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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百三十四話 旅の準備

 さて、旅の準備とは行ってもやることはいつもと一緒だ。道中のご飯と旅グッズの補給だ。僕の虚ろの鞄に収納されていた各種はオークの牙で溢れかえってしまったので、図らずも整理整頓されてしまった。

 今現在の鞄ちゃんの中身は、冒険者達から回収した布。ちなみに全て冒険者に洗濯させた。洞窟で回収した照明の魔道具。これで夜も暗さに怯えることはない。が、何分欲張って回収し過ぎたので中古で冒険者達に売りつけた。手元にはとりあえず20個くらい残っている。それからダニエラから預かっている結界の魔道具4つ。そして、藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)古代エルフ(エンシェントエルフ)の剣。古代エルフ(エンシェントエルフ)の短剣。古代エルフ(エンシェントエルフ)の槍。古代エルフ(エンシェントエルフ)の弓と矢。

 最後に強襲狗鬼(アサルトコボルト)の爪牙剣。強襲狗鬼(アサルトコボルト)の短爪剣。強襲狗鬼(アサルトコボルト)の革靴。強襲狗鬼(アサルトコボルト)の牙のネックレス。


 正直、このアサルトコボルトシリーズは僕専用の呪われ装備なので捨てたいのだが、もし僕専用じゃなかったらと思うと怖かったので泣く泣く鞄に仕舞い込んだ。この中であれば問題は起きないからな……。

 しっかし本当に旅グッズが減っちまった。まずは食料問題の解決だ。


 ということでダニエラと2人で屋台街へとやって来ていた。相変わらずここは賑やかで旨そうな匂いに満ちている。まずはダニエラと腹拵えをする。でないと買った端から食べてしまうからだ。ダニエラがな。


「じゃあ何食べよっかな」

「今日は……肉だな」

「お前はいつも肉だよ」


 肉さえあれば世は事も無しが最近のダニエラの口癖なのだが、実際肉さえ与えておけば大抵のお願いは聞いてくれる。夕食に肉を食べさせて『夜も肉食系になって?』と馬鹿なお願いをしたら満身創痍の朝を迎えた。それからは節度を持ったお願いをしたりされたりしているのだが……まぁそんなのはどうでもいいことだ。もうお腹ペコペコ。


「おじさん、その肉3つくれ」

「あいよ!」


 鉄板に並べられた肉にはおじさん特性のソースが掛かっている。それが鉄板に落ちて焦げる匂いはもう、殺してくれって感じだ。その極上肉を受け取り、1つは僕。2つはダニエラへと渡される。もうおじさんも勝手が分かっていると見える。


「ありがとう」

「こちらこそいつもありがとよ!」

「あー、実は今日で最後なんだ。明日、この町を出るんだ」

「なんだ、そいつは寂しくなるなぁ……」


 おじさんは腕を組んで難しそうな顔をする。きっと悲しんでいるのだろう。結構顔出してたしな……。


「俺の懐が寂しくなる……」

「……」

「冗談だって!」


 本当かねぇ?


「まぁ、後でまた買いに来るよ。旅の途中でも親父さんの肉は食べたいからね」

「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ! よっしゃ、いっぱい焼いて待っててやるぞ。安くしてやる!」

「ありがとう! じゃあまた来るよ!」


 おじさんに手を振って店を離れる。ダニエラも僕が話してる間に2枚目の肉を食べ終えたようで次の屋台を物色している。まだ僕は食べてないんだけどね。


「いつもの公園で食べてるから行ってきなよ」

「そうか? じゃあ食べてくる」

「いってらっしゃい」


 ダニエラと別れて公園にやって来た僕はベンチに座ってアツアツの肉を頬張る。このソースが何なのか、最後まで分からなかったが本当に旨い。

 モグモグと咀嚼していると公園に子供達がやってきた。その子達も屋台で買った料理を手に食べる場所を探している。よく見るとペンローズのパーティーだ。


「おーい」

「あ、アサギだ」

「やっほー」

「こんにちはー」


 ペンローズ達が僕に気付いて歩いてきたのでベンチを空けてやる。子供達なら全員座れるだろう。ちょっと狭いかな?


