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第一話 店員、死す

初投稿です。ちまちまと更新出来たらなと思います。

 その日も僕は収入源であるアルバイトをしていた。駅前のコンビニの深夜勤務である。22時から始まる仕事内容は至って簡単。商品を持ってくるお客の相手は勿論のこと、主にやるのは掃除だ。床や棚、トイレ、その他色々な機械もだ。長く続けていると体が仕事を覚えてしまい、簡単な作業は比較的すぐに終わってしまう。


 その日もいつもと同じだった。


 深夜を過ぎた駅前は音が消える。あるのは信号の三色の光と、時々過ぎ去る少しスピードを出し過ぎた車だけだ。 僕はある程度の掃除を終えて店外の駐車場の目に見えるゴミを火ばさみで摘んで手にしたゴミ袋に入れる作業を繰り返し、ウロウロとしていた。


 店内は大丈夫かって?


 問題ない。お客さんは居ない。夜中の3時も過ぎれば本当に人は少なくなる。2時頃ならまだ新しく発売された週刊誌を立ち読みに来る人もいるけれど、今日は火曜日。それほど熱心に読む雑誌も発売されない日だ。

 ある程度のゴミを拾い、曲げていた腰をグイ、と伸ばして空を見る。ナントカの大三角っぽい位置取りの星が輝いていた。今日は晴れか…なんて太陽のない空から視線を戻し、拾い忘れがないか辺りを見回す。


 そこで視界に入ったのは電柱の影に立ち、街灯に照らされた人の姿だった。


 こっっっわ……!! え、見間違いじゃないよね……?

 ちら、と振り返りながら店内に戻る。3回目に見た時は人はいなかった。それが余計に恐怖心を加速させる。


 店内に入ると一直線にレジ横の引き戸の奥のバックヤードに潜り込んで、防犯カメラのモニターの前に座る。接続されたマウスを操作して駐車場を映すそれを全画面にして眺める。先程、僕が掃除したので綺麗なもんだ。ゴミひとつないぜ。


 しばらく眺めながらついでに休憩していると歩道の端から歩いてくる人の姿。

 目を凝らさずとも分かる。さっきの奴だ。向きからしてこれは来店コース。画面を4分割の店内も映すモードに切り替えると確かに入店する姿が映し出された。どんな奴でもお客様はお客様だ。


「いらっしゃいませー、こんばんはー」


 震える足をどうにか動かしていつもの挨拶。深夜は眠気MAXの人か深夜のお仕事をして苛ついてる人が多い。ハキハキした挨拶より緩く間延びした挨拶で刺激しないようにするのがコツだ。しかしそれが気に食わないという人もいる。が、経験上そういう人間は何をしたってブチ切れるタイプなので緩い挨拶が当社比では効果ありなのだ。

 そんな場違いなことを考えながらレジの前に立つ。例の怖いお客さんは来店からレジ直行のコンボ。こういう場合、色々あるがパターンは絞られる。探し物がある人。レジ前の商品が欲しい人。そして、


「死にたくないなら黙って言うことを聞け。レジの中、金庫の中の金を出せ」


 コンビニ強盗である。

 思考が停止する。ショートした。え? なんだって?


「聞こえないのか? 金を出せ」


 喉が詰まったように声が出ない。先程抑えた震えが足のみならず、背中、腕、手、そして脳をも侵食する。


「あ……の……、なん、え……?」

「金だ。そのレジとバックヤードから持ってこい。此奴で傷つけられたくないなら早くしろ」


 そう言われて客ではなかった男の手を見る。そこに握られていたのは大きなナイフだった。まだ拳銃とかなら現実味がなく、震えは治まってその男の肩でも叩いて馬鹿笑い出来ただろう。しかしナイフはガンガンに照らされた店内の照明を反射させて鈍く輝いていた。夢でもドッキリでもないのが如実に分かる。

 どうしようもない。こんな、逆らえるわけがない。僕は震える手でレジを開く。中にある紙幣を3種類全て掴み出し差し出した。


「バックヤードに金庫があるだろう。 それもだ」


 しかし金庫の番号は店長しか分からない。


「ば、んごうは……店長、しか……わから、なくて……」

「チッ……どけ」


 僕を押しのける強盗。押された勢いで背後の煙草の棚にぶつかり、新品が床に散らばった。

 強盗はバックヤードへと侵入し、乱暴にその辺の引き戸を開けたり金庫の周りのファイルや何やかんやを床にぶち撒けながら何かを探す。多分、番号が書いてある書類なんかを探してるのだろう。それをレジの前で眺めながら立ち尽くす僕と煙草達。

 あまり時間を掛けられないのだろう。僕を見る強盗はその目に殺意めいたものを宿らせて向かってくる。怖い、怖い、怖い!


「クソが……もういい。お前はもう用済みだ。死ね」


 瞬間、何が起こったのか分からなかった。最初に気付いたそれは熱だった。腹が、焼けるように熱い。視界は白とも、黒とも呼べない色のない世界から反転、目の前に立つ強盗の顔を見る。強い殺意の篭った目と下卑た笑い。ハッとしてゆっくり視線を下げる。


 熱源には先程のナイフが突き刺さっていた。


「あ……、ぐ、ぁ……うそ……だろ……」

「嘘さ。顔を見たお前は死ね」


 血に染まる制服。再び顔を上げて見た強盗は笑みを引っ込め、鋭い前蹴りを放つ。


「ぎゃぁあっ!!」


 反射的に声が出る。この野郎……ナイフの柄を蹴りやがった……。

 為す術もなく床に倒れる。その際に引っ掛けた右腕が更に煙草をぶち撒ける。


「チッ……邪魔だな」


 強盗は僕を床のように踏んでレジ前へ逃げる。それを追う力も無く、僕は煙草に埋もれながらゆっくりと腕を動かし、ナイフの柄に触れる。そっとお腹まで下ろすが、先程見たヒルトと呼ばれるガード部分の感触がない。どうやら腹にめり込んでるみたいだ。


 こりゃもう……助からねぇな……。

 諦めに似た感情が身体を支配する。そうなればもう終わりだ。何もする気が起きなくなる。

 抵抗を諦めた瞼がゆっくりと下がり、視界は黒一色になる。




 あぁ……こんな、こんな最期なのか……高い金出して通った専門学校で頑張るも碌な仕事に就けず、深夜のバイト生活。昼間は寝て、奨学金とか支払いながら過ごす日々。情けねぇよなぁ……もっと、こう……色んなことが出来ると思ってたのに……あんな事やこんな事、挙げればキリがない。


 もっと、良い人生になると思ってた……。


 だんだんと意識が曖昧になっていく。手足の感覚やあんなに熱かった熱も感じなくなっていった。


 そんな、死の間際、最後に、声が聞こえた。


『召喚対象の希望を確認。ユニークスキル《器用貧乏》を付与』


 なんだって……? 今誰かすっごく失礼な事言わなかった…?

 あぁ……もう、駄目だ……意識が……


 誰か……

評価・ブクマ・感想、楽しみにしています。よろしくお願いします。よろしくお願いします

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