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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百十三話 ガチャ爆死、広がる交流

 壮絶だった。これが本来の早朝クエスト争奪戦か……。


 正に獣と化した冒険者に揉まれ撫でられ押し出されながら、討伐クエストのみを狙い、藁をも掴む気分で受注用紙を引っ手繰る。それをとりあえず3、4枚。行き届いた教育とは何だったのかとあの子煩悩に問いたいが、そんな暇も余裕もなく、僕も周りに習い、受注用紙を引っ手繰る。この時ばかりはガルドの巨体が羨ましく感じた。

 後から聞いた話だが、これがレプラント名物らしい。『電撃争奪戦』。この時ばかりは冒険者も獣になるとのことだ。いらない名物です。


「あー……クッソ疲れた……」

「ぐぅ……」


 ダニエラは争奪戦に自主的に予選落ちしたので壁際の椅子に座って待機していた。その隣に腰を下ろし、疲れた体を休めながら手にした3枚のクエストを検分する。


「なになに……? 『ゴブリン討伐』……ハズレ。『ブラッドエイプ討伐』……大ハズレ。『南の谷の調査』……討伐ですらないとか最悪だな……」


 残念ながら全てハズレ。どこぞのガチャより酷い。


「はぁ……」

「ん……アサギ、どうした……?」


 目を開けたダニエラがぼんやりと僕の顔を覗き込む。


「いや、頑張って掴み取ったクエストが全部ハズレでさ……どうしたもんかなって」

「ふむ……ふぁぁ……んん、よし、見せてみろ」


 大きな欠伸をして、漸く目が覚めたダニエラが僕が持っていたクエストを検分する。


「なるほど、討伐クエスト狙いだったが、これではハズレだな」

「だろう? ゴブリンなんて今更僕達がやるようなクエストじゃないし、ブラッドエイプは懲り懲りだ。そしてその谷調査? 何か意味あんの?」

「備考欄には『最近、不審な影の目撃情報増加の南の谷の調査』と書かれているな」

「不審な影、ねぇ」


 魔物だったら良いんだけど。盗賊だったら最悪だ。


「とりあえずどうする?」

「何もしないって訳にもいかない。この調査依頼は結構報酬も高いし、仕方ないからこのクエストをやろう」

「はぁ……ま、ダニエラがやるってんなら何の反対もないさ」


 氷と速度を活かした新戦術のお披露目はまた今度になるのかな……忘れないうちにやってみたいんだが、まぁ調査依頼には必要ないだろうな。トラブルでもない限り。

 よっこいせと立ち上がった僕は人が捌けたクエスト板のゴブリンとブラッドエイプのクエストを貼り直す。貼り直してから、そういえば前にここで見た用紙の感じにそっくりだなぁと気付いた。しわしわになった紙。適当に貼られ、斜めになった紙。結局ハズレしかないってことだな……。



  □   □   □   □



「はい、クエストの受注ですね」

「よろしくお願いします」


 『クエスト発行』カウンターに用紙とステータスカードを提示する。いつものやり取りだし、慣れたもんだ。僕も何だかんだで冒険者稼業が板についてきたってことかな?


「『南の谷の調査依頼』ですね。ありがとうございます。最近、谷底で蠢く複数の不審な影の目撃が増えています。魔物か、盗賊か。その見極めをお願いします」

「討伐は含まれてないんですよね?」

「はい、調査のみです。が、やむを得ない場合、戦闘が発生すると思いますので、装備の準備はしっかりとお願いします」

「分かりました」

「はい、クエスト発行完了です。貴方の冒険に加護と運を」


 返却されたステータスカードをポケットにしまい、もう一つをダニエラに渡す。さて、谷調査だ。討伐依頼ではないのが残念だが、こういうのも冒険者の醍醐味かもしれないな。未知との遭遇。果たして鬼が出るか、蛇が出るか……。



  □   □   □   □



 ダニエラと別れて僕は調査に必要になるであろう物資の調達に出掛けた。調査の前の調達だ。買うものを買ったら南門へ集合ということで、久し振りのソロ活動である。


 まずは、服屋に行く。この前の盗賊騒ぎの時に消費した布の端切れを買い足さないといけない。

 布は何にでも役に立つ。敷けばどこでも座れるし、汚れれば拭くことも出来る。怪我をすれば包帯代わりだ。清潔な布はいくらあっても問題ない。スピリスで防具が出来上がる1週間の間に色んな服屋を回って買い漁っていたが、それもそろそろ尽きそうだった。これを機に買い足しておけば、いざという時困らなくて済む。ということで適当に目に入った服屋に入った。


「すみませーん」


 と店の奥にいるであろう店主を呼ぶ。すると恰幅のいいおばちゃんが出てきた。


「はいよー。おや、何だい兄さん。良い服着てるじゃないか。兄さんに合う服が用意出来るかねぇ」

「あはは、肉球服飾店の服は優秀ですから」

「おやまぁ、あのお店の服かい? ランブルセンに良い店があるって噂は聞いたことあるんだ。ちょっと見せとくれ!」


 おばちゃんがしゃがんで僕の装備をじっくり見る。参ったな……これじゃあ端切れが買えない。でも肉球の店の宣伝はしておかないとニックに悪いしな。


「ふむふむ……はぁ、竜種とは兄さん、中々やるね」

「値下がりしてたのを買わせてもらっただけですよ」

「ま、そういうことにしておくよ! 悪かったね、いきなり。それで、何を探しに来たんだい?」

「端切れをください。出来るだけ沢山」

「ん、端切れならいっぱいあるから安くしてあげるよ! さっきの詫びさ!」


 パチンとウィンクなんかしちゃって、随分チャーミングなおばちゃんだ。気前も良い。

 おばちゃんは店の奥から端切れを両手に抱えて戻ってきたので、虚ろの鞄の蓋を開ける。受け取った端切れをそのまま中に押し込めばすっぽりと収納された。流石ヴィンテージバッグ。


