83『天皇補完計画』
○国譲り伝説
安土城天主は、仏教世界の欲界の六欲天タワーをモチーフに参考・設計理念にして、織田信長が“総ての神々を超える”ために建造したものであると拙者は考えるのである。
六欲天タワーのように、天主各階に、各宗教の神が宿り、しかも仏陀の間のある階の上階である第六階に、信長の居住する黄金の部屋がある。しかも天井には天人・天女が描かれている。
これはまるで、六欲天タワー最上階の快楽世界から第六天魔王が空を見上げると、上位の天人たちが住む色界が見えるという構図そのものではないか。
それにしてもなぜここまで信長が第六天魔王に、こうまでこだわったのかと思いの方も多いと思います。
民衆のヒーローになるだけなら、別に第六天魔王じゃなくてもと。
しかし実は織田信長が第六天魔王と名乗るのには、もう一つ重要な理由があったのである。
実は第六天魔王には、『国譲り』伝説というのがあります。
つまり、この日本の支配権を天皇家に譲ったという伝説です。
「はぁ…そんな伝説聞いたことない」と思う方も多いと思いますが、あの南北朝の戦いを描いた『太平記』や『沙石集』にも登場する当時においては有名な伝説なのです。
もともとは世界帝国モンゴル襲来と撃退という元寇以来――
日本は神国思想が台頭していく中で生まれた伝説です。
それは日本の開祖神である天照大御神やイザナギの命が、
第六天魔王との契約によって仏教を敵視することを条件に、子々孫々日本列島を支配することを許された結果――
日本はその神の子孫である天皇家が統治する国となったという伝説です。
つまりこの伝説にのっとり織田信長が第六天魔王を自称すれば、
天皇にこの国の支配権を譲った国譲りの授与者という、天皇よりも上位の者の立場に成れるのです。
というというと、そんなめんどくさいことしんでも、天皇を超えたいのなら――
天皇を倒し天皇制を破壊すれば、天皇を超えることができるし、織田信長の強大な軍事力なら十分可能だと感じる方も多いと思います。
しかし、信長はこの国の破壊や混乱を望んではいないのです。
乱世が続くこの世界において、神話から続く伝統的権威まで喪失すれば、それこそこの国は大混乱になります。
織田信長は、苦しむ民衆を救うために早急な乱世の終結を目指したのであって、この国を混沌にしてでも自らの栄誉栄華を求める気持ちなど、さらさらないのです。
そうだからこそ、天皇を倒し天皇制度を破壊するという強行手段などせずとも、より平和的に天皇を超えることが伝説上は可能となる――第六天魔王になることを織田信長は選択したのです。
そして、天皇の持つこの国の創世からの霊的・神的権威を自らの城に行幸させることで天皇制の守護者として上回り、そして天皇制には足らない権力という平和を達成するための軍事力を、信長が補完することで新たな天下の創造を――
織田信長は目指したのです。
そういうなればこれは――
信長による《天皇制補完計画》なのです。
つまり戦争根絶を可能とする強大な権力と、
この国の形である天皇制を維持しつつ、乱世において困窮していた天皇のその権威を安土城で守護することで補完し、また天皇の守護者であることで、天皇よりもさらに上回る強大な権威を得ることで、
信長の夢である――
《天下布武》をついに達成することが、実現可能になったのです!




