせてやる。全裸の酔っぱらいみたいだ。他にも綺麗な人形はあるが……まぁ運ぶなら背負う形になると思うので1人限定だな。
「よし、行くか」
魔法を解いて扉を閉める。外に出して扉を閉めたことで起動するかも? と思ったが動かない。もしかしたら環境保存されているのかもしれない。ま、ひとまず放置だ。
カツカツと革靴が床を鳴らす音が響く。結構歩いたがさっきみたいな扉は無かったし、罠なんて一つも無い。何の変化もなく続く道ではあったが、漸く行き止まりだ。
先程のような扉が一つ。目の前にある。
「この先がお宝部屋かな?」
指先でそっとドアノブに触れるが、熱くもないし冷たくもない。電流も走らない。誰でもウェルカム状態だ。
意を決してドアノブを握り、捻って押し開く。
「うっ……!?」
今まで数本だったラインが幾何学模様を描きながら床、壁、天井へと広がっていく。増した発光量に目を細める。真っ白になった視界はやがて慣れて部屋の中が見えてきた。
部屋は先程の四畳半から広がって六畳間になった。古代エルフは部屋が広いと落ち着かないタイプなのか? 落ち着かないタイプのHENTAIなのか?
「おっ……」
眩しい六畳間の中心に箱が置いてあった。横に長い箱だ。ひょっとして剣か?
隠し切れない興奮が僕の心拍数を上げていく。耳の奥がドックンドックンと煩くて仕方ない。が、そんなことはすぐに意識の外側に追いやって、箱の前に跪き、興奮で震える手を伸ばして箱に触れる。
すると床のラインがふわりと発光し、箱へと伸びる。それは箱の側面からふた手に分かれて真横に一周する。
線と線が繋がり、そしてカチ、と小さな音がして箱が上下に別れて開いた。
「……ッ」
ゴクリと唾を飲み込む。別れた蓋を持ち上げて横に置く。そして見えた箱の中身は……
「…………………………ん?」
二つの眼鏡だった。
「め、眼鏡……?」
横に長い箱に二つ、横並びに置いてあった。フレームレスデザインの眼鏡と、薄い翠のスクエアフレームの眼鏡。この翠には見覚えがある。例の謎金属だ。
「目は悪くないんだけどな……」
とりあえず手に取る。一応、古代のお宝だしな……そっとスクエアフレームの眼鏡を掛けてみる。キョロキョロと辺りを見回すが、特に変化はない。度も入ってないただのレンズのようだ。
「ここまで来てハズレかぁ……」
ガッカリと肩を落として自身の膝の上に置いた手を見る。土に汚れて酷いもんだ。はぁ、と溜息をついてこれからどうするか考えていると、不思議な事が起こった。
僕の手……正確には篭手に。スッとラインが走り、文字が浮かび上がる。
「『氷竜の小手』……知っとるわ!」
じゃなくて。
「うわ、これひょっとして鑑定か?」
異世界と言えば鑑定。鑑定と言えば異世界だ。思えば僕は今まで鑑定と言うものに立ち会ったことがない。鑑定のない異世界だと思い込んでいた。
しかし、この眼鏡こそが鑑定の魔道具だった。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
この日、3回目の歓声を上げた僕はダニエラへの良い土産が出来たことを心から喜んだ。
装備の鑑定を繰り返していたら結構な時間が経ってしまった。しかしお陰で分かったことがいくつかある。
まず、この鑑定眼鏡に魔力を使う必要は無かった。鑑定眼鏡を鑑定眼鏡で見た結果だった。このレンズが実は魔石だった。無属性鉱石。それがこのレンズの正体だ。
そして鑑定結果を更に注視することである程度の説明が表示されることに気付いた。例えば最初に見たアイスドラゴンの小手ならばこうだ。
『氷竜の小手 アイスドラゴンの皮膚と黒鉄から作られた小手。氷魔法威力微上昇。火魔法耐性微上昇』
といった具合だ。この説明機能がなかなか優秀で、鑑定眼鏡のレンズも鑑定してくれた。掛けた鑑定眼鏡でもう一つの鑑定眼鏡のレンズを鑑定した形だ。その鑑定結果によると、レンズには特殊な魔法陣が刻まれていてそれが鑑定してくれるらしい。
鑑定に必要な魔力は空気中の魔素で十分なようで、そのお陰で装備者が魔力を消費することはないみたいだ。
「これは良い物だ……!」
改めて最高の魔道具を発掘出来たことを実感する。ダニエラもきっと喜んでくれるに違いなかった。二つあることも僥倖だ。
「なんてったってメガネっ娘ダニエラが拝めるんだからな!」
描写不足でした。修正します。
といった具合だ。この説明機能がなかなか優秀で、鑑定眼鏡のレンズも鑑定してくれた。レンズには特殊な魔法陣が刻まれていてそれが鑑定してくれるらしい。
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といった具合だ。この説明機能がなかなか優秀で、鑑定眼鏡のレンズも鑑定してくれた。掛けた鑑定眼鏡でもう一つの鑑定眼鏡のレンズを鑑定した形だ。その鑑定結果によると、レンズには特殊な魔法陣が刻まれていてそれが鑑定してくれるらしい。




