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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百八話 同窓会的な。

 子煩悩マスターの話とちょっとした迷子の所為で時間に遅れてしまったが、無事に『蟻塚亭』に到着した。

 店内は人でごった返していて、如何にここが人気であるかを教えてくれた。いくつかあるテーブルには1台ずつコンロ型魔道具が設置してあり、皆が皆、好きなように肉を焼いて食っていた。蟻塚亭は焼肉屋だった。


「おぅ、アサギ! こっちだ!」


 騒がしい店内で、一際大きな声を、一際でかい奴が出す。言わずもがなガルドだった。隣には痩せぎすの男が一心不乱に肉を焼いている。ネスだ。


「悪い、待たせたな」

「待ちくたびれたぜ」


 ダニエラの椅子を引いてやり、僕も着席する。目の前には蟻塚の如く生肉が積まれていた。これが蟻塚亭と呼ばれる所以か……見てるだけで涎が出るぜ。


「よぅ! アサギ、久し振り!」

「ネスも元気そうだな。調子はどうよ?」

「最高よ!!」


 いつものヘラヘラ顔でビシっと親指を立てるネスに僕も親指を立てた拳をぶつける。


「二人とも元気そうで何よりだ」

「ダニエラも変わりないな」

「私はいつでも絶好調だ。肉があれば尚良い」

「肉さえあれば、世は事も無しだぜ」


 ガルドとダニエラは肉仲間として通じ合っているみたいだ。おい僕も混ぜろ!

 早速目の前の肉をコンロ型魔道具に設置された金網の上に置く。ジュゥ、という素晴らしい音色が僕の耳に届く。更に肉を乗せれば焼きオーケストラが開催される。実に素晴らしい。


「にしてもよぅ、フィラルドで別れてからどれくらい経った?」


 金網の上の肉とにらめっこしていたネスがぽつりと懐かしむように言う。そうだなぁ……数えてなかったが……。


「多分2ヶ月くらいじゃないか?」

「やべぇ、はっきり覚えてない」

「お前ェ……その年でそれはやばいぞ」


 ダニエラの方がしっかりしていた。抜けてるくせに抜け目ないんだからもう。


「2ヶ月かぁ……長いようで短いが、久し振りにあったらお前、二つ名なんて持ちやがって……」

「いや、ネス。これは僕も不本意だ。スピリスのギルマスが馬鹿なんだよ」

「スピリスっつーとあれか。『赫炎(セキエン)』のボルドー」

「『赫炎』? あいつ、そんな二つ名あったのかよ」


 赤い赤い炎ねぇ。『軽口』のボルドーじゃないのか。でも確かに頭は真っ赤だったし鎧も武器も真っ赤だった。目に痛いレベルの赤だった。


「赫炎っつったら一つ伝説的な話があるんだがな、昔、一人でレッドドラゴンを討伐したんだぜ」

「レッドドラゴン? 強いのか?」

「強いも何も、色の名の付く魔物は最強と言われてるぜ?」


 ふぅん……初耳だ。つまり僕の装備で言えばアイスドラゴンの上位互換はブルードラゴンになるのか? 水属性と被りそうだが……。


「いや、アイスドラゴンの上位種はアイシクルドラゴン。その上がホワイトドラゴンだな」

「あぁ、白ね。ブルードラゴンは水属性か」

「だな。ウォータードラゴン、アクアドラゴン、ブルードラゴンだな」


 やっぱりベテランがいると勉強になるな。ダニエラとはあんまり勉強する機会ないし……おっと、肉が焼けた。裏返していた肉を自分の取り皿に確保してから新たな肉のオーケストラを奏でつつ、焼き立ての肉を冷ましながら口内へ放り込む。んむ、新鮮な肉の油が絡みついて実に旨い。あっついけどこの熱さがまた最高だ……。


「銀翆様の防具は竜種って聞いたぜ?」

「それやめろって。竜種だけどさ」

「ん、もぐもぐ……アサギの防具は勇者が鎮圧した竜種のスタンピードのお陰で値崩れして安く手に入ったんだ」


 ダニエラが肉を頬張りながら付け足してくれる。松本君のお陰で安く手に入ったんだよな。


「あ、それ俺聞いたぜ。確かランブルセンの北で起こったスタンピードだろ。竜種って聞いたから覚えてるわ」

「それそれ。勇者がたまたま居て鎮圧したから素材が流れてきてさ、相場の8分の1の値段で買えたんだよ。それでも高かったけどな」

「でも良いよなぁ、竜種装備。憧れるぜ」

「竜種は良いぞ。着心地も特殊効果もな」


 通気性も良いし、軽くて丈夫だ。日本のメーカー品くらい良い感じだ。普段から着ているがくたびれることもなく、丈夫だ。作った人も良いし、素材も良かったってことだろう。でも大事に着よっと。肉の油が跳ねるのなんてご法度だ。


「肉の油くらい洗濯日和(クリーニング)使えば綺麗になるだろ。使える奴あんまりいねぇけどよ」

「あー、あの魔法な。あれ便利だよなぁ。服についた血とか全部消えたし」

「それは結構高位の使い手だな。なかなか居ないぞ」

「そうなの? この町に入る時に列で一緒になった奴に血ぐらい綺麗にしろ!って怒られて綺麗にされたわ」


 ファン1号の女冒険者だ。今はどうしているかは分からないが……意外とすごい奴だったのかな?




