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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百十九話 谷底で見つけた可能性

 ある程度予想はしていたことだが、上空から地上班を探すのは骨が折れた。上からじゃ木が邪魔になって見つからない。そのくせ、地上からは見上げれば僕は丸見えだ。これではオークに見つかってしまうと感じたので、地上に降りて気配感知を頼りに探ることにした。


「周辺には……ん、居るな。5人だからこれが地上班だな」


 ネスの言っていた南東の方角に固まった集団の気配を察知したので向かう。《森狼の脚》の速度は並の冒険者では追い付けない。僕の通った後を強風が吹き荒れるが、これくらいなら問題ないだろう。一応、距離を取って集団が地上班かどうか確かめる。木々の間からそっと顔を出して覗く。すると集団と目が合った。あぁ、しっかりバレていたらしい。流石斥候だなと苦笑を浮かべつつも、安心して近付く。


「とんでもねぇ速さだったからすぐ分かったぜ」

「流石だな。それで、何か痕跡とかはあったか?」

「あぁ、ちょっとな。その報告がしたくて待ってたんだ」


 ネスがこっちだぜ、と親指で示すのは1本の木だ。ゴツゴツとした根が露出していて、それなりの太さの木だ。その幹には何か、引っ掻いたような跡があった。


「下も見てみな」

「ん? ……これは、足跡か?」


 地面がえぐれた跡がある。よく見ると足跡に見えなくもない。


「何かに躓いて、持ってた何かが木に擦れた……そんなところだろうな」


 ネスの見解を聞きながら改めてその痕跡を見る。確かに、そう言われるとそう見えてくる。この根に引っ掛かって、持っていた物で引っ掻いたのだろう。


「つまり、地上を移動している奴が居る」

「そうなるな」


 僕の結論にネスが頷く。ということはやはりオークの居留地は地上だろうか? しかしそれは早計というものだろう。ネスに聞けばその他の痕跡はまだ見つかっていないらしいので、とりあえず僕はこの痕跡の報告をする為にバージルの元へ戻ることにした。




 野営地では冒険者が周辺を警戒しつつ、装備の点検などを行っている。その中央に設営されたテントに入ると、数人の冒険者と話していたバージルが立ち上がる。


「何かあったか?」

「ネスが何かの痕跡を発見した」


 先程見つけた痕跡の話をする。バージルは癖なのか、腕を組みながら熟考し始める。


「その痕跡から考えれば、自ずとオークの居留地が地上にあることが分かる。だが、そのオークが谷底に居たのは……」

「穴を掘らせたんじゃないか? 谷底に居留地があるかもしれないと言われるまで気付かなかったが、その手段はあるはずだ」

「となると、奴等は地上と谷底の二箇所を繋ぐ居留地があるということか?」


 ホールモールを使って掘らせた長い洞窟。それを行き来出来るのであれば、わざわざ地上から降りて谷底で暮らす理由がないな。そもそも食料が無い。奴等が木箱に詰めた動物は地上に棲む生き物だからだ。谷底には動物は居ない。


「となるとやはり居留地は地上。地面の中を移動する洞窟があり、谷底にも現れることが出来るということだろう」

「そうすると攻撃する時も地上班と谷底班に分ける必要があるな」

「その編成は此方でする。アサギは今のことを地上班と谷底班に連絡してくれ」

「了解だ」


 やはり頭の切れる人間が居るとスムーズに事が運ぶなぁ。正直僕はこういうのには向いていない。考えを改めさせられることばかりだ。ダニエラやバージルのような切れ者な部分が僕にもあれば良いのだが……。

 と、無い物ねだりをしながらテントを出ると魔法使い班と打ち合わせをしているダニエラが目に入った。こういう場面になると普段のコミュ障も鳴りを潜め、立派に指導するリーダーになるようだ。何人かの魔法使いが尊敬の眼差しでダニエラを見つめている。あっちは大丈夫だろう。僕もやることやらないとな。という訳で連絡の為に谷底班の元へ向かった。



  □   □   □   □



 谷の淵までやって来た。と言っても野営地から徒歩2分の物件だ。上からそっと覗いてみるが、今日は霧が深い。それは降ろした時に見ていたから知っているのだが、やはり上から見ると真っ白だ。でも下に居るのはこの帝国を舞台に斥候をやっているプロばかりだからミストゴブリンの襲来を恐れることはないだろう。寧ろ僕がヤバい。


「気を付けて行かないとな……」


 気合を入れて気配感知を広げる。上に伸ばす気配感知が苦手なのは克服してない。その状態で下に伸ばすのは不可能だ。


 そうだ、一つ試していなかったことがあった。僕は《器用貧乏》で脳内にこれから行うことのイメージトレーニングを行う。ふむ……何とかなりそうだ。何度かシミュレーションし、その手段が効果のあるものだと確信してから谷の中へ飛び出す。《森狼の脚》を発動させ、銀と翠の風を両足に纏いながら霧に飛び込む。そこで《森狼の脚》の制御を外してやる。すると銀翆の風が暴れだし、暴風となって放たれた。その風は辺りの霧を巻き込んで吹き荒ぶ。僕自身も暴風に揉まれるが、何とか飛ばされない様に踏ん張る。しかしあまりの風の強さに顔を腕で覆ってしまう。風で目が乾きそうだ。


 数秒後、僕は腕を降ろした。銀翆の風は治まっている。そして目の前の光景は《器用貧乏》で見た光景と同じだった。霧は暴風によって吹き飛ばされていた。目に見える範囲全てではないが、ある程度の霧が晴れているので成功だ。


