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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百十八話 捜索開始

 あの後、冒険者達が設営した野営地にお邪魔した。村から少し離れた場所に用意されたテントや焚き火を囲いながら改めて作戦会議をしたのだが、やはりベテラン揃いということでかなり捗った。

 僕は斥候を南東の谷周辺に放って探索しようと思っていたのだが、『もしかしたら谷底にもあるかもしれない』の一言で谷底の捜索も決まった。よく考えてみれば分かることだが、全然気付かなかった。僕とダニエラはあの横穴は村を襲う為に掘ったとばかり思っていたが、ホールモールを使えば谷の下に居留地を作るのも用意だ。それだけのことが出来るのを僕達は見ていたので、これは失態だった。やはり冒険者には柔軟な思考が必要なのだと、改めて実感した。


 というわけで『地上班』と『谷底班』が編成された。《森狼の脚》の運用により、上下の移動制限が無くなったので、僕は地上班と谷底班のパイプ役となった。地上班のリーダーはネス。谷底班のリーダーは《夜目》スキルを持つ女斥候、アンジェリカが任命された。


「よろしくな」

「えぇ、よろしくお願いしますわ!」


 お嬢様口調なのでお嬢様なのかと聞いた所、貴族出身だそうだ。驚いたが、冒険者稼業が肌に合ったらしく、家を飛び出して斥候をしているらしい。斥候をする理由は『絶対一番に不思議なものを発見出来るから』だそうだ。確かに先頭で周囲を探索してたら面白い出来事は独り占めだろう。しかし同じ数だけ危険もある。危険もあるからこそ、それなりの腕を持っているらしい。ランクは僕と同じCランク。柘榴石だった。


 さて、決まったのはそれだけではない。居留地を見つけ、戦闘になった際の立ち回りだ。陣頭指揮は変わらずにバージルが行う。30人の内、10人が魔法使いだったのでその指揮をダニエラが行う。僕は速度を活かした遊撃だ。


「アサギは場所問わず、暴れまわって奴等を混乱させてやれ」


 とはバージルの言葉だ。


 オークの全体数は未だ未知数だ。この人数でどれだけのことが出来るかは分からないが、異常進化個体がいるとするならば、狡猾で効率の良い襲撃が予想される。レプラントの南方には村も多いらしい。ならば時間を掛けていては被害も増える一方だ。まずは居留地の発見。それが先決だ。そしてこの人数でどうにかなる規模であることを祈るしか無い。もし、予想を上回る数が居た場合は無理せず、しかし迅速に援軍を要請する必要がある。その連絡役も僕が担当することになった。そうならないことを祈りながらその日は床に就いた。




 そして現在、陣頭指揮のバージル。地上班リーダーのネス。谷底班リーダー、アンジェリカ。オークスレイヤーガルドに僕とダニエラの6人で前線基地跡に訪れている。他の冒険者は出発の準備をしている。


「これは……こんなものを、オークが作ったというのか?」

「あの木箱は何ですの?」

「あれは食料が入っていた箱だな。動物の血が付いてた」


 バージルとアンジェリカが信じられないといった表情で辺りを見回している。ネスは落ちている武器や木箱を熱心に見ている。ガルドはカンテラを手に壁周辺を捜索している。


「ここが前線基地だ。さっき見た出入り口……あそこから湧いたオークが村を襲撃したんだ」

「これを見た後ならアサギの言っていた異常進化個体の話を信じられるな……」


 腕を組み、考え込むバージル。


「これだけの物を用意出来るオーク……一筋縄ではいきませんわよ?」

「私達が力を合わせれば対応出来るさ。此方にはアサギが居る」

「あら、ダニエラ様はアサギ様にご執心なのですね?」

「あぁ、良い相棒さ」


 ダニエラとアンジェリカの声が壁に反響して離れていても聞こえてしまう。おいネス、笑ってんじゃねーよ!


