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第十一話 バレバレの嘘

 大将の店を後にしてギルドを向かう。鍛冶屋の前の道を真っ直ぐ北に向かえばギルドにはすぐに着く。ギルド内の空気を思えば足取りは重くなるが薬草をいつまでも抱えている訳にはいかない。鮮度が大事なのだ。


「あー……怠い……嫌な時間だ……」


 思わずぼやく程には参っていたりする。しかしこの冒険者稼業は僕の食い扶持だし、生きる上で必要なことだ。

 そして何よりも異世界転移した僕の憧れの一つでもあるのだ。

 勿論、命のやり取りに思うところはある。腐っても日本人。平和な時間を生きてきた人間だ。争うことに抵抗があるのは当然だ。でもこの世界に来て文明の無い森と平原で過ごした僕は割り切ることの重要さを知った。知ったつもりではいる。だからこの生き方を辞めるつもりはない。でも、心は擦り減る。


 ギルドの前に立つ。屋内の酒場の騒ぎが外にまで聞こえてくる。僕はどうにか心に蓋をして中に入る。


「よう、アサギ。帰ったか」

「ガルド。帰ってたのか」


 今日はツイてる。ガルドがいる日だったか。周りの冒険者は僕のことを憎々しげに睨むが無視する。どうやら僕がガルドにフランクに接するのが気に食わないらしい。


「ついさっき、な。お前ェもか」

「あぁ、薬草採ってきた」

「くくっ、嘘ばっかり言いやがってよ」

「嘘じゃないさ。薬草はある」

「薬草は、な」


 くそ、ガルドにまでバレてやがる。まぁいいさ。これは必要なことだ。

 例えば純粋に薬草だけ採取して冒険者ランクを上げたとしたら、レベルはランクに伴わない。そんな状態で森や平原に出ても蹂躙されるだけだ。なら初めからレベルを上げて戦い方を学んでおけば、それに越したことはない。恐らくこの辺の考え方が”石”と”原石”を分けることになるんだと僕は睨んでいる。

 ガルドに手を振ってその場を離れ、報酬引渡カウンターの前に立つ。腰に結びつけていた布袋を外してカウンターの上に置く。


「アサギです。薬草回収のクエストから戻りました」

「お疲れ様でしたー。薬草とステータスカードをお預かりしますね」


 ポケットからステータスカードを取り出してギルド員さんに渡す。何か軽いんだよな。


「はい、確かに。しばらくお待ち下さーい」


 この後は薬草の状態と相場を調べる時間が発生する。それまで僕は暇になるので酒場で軽く食事をする。クズ共の視線は鬱陶しいが、今日はガルドがいるので大人しいもんだ。そういえばネスがいない。


「すみません、何か軽くつまめるものを」

「あいよ」


 バーカウンターに座り、酒場のマスターにつまみだけ頼んで酒場を見る。何人かと視線が絡むが気にはならない。ネスは居ないみたいだ。


「ネスなら居ないぜ」


 ガルドがテーブルから言う。僕の様子に気付いたのか。


「そうみたいだな。珍しいな」

「彼奴、今日は報酬が多かったからな。娼館さ」

「ふぅん……そういうのもあるんだな」

「あぁ、あいつ、『今日こそ落とす』って意気込んでたが……まぁそのうち一人で帰ってくるだろうよ」


 なるほどな……ネスの御執心の相手には興味はあるが、娼館自体には興味はないな。病気が怖い。魔法のある世界だから避妊や回復魔法はあるだろうが信用度低いからな……。何よりもトラブルがありそうだ。異世界転移と巻き込まれ体質は切っては切れない物だからな。まぁ僕に主人公補正はないから安心だが。念には念を、が生き抜くコツだ。


「お待ち!」

「どうもです」


 マスターからつまみを受け取る。今日は鶏の香草焼きか……これ、好きなんだよな。骨付きだから食べやすい。狼肉より柔らかくて肉汁もたっぷりだ。ピリッとしたスパイスが戦い疲れた空きっ腹を刺激する。あっという間に食べ尽くしてしまった。


「報酬引渡でお待ちのアサギ様ー。いらっしゃいますかー?」


 ギルド員さんの呼ぶ声がする。手と口を拭いて代金をカウンターに置いて酒場を後にした。


「アサギ様」


 酒場の前でキョロキョロしていたギルド員が僕を呼ぶ。その後を付いて歩き、カウンターまで行く。


「アサギ様はそろそろランクアップですね」

「そうなんですか?」

「はい、Gランクのクエストを15回成功させればランクが一つ上がります。あと…えーっと、6回ですね。まぁもう一つ方法はあるんですけれど」

「次のランクからはどんなクエストが主流になりますか?」


 もう一つの方法とやらは気になるが、今は良い。Fランクからはより効率良くやりたい。草抜きはそろそろ飽きた。


「Fランクからはゴブリン討伐が主なクエストになります。南の森の魔素はゴブリンが好むようなので、アサギ様はより奥深い場所までの侵入が許可されますね」


 そこまで言うとちら、とこちらを見て悪戯っぽく微笑む。可愛いけれどこれは『全部知ってるぞ』という意味だろう。何も言えない僕は苦笑しながら頬を掻いた。


「ふふ、では報酬をお持ち致しますので少々お待ち下さいね」

「あはは…どうもです」


 何とも気まずい。そわそわしながら待ってるとギルド員さんが報酬とステータスカードをトレイに乗せて戻ってくる。


「はい、こちらが今回のクエストの報酬になります。アサギ様が採取する薬草はどれも状態が良く、薬屋の店主もいつも喜んでいますので、多少の色を付けさせていただきました」

「それはどうもありがとうございます。次も薬草回収をするつもりなので品質には気を付けます」

「助かります。他のGランク冒険者の回収する薬草はどれも毟り取ってきた物ばかりなので…」


 薬草なんか採ってられるか! って気持ちで回収してるんだろうなぁ…阿呆め。こういう地道な仕事をコツコツやるのが大事なことだと気付かないとは。


「本日もありがとうございました。次回もよろしくお願いしますね」

「はい、どうもです」


 報酬の銅貨40枚とボーナスの銀貨1枚を布袋に入れてカウンターから離れる。

 さて、今日はもう何もすることがない。宿屋に戻ろうかな……と、ギルドを出たところで冒険者に囲まれた。


「おう、黒兎。てめぇ最近調子に乗りすぎなんじゃあねぇか?」


 頬に傷を付けた強面の冒険者が上から見下ろす。


「クエストにも慣れて調子が出てきたところだな。明日も薬草回収頑張るぞ!」

「舐めてんのかてめぇ!」


 そのまま掴みかかろうと腕を伸ばしてくるクズ筆頭。遅いな。《器用貧乏》は対人戦の体捌きも教えてくれる。僕は映像通りに伸ばされた腕を掻い潜り、冒険者の脇から抜けて後ろから前蹴りを入れて転ばす。その後は振り返って町へ走り出す。


「待ちやがれぇ!」

「くそ、速ぇ……!」


 待てと言われて待つ馬鹿は古今東西、存在しない。僕は人混みに紛れながら宿屋へと走った。


 途中、ネスが涙目で歩いていたが、恐らく見間違いだろう。

※お金の相場から報酬額を上げました。

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