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96『西方三賢者』


――その時、本能寺は真っ赤に染まっていた……



えっ、いきなり「本能寺の変?」と思ったあなた!

まだですので、ご安心を!


その日、本能寺の床は、赤いビロードの絨毯で敷き詰められていた。


――その赤い絨毯の上で西洋椅子に座りながら、

長身で立派な髭を蓄えた、いかにも西洋貴族と言う感じの男――

スペイン・バスク地方出身のアレシャンドロ・ヴァリニャーノは、

贈り物として送った、貴族が座るビロードで装調された豪華な西洋椅子に座る者を見て――微笑んだ。


「ヴァリニャーノといったな。何故余に会いに来た」

信長は、もうお気に入りになったその西洋椅子に座り、上機嫌。

「私は、全世界の宣教師を指示・監督するために世界を巡察する、イエズス会の《巡察師》を務めております。

ですので、その土地の宣教師が布教しやすくなるよう、その土地の最高権力者の方にいつも挨拶に参らせて頂いております」

「成る程、それで余に会いに来たのか」

「いつも我が宣教師たちを保護していただき、ありがとうございます」

「うむ、余は感動しているのである。遠く異国の地から、幾千幾万の荒波を乗り越えて、己の信じる教えを我が国まで布教しにくるという、その情熱に……余は今でも感動を覚えるのであるぞ」

そう言って信長は、ヴァリニャーノを少し後方で挟む形で両側の西洋椅子に座る二人を見て、少し微笑んだ。


信長の視線を感じ会釈する二人の内一人は、

ルイス・フロイス。織田信長と初めて会った宣教師である。

ポルトガル人である。


もう一人は、

オルガンチーノ。京都のキリスト教の布教長を務めているイタリア人である。

信長とは、京都のキリスト教会である南蛮寺を信長に建設してもらって以来の仲である。

またこのオルガンチーノ、日本の民衆にも実は人気があって、日本人信者からは愛敬を込めて、「宇留岸(うるがん)様」と呼ばれている。(『南蛮寺興廃記』)


「余は嬉しく思うぞ、三人とも余に会うために遥か西方の地――

ヨウロパから余に会いに来たのであるからな

この狭い日本しか知らぬ余にとっては、お主ら宣教師たちは――

余の師匠。いや、余からみれば世界の多くを知るお主らは――

さしずめ賢者様といったところであるか」

信長は、西洋椅子のビロードの装調を手でさすりながら、まだ上機嫌でリップサービス?したのであった。


この日、イエズス会最高幹部の一人であるヴァリニャーノと織田信長が《首脳会談》したことは、そのヴァリニャーノの著した『日本巡察記』に記してある。西洋椅子を信長に贈ったこともである。


「それにしても、ヴァリニャーノよ!

お主の後ろに立つ、体が黒い大男はなんであるか」

信長の関心はついに、椅子から移った瞬間である。


――この時、ヴァリニャーノのお付き奴隷として来ていた黒人青年を織田信長が気に入り、会談の後ヴァリニャーノから譲ってもらったのであった。


ヴァリニャーノからすれば、奴隷一人でこの国の最高権力者の歓心を買えるならという感じであったと思います。


――まさか、信長がこの譲り受けた黒人奴隷を、奴隷ではなく――

家臣として登用したのには、さぞ驚いたと思うが。


「……あの三人は、……」

――織田信長は、安土城天主最上階から、ずっと彗星を眺めなから――

その一年前の出来事を思い出していた。


……遥か西方から……


……余に会いに来た、賢者である……か。


まだ長く尾を引く彗星を眺めながら――

あの時の会談の自らの言葉を呟いて……“その者”はふっと笑った。


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