 捜索してはみたものの、何の発見もないまま地上へと引き返してきた。まぁ、何か見つかるとは思っていなかった。それでも見たこと、感じたことから色々考察しながら村までやってきた頃には既に出発準備は整っていた。


「皆、任せてしまってすまなかった。この先にあった前線基地跡を捜索してきた。非常に広く、しっかりした基地だった。が、手掛かりと呼べるものは何もなかった」

「ですが、あの前線基地を用意出来るという事実こそが大きな手掛かりですわ。つまり、私達が相手するオークは並の相手ではありませんわ。気を引き締めて行きましょう!」


 いつの間にか副リーダーポジに居るアンジェリカ。やはり貴族出身とあって話す内容や声がすんなりと耳に入ってきて、いつの間にか従ってしまう。これがカリスマというやつだろう。僕には無いものだ。


 ここからは谷沿いに南下していく。天気は曇りだ。しかしこの感じでは雨び心配はなさそうだ。まぁ降ったとしても彼らはプロだ。きっと問題ないだろう。それにここから谷の終点までは約2日ある。その頃には天気も回復しているだろう。

 僕は見上げていた顔を下ろし、前方を見る。ぞろぞろと歩く各々の後ろ姿が映る。

 僕は一人で森に入り、ゴブリンを狩っていた。それがいつの間にかダニエラが隣に居て……そしてここに来てこの大人数での討伐だ。僕も遠くまで来たもんだな……。



  □   □   □   □



 道中、魔物の襲撃もなく平和そのものだった。だが僕にはそれが嵐の前の静けさのように思えて全く安心出来なかった。それは皆同じのようで、頻りに辺りを見回し、警戒を怠ることは無かった。

 そんな緊張続きでやってきた谷の終点。途中から谷の左右には森が生え始めて、終点に着く頃には辺りは木だらけになっていた。

 ここから地上班と谷底班に別れて探索となる。まずはベースとなる野営地を設営することになっているので、ちょうど見つけた拓けた場所にテントを張る。一応、火は無しだ。火の煙等で位置がバレて奇襲を掛けられるかもしれないからだ。火魔法使いが必要な時にだけ用意するということになっている。


 テントを張り、軽い食事が振る舞われる。と言ってもただの干し肉をそのまま手渡されただけだ。冒険に出て保存食を食べたのは初めてだなぁ……いつも温かい食事を必ず用意してたからな。坑道跡でさえ温かいスープはあった。しかしこれが普通なのだろう。

 何となく惨めな気持ちで干し肉の端をガジガジ噛んでいるとバージルが立ち上がり皆に声を掛ける。


「漸くここまで来た。ここからが本番だ。まずは斥候班が地上と谷底を探索する。その間、他の冒険者は周辺の警戒だ」


 干し肉を片手に皆がバージルに注目する。


「これから2日間探索を行うが、これで見つからなかった場合は引き上げることになる。元々4、5日の遠征予定だったから食料にも限りがある。多めに持っては来たが、それでもここで2日、帰りに2日でギリギリだ。なので、この2日を全力で探索する!」


 おう! と冒険者達が答える。僕も惨めな気分なんか一気に吹き飛び、気合が漲ってくる。ここから僕が重要になる。連絡は密に行わなければいけない。各方面に散る斥候班を見つけて、ベースに居るバージルとの連絡役もしなければいけない。これは大忙しだ。森、谷、森と往復か……。


「ダニエラ、魔力ポーションは貰っていくぞ」

「あぁ、いざとなれば他の冒険者から貰う」

「程々にな」


 虚ろの鞄から魔力回復ポーションを全部取り出し、ベルトに括り付ける。こんな事もあろうかと用意しておいたベルトだ。何だか戦う錬金術師っぽくて格好良い。試験管型の瓶に入った青色のポーションが陽の光に照らされて淡く輝く。……ような気がする。全部で6本。大事に使わなければ……。