 なんて、お互いに昔話という程時間は経ってないが、懐かしむように会話は弾んだ。こうして再び無事に会えた喜びも合わさり、どんどん食が進み、酒も進んだ。その過程でガルド達の二人旅の内容を聞いた。


 二人は僕達が旅立ってから程なくフィラルドを出たらしい。行き先はランブルセンの首都『ソルソレイユ』。スピリスの候補もあったらしいが、僕達が旅立ってから戻ってきた時にスピリス方面に行ったと聞いた二人は『そんなにすぐに会えるか』と別方向に向かったらしい。それが首都ソルソレイユだった。首都はフィラルドから見て北にある。スピリスからは北西になるか。兎に角別れた手前、すぐに再会するのは気恥ずかしいとのことで首都のグランドギルドで金稼ぎをしていたそうだ。


 それからしばらく首都暮らしをしていたが、そろそろ出るかとなり、行き先はフリュゲルニア帝国冒険都市レプラントとなった。満を持しての目的地だったらしい。二人が到着したのは僕達が来る1週間前。首都を出てから色々寄り道しながら来たので結構掛かったらしい。僕達は基本的に面白そうなことやトラブル・イレギュラーが無い限りはまっすぐ向かうからな……今度旅に出る時は寄り道もいいかもな。


「……っつー訳でよぅ、この冒険都市に着いたってぇ訳だぁ」

「なるほどな……つーか、ネス、お前、飲み過ぎじゃないか?」

「ぁあん? アサギィ、おめぇよぅ、俺がよぅ、飲み過ぎだってぇ、言いたいのかぁ?」

「言いたいんじゃなくて言ってるんだ。もうやめとけって」

「ばかやろぉ、おめぇ、まだまだこれからだってぇの……うぅ……」


 うぅ……って言っちゃってるじゃん。まったく此奴は変わらん奴だな……しっかり管理してくれよとガルドを見ればカックンカックンしていてあと半歩で夢の世界に行きそうだった。おいおいおい寝るわ此奴。


「此奴等どこ泊まってるんだ……?」

「送るしかないにしても場所が分からないとな……」

「この店に置いて行くわけにもいかないしなぁ」


 ネスを揺さぶって宿の名前を聞き出そうとしても気持ち悪そうに呻くだけだったし、ガルドに関してはついに旅立ってしまった。マジかよこれどうすんの……。


「あー……あ、そうだ。ギルドに聞いたら分かるかな?」

「冒険者の位置把握は申告制なところもあるからな……言ってない可能性もある」

「そうなるとお手上げだな。此奴等が律儀であることを祈るしか無い」


 聞けば分かるかもしれない。しかしダニエラをこんな夜更けに走らせる訳にもいかない。僕より強いけどお腹とかパンパンだし。最悪吐く。しゃーない、腹八分目のアサギ選手がひとっ走りで行くしか無いか。


「ダニエラ、ここに来る途中に公園あったよな。そこで待っててくれないか?」

「それは良いが、二人はどうやって運ぶんだ?」

「僕に考えがある」


 まずは会計だ。奢らせるつもりだったのに支払う羽目になったのはフィラルドで酔い潰れていたネスに全額支払わせた罰が当たったのだろうか。結果的にあの時よりも高い料金を支払ってなんとかガルドとネスと店外まで引きずり出す。町はすっかり夜の帳が下りていて、あちこちで扇情的な姿をしたパツキンのチャンネーが客引きをしている。わーおって感じで見ているとダニエラの蹴りが尻に炸裂して悶える。さて、気合も入ったのでさっさとやってしまおう。


「うっし……んん……よいっしょ、っと!」

「おぉ……!」


 《器用貧乏》によるイメージ補正。そして得意属性の氷魔法を使って出来上がったのは氷製リヤカーだ。慣れないことしてちょっと魔力使い過ぎた感あるが、車輪も上手く回ってくれる。此奴に乗せて公園まで運搬するという寸法よ。


「アサギ、お前はどんどん浮世離れしていくな」

「よせやい、褒めたって何にも出ねぇって」

「いや、皮肉だ」

「……」


 どうせ僕は変人だよ!


 ブツブツと文句を垂れながらリヤカーにガルドとネスを放り込み、公園まで引いていったところで僕は《森狼の脚》で屋根上まで飛び上がり、ギルドを目指した。


 ギルドはこんな遅くでも煌々と明かりが付いていて、まるで夜中のコンビニみたいだなと思いながら扉を押し開く。中にはそれなりに冒険者達が居て、結構やる気満々にしている。夜行性の魔物でも狩るのだろうか? ま、僕は冒険者稼業を始めてからは基本、早寝早起きだ。夜行性はブラッドエイプで懲り懲りだからきっと夜の運動会には参加しないかな……。と、やるべきことをやらないと。『質問・その他カウンター』に向かい、少ない列に並び、順番を待つ。昼間ほど待つこともなく僕の順番がまわってきたのでガルドとネスの宿を聞き出す。


「すみません、一緒に飲んでいた冒険者が酔いつぶれちゃって。宿とかギルドで把握してたら聞きたいんですけど」

「はい。その冒険者のお名前は分かりますか?」

「ガルドとネスという二人組の冒険者です」

「畏まりました10分程で分かりますので、待合室でお待ち下さい」

「……分かりました」


 またあの喫煙室……じゃない、待合室に行くのか……。


 僕はまた長い10分を待ち、あまりの暇具合に襲ってきた眠気に倒れそうになりながらも耐え、そしてギルド員に呼び戻されてガルドとネスの泊まっている宿の名前と場所を聞いた。あいつ等が律儀な奴等で助かったぜ……。さ、こうしている間もダニエラはむさ苦しいおっさん二人の世話をしてるんだ。とっとと二人を宿にぶち込んで、さっさと寝よう。ダニエラ弄りはまた今度だな。

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