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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百十五話 南の谷調査結果

 さて、谷底では一体何が起こっているのか。その確認の為に遥々やってきたのだが……。


「特に何もないな」

「人影とやらは見当たらないな」


 空を踏みながら吊橋のあった地点からどんどん離れていくが、目につく物はない。


 この谷はどうやら、レプラントと岩山を斜めに裂く形で出来ているみたいで、僕達が到着した吊橋も斜めに架けられていた。南の岩山を見て、左奥から右手前へ。つまり、南東から北西へと大地を斬り裂いている。

 その谷の底を蠢く影の調査にやってきたわけだが、これが何の手応えもなかった。どういうことだろう? 影とやらはどこかへ行ってしまったのだろうか?


「ちょっと底に降りてみるか?」

「危険だが、それしかないか……アサギ、ゆっくり降りてくれ」

「了解」


 《森狼の脚》の出力を調整してゆっくり降下していく。見えていた谷底がどんどん近くなり、よりはっきり見えてくる。


「あっ」

「ん? どした?」


 ダニエラが谷底を指しながら声を上げるので空を踏んで立ち止まる。ダニエラが指差した先をじーっと見る。……が、よく分からない。


「見えないのか? あそこ、足跡がある」

「えぇ?」


 言われて足跡を意識して見つめてもやっぱり分からなかった。そもそもここちょっと暗い。


「分からん」

「まぁ行けば分かるか……」


 溜め息混じりに言うダニエラに申し訳ない気持ちを抱きながら目を凝らしながらその場へ向かう。辺りの気配を探りながら近付き、3メートル程の距離になった時、漸くそれが見えた。


「ほら、あるだろう?」

「……」


 足跡は岩陰に半分隠れてかかと部分だけが見えていた。こんなん見えるかよ!


「ちょっと分かり難い」

「そうか? ま、慣れだな」

「何年掛かるんだよ……」

「おい、年月の話はやめろ」


 眉間に皺を寄せたダニエラが僕の腕の中から僕の喉を揃えた指で突く。地味に苦しいからやめて欲しい。


 ダニエラが見つけた足跡の傍に降り立つ。先程の場所からは岩の陰に隠れてよく見えなかったが、この至近距離ならよく見える。ダニエラが跪き、足跡の調査を始める。


「ふむ……アサギ、これを見てみろ」

「なんだ?」

「靴の足跡じゃない。裸足だ」

「それは分かる」


 見る限りではグッと踏み込んだ後に左に拗じられている。つま先の部分が振られて詳しい指の形は分からないが、出来方が靴の先とは違う。親指らしき跡が残っている。つまり、これは右足だ。


「これを見てみろ」

「ん? ……これは、手、か?」


 足跡の斜め前に手を付いたような跡があった。これは……。


「何者かが、ここで滑ったんだろう。霧の濃い場所だからな。大方、この岩にでもぶつかったんだろう」

「それで、右足を深く踏み込み、倒れた体を手で支えたと?」

「恐らくは……」


 そう言いながら辺りの地面を見回すダニエラ。しかし近くには見当たらなかったみたいで立ち上がり、膝に付いた土を払った。


「裸足で、二足歩行。人のような姿。商人が見たという影は見間違いでは無かったことが証明されたな」

「だな。でも何でこんな場所に……あっちに向かってるのか?」


 足跡と手形は北東の方角へ向いている。つまり、その方角に何かあるということだ。


「行くぞ。剣の準備だけはしておけ」

「了解。狭いから大剣は無理だな……」


 準備だけはしていた藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)を虚ろの鞄にしまい、腰に差していた鎧の魔剣(グラム・パンツァー)を抜く。手に馴染む良い重さだ。僕のステータスも上がってきたということだろう。技量もあがっているといいのだが。

 ダニエラも死生樹(シセイジュ)の細剣を抜き、準備完了と頷くので頷き返し、僕達は谷底を進み始めた。



  □   □   □   □



「夜目スキルがあればな……」


 そう愚痴るダニエラに僕は曖昧な笑みで返す。《新緑の眼》を持つダニエラはその他の眼系スキルを得られない。なので、《夜目》スキルを持つ僕が先頭に立ち、探索を続けている。


 例の足跡を発見してから結構進んだように思う。途中、谷が二手に別れていた。南東に続く道と、右に折れて南へ直進する道だ。上を見てみると南に進む谷は途中から地面に覆われている。雨や風で削れて出来た道……なのだろうか。

 ダニエラと相談し、ある程度まで進んで痕跡が見つからなかったら引き返そうということになり、まずはそのまま、南東の道へ向かった。30分程進んだ結果、足跡や手形、何かを落としたよいうな痕跡は見当たらなかった。もう少し進めば何かあるかと思ったが、ダニエラが引き返そうと言うので諦めて戻り、次は南に進むことになった。

 南の道は更に暗く、段々天井が近くなり、ついには3メートル程の高さになった。この高さになるまで落ちてきた木や岩で実に歩きにくかったが、3メートル程の切れ目になった途端、驚くほどに平坦な道になった。これは何かあると僕が思い始めた時、ダニエラがハッとした顔で僕を呼び止めた。


