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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百十話 荒れる銀翆、荒ぶる白風

祝110話です。

「待たせたな!」

「アサギはそれを言わなきゃいけない呪いでも掛けられてるのか?」


 まぁ呪いみたいなもんだな。


「此奴等の宿が分かった。律儀に報告してたから助かったぜ……」

「私達も報告しておくか……まぁ、行こうか」


 ダニエラがベンチから立ち上がり、僕はリヤカーの持ち手を握って歩き始める。虚ろの鞄を背負ったままではちょっと押しにくかったので鞄はダニエラに背負ってもらう。行先は『蜥蜴の尻尾』。酒場兼、宿屋だ。僕達が鉱山の町アレッサで泊まったのと同じタイプの建物だ。結構安い割にしっかりしているらしい。長く滞在するつもりだったから宿屋一本縛りで探していたが、そういう方向で探せば案外早く見つかったのかもな……なんたって冒険都市だし。そういうちょっと治安が悪くてワクワクするタイプの店は多そうだ。


 大通りをリヤカーで移動すれば大衆の目を引くので一つ入った路地を進む。流石にこの姿を晒すのは可哀想だった。まぁ、それでも人は居るので酒の入った冒険者なんかは指差して笑い転げている。ダニエラが殺気を飛ばすとピタリと止まるがな。

 公園からさほど離れていない場所にある『蜥蜴の尻尾』。そこはまだまだ夜はこれからだと言わんばかりのどんちゃん騒ぎで店の外まで声がダダ漏れだった。こんなんで夜寝れるのか不安でしかないが、今の此奴等なら朝までグッスリは約束されたようなもんだ。


「じゃあちょっと声掛けてくるわ」

「任せた」


 言っても行かなそうなダニエラに変わって店の押戸を開……こうとしてちょっと躓いてしまい、勢い良く開けてしまった。すると大きな音に店の人間の視線が集まる。一瞬ドキッとしたが、恥かしさをおくびにも出さず、かと言って気にならない訳でもないので此方を見る連中に視線を飛ばす。見た感じ冒険者だろう。

 奥のカウンターまで行くとこれまた『それが客に対する態度か?』と店員側からの意見を出したくなる程の眼力で僕を睨むマスター。僕は用事があるのでカウンターに設置された椅子に座る。


「ちょっといいか?」

「お客さん、ここは酒場だ。まずは酒だろう?」

「いや、僕は客じゃない」

「ぁあ!?」


 そ、そんなに怒るなよ……客ではないけど用事はあるんだよ。


「あんたのとこの客を預かってる」

「あんた……」

「だから」


 『引き取って欲しい』と言おうとした瞬間、ガタガタガタッ! と椅子が鳴る。流石に慌てて振り向くと客達が僕を視線で殺そうと睨んでいた。


「えっ、何」

「よぉ、さっきからガルドとネスの帰りが遅いんだ」

「うん、だから」

「てめぇ……あの二人に何しやがった?」

「は? 一緒に……飯食って……」

「一緒に絞めて? てめぇ……!」


 あまりの剣幕に尻すぼみになりながらも説明するが聞き入れてくれない。ていうか勘違いしてない? 絞めてって言わなかった?


「野郎どもやっちまえ! 二人の仇だァァ!!」

「ちょっ!?」


 客達はテーブルに立て掛けてあった剣を抜き、振り上げながらこっちに向かって来た。嘘だろ!? 慌てて立ち上がるも咄嗟の行動が出来ない。虚ろの鞄はダニエラに預けたままだ。抵抗できる手段は……と、考える前にゾッとした寒気が背中を駆け巡り、考える前にその場から飛び退く。その瞬間、背後で木がメキメキと割れる音がして、慌てて振り返るとマスターの拳がカウンターにめり込んでいた。なんというメリケン……。客達もちょっとビビって動きが止まった。これはチャンス!

 その場で両手を床に付き、紺碧色の魔力をフロア全体に流す。入り口から奥の階段までを僕の魔力で支配し、一気に冷却した。坑道跡でコボルトにやったアレだ。そういえば魔法名を考えてなかった。『氷縛り』でいいか。分かりやすい。

 僕が床に付いた手を離し、立ち上がった時には吐く息は白く、そして店の人間は靴まで覆われた氷に身動きが出来なくなっていた。


「くそ、なんだこれ……」

「さ、寒ぃ……!」

「なんだ、この魔法!?」

「てめぇ何者だ! どこのどいつだ!?」


 いっぺんに言われても分からん! まったく、酔っ払いはこれだから嫌なんだ。夜勤の時も苦労したしな。あ……思い出したらちょっとイライラしてきた。


「お前らいい加減にしろよ。僕はガルドとネスを連れてきたんだよ。なのに人の話も聞かずに剣なんか抜きやがって! ぶっ飛ばすぞ!」

「は? 生きてるのか?」

「誘拐とかじゃなくて?」

「なんだよ……俺ァてっきり……」


 各々は漸く理解したようで、安堵の息を吐いている。そして安心したからか、逆に僕に突っかかってくる奴がいた。


「おいお前! そうならそうと早く言えよ!」

「ぁあ!? 言おうとしたらお前らが襲ってきたんだろうが! ふざけんな!」


 一喝したら黙ってくれたけどな。


 もう安全だろうと流していた魔力を止める。すると氷は一気に割れて消え去り、店内の温度も元に戻る。吐く息も透明になった。まったく、何がちょっと治安が悪くてワクワクする場所だ。最悪じゃねーか。


