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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百十七話 焼け爛れた村での合流

 近付いて分かったことだが、村は全焼していた。酷い有様だ……略奪、誘拐、そして放火……。知能を持ったオークはここまでするのか。いや、実際にやったのは命令されたオークだろう。しかしその統率力には目を見張る物がある。


「おーい!」


 ダニエラを抱きかかえた僕は焼け爛れた村の中心地、少し拓けた場所に向かって降りる。周りの冒険者達に声を掛けながら降りたが、驚いた彼らは慌てて剣に手を伸ばした。


「何だお前! どこから来た!?」

「ちょ、敵じゃない! 攻撃しないでくれ!」

「怪しい奴だな……」


 殺気の篭った目で睨まれる。僕はダニエラを降ろして腰に差した剣を降ろし、両手を挙げる。無抵抗のポーズだが伝わるだろうか……。


「こっちに攻撃の意思はない!」

「そう言って油断させるつもりじゃないのか!?」

「信じてくれって!」


 僕と冒険者の言い争う声に家屋の調査に出ていた冒険者達が集まってくる。その中には数人、南門で見た冒険者達の顔があった。彼らならもしかすると分かってくれるかもしれない。


「なんだ、どうした?」

「話を聞いて欲しい! 攻撃する気はない!」

「ん? あ、銀翆じゃねーか。ギルドで見たことあるぜ。敵じゃねーよ」


 お、やっぱり知ってる人が居てくれた。いいね!


「あれ? でも討伐隊には居なかったよな?」

「確かにここまでの道中では見なかったな……」

「でも南門に居たのは覚えてるぜ。そこの白風と一緒に」


 どんどん目撃情報が増えてくる。この状況では流石に警戒していた冒険者も話を聞く態度を取らざるを得ない。剣に掛けた手を降ろしてくれた。


「どうやら敵じゃないみたいだ」

「あぁ、驚かせて悪かったよ。信じてくれてありがとう」

「いや、俺も村がこんなんでな……無意識に気が立っていたのかもしれない。悪かった」


 冒険者が手を差し出してくれたのでがっしり握手して仲直りする。いやはや、話が通じて良かった。下手したら攻撃されていたかもしれないからな。一番警戒していた冒険者はそのまま自己紹介してくれた。


「俺はバージル。一応、この討伐隊のリーダーを任されてる。翡翠だ」

「僕はアサギ。柘榴石だ。南の谷の調査をしててここにやって来たんだ」


 バージルと言う名の冒険者が首を傾げる。


「南の谷といえば、この村に来るまでの谷だろう? それが何でこんな場所に?」

「そのことで話があるんだ。皆を集めて欲しい」

「緊急の要件、って顔だな……分かった。すぐに集めよう!」


 頷いてくれたバージルに感謝の念を送り、ダニエラと伝えるべきことの再確認をする。この村の裏手にある横穴、前線基地、谷での目撃情報、そして、谷の先のオークの居留地。ダニエラはそれだけ伝えてさっさと移動しようと言うが、この人数だ。なかなかスムーズに事は進まないだろうとは思う。その辺はバージルの腕次第だな……。



  □   □   □   □



 10分後、バージルの声に討伐隊、全ての冒険者が集まった。全部で30人。これだけの戦力があれば……とは思うが、オークの全体数は未知数だ。個々の実力が高くても、統率されたオークの力は計り知れない。


「まずは集まってくれたこと、感謝する」


 一歩前に出たダニエラが全体を見回しながら言う。


「私はダニエラ。翡翠だ。白風の二つ名を貰っている。こっちはアサギ。私の相方だ」

「どうもどうも」


 ぺこぺこと頭を下げると小さなどよめきが起きる。あちこちで『白風』や『銀翆』の声が上がるので、この悪名の浸透具合が伺える。


「私達は南の谷の調査に出掛けていた。皆も噂だけは聞いたことがあるんじゃないか? 谷底の霧が薄れた時、謎の影を目撃するという話だ」


 耳を傾ける冒険者達が頷き合い、互いに噂についての考察を始める。そうなると話が進まなくなるので僕が咳払いをすると慌てて此方に向き直ってくれる。


「結論から言う。その影の正体はオークだ」

「証拠はあるのか?」


 ざわつく冒険者の中で手を挙げたバージルの質問には僕が答える。


「あぁ、この村の裏手に木や岩に隠れた地下へ降りる穴があった。その先にはオークが使っていた前線基地がある」

「前線基地だと? 相手はオークだぞ?」


 俄には信じ難いと冒険者達の声に僕と交代して再びダニエラが声を張る。


「そのことに関しても報告がある。恐らくではあるが、オークの中に異常進化個体が出現したのだと思う。並のオークとは違う亜種と思ってもらっていい。そして、そう言った個体は須く人並みの知能を持つ。つまり、霧の深い谷底を移動して人目を避けたのも、前線基地を用意して襲撃の態勢を整えたのも、この進化個体が発案した作戦だ!」


