第百二十五話 顔と名前が一致しないパターン
「おいおいなんだァ、遅刻かァ?」
オークを引き摺りながらやって来たガラの悪い痩身の男が辺りを睥睨して言う。ドSチンピラ系。
「これは……凄まじいです」
その声に続くようにポツリと白髪の女が呟いた。剣術風紀委員系。
「なんじゃ、まったく。バージルが急げと言うからやってきてみれば飛んだ無駄足じゃわい!」
大きな斧を手にした少女が言う。のじゃロリデカ斧系。
「確かにこれでは来た意味がありませんね……。アイツ1人で良いんじゃないですか……? クソ面倒臭い……」
溜め息混じりに言う女は毒舌ゴスロリ系。
「……」
何も言わない大男はステゴロ無口系だ。
「はぁ、まぁこんな事だとは思ったさ」
最後を締めるのはイケメン女子系。ダニエラだった。
彼らがバージルが送り込んだ精鋭だ。遠路遥々ご足労頂いた所で僕が言う。
「どいつもこいつもキャラが濃いんだよ!!」
ただしダニエラは除く、だ。
□ □ □ □
6人がやって来たので処理スピードが上がると思っていたが、そんなことはなかった。僕1人でさえ手こずっていた所に追加で6人も来たのだ。それを見たオーク達はゆっくりと後退していき、それを追うように僕達が攻めだしたところで、慌てて谷の向こうへ消えていった。見ればあいつら、また丸太を何本も置いて橋を作っていた。やっぱりあの丸太はオークが置いたものだったようだ。今度は何本も置いて複数人が渡れるようにしている辺り、攻め込む気満々で用意したのだろう。
「で、これからどうするのです?」
剣術風紀委員系ことエレナが尋ねてくる。視線が僕に向いているので僕に聞いてるんだろう。でも僕には決定権はない。それを決めるのはバージルだ。
「そんなのはバージルが決めるんだから此奴に聞いても仕方ないでしょう? 馬鹿なのですか?」
僕が話す前に同じ意見を言ってくれるのは嬉しいが、一々毒を吐かなきゃ喋れないのかな。勿論、話してくれたのは毒舌ゴスロリ系のベアトリーチェだ。どこからか取り出した黒い日傘をクルクルと回している。今は月夜だ。
「んじゃァ戻るか。おい行こうぜェ、ドレイク」
あっさりとこの場を後にして帰ろうとするドSチンピラ系のダンテと、それに従うステゴロ無口系のドレイク。
あぁ、一気に人が増えたから情報の処理が追いつかない……。ダニエラだけ覚えてれば良いかな。良いか。良いことにしよう。ダニエラが正義だ。
「一応、奴等が向かった方向だけ覚えておいて行くとするかのう」
のじゃロリデカ斧系のシャルロッテがちょっと背伸びしながら谷の向こうを見てから、帰り始めたので僕達もそれに続いた。僕も場所だけは頭のなかに刻んでおく。
それとなく殿を務めながら帰る森の中。そこら中にオークの死体が転がっていた。斬られ、千切られ、穿たれ、焼かれ、埋められ、殴られて……地獄のようなと頭に付けなくては表現出来ないような凄惨な光景が広がっていた。これを彼らがやったというのであれば、僕は借りてきた猫のように大人しくダニエラの陰に隠れてやり過ごさなければならない。こんなん怖すぎるわ。
「のう、アサギとやら。お主1人で問題なかったのではないか?」
シャルロッテが器用に後ろを向きながら歩く。
「まぁ結果的に僕1人でも問題なかったとは思うけど、皆が来てくれて心強かったよ」
「ハッ、口が上手いのう! じゃが、悪い気分ではないの。良い奴じゃな!」
ビシっと指を指された。シャルロッテに良い奴認定された僕はありがとうと頭を下げておく。
「でもそれなら初めに言っておいてもらえません? 私、陣地の中でゆっくりしたかったのに貴方の所為でこんなところまで来てしまったじゃないですか。汚らしいオークの相手をするつもりなど無かったのに」
「貴女は何しに来たのですか? オーク討伐を目的にこのクエストに参加したのでしょう?」
ベアトリーチェの愚痴にエレナが食って掛かる。やはり風紀委員だったか。曲がったことは大嫌いなのだろうな……よし、面倒だから2人で仲良くやってくれ。僕はダニエラとだけ話すから。
「ダニエラ、魔法使い組は放って置いていいのか?」
「あぁ、向こうは問題ない。代わりに使える奴を置いてきたからな」