「で、酔い潰れちまった二人を引き取って欲しいんだが?」

「あぁ……すまねぇな」


 メリケンマスターも申し訳なさそうに眉毛をハの字にしながらペコペコ頭を下げてくる。なかなかにコミカルな絵面だったが、いい加減眠いので早く帰りたい。


「おーい、ダニエラ」


 リヤカーで寝ている二人の傍にいるはずのダニエラに声を掛ける。が、返事がない。


「ダニエラ?」


 心配になって店の外に出るとリヤカーの端に座ったダニエラが誰かと話していた。が、姿が見えない。


「ダニエラ」

「……ん? あぁ、アサギ。さっき騒がしかったけど大丈夫か?」

「心配してくれてるんなら助けに来てくれよ」

「お前なら何の問題もないだろう」


 信頼してくれてるんなら良いか。


「店側と話がついたから此奴等引き取ってもらうぞ」

「あぁ、了解した」


 ダニエラがネスを。僕がガルドを引き摺りながら店内に入る。二人が酔い潰れてるのを確認出来た客達もほっと一息だ。何ほっとしてやがんだ。阿呆か。


「ほら、部屋に連れてってくれ」

「分かった。ここまで連れてきてくれてありがとうな。あんた、名前は?」

「アサギだ」


 メリケンマスターに引き渡しながら改めての自己紹介だ。


「アサギか。どっかで聞いた名のような気がするが……此奴等が目を覚ましたらアサギが連れてきたと伝えておこう」

「あぁ、頼んだ。じゃあ僕はこれで」

「ありがとうな。今度は飲みにきてくれ。勿論、タダで用意するからよ」

「機会があったらな」


 『タダ』の単語にダニエラが振り返っていたが知らん顔で店を後にする。リヤカーに流していた魔力も止めてやればたちまち地面に吸い込まれるように消えていった。


 まったくとんでもない夜だった。僕達二人はヘロヘロになりながら自分達の泊まる宿に戻り、それはもうぐっすりと、泥のように、昼前まで寝かせてもらった。




 次の日の昼。朝食兼、昼食を屋台で済ませた僕達はレプラントを散策することにした。入り組んだ路地の多いこの町は、探せばきっと面白い店があるはずだというダニエラの提案の呑んだ形だ。


 手に串焼きが刺さっていた串を持ち、通りをあっちへ行き、こっちへ行きとフラフラと歩く。腹が空けば適当な店に入り、人心地が付けば店を出てまた歩き回る。喉が渇けば果実水を売る街角の屋台で買ってその場で飲み干す。実に平和な一日だった。


 その日は散策だけで一日……いや、半日を潰した。金策とか言っていたのはどこの誰だったか。そんな動きはまったくなく、歩き疲れて僕達二人は宿に戻ってきた。


「はぁ、なんか久し振りに平和を堪能した気がする」

「昨日は大変だったしな」

「あぁ」

「それに、盗賊も……」

「……あぁ、そうだな……」


 ふとダニエラがこぼした『盗賊』という言葉にあの日のことを思い出す。自分なりに区切りは付けたつもりではあるが、それは古傷のように傷んだ。


「なぁダニエラ」

「なんだアサギ」

「あの首……いつの間にか無くなってたんだが……お前か?」


 並んで座ったベッドの上。その隣のダニエラの顔を見つめて尋ねる。ダニエラは特に表情を変えることなくコクンと頷いた。


「あぁ、私だ」

「いつだ?」

「最初の日の夜。アサギが寝ている間に衛兵隊詰所に届けてきた」

「ダニエラ……お前、その為に僕を弄んだな?」

「何を言う。嬉しそうに声を上げていたじゃないか」

「馬鹿野郎、勝手に出るんだ」


 いやそんな話をしたい訳じゃない。


「あの首は辺りを荒らしていた盗賊の首領だった。元Cランク冒険者。名は『ガルガン=ズィーラ』だそうだ」


 何だか独特な匂いのしそうな名前だな……。


「冒険者の頃から暴行、窃盗を繰り返していて、ついに犯した強姦事件によって鉱山送りになたそうだ」

「じゃあ何であんな場所に……いや、鉱山奴隷か。あの町なら実力さえあれば脱走は簡単だろうな」

「そういう訳だ。脱走して荒らし回っていた所を、私達が壊滅させた。という話だそうだ」

「なるほどな……」


 必要のない殺しではなかったらしい。だからと言って心が晴れやかになるわけではないが……だけど、少しは楽になれたのだろうか。殺した相手が悪い奴でした。殺した僕が正義でした。と。それで良いのかと問うが、答えは出ない。


「アサギ。言い方は悪いが考えるだけ無駄だ。この世界の命はお前の世界より軽い。命の価値は等しくても、値段は安い。良い奴が生き、悪い奴が死ぬ世界だ」

「それは向こうも一緒さ。僕の居た国が特別平和だっただけで一日に何百もの人が死んでいた。ただ、僕がやったということだけが引っ掛かるんだ。この辺に」


 自身の胸の真ん中を指先で突く。


「まぁ……そうだろうな。命を奪うというのはそういうことだ。こればかりは慣れるしかないとは言え、歯痒いな」

「あぁ、全くだ。壊れないように支えてくれよ?」

「ふふ、私を見くびるなよ? 支えるだけが仕事じゃない」

「あっ、ちょ……」


 隣に居たダニエラが僕の肩を掴み、腰に回した手で支えながらゆっくりと、しかし抵抗する暇なくベッドに押し倒す。あぁ、こうなったら天井の染みを数え……いや、真っ白だな。綺麗な天井だ。

 僕は勝手に出る声を出来ないとは分かっていながらも抑えながら、そしてそれが聞こえなくなるまでダニエラの手のひらの上で転がされた。最近のダニエラがちょっと怖いんだが、AGI極振りでどうにかなりませんかね?

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[一言] アサギくんが「待たせたな!」って言う度に ドヤ顔の渡辺正行氏がチラつく。 ネタ元は違うものなんだろうけど。
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