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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百三十話 通路を駆ける銀翆

祝130話です。ここまで続けられたのも皆様のお陰です。ありがとうございます。

 来た道を戻り、集落の壁が見えてきた頃。何だか騒がしい空気が漂ってきた。ダニエラと顔を見合わせ、ちょっと急いで戻ると冒険者達が騒いでいた。武器を手に行ったり来たりだ。


「これは……遅かったかな」

「とにかく急ごう」


 ダニエラに頷き、バージルを探す。とりあえずその辺の冒険者を捕まえて聞くことにした。


「なぁ、バージルは居ないか?」

「バージルさんなら見つけた穴の傍に居るぜ!」

「穴、見つかったのか。オークは居たか?」

「あぁ、わんさかだ! お前が行ってくれたら皆助かる。頼むぞ!」

「任せろって。すぐ行く!」


 やっぱり見つかっていたようだ。でもまだモルドレッドまでは至っていないようで、まだチャンスは残っているみたいだ。ダニエラと共に冒険者に聞いた場所に向かうと、そこは木製の一番大きな建物だった。そこの地下にあるらしい。


 開けっ放しになった扉から入り、地下に向かう階段を進むと途中から土壁になる。ここから先はホールモールに掘らせたようで、また照明の魔道具がぶら下がっている。ちょっと欲しいなぁと思いながら進むと、土壁の中に木製の扉が現れた。その扉に近付き、開けようとするとバン! と、向こうからいきなり開いた。


「お待ちしてましたわよ」

「アンジェリカか。びっくりするからやめてくれよ」

「ふふふ、遅刻した罰ですわ」


 気配感知で見てたな此奴め。あーびっくりした。何となく恥ずかしくて振り返ってダニエラを見ると呆れた目で僕を見ていた。


「私は分かってたけどな。扉の向こうにアンジェリカが居ること」

「教えてくれてもいいだろう?」

「常に気配感知を使って気を張っていれば分かることだ」


 そう言って悪戯っぽく笑う。確かに気配感知は切っていたけど……普段から使うようにしよう。熟練度も上がるかもしれないし。


「さぁ話してる暇はありませんわよ! この先の穴の向こうにオークが立て籠もってるんですの。アサギ様ならどうにか出来るのではとバージルが言っていましたわ」

「まぁ出来る限りのことはするが……見てみないことにはな」


 あの数のオーク以上に居るはずではあるが……まぁアンジェリカも急いでいるようだし現場へ急ごう。




 扉の先は少し道が続いて、すぐにまた扉が現れる。念の為に気配感知を使うと扉の向こうに何人かが立っていた。そーっと扉を開ける。中にはバージルとネス、ガルドと谷底班が難しい顔をして立っていた。


「……ん? アサギか。遅いぞ。どこに行ってたんだ?」


 僕に気付いたバージルが振り向いてしかめっ面で言う。


「いやぁ、見当違いの方向探してたみたいでさ……あはは」

「変な所で抜けているな、お前は……」


 呆れ交じりに言うが、アーサーのことは内緒だ。甘んじて呆れられよう。


「で、優秀な皆さんはオークを見つけたようで?」


 でもちょっとイラッときたので皮肉を言ってやる。それに苦笑しながらガルドが答えた。


「まぁ、探すなら大きい建物ってのが相場だしな」

「谷底へ続く穴ってことだったから地下を探してみれば……って感じね」


 それにローリエが続き、オリーブとオレガノがうんうんと頷く。

 改めてその穴を見る。ここだけ床は木張りだ。その真ん中に長方形に穴が掘られてあり、階段状の土の上に木の板が敷いてある。そしてその上は土が付いていた。足跡だったようだが、何匹も降りたみたいでもう土汚れっぽくなっている。ここをオーク達が降りていったんだな。


「この先に行った奴は?」


 ダニエラが皆を見ながら尋ねると、バージルが「皆行ったさ」と力無く言う。


「降りてしばらく進むとあの前線基地のような空間が広がっている。そこに入るやいなや、一斉掃射だ」

「あいつら並んで弓構えてやがるんだ。危なくて近寄れやしねぇ……」


 ガルドが腕を組みながら呟く。なるほど、姿が見えた瞬間矢が飛んで来ると……。まるで三段撃ちだ。これが異常進化個体じゃないオークの立てた作戦であるとすれば、脅威の一言に尽きる。


「アサギ、お前なら一点突破で行けるんじゃないか?」

「んー……助走距離があれば何とか。ダニエラ、土魔法で道、作れるか?」

「問題ないな」


 難なく答えてくれるダニエラ先生。実に頼もしいぜ。


「じゃあこうしよう。僕が思いっきり速度を上げて奴等の壁を突破する。そのまま魔法で何とかするから弓持った奴をどうにかしてくれ」

「アサギ、突破してからが雑だ」


 僕は軍師じゃないんだ。何となく立てた方針で良い感じにしてもらうしか無い。なる早でな。


「まぁ何とかなるって。僕が突破すればきっと総崩れになる。多分それで行ける」

「不安ですわね……」

「きっととか多分とか、安心出来ない言葉を並べるのはやめろって!」


 アンジェリカとネスは不安一杯みたいだが、これしかないんじゃないか?