「そうなのか。ダニエラが抜けて問題ないってことは向こうも無事だろうな」
「あぁ、だといいが……」
問題ないとは言っても心配なのだろう。ちょっと早足のダニエラだ。
だんだんと森が深くなってくるにつれて陣地が近付いてくる。それと共にオークの死体の数も増え、こっちはこっちで激戦だったのが伺えた。
軽装部隊の何人かが辺りを警戒しているのを見かけた。生き残りが居ないか、偵察が居ないかの確認だろう。軽く手を振ると疲れたように手を振り返してくれる。その様子に苦笑しながらも、無事であることを喜んだ。
それから程なくして陣地の壁が見えてきた。何だか壁から棘が生えているが、あれは何だ。刺さったら死にそうなんだけど。
「ふむ……土魔法使いの子がやったんだろうな。あれなら壁に取り付くのが難しくなるだろう。近付けば怪我するからな」
「あぁ、なるほどね。見た目が凄い威圧感だけど、理には適ってるのか」
まぁ過激だからね、ダニエラ信者は。こういう使い方をする所に性格が出ている。
陣地の入り口側は、雪掻きをした後のように左右にオークが積まれていたので、その間を抜けて中に入ると各々が地面に転がって休憩していた。僕達が帰ってきたことに気付いた何人かが嬉しそうに手を振ってくれる。何だかちょっとした凱旋みたいで良い気分だ。
そんな気持ちでバージルのテントに向かっていると、1人の冒険者が駆け寄ってきた。ファン1号ことローリエだ。
「アサギ、おかえり!」
「おう、ただいま。無事みたいだな」
嬉しそうに笑うローリエだ。良い子だなぁ。
「あ、ていうかまた血塗れじゃない! 洗濯日和!」
ローリエの無魔法が僕の服や髪に染み込んだオークの血を綺麗さっぱり消してくれる。本当に凄いな……一緒に歩いていたベアトリーチェやシャルロッテも目を見開いている。
「ありがとうローリエ。また世話になっちゃったな」
「これくらいどうってこと無いわ。それよりバージルがあなたを探してたわよ。アンジェリカと一緒にテントに居るわ」
アンジェリカが一緒なのか。ということは捜索が始まるんだな。
「分かった。じゃあすぐ行く。ありがとう」
「べ、別に連絡事項を伝えただけよ! じゃあね!」
早口に捲し立ててローリエは女子組のテントへと走っていった。律儀な子だ。ああいうファンが増えると僕の悪名も悪くはないと思える。
「はぁ……凄かったわね。あの無魔法」
「そうじゃな……わしも綺麗にしてほしかった……」
2人もそれなりに汚れてしまっている。その中で僕だけ綺麗なことに抗議の目を向けてくるが、僕は悪くない。さ、バージルのテントに向かおう。……と、その前に。
「3人とも来てくれてありがとう。また一緒に戦えるといいな」
とだけ言っておいた。チラとしか見ていなかったが、3人とも手練も手練。凄腕だった。
エレナの剣筋は切断面が鋭利過ぎて斬られたオークは走りながら左右に別れていった。ベアトリーチェは日傘ではなく槍を手に正確無比な突きでオークの心臓を穿っていた。シャルロッテの戦斧は言うまでもない。その見た目の重量を活かした壮絶な一撃を防げたオークは居なかった。
ダンテとドレイクのコンビも恐ろしい程の力量だったしな……斬るわ千切るわ絞めるわ殴るわ……良い遊び相手だったのだろう。
「ふん、お主には必要のない加勢じゃったが、まぁ、楽しめたしのう」
「そうね。噂通りの人でした」
「銀翆の名は伊達ではなかったということですね。憎たらしい」
それぞれの言葉が返され、まぁ、仲良くなれたんじゃないかと思う。ベアトリーチェは良く分からんけれど。
「私は魔法使い部隊に戻る。また後でな」
「あぁ。ダニエラもありがとな」
「良いさ。お前が居る場所が私の場所だ。ただ、私は帰っただけだ」
それだけ言うと僕に背を向ける。はぁ、本当イケメンだな……よし、ダニエラの相棒の名に恥じないよう頑張らねば。
僕は3人に別れを告げてバージルのテントへと向かった。
新キャラまとめ。
ドSチンピラ系男子 ダンテ
ステゴロ無口系男子 ドレイク
のじゃロリデカ斧系女子 シャルロッテ
剣術風紀委員系女子 エレナ
毒舌ゴスロリ系女子 ベアトリーチェ




