279『――そして伝説へ』〈織田信長〉2~父信秀危篤~
「南無阿弥陀仏」「南無阿弥陀仏」「南無阿弥陀仏」……
信長が万松寺につくと、
中から念仏を唱える声が、門外まで響き渡っているではないか……
南無阿弥陀仏
まっ、まさか……もう、親父は……
南無阿弥陀仏
いや、さっき清洲の城番が……
沢山の僧侶達が、親父の為に病気治癒の祈祷をしてるといっておった……はず……
南無阿弥陀仏
……バーン!
心配な気持ちを振り払うように、勢いよく万松寺本堂の扉をあける信長。
目の前には、三百人の僧侶達が通路を挟んで両側に分かれ、南無阿弥陀仏とお経を唱和しててる。
「信長様、その格好は……」
信長の守役・平手政秀が慌て声をかける。
「平爺か、急いで来たものでな」
その信長の姿は『信長公記』によると――
『その時の信長公のお身なりは、長柄の太刀、脇差しを藁の縄で巻き、髪は茶筅髷にし、袴もお召しにならず』とある。
そう、ザビエルと京都で会ってから、急ぎ清洲を目指した信長は、そのまま着替える間もなく万松寺に来たので……
「「なんと袴もつけずくるとは……この、うつけめ!」」
堂内に響き渡る突然の大声――
その声の主は土田御前であった。
次回、信長の生母・土田御前の怒りが爆発する!