「この道、見覚えがないか?」

「えっ?」

「ほら、二人で潜ったあの坑道跡の、その奥だ」

「……あっ!」


 僕達がスピリスに滞在していた時に潜った坑道跡。その奥はモグラの魔物『ホールモール』が掘り進め、迷宮化した洞窟があった。

 今、改めて壁を見る。そして思い出す、あの坑道奥の道。すると確かに、この何かで削ったような壁には見覚えがあった。正直、言われるまで気付かなかったが、言われてみればそうとしか思えない程にこれはホールモールが削り、切り拓いた洞窟そのものだった。


「つまり、ここをホールモールが掘り進んだ……? いや待てダニエラ、でも、さっきの足跡と手形は人型のものだった」

「あぁ、この洞窟を掘ったのはホールモールだろうな。そして、この洞窟を利用した奴がいる。あの時のようにな」

「……異常進化個体がいるっていうのか?」

「確証はないがな……」


 ひやりと背中が冷える。一段階上の魔物。異常進化個体。それが、またこの穴蔵に居るだと?


「そうでないことを願いたいね」

「まったくだ」


 その確証を得るためにも、この洞窟を進むしか無い。僕は目を凝らし、先を見据える。ダニエラは気配感知を広げる。二人でお互いの足りない部分を補いながら先へ先へと進む。

 洞窟は高さを維持したまま奥へと伸びる。あの時同様に曲がりくねりながら、しかし今回は1本道だ。気を付けなければいけないのは挟み撃ちだ。逃げ場がないと戦うのも難しい。そこはダニエラに頼りながら、僕は《夜目》で動く物体や痕跡、横道を探しながら歩く。




 緊張の所為か、この暗闇の所為か。時間の感覚が薄れつつある頃、ついに横穴を見つけた。高さは今までと違い、2メートル程だ。奥を覗くとゆっくり、なだらかにではあるが上へと登っているのが分かる。


「ここを何者かが通ったのか?」

「恐らく、そうだろう」

「人型にしてはでかいな。まるでオークだ」


 ぽつりと呟く。


「待てアサギ、今何と言った?」

「え? まるでオークだなって」

「……そうか……いや、待て……ん……」


 僕の呟きに何か引っ掛かったみたいで考え込む。声を掛けたい衝動に駆られるが、その一言の所為で考えが霧散しては意味がない。僕はダニエラの代わりに気配感知を広げて熟考の邪魔をせず、邪魔する者を感知する。


 多分5分後、ダニエラは考えが纏まったのか顔を上げた。その顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。


「何か分かったか、ダニエラ先生?」

「あぁアサギ君。全て分かった」

「流石だぜ先生」


 ダニエラは僕の鞄を掴み、降ろすと中から結界の魔道具を4つ引っ張り出す。それを前方と後方と横穴に設置して、残った1つを横穴の更に奥へ設置する。そして先日買い込んだ布を出して床に敷き始めた。


「……で、落ち着いたようなのでダニエラの考えを聞きたいんだが」

「まぁ待て。水でも飲もう。飲みながら話せば更に落ち着いて話せる」


 そんな余裕があるのかと問いたいが、ダニエラが落ち着いているのなら大丈夫なのだろう。ついにはランタンも取り出して火をせがんでくる。着火用の魔道具で火を付けると『なんだ、魔法は使わないのか』と言いやがる。僕は火属性苦手なんだよ。

 最後にカップを取り出し、水魔法で意識して周囲の水分へ魔力を流し、集めて飲水を作る。意識してみると逆に疲れるな、これ……。


「さ、準備はもう良いだろう? 早く聞かせてくれ」

「あぁ、良いだろう。まず、この洞窟についてだ」


 カップを傾け、ゴクリと水を一口飲み、続きを待つ。


「この洞窟はオークの巣に繋がっている」

「な、なんだってー!?」

「……そんなに驚くことか?」

「いや、盛り上げようかなと」

「そういう気遣いはいらない」

「すみません……」


 ダニエラも水を飲み、唇を湿らせてからたどり着いた真相を語る。


「まず、あの足跡と手形はオークだ。この谷底を南下しているのは南に目的があるからだ」

「南に何かあるのか?」

「先日、レプラントの南門で話したことは覚えているか?」


 僕はカップを地面に置いて腕を組む。


「オーク関連だろ? えーっと、確かあの時点で5日くらい前に村が襲われたんだっけ。南の……あっ」

「気付いたか?」


 ダニエラがニヤリと笑う。


「オークは谷底を歩いて南の村の付近まで進んだんだ。地上を歩けば冒険者に見つかるからな。恐らくこの横穴は村の付近まで続いている」

「なるほどな……1週間前に目撃され、2日後に村が襲われた、か。でもそれからも目撃情報はあったんだろう?」

「きっと援軍か、確証は無いが……村を襲った帰り道だったのかもな」


 行きの道か、帰りの道かは調べてないから分からないが、略奪の後だと言われれば納得出来る話だ。


「でもオークがそこまで考えるか?」

「だから、異常進化個体が居るんだろう?」

「あー、確定なのね……」


 つまりこの横穴は賢いオークの通り道、と。


「それでどうするんだ?」

「これからこの穴を進んで村へ行こう。そこで冒険者達と合流して異常進化個体を含めたオークを根絶やしにするぞ」


 ダニエラの獰猛な笑みは、結末まで織り込み済みということか……。確かに冒険者達の手を借りれば心強いだろう。漸く全てを理解した僕はダニエラ同様の笑みを浮かべた。

活動報告を更新しました。読んでもらえるとありがたいです。

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