第百五話 根は真面目な良い子なんです
本日2話目。日付は変わっても本日2話目です。前話を読んでからお願いします。
《森狼の脚》で加減をしながら、ダニエラは風魔法で自身を浮かしながら調整して、二人してギルド前に降り立つ。突然空からやってきた人間に周りは騒ぎ出すが、用事があるのはペンローズだ。相手をするつもりはない。
「待たせたな」
「な……お前……っ!」
先程とは違う出で立ちの僕と、新たに増えたダニエラとを交互に見ながら1歩下がるペンローズ。
「自己紹介が遅れたな。僕はアサギ=カミヤシロ。『銀翆』の二つ名を持つC級冒険者だ」
「私はダニエラ=ヴィルシルフ。アサギのパートナーで『白風』の二つ名を持つB級冒険者だ。この度はうちのアサギが世話になったそうで、お礼をしに来た。よろしくな、少年」
「なん、だと……お前が、二つ名持ちだと……? それも、あの、銀翆……!? それに、『白風』まで……!」
その銀翆かは分からないが、銀翆は僕一人だ。こんな恥ずかしい二つ名、他にはいないだろう。正直いらない称号だが、こういう場面では役立つ。きっとほくそ笑むボルドーに心の中で悪態をぶち撒けながら、手にした大剣、藍色の大剣を地面に突き立てる。
「此奴は伝説の魔物、テンペストホエールの骨から藍色の鍛冶師が削り出した最期の大剣だ。この世に2本とない武器だ」
「私の細剣は死生樹の芯から作られた白エルフに伝わる剣だ。この世に2本とない武器だ」
鞘から引き抜いた死生樹の細剣をまっすぐ立てて持ち、騎士の様に構える。
「くっ……」
「防具の説明は、必要か?」
「くそぉ……!」
ついにペンローズが膝をついた。勝った……! 僕はポンチョの下の虚ろの鞄から大剣の鞘を取り出し、剣を収めて鞄へ入れる。ダニエラも鞘に戻して腕を組んだ。
「あ、あれが『銀翆』……」
「当時Dランク冒険者でありながらワイバーンをソロで仕留めたっていう?」
「『白風』は『銀翆』と二人だけでスタンピードを鎮圧したって聞いたぞ」
「しかし……あんな大人気ない奴が?」
「手柄だけ見れば立派な冒険者だが……」
「でもペンローズには皆、手を焼いていたんだ。ここは素直に感謝だぜ……」
一部批判的な声が聞こえるが、無視だ。こうやってペンローズの鼻っ柱を折ることで皆が幸せになるのだ。
「これで分かったか? 人を見た目で判断しちゃいけない」
「ぐぅ……」
「確かに、優れた冒険者を尊敬するのは大事だ。しかし、だからと言ってその他の人間を見下していいことにはならない。冒険者でも、冒険者でなくても、尊敬出来る人間はいるし自分の知らないところで世話になることもある。四方八方に噛み付いていては、優れた大人にはなれない」
「う……俺が、間違っていたのか……」
悔しげに、僕を見上げるペンローズに言い放つ。
「そうだ」
「くっ……」
そして歩み寄り、目線を合わせてペンローズに届く様に言う。
「だけど、やり直せる過ちだ」
「……っ」
「これから、気を付けていけばいい」
「……俺が、悪かった……です」
「あぁ、僕も大人気なかった。すまなかったな」
ペンローズの手を掴み、立たせてやる。周りの冒険者はうんうんと頷きながら温かい目でペンローズを見ていた。
「ペンローズ! ランク上がったら一緒にゴブリン退治に行こうぜ!」
「俺も付き合ってやるよ!」
「俺もだ!」
「二つ名はねーけど、俺だってそこそこやれるぜ!」
冒険者達からそんな声がペンローズに向けて発せられる。その言葉にハッと顔を上げたペンローズは周りの大人達を見回す。皆、笑顔でペンローズを見返す。段々と、ペンローズの目尻に涙が浮かび上がるのが見えてきた。
「ほら、皆もお前と冒険してくれるとさ。言うことがあるんじゃないか?」
「……うん!」
僕とダニエラはペンローズの為に道を開けてやる。袖で涙を拭いたペンローズが僕達の間を通り、冒険者達の前に立つ。そして皆の顔を一人一人見てから頭を下げた。
「皆、今まで迷惑掛けてごめんなさい! これからは俺も立派な冒険者になれるよう頑張る!」