「アサギ、準備は良いか?」


 斥候を引き連れたネスがやって来る。班員は地上班は5人。谷底班は4人だ。4人を従えたネスはいつものヘラヘラ顔を引っ込め、真面目な顔で僕を伺うように見る。


「あぁ、いつでも行ける。ネス、一緒に戦うのは初めてだな」

「……そうだなぁ。お前がフィラルドに転がり込んできた時はこんな風に肩を並べることになるとは微塵も思わなかったぜ」

「ははっ、ま、人生何があるか分からないからな。これが最後じゃない。これからも冒険を続ける為に、やるぞ、ネス」


 僕は握った拳をネスに突きつける。


「おぅ! 帰ったら宴会だ!」


 それにネスがガツンと拳を打ち付ける。そうだ、これが最後じゃない。まだ始まったばかりだ。


「俺達はここから南東に探索する。聞いた話によればその辺に川があるらしい。地上に居留地を作るなら……」

「川周辺がセオリーだな」

「そういうことだ」


 ネスは南東か。しっかり方角を把握していれば探す際にも混乱せずに済む。問題は今向いているのがどちらかと言うことだ。


「あっちが、南だな」

「流石ダニエラ。僕の考えていることがすぐ伝わるね」

「いつものことだからな」


 嫁感出てきたな……。

 ネス達が何だかニヤニヤ笑っている。カチンとくるが言い争っている暇はない。


「じゃあ行くぜ」

「気を付けてな」

「アサギもな」


 そう言ってネス達は森に入っていった。さて、次は僕の最初の仕事だ。アンジェリカ率いる谷底班を谷底まで降ろさないといけない。辺りを見回すと打ち合わせをしている谷底班が目に入った。


「アンジェリカ。行けそうか?」

「えぇ、アサギ様。いつでも行けますわ!」


 元気だなぁ。よく見ると谷底班はアンジェリカ以外の3人とも女性だった。……あれ?


「君って確か……」

「あ、あの。えっと……久し振り?」


 ファン一号じゃないか! まさかこんな所で会うとは。


「全然気付かなかったよ」

「私は気付いてたけどね……」

「あー、気付いてもらえなくて、それであの時みたいに元気じゃないんだな」

「えぇそうよ! 悪い!?」

「悪かったのは僕だよ。ごめんごめん」

「くぅ……憧れてるから許しちゃう自分が許せないわ……」


 相変わらずな感じだが、元気そうで良かった。それにしても無属性魔法の使い手で斥候か。あの時と同じ軽鎧も身につけているし、接近戦もこなすのだろう。万能じゃないか。


「お二人はお知り合いなのかしら?」

「えぇ、レプラントに入る列でね……この人ったら血塗れで並んでたのよ? 慌てて魔法ぶつけてやったわ」

「あれには大助かりだったよ。後から聞いたんだけど、あれだけの魔法って物凄いレアらしいじゃないか」

「そうなの? 私、あんまり他の魔法使いのこと知らないからその辺分からないのよね……」

「あの、放置プレイは関心しませんわ……」


 おっと、ついつい女冒険者との会話が弾んでしまう。そういえばこの子の名前知らない。


「そういえば名前聞いてなかった」

「あら、そうだったわね。私はローリエよ。よろしくね」

「あぁ、よろしく。じゃあネスも出発したことだし谷底班も出るか」

「あの、放置プレイは苦手ですの。構ってもらえませんかしら?」


 アンジェリカが何か言ってるけど僕に言ってるのか? よく分からないし、多分ローリエに言ってるんだろう。まぁそっちはそっちで仲良くやってほしい。


「一人ずつ降ろすぞ。抱きかかえる形になるけど騒がないでくれよ? レプラントに戻ったら取り押さえられてしまう」


 冗談めかして言うと女性陣がクスクスと笑う。うん、変に緊張はしていないな。


「じゃあまずはアンジェリカから行くぞ」

「よろしくお願いしますわ……」

「元気ないな。まぁ良いか」


 元気のないアンジェリカを皮切りに女性陣を抱きかかえながら谷底を上下に往復する。アンジェリカは終始静かだったが、ローリエなんか顔を真っ赤にして抱きついてきた。ファンサービスってことにしておこう。他の斥候も高い場所が苦手なのかビクビクしていたが、無事全員、谷底に降ろした。

 これから途中の横穴や、上からでは陰になっている場所の捜索が始まる。ネス達は木に隠れた居留地、あるいは地下へ続く穴を探索する。さぁ、これからが勝負どころだ。僕は腰に下げた鎧の魔剣に手を掛けながらまずはネスの元へと向かうことにした。

今回ちょっと長めです。(入り切らなかった……)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族なのに冒険者になったお嬢様のアンジェリカも主人公のファンのローリエもすごい好きになったから無事でいて欲しい でも谷底班オークの大好きな女性だけだし怖いんだよなぁ
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