「アサギは今日は暇なのか? だったら一緒にゴブリン狩りに行こうぜ」


 蒸した芋にバターを落とした料理を食べながらペンローズが提案してくれるが、今日はちょっとなぁ。


「悪いな。今日は忙しいんだ。あー……明日、この町を出る為の準備があるんだ」


 そういうとペンローズの食べる手が止まる。


「えっ……アサギ、出ていくのか?」

「まぁな……長く居たけれど、元々僕とダニエラは帝都を目指して旅してるんだ」

「そうなのか……なんだ、ずっと居てくれるんじゃないんだなぁ」

「悪いな」


 何となく気拙くて頬を掻く。こういう別れはいつも苦手だ。


「まぁ仕方ねぇよ。アサギだって事情があるんだしさ」

「だよね……」

「寂しくなるね」

「もぐもぐ……でもこうして会えたのは僥倖だよね」


 キッカが食べ終えた串焼きの串を加えたまま呟き、それに続いて子供達が食べながらそれぞれの気持ちを呟くが、僥倖って……。


「ま、そういう訳だ。これが最後のチャンスって訳でもないが、腹ごなしに戦ってみるか?」


 見ればペンローズ達は武器を持っていたので提案してみる。きっとさっき言っていたゴブリン狩りに出掛けるんだろう。

 それを聞いた子供達は目を輝かせて立ち上がった。


「やるやる!」

「アサギから1本取ってやる!」

「よーしじゃあそこに並べガキ共! 一人ずつだ!」


 ペンローズを先頭に子供達が並ぶ。僕は腰の鎧の魔剣(グラム・パンツァー)を鞘に仕舞ったまま抜いて構える。ちなみに剣以外の装備はない。安い私服だ。ペンローズに馬鹿にされた時と同じ服だな、これ。


「じゃあ行くぞ!」

「来い!」


 長剣を構えたペンローズが迫ってくる。それを僕は正眼に待ち構える。



  □   □   □   □



 地面に転がる子供達。僕は剣を腰に戻す。


「じゃあそろそろ行くよ。お前らも元気でな。無茶なことはするなよ」

「あぁ……いつか、追い越してやる、よ……」


 キッカだけが反応する。他のメンバーは息も絶え絶えに、それでも握った拳を天へと伸ばす。僕は1人1人の拳に拳をぶつけてやり、公園の入口へと戻る。そこにはダニエラが屋台飯を詰めた袋を両手に提げて待っていてくれた。


「別れの挨拶をしているようだったから買ってきた」

「悪いな。ありがとう」


 それを受け取り、虚ろの鞄に仕舞う。ちらっと見えたけどちゃんと肉以外の料理も買ってきてくれてる。何だかんだ言ってそういうところちゃんと気が付いてくれるところ好き。


「じゃあ行くか。買うものは後は消耗品だな」

「買いながら挨拶回りだな」

「あぁ。ベガンさん、ベイケンさん、ガルド、ネス、バージル、アンジェリカ達……あとはダニエラの親衛隊だな」

「あの子達なら屋台街で出くわしたので挨拶しておいた。付いてくると言って聞かなかったが……」

「勘弁してくれ……僕の心が折れるわ。あの子等に追い掛け回されたんだぞ? ダニエラ様から離れろさもないと殺すって」

「その事があったからな。しっかり言っておいた。『私はアサギから離れるつもりはないし、アサギに手を出す人間と一緒に旅をすることはない』とな」

「ほんっとイケメン」


 屋台街を抜けて替えの服とか下着とか買いながらガルド達が泊まる宿へ行ったが、ガルド達は留守だった。ならばとギルドに顔を出してみると見つけることが出来た。二人共クエストに出掛けていたみたいで、換金カウンターから出てきた所で僕達を見つけて手を挙げながら歩いてくる。


「よう、今日はどこも行かなかったんだな」

「まぁな。明日、町を出るからその準備」

「なんだアサギ、おめぇもう行っちまうのか」

「結構長く居たからなー。帝都行く途中だしな」


 2人はガクリと肩を落として残念がる。前回、フィラルドを出る時は挨拶出来なかったからどうしても別れの挨拶はしておきたかった。それが出来たのは嬉しいが、こうして残念がってもらえるのは嬉しくも悲しいな。


「ま、アサギにはダニエラが付いてるし心配ないか」

「お? それどういう意味?」

「ダニエラ、此奴のこと任せたぜ」

「あぁ。他の誰にも任せるつもりはないから安心しろ。元気でな」

「……ったく、じゃあな。まぁまた何処かで会うだろ」

「俺達もそんな気がするけど、暫くはここを離れることはないだろうし、長い別れになりそうだ」

「ガルドがここを気に入っちまったからな。ま、俺も結構好きだしやっぱり旅立つのはもっと先だぜ」


 確かにここは良い町だ。こうして離れるのが実に難しい。でも別れの挨拶をしてしまうと、踏ん切りが付くというか……あぁ、旅立つんだなって実感が湧いてくる。実感してしまうともう、旅立つしかなくなる。

 さて、そろそろ次の挨拶に行かなくちゃということでガルド達と別れた。きっとまた予想外の場所で再会するだろう。何だか、そんな気がした。



  □   □   □   □



 アンジェリカ達は目立つ。綺麗どころが集まったパーティーだ。なので、ちょっと耳をすませば町の人の噂が聞こえてくる。


「おい見たか? あの美人パーティー」

「あぁ、そこに男1人……羨ましいぜ……」


 おや、今日の噂は少し違う。男? 気になったので彼らに尋ねてみると、そのハーレムパーティーは武器屋街で装備を物色していたらしい。ならばとダニエラと向かってみると、アンジェリカの後ろ姿を見つけた。ローリエ達とは別行動らしいが……男の姿はあった。その男とはバージルのことだった。


「よう、珍しいな」

「げっ、アサギ」

「なんだよ、僕が居ると何か問題あるのか? バージル」

「いやそんなことはない……」


 でも珍しい組み合わ、せ……ん? んん?