一瞬、静かになる冒険者。その一瞬の後は割れんばかりの拍手と声援だった。これで、ペンローズは皆に愛されながら立派な冒険者になれるだろう。クソガキだったペンローズは消え、ここに立派なGランク冒険者、ペンローズ=メイヴィスが生まれた。
声援に照れるペンローズの頭にぽん、と手を乗せ、隣に立つ。
「そろそろ行くか」
「行くって、どこに?」
「どこってお前、ゴブリン討伐にだよ」
「! 行ってくれるのか!?」
「勿論だ。ほら、準備しろよ」
「分かった! ありがとう、アサギ!」
急に素直になりやがって。全く、子供というのは難しい生き物だな。と、ギルドに向かって駆け出すペンローズの後ろ姿を眺めながら、僕は一人、らしくもない笑みを浮かべるのだった。
□ □ □ □
一時的にではあるが、僕とダニエラのパーティーにペンローズを加える。そして僕がパーティーリーダーとして『ゴブリン討伐依頼』を受けた。カウンターに居たギルド員はペンローズの様子に驚いていたが、事情を知る耳の早いギルド員も何人か居たようで、此方を優しげな目で見ながら微笑んでいた。
「ペンローズのことは任せてください」
「畏まりました。ではGランクではありますが、二つ名持ちがパーティーメンバーということで依頼の受注を許可します。ステータスカードの提示を」
僕は二人から預かったステータスカードをギルド員の出したトレーに乗せる。受け取ったステータスカードを器具に挿し込み、クエスト情報を書き込んで引き抜く。それを3人分行ってから再びトレーに乗せて僕の前に置いた。それを受け取り、ステータスオープンでクエストの受注がしっかりなされていることを確認する。うん、ばっちりだ。
「これで依頼の受注は完了です。ゴブリンは町の西から出た先の森に多く居ますので、お気をつけて」
「ありがとうございます。行ってきます」
「はい、貴方の冒険に加護と運を」
このギルドでの締めの言葉を言い、礼をするギルド員から離れる。まずは作戦会議ということで3人で壁際へ行く。
「さて、これからゴブリン退治だ。奴等は雑魚だが、強かだ。油断するとやられる。分かってるな? ペンローズ」
「あぁ、この日の為に修行してきたんだ。ヘマはしないさ」
「まずは1匹だけの奴を狙う。慣れてきたら群れだ」
「分かった!」
ざっくりした作戦会議は開始1分もせずに終了した。まぁ、ゴブリンだしな……。
「一ついいか? ペンローズ、見た限り君の武器は片手剣のようだが」
ダニエラがペンローズの腰に差した片手剣を見て首を傾げる。
「少し長すぎないか?」
そうなのだ。気になっていたことだ。ペンローズの下げる片手剣は刃が他の片手剣より長かった。僕の鎧の魔剣よりも長い。
「あぁ、これは特注なんだ。俺はまだ大人より小さいからリーチを稼がなきゃいけないからな」
「なるほどな。しかし扱えるのか? 剣身が長いと振り回されるぞ」
「そこはかなり修行したさ。最初はそれこそ剣に振られていたけど、今はちゃんと扱える。安心してくれよ」
「そこまで言うなら何も言うことはないな。ま、何かあったら何とかするさ。アサギが」
「僕かよ。まぁいいけどさ」
気になることはもうないだろうか、と2人の顔を見るが何もないと首を振る。であれば出発だ。進路は西。目指すは森。目標はゴブリンだ。
「よし、行こうか」
「おー!」
気合は十分だ。その気合が空回りしないよう、僕とダニエラでフォローすればゴブリンなんて取るに足らない相手だ。
僕達は途中、屋台街に行って昼の分を買ってから西門を出た。途中、ペンローズを知るであろう冒険者達が僕達のことを見て驚いた顔をしていたが、ペンローズは何も気にしていないようで、堂々と歩いていた。これからの行動で示すつもりなのだろう。何だかんだ言って根は真面目なのかもしれない。修行も頑張っていたみたいだし、自分の力、為になることには全力で取り組むタイプなのかもな。
それなら、僕達はそういう方向で伸びるように助けてやるだけだ。まずは気配感知からかな?




