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「白雪、また振ったって本当?」
「え?あぁ、経理課の彼の事?」
「そうよ、あのイケメン君!もったいない…結構狙ってる子多いのに」
悔しそうに給湯室の弱そうな壁を叩く彼女は私の同僚の梨子
何度も叩いてるからそのうち壊れるだろう
この顔と行動からして彼女も狙ってた一人だと推測する
「だって…興味無いし、あんな人初めて話した」
そう、好きとか嫌い以前に興味が無い
しかも初めて話した人と付き合う事が出来るのならばぜいぜい近所の買い物くらいだ
勿論、距離感はキープするけど
「…興味無いって…アンタの興味無いって深すぎて怖いわ…まだ夢みたいな事言ってる?」
梨子は寒いのか震えるように両肘を抱えて私を見た
でた、この光景は大学の時から知ってる
「夢って…ただ王子様との出逢いを待ってるの!」
「……」
「いつも通り黙るなら聞かないでよ」
想像通りの無言の態度に給湯室から出て自分の持ち場の秘書課に戻る
私は小石川白雪
今年で社会人二年目のOLだ
梨子とは大学からの付き合いで仲良く就職先も一緒になった
結構大きな出版会社に就職出来て両親は喜んでる
『これで、素敵な男性と恋に落ちたら素敵ね、お父さん』
『あぁ。白雪が早く現実の異性に興味を持ってくれると有り難いなぁ』
その時の両親の言葉は就職出来た娘に掛ける言葉じゃない
目が訴えていたから尚更だ
早く男と付き合え!!…と。
母親は恋を応援するのは解るけど、父親まで早く男を作れって…普通は、『お前を嫁には行かせんぞ!』って流れになるのに……
そりゃ心配はされるのは仕方ない、私は今まで現実の男性と付き合った事が無い
22年間生きて来て1度も無い
でも別に興味が無いからどうでも良い
昨今の世の中20を過ぎても恋愛経験が無い人なんてわんさかいるもん。
「白雪、どう考えても人生損してるよ?アンタ性格破綻してるけど見た目は悪く無いんだから……あんなに合コンに連れてったのに…」
「なんか引っ掛かるけど……合コンなんてあんなのただの狼じゃない、狼は赤ずきんちゃんの中だけ許される設定なの」
「…………」
同じ秘書課の梨子は恋に生きてる女だ
女の子と言う表現じゃなく『女』だ!
聞けば初彼は中学生で、今では付き合った数は両手では足りない
合コンの幹事も積極的にやってて、たまに人数あわせで参加されられた
性格破綻でも、それなりに友達は大切にしてたので。
「それより、今日は彼氏と会うんでしょ?」
「うん……まぁ、そうなんだけど」