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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第十二話 水晶

 ちょっと裏通りなんかも巡りながら宿へと到着した。クズ共は追いつけなかったらしい。ショボい奴等め。

 ガランガランとベルの鳴る扉を開けて中へ入る。この音も耳に馴染んだ。


「おや、早かったのね」


 マリスさんがカウンターの下から顔を出す。


「ただいまです。ちょっと冒険者に追い掛けられました」

「まだあんたのこと文句言う奴がいるのかい? まったく、男の風上にも置けないね!」

「はは、置けない奴は結構いますよ」

「あたしはガッカリだよ……」


 他愛ない話をして部屋の鍵を受け取る。


「あぁ、アサギ。そういえば今日で2週間目だけどどうする?」

「勿論、延長で」

「はっはっは、もうあんたうちに住むかい?」

「気持ちは凄く嬉しいけれど、お金が溜まったら旅に出るつもりだからね……」

「そうかい、そりゃあ仕方ないね」


 そういって笑ってくれるマリスさんに僕はどれだけ助けられただろうか。マリスさんだけじゃない。ラッセルさんや、大将もだ。あと、ついでにガルドとネスも。

 僕は延長分のお金を支払い、部屋に戻った。ベッドに座ってステータスカードを取り出す。


「ステータスオープン」



  ◇   ◇   ◇   ◇



名前:上社 朝霧

種族:人間

職業:冒険者(ランク:G)

LV:15

HP:218/218

MP:86/86

STR:71 VIT:65

AGI:228 DEX:105

INT:53  LUK:11

所持スキル:器用貧乏

所持魔法:なし

受注クエスト:なし

装備一覧:頭-なし

     体-革の鎧

     腕-革の小手

     脚-なし

     足-革の靴

     武器-鉄の剣

       -鉄の短剣

     装飾-なし



  ◇   ◇   ◇   ◇



「レベル、上がってるな…それにしてもAGIが200突破か……どこまで上がるんだろう。そもそも平均がわからん」


 相変わらずの極振りっぷりに苦笑が漏れるが、速いことは良いことだ。何事も素早くが人生のコツだ。


 ステータスカードをポケットに入れて、着替えの下着をもって共同浴場へ向かう。実はこの春風亭、お風呂がある。これは僕としては嬉しい。お風呂大好き。夜勤明けの朝風呂は最高だったよなぁ…。

 男風呂の脱衣室で服を脱いで浴場に入ると同じ宿仲間が数人いた。軽く会釈して体を洗い、湯船に浸かる。


「ふはぁぁ……生き返るわぁ……」


 自然と声が出る。出ちゃうよな。出るようになってるんだ。そういう現象だと思ってる。

 一通り温まってさっぱりしたらさっと出る。長風呂はしない主義だ。

 新しい下着に着替えて食堂で夕飯を食べたら、あとは寝るだけだ。最近は落ち着いてきたこともあって、寝る前は一日の整理と今後の予定を確認している。


 今日のゴブリン狩りは順調だった。ギルド内はガルドがいたお陰で静かだった。いつもいてほしい。しかしその後が面倒臭かった。今後もギルド外で絡まれる可能性大、だな。警戒しておこう。

 更に嬉しいことにレベルが上がった。順調だ。Fランクに上がる前にレベル20には到達しておきたい。明日もゴブリン狩りに精を出すしかないか……明日は少し早めに行こう。ならば今日はもう寝よう。うん、それがいい。

 布団を頭までかぶって目を閉じる。あぁ、木の上の寝心地とは大違いだ…睡魔はもう添い寝状態だ。2回3回と呼吸をすれば、意識はすぐに僕の手を離れた。




  □   □   □   □



 翌日のゴブリン狩り、及び薬草回収も概ね順調だった。綺麗に根っこの先までほじくり返してから袋に入れて木に吊るし、あとは夜までゴブリンを追い回す。不思議と他の冒険者に出会わない。その事を受付嬢に聞いたところ、


『あー、最近は新人も少ないですからね。皆、西門から出てフォレストウルフの森へ出掛けてしまうんですよ。ところでアサギ様、森の奥へ入ったんですか? ねぇ?』


 とのことである。どうやら”石”は僕くらいらしい。同期がいないのは寂しいが競ったり争ったりする原因が無いのはいいことだ。平和に冒険者稼業が出来るのは最高だ。




 そして数日後、クエスト成功回数が15に達して僕はFランクに上がった。通称”黒曜石”。石よりは魅力がある。という意味らしい。もうちょっと何かなかったんですかね……。

 まぁ、これも古い風習らしいので考えても仕方ない。考え無しかもしれないしな。


 レベルもお陰様で20を超えた。頑張ったかいはあるがギルド員さんのジト目が怖い。『てめぇこの野郎、人が黙ってたら調子に乗りやがって』と顔に書いてあった。しかし強くなった僕は耐えた。目を合わせず、無駄口を叩かず、穏便に。これさえ出来れば大抵の修羅場は乗り越えられる。


「アサギ様ー。いらっしゃいますかー?」


 いつも担当してくれる報酬引渡カウンターのギルド員さんが呼んでる。さっき渡した薬草回収の報酬は貰ったんだが……。


「はい、何でしょう」

「アサギ様のレベルが20を超えましたので、ランクがFからEに上がります。ステータスカードを提示してください」


 んん? 今Fランクに上がったばっかりなんだが?


「ステータスカードを提示してください」

「あの、まだFに上がったばっかりなんですが……」

「ランクはクエスト成功回数の他にレベル数によっても上がります。アサギ様が勝手にレベルをぽんぽん上げられたので、ギルドマスターと審議した結果、アサギ様のランクが上がることになりました。ですので、ステータスカードを提示してください」


 なんだか風当たりがきつい……。なんだよ、言ってくれればもっと上げたんだけどな。

 あまり待たせるとキレそうだったのでステータスカードを渡す。ギルド員さんは奥に引っ込んで、少ししたら戻ってきた。仕事が早い。


「アサギ様はこれよりランクEになります。通称”水晶”です」

「ご丁寧にどうもです」


 返されたステータスカードを受け取る。


「あまり無茶しないでくださいね。死んだら元も子もないのですから」

「どうもです。ギルド員さんもお体を大事にしてください」

「ありがとうございます。ですが私の名前はギルド員さんではありません。私には『フィオナ』という名前があるのでちゃんと呼んでくださいね!」


 藪から棒に自己紹介された。ギルド員さんと冒険者の距離感が分からない。


「ではフィオナさん。お仕事頑張ってください」

「はい、アサギ様も」


 そう言ってフィオナはウィンクしてきた。此奴、さては僕に気があるな?

 なんて馬鹿なことを考えながらギルドを出る。勿論警戒は怠らない。不穏な気配はビンビンだ。つまりここは開幕ダッシュに限る。


「あぁ! 野郎、また逃げやがった!!」

「クソが! 相変わらず速ぇんだよ!」

「フィオナちゃんと談笑しやがってぇ!!!」


 恨み辛みや妬み嫉みもビンビン伝わってくる。申し訳ないが僕にはやることがある。ので、その場を後にして一路、大将の鍛冶屋へと向かった。

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