86『さだまらぬ世界』
※第五章は、最終章である『新説本能寺の変』への導入部として――
小説的表現になっております!
天正十年(1582)年一月二十四日、安土城は真っ赤に炎上していた。
……いや、空が燃えているかの様に赤く染まっていた。
そうこれから“あの者”が流す血潮の様に……。
この日の空模様は――
《夜の十時に、東方から空が非常に明るくなり、
安土城の上方では恐ろしく赤く染まり、朝方までそれが続いた》
とフロイスの『日本史』にある。
――その宣教師ルイス・フロイスは、夜遅いにもかかわらず織田信長に呼び出されていた。
(……まさか信長は、ついに我がキリスト教の信者になることを決意したのか?
……それとも、この異常に思える赤い空について、西洋学問の見地から、話を聞きたくなったのか?)
宣教師は、キリスト教の教えを伝えるだけてなく、西洋の最新の学問――
科学・天文学・建築術・音楽などのありとあらゆる最新の情報を信長に伝えた。
これは、キリスト教徒に成った大名大友宗麟をはじめとするこの国の権力者たちに、この西洋の学問が素晴らしい、また正しい学問と感じさせることによって信頼を得て、
西洋人が信仰している宗教もまた素晴らしいそして正しいと感じてもらい、大名の名でキリスト教を普及させる狙いがあった。
そのために信長に地球儀を見せ、地球か丸いことを伝えたのもフロイスである。
――夜遅いにもかかわらず、空が夕焼けのように赤く染まっている空を織田信長は、
天主第六階『黄金の間』の襖を開け――
朱色の欄干に腰をかけてずっと眺めている。
そして、空を眺めながら信長は、フロイスに尋ねた――
「のう、フロイスよ」
「はい、信長様」
「イエスがキリストと成りて、世界を救ったと言ったであるな」
「はい、そうです」
「ならば、この日本はなぜ戦乱が続いておるのか?」
「それは、この国の上から下までキリスト教徒になってないからです」
「戯れ言を申すな。余がキリスト教徒になれば戦乱がおわると?」
「その可能性は、かなり高くなると」
「ふふ……戯れ言であるな、フロイスよ。
余はお主ら伴天連(宣教師)以外にも、イスパニアやポルトガルやら南蛮の国々の商人の話を聞いて知っているぞ!
お前ら南蛮の国々はみなキリスト教国とのことだが、
南蛮の地ヨウロパどころか世界中で覇権争いをして、戦っているとな」
「それは……」
フロイスは困惑しながら、信長の次にくる言葉に備えた――




