68『X'mas(クリスマス)』
もちろん、信長が総見寺に神を集めたことを、素晴らしいと感じてない者もいる。
『イエズス会日本年報』でフロイスはこう述べている。
領内の諸国に布告し、市町村においては、男女貴賎悉く
彼の生まれた五月の日に、かの寺院に来って、
同所に納めた己の神体を拝む事を命じた。
諸国より集まった人数は非常に多く、ほとんど信ぜられざるものであった。
信長がかくの如く驕慢となり、
世界の創造主また贖主である、デウスのみに帰すべきものを奪わんとしたため、
デウスは、かくの如く大衆の集まるを見て得たる歓喜を長く享楽させ給わず、
安土山においてこの祭りを行った後、十九日を経て、
その体は塵となり灰となって地に帰し、
その霊魂は地獄に葬られたことはつぎに述ぶるであろう。
――ということで最後の霊魂は地獄に……とか、もう悪人としか感じられない書き方ですね。
キリスト教は唯一絶対神なので、各宗派の偶像を、つまり各宗派の神を拝むためにたくさん集める自体ありえないし、イエス以外の人間が神になることもありえないので、天罰が下ったという感じです。
ただこのフロイスの文章、記録魔なので、ありがたいことに――
かなり興味深い内容が記してあります。
それは二つありますが――
まず、織田信長の誕生月が、五月ということ。
そして、その五月の誕生日から、本能寺の変が起きた日まで十九日とのことから、信長の誕生日が、特定できるのです。
計算の仕方で諸説ありますが、
信長の誕生日は――
『五月十一日』が有力といわれています。
もう一つ興味深い内容なのは、
織田信長が、総見寺に参拝することを命じたら、
『諸国より集まった人数は非常に多く、ほとんど信ぜられざるものであった。』
『かくの如く大衆の集まるを見て得たる歓喜を長く享楽させ給わず』
なんと文章中二ヶ所も、総見寺に諸国からの大衆が集まったことが特筆されていることだ。
そうフロイスは、現在“反信長”なので、たくさん民衆が集まった事実があったとしても、悪人信長を貶めるために……信長が命じても誰も集まらなかった……等と嘘も書けるのに、二回も大衆が集まったと書いてあることからすると――
本当に総見寺に多くの人々が参拝のために集まっていたことが推察できる。
――しかも、この日は、信長の誕生日『五月十一日』である。
もう読者諸兄の皆さんもお気付きの通り、
そう、織田信長は神となり、
そう、誕生日に参詣せよとは――
もうこれは――
――『X'mas』ではないか!?
皆さんご存知の通り、クリスマスは、神の子イエスがこの世に生まれた誕生日を毎年祝う――キリスト教の誕生祭ですから。
 