「でもほら、リーダーはバージルだから。なぁバージル、どうする?」

「……そうだな。アサギがそれで行けるのであれば実行してみよう。他に手はないしな」

「バージルが言うならやるしかねぇか……ま、失敗してもアサギがハリネズミになるだけだ。俺ァそれで良いぜ」

「おいガルド、あんまり酷いことを言うな。泣いてしまう」

「おう泣け泣け!」


 ガルドの言葉に皆が笑う。酷い奴等だ。まったく……こうなったら目にものを見せてやろうではないか。


「よしじゃあアサギの滑走路はダニエラが作ってくれ。ついでに冒険者の待機部屋も作ってもらえるとありがたい。この穴を一気になだれ込むのは難しいからな」

「ポーションがあれば出来る」

「あぁ、ポーションなら……」


 僕のベルトに刺さってるのがまだある。ダニエラに貰った物だ。


「ほら、使えよ」

「使えも何も私が買ってきたやつ、だ!」

「うわっ、尻を叩くな尻を!」



  □   □   □   □



 さて、準備が完了した。ダニエラが土魔法で頑張って広げた空間には26名の冒険者が立っている。元は30名だった。亡くなった4人の地上班の4人……そのうちの3人を思い出す。あの木の下で剣を刺されていた光景は未だに瞼の裏に浮かぶ。絶対にこの作戦を成功させようと思った。

 ダニエラが作ったのは部屋だけではない。僕の滑走路だ。この空間から斜め下に向かって200メートル程の綺麗に均された地面は実に走りやすい。まっすぐオークの居る空間に続いているが、勿論ここからは見えない。だが、奴等が使っている照明の魔道具の光は見える。まっすぐ水平に伸ばせば走ってる途中で射られてしまうかもしれないがこの角度なら大丈夫だろう。空間には速度を落とせず突入出来そうだ。


「よし、準備は出来たな。ありがとう、ダニエラ」

「ん……問題ない」


 ちょっと疲れ気味のダニエラは2本のポーションを飲み干して壁に寄りかかって休憩していた。僕が声を掛けると壁から離れてバージルの隣に並ぶ。


「作戦は伝えた通りだ。アサギが突っ込んで、俺達が続く」

「実に簡単だ。何せ俺達は走るだけだ」

「あぁ、アサギが大変なだけだ」

「ですわね。もし失敗したら逃げますわよ!」


 ガルドとネスとアンジェリカが場を和ます。成功してもオークとの総力戦には変わりない。緊張した空気を和ますことも大事なことだ。僕としては思うところはあるけどな。


「ここが最後の戦場だ。勝つぞ!」

「「「おぅ!!!」」」


 冒険者達が応え、僕も否が応でも気合が入る。さてさて、ここからは僕の時間だ。


「アサギ、頼んだぞ」

「あぁ。じゃあ行ってくる」


 ぽん、と肩を叩くバージルに拳を伸ばす。それにバージルが拳を打ち合わせてくれる。


 腰に下げた鎧の魔剣(グラム・パンツァー)を抜き、腰のベルトに差した足切丸(アシキリマル)も抜く。左右に剣を握り滑走路に立ち、《森狼の脚》を行使する。両足に銀と翠の風が絡みつく。体内の魔力を練り上げ、装備に流す。ウィンドドラゴンの装備には風の加護とAGI微上昇の付与魔術が施されている。《森狼の脚》も更に密度を高める。さながら銀翆の竜巻だ。それにより僕の俊敏性は上がる。これが僕の最大速度だ。

 剣を持ちながらクラウチングスタートの姿勢を取る。地面に付く手はグーではあるが。ふぅ、と息を吐いて真っ直ぐ斜めに下る道を睨むと前傾姿勢になったのでパサリとフードが落ちた。ジッと前を睨む僕はそれを外さない。


「では、作戦開始だ!」


 バージルの声に僕は弾かれるように飛び出した。スタートはバッチリ。3歩でトップスピードにまで上がった僕は一気に坂を駆け下りる。流れる景色を横目に僕は転がるように進む。しかしそれも一瞬だ。両手の剣を前面に突き出し、クロスさせて構えながら多分3秒くらいで滑走路を越え、僕はオーク空間に突入した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アンジェリカもローリエもバージル達も好きになってしまったからこの戦いが終わったらまた別れが来るのかと思うと寂しいな [一言] 気配感知の常時発動はマストだろうな
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