「おいバージル」

「……」

「そのアンジェリカと組んだ腕は何だ?」

「これは、だな」

「お前はアンジェリカにこっ酷く振られたはずだろう?」

「そうなんだが……」

「それについては私から説明して差し上げますわ!」


 さっきからクスクスとおかしそうに笑っていたアンジェリカがギュッとバージルの腕を抱き締めながらご丁寧に教えてくれた。


「実はあの宴会から暫くしてから、バージルが素面で告白してくださりましたの。それを受諾致しましたの!」

「でも1回振ったんじゃないの?」

「お酒の勢いでの告白だなんて言語道断ですわ! でもその事を謝ってからの再アタックには私の心も揺れ動いてしまいまして……」


 と、頬を染めるアンジェリカとバージル。


「でも僕、聞いてない」

「それに関してはすまない。気恥ずかしくて内緒にしていたんだ……」

「まぁバージルはそういうのあんまり言い触らすイメージないしな……じゃあ改めて、おめでとう」

「ありがとう、アサギ」

「ありがとうございます!」


 2人は幸せそうに微笑む。仲睦まじいというか、もう熟年夫婦の貫禄が透けて見える。


「おっと、そんな2人に報告があったんだ」

「どうかしたのか?」

「あぁ、明日この町を出るからその挨拶」

「「えっ!?」」


 2人ともリアクションまで似てきたな……。今日何度目かの説明をしてやると渋々といった感じで納得してくれた。何故僕は納得させなければいけないのか。


「……という訳で谷底班とバージルを探してたんだ。ローリエ達は?」

「あの子達なら防具屋の方に居るはずですわ」

「あぁ、もうすぐ帰ってくるはずだが……あ、来たようだな」


 バージルが僕の後ろに向かって手を振ると3人がやって来た。


「あれ、アサギ。どうしたのよ、こんな所で」

「あぁ、実はな……」


 斯く斯く然々。


「……そう、寂しくなるわね。でも良いわ。次に会った時は私も二つ名を貰って立派な冒険者になってるはずだし、その時にあんたに追いついてあげるわ!」

「ローリエは頑張り屋」

「きっと二つ名も貰える」

「だから、それまで死ぬんじゃないわよ」


 ジッと僕を見つめるローリエの頭を撫でてやる。ファン1号だし、大切にしないとな。


「勿論さ。お前も無理するなよ」

「ふん……じゃあね」


 それだけ言うとローリエは踵を返して去っていった。去り際に涙が見えた。僕との別れを悲しんでくれるなんて、本当に良い子だな。


「じゃあ皆も元気でな」

「あぁ、お前も元気でな。ダニエラも。また何処かで会おう」

「お元気で! 次に会った時はバージルとの結婚報告をして差し上げますわ!」

「バイバイアサギ」

「バイバイダニエラ」


 ダニエラと手を振りながらその場を後にする。いつまでも別れの言葉を投げかけてくる友人達に僕はいつまでも手を振っていた。




 全ての準備を終えて、宿に帰る道を歩きながら昔のことを思い出していた。高校生だった頃のことだ。

 高校を卒業して僕は専門学校に進学した。地元から離れた場所での生活は刺激的で、魅力溢れる町並み、人並みは毎日見ていても飽きることはなかった。その中で僕は忘れてしまった。高校時代、共に遊んだ友達の事を。彼らも大学へと進学してから連絡がくることは少なくなった。

 僕も、毎日新しい学校で作った同じ道を進む友人との生活に明け暮れて連絡することはどんどん少なくなった。そしていつの間にか、交友関係は途絶えた。


 そんな専門学校の友人達とも連絡は途絶えた。彼らは見事に就職し、僕は見事に落選した。そこで僕と彼らの交友関係は途絶えた。昼間忙しく働く彼らと、夜中にアルバイトをする僕が遊ぶことなど無かった。


 環境が変われば人間関係も変わる。それが僕がここに来るまでに学んだ人生だった。挙句、1人刺されて家族との関係も途絶えた訳だ。


 でも、この世界では不思議なことに環境が変わっても交友関係が途絶えることは無かった。ガルド達と一緒に食べた肉の味を思い出す。あれは本当に美味しかった……。

 そして思う。きっと僕は人と交遊する努力をしていなかったんじゃないかと。真心を持って接することをしなかったんじゃなかと。表面上の関係という奴だ。

 身寄りのない僕は、この世界に来て漸くではあるけれど、その大切さを知ったような気がする。


 合縁奇縁。一期一会。袖すり合うも多生の縁。人との出会いは大切に。


 それが人生で一番大切なコツだと、僕は今日改めて学んだ。

長い確信

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんとにみんな良い奴すぎて別れるのがおしいよぉ!
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