「良いもん持ってるね。それに飾りも可愛らしい」

「お世話になった人と、お世話になった女の子から貰った大事なものです」

「ふふ、あんた、良い冒険者だね」


 何だか照れ臭い。あまり褒められたことがないから居心地が悪い。が、悪くない。


「はい、代金です」

「はいよ! じゃあ達者でね!」

「ありがとうございました」


 手を振るおばちゃんに頭を下げて退店する。パッと入っただけの店ではあったが、良い人で良かった。褒められ、ふわふわした気持ちで歩く町は何だか綺麗に見える。これも日頃の行いなんだろう。これからも頑張っていかないとな。




 次は食料だ。僕は簡単なものなら料理も出来るが、今回は調査ということで手軽に済ませられるものが良いだろうということで屋台街にやってきた。別に面倒臭い訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!


「さてさて、何にしようかな……」

「ん? アサギじゃないか」


 屋台を物色していると後ろから声を掛けられた。振り向くとそこには生意気キッズ改め、冒険者ペンローズが両手に串焼きを持って立っていた。既視感ある。


「おう、ペンローズ。旨そうだな。くれよ」

「会って早々カツアゲはやめてくれ!」


 ケチくせーなー。と思ったけど小さな子から肉を奪う冒険者。犯罪的だ。ていうか犯罪だ。


「朝飯か?」

「うん。薬草回収を受注してきたからこれ食ったら行くんだ」

「ソロか?」

「ううん、俺にもパーティー出来たんだ!」


 おぉ……あのペンローズに……いや、改心したのは皆知ってる。ならば、そのペンローズに期待して手を差し伸べる人が居ても何らおかしくない。いやぁ、何というか、自分のことのように嬉しいな。


「今は腹拵えの為に散ってるけどね」

「なるほどな。どんな奴等なんだ?」

「俺と年の近い奴等だよ。前は大人と一緒に戦いたかったけれどこの間、アサギ達と一緒に戦って気付いたんだ。まだまだ早いなって。足手まといにもなったし、結構緊張もしたし……だから同じ年代の人を募集したんだ」


 ふむ……ペンローズはそんな風に思っていたのか。でも結構強かったけどな。しかしなるほど、子供パーティーか。夢見る少年少女の冒険稼業か……実に楽しそうだ。


「それは良かったな。あんまり危ない場所に行っちゃ駄目だぞ」

「分かってるって!」

「あと先輩からアドバイスだ。薬草は根っこの先まで丁寧に掘り返して採取すると喜ばれる。ブチッと千切ると意味ないからな」

「分かった!」


 あぁ、本当に良い子に育って……お父さん、嬉しいよ。なんて気分に浸っていたら革鎧を装備した少年少女達が集まってきた。ペンローズを加えて全部で5人。この子達がレプラント少年愚連隊か。少女もいるけど、どこか男の子っぽい。やんちゃそうだな……。


「おいペン、まだ食ってんのか? 早く行こうぜ」


 おぉぅ、男勝りなお嬢ちゃんだな……。


「ん? なんだおじさん、アタシの顔に何か付いてるか?」

「今、なんて言った?」

「あわわわ、キッカ、アサギにおじさんは禁句だから……!」

「はぁ? え、ていうか、アサギ? あの?」


 聞き捨てならない単語が聞こえたが、ここはペンローズのためにも引いてやるか……。ふぅ、と息を吐いて切り替える。


「どのアサギかは分からんが、アサギだよ。よろしくな」


 そっと右手を差し出すとギュッと握ってくれる。意外と力が強い。それに、タコが出来ている。いつも剣の練習をしているんだろうか。


「『銀翆』! 凄い! よろしく!」

「本物? 本物?」

「わぁ、意外と普通の人っぽいね」

「アサギは凄いんだぞ。空飛べるんだから」

「それは言い過ぎじゃないのー?」


 僕の周りに群がる子供達に僕は身動きが取れなくなる。忌憚のない評価が飛び交う中心でさてどうしたもんかと空を見上げる。あぁ、良い天気だ……。




「ふぅ……」

「あはは、ごめんなさい。びっくりしちゃった」

「いや、良いよ。結構知られてるんだなーって僕も驚いてたから」


 キッカを始めとした子供達がペコリと頭を下げてくるのを僕は苦笑しながら受け流す。こんな子供達にまで僕の悪評が浸透しているのかと思うと苦笑も出ちまうね……。


「あっ、クエスト行かなきゃ!」

「そうだそうだ、忘れてた!」


 クエスト前の腹拵えだったことを思い出したキッズ達が慌てて荷物を持ち直す。僕もクエストの準備をしていたんだっけ。どっこいしょ……と立ち上がる。最近ちょっとジジ臭いな。


「僕もクエストあるし、そろそろ行くよ。皆気をつけてな」

「はーい!」


 5人の揃った返事を受けて頷き、先輩風を吹かせながら屋台街を歩き出す。あんな子達も頑張っているんだ。僕も負けないように頑張らないとな。よし、さっさと飯買って南門へ行かないと!

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