 今までに無かった事が立て続けに起こったことで、冒険者達が口を閉じる。僕達が齎した情報を精査しているのか、呆然としているのか……見た感じ、半々だろうか。そしてやはりバージルが手を挙げて発言する。


「仮にそれが全て本当だとして、そんなオークに勝てるのか? 俺達はこの村を調査して、結果的にこれがオークの仕業とは全く思えなかった。価値ある物だけを盗み、利用出来ない老人を殺し、そして家屋に火を放つ。盗賊が襲撃したと言ってくれた方がまだ納得出来る惨状だ」


 各々が頷き合う。確かに、これをオークがやったとは信じられないだろう。しかし、異常進化個体であれば説明がつく。ベオウルフは気配を消して夜襲を掛ける知恵があった。戦いにおいても強靭、狡猾で、一度は僕も死を覚悟した。アサルトコボルトはその知恵を駆使し、国を作ろうとした。人の目では追えない速度を持ち、鋭い爪の一撃は躱しきれなかった。水面下でスタンピードを画策し、死して尚僕に喰らいつく執念の持ち主だ。ベオウルフとは和解出来たが、アサルトコボルトとはついに理解し合えなかった。

 それだけの知恵と力を持つ魔物だ。相対した僕達だから納得出来る惨状だが、それを冒険者に説くには無理があった。


「でも、これが異常進化個体の力だ。知能の高い魔物は、人間のそれと変わりない。寧ろ、魔物である分、人間より強靭で厄介だ」

「……それだけ言い切れるということは、事実なんだな?」

「あぁ。オークがやったことであるのは本当だ。状況からこれが異常進化個体の仕業だと僕達は判断したが、実際には確認していない。だから、確認の必要がある」

「つまり、谷の先にあるというオークの居留地を調べる必要があると?」

「そういうことだ」


 ちゃんと確認しないと分かってもらえないだろう。経験だけで語る僕達の言葉の信憑性よりも、実際に目で見て確認してきた者の報告の方が重いはずだ。


「だから、この中で斥候に向いている冒険者が居たら手伝って欲しい! ダニエラの感知能力と、僕のスキルで捜索の手助けはする!」


 冒険者達を見ながら言う。オーク討伐ということでやはり重剣士系の冒険者達が目立つが、軽装備の斥候タイプは居ないのだろうか?

 すると、僕の前に立つ冒険者を左右に押しのけて一人の冒険者が出てきた。痩せぎすで軽装備。見るからに斥候タイプだ。ヘラヘラとした笑みを浮かべながらその冒険者は、


「斥候なら俺の十八番だな!」


 と、自身満々に言ってのけた。ていうかネスだった。


「ネス、お前、居るなら居るって言えよ!」

「へっへっへ、アサギちゃんの成長した姿を陰ながら見守ろうって、ガルドがな?」


 親指で背後を指差すと、如何にも楽しいですって顔のガルドが冒険者の群れの後ろで手を振ってやがった。はぁ、まるで親が参観日に来てるような気分だ。


「ネス、行けそうか?」

「おうよ、任せろって!」


 バージルがネスに確認を取る。パシンと拳を手のひらに打ち付けたネスはやる気満々だ。そういえばネスやガルドと一緒にクエストに出るのは初めてだったな。


「ガルドはどうする?」

「俺ァこの図体だからな。斥候には向かん。だがオークなら殺り慣れてる。最終的に、役に立つぜ?」


 ネス同様に冒険者を掻き分けてやってきたガルドに聞けば、此方も自信満々、やる気満々に答えてくれる。頼れるコンビだぜ。


「よし、じゃあ斥候筆頭はネスということで後何人か欲しい。個々に別れて広範囲を探索したいんだ」

「それなら此方で見繕うことにしよう。話は一旦休憩だ。そろそろ夜だ。野営地があるからそこまで移動するぞ」


 バージルの声に空を見ればいつの間にか濃い闇が夕焼け空を覆っていた。劣勢の夕焼け空は抵抗虚しく宵闇へと変わるだろう。何人かの冒険者が松明を用意し始める。僕も鞄からカンテラを取り出して明かりを灯す。準備が整ったら冒険者達の野営地へ出発だ。そこで詳しい話をして、日が昇ったらまずは前線基地の確認。それが終わったら移動開始だ。

 目指すはオーク居留地。目標は異常進化個体討伐及び、オーク殲滅だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ギルドへ報告はしなくていいのか?
[気になる点] 指摘済みかもしれませんが、 討伐隊と、都市から最低でも5日以上かかる麓の村で2,3日後に合流するのはおかしくないですか?
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