「ダニエラ程とは言わないが、僕もなかなかやるもんだ。それで……」


 霧の中に居た魔物は突然晴れたことによって驚き固まっている。勿論、ミストゴブリンだ。数は全部で……8匹。霧の中では気配遮断スキルの効果が上がるらしく、捉えることは僕にはほぼ不可能だが、こうして丸見えであれば何の問題もない。いつもは慎重に戦うのだが、今は急いでいるので《森狼の脚》とアイスドラゴンとウィンドドラゴン装備のAGI上昇の付与と加護をフルで使い速攻で全員の首を刎ねた。


「さて、アンジェリカ達は……こっちだな」


 気配感知に引っ掛かった4人を追う為に走る。ちょっと魔力を消費し過ぎたのでベルトに括り付けていたポーションを1本、飲み干した。残り5本だ。


 途中からまた霧の中に入ってしまったが、すぐに《森狼の脚》で吹き飛ばす。今回は前の霧だけ晴らせばいいので魔力消費は少なくて済む。具体的には足1本分の風で問題無しだ。それを3回程繰り返した時、アンジェリカ達が岩陰から出てきた。


「はぁ……これが『銀翆』の力なのですね……驚きですわ」

「流石銀翆!」

「あはは、ありがと。一先ず報告だ。オークの居留地は地上にある可能性が高い。谷底には地上から降りてくる為の洞窟があるんじゃないかって話だ。それらしいものはあったか?」


 驚きすぎて呆れの表情と手放しに絶賛するローリエにバージルの気付いたことを報告する。2人の後ろにいる斥候も此方に耳を傾けながら辺りを警戒してくれている。


「いえ、まだそれらしい物は見つかっていませんわ。痕跡一つないので、もしかするとこのずっと先にそういった洞窟があって、その洞窟より南東には用事はないのかもしれませんわね」

「なるほど……じゃあここから北西方向に進めば何かあるかもしれないな」


 そうなると地上にあるであろう居留地からここより先まで長い洞窟が出来上がっていることになる……のか? それとも谷の終点辺りではなく、吊橋と谷の間にあるのか?


 僕達は谷を挟んでレプラント側を歩いてきた。岩山側は歩いていない。もし、居留地が岩山側にあったとしたら……?


 それを、オーク達が見ていたとしたら……?


「……アンジェリカ。ここからの斥候には僕も入る。洞窟を見つけ次第、全員で野営地に戻るぞ」

「何か気付いたみたいですわね。話を聞かせて貰えますかしら?」


 僕は頷き、今気付いたことを話す。その深刻さが伝わったのか、どんどん皆の顔が険しくなっていく。ジッと地面を見つめながら思案していたしていたアンジェリカがぽつりと呟く。


「……野営地への奇襲。これがアサギ様が考える最悪ですか?」

「あぁ、ありえると思っている、もしやるなら今夜だ」

「確かに、ただのオークであれば問題はないでしょうが、相手が知恵のある魔物であれば、そうは行きませんわね……」


 ローリエがグッと両手を握りながら吠える。


「だったら早く見つけなきゃだろ! こうして突っ立ってる場合か!?」


 後ろの2人も顔に焦りの色を浮かべながらコクコクと頷く。


「ローリエ。斥候が大声を上げてはいけませんわ。斥候は常に冷静に、沈黙を持って事に当たらねばなりません」

「そうだけど……!」

「こういう時だからこそ、冷静に対処しないと足元を掬われますわよ」


 覇気があるわけでもないのに、底冷えするような声音でアンジェリカがローリエを窘める。ブルッときたぜ……貴族怖い。


「さて、アサギ様には霧を晴らしてもらいます。ミストゴブリンが鬱陶しくて仕方ないのでお願いしてもいいですか?」

「あぁ、任せてくれ」

「ローリエとオリーブ、オレガノは周辺を警戒。陰になった場所は見逃さず探索してくださいまし」

「了解だ」

「えぇ、任せて」

「頑張る」


 2人はオリーブとオレガノというらしい。よし、全員の名前を知ったことだし、しっかり見逃しのないように探索していこう。僕は今すぐ野営地に戻りたい気持ちを抑えてジッと前を見る。今は確かに緊急だが僕だけで探索する訳にもいかない。大まかに探すことなら可能だけど、斥候ならではの目の付け所というものがある。それを見逃してしまえば僕は一人で谷底を彷徨うことになってしまう。急がば回れとはこのことだ。良い機会だし斥候の何たるかを教わろう。

 僕は右足に生んだ《森狼の脚》を霧に向けて放つ。銀翆の暴風が霧を吹き飛ばし、今まさに襲いかかろうとしていたミストゴブリンの姿を丸裸にした。それを僕は先程から繰り返してる作業のように首を刎ねる。ぶっちゃけ霧がなければただのゴブリンだ。


「よし、行くぞ」

「はぁ、世界は広いのですね……」

「ミストゴブリンつったら冒険者泣かせで帝国では有名なんだけどな」

「初見殺しの異名もあるのに」

「これは酷い」


 ちょっとオリーブとオレガノの僕への当たりがきついんですが……。溜息を吐きながら僕の前を横切る4人の後ろに着く。さっさと洞窟を見つけ出して野営地に戻らねば。ネス達もきっと見当違いの方向を探索している。あの痕跡事態が罠なのではと思うとどんどん気が焦ってしまう。ネス、無事で居てくれよ……。

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