275『救いたい命』
……その“獣のような姿”をしている織田信長青年が、
真剣な目差しでザビエルを見つめ――
「俺の父親を救って欲しいのである」と懇願した。
「……父上様が?」
「……流行りの病でな、もうずっと床に伏したままなのである。
仏教僧侶が有り難いお経をしてくれているのであるが、
一向に回復せん」
「それは当たり前でしょう。
仏教というのは我が主、つまりこの世界を造りし造物主の教えではありませんから、何の影響力もございません」
「……なるほど、ではお主が尾張の父上の所にいって助けてくれぬか?」
「そうしたいのはやまやまですが、実は私は風邪をひいて……」
実際ザビエルは、荒廃して瓦礫の間を寒風吹きすさぶ京都の町に一週間もいたので体長不良になっていた。それに――
(これは良い話の流れです。
サタンに入信の儀式である〈秘跡〉パプテスマを授ける口実に、もっていけます)
「……だから、そんな汚いみすぼらしい服着とるからである!
……しかも頭もハゲて寒そうに」
「これはハゲではありません!
――信仰の証として自ら剃ったのです!」
ザビエルは頭頂部の剃り上がったところを手で撫でなから、
「――わかりました、それではこうしましょう!
あなたが我が教会に入信して、神のご加護を受け――
私に代わってあなたがお父様を助けるのです」
「……助ける?どうやってである?」
「我が教会は邪教とは違うので、一度死した者、死の病にて伏せている者を――
いきなり生き返らせたり、いきなり病が治癒することができると確約することは申しません。
それができるのは我が神イエス様と、特別に神から認められた《聖人》だけなのですから」
「……」その話を聞いている信長は――
軽々しく「父上様は我らがお経を唱えれば回復間違いなし」と尾張での有り難いお経を詠んでいるだけの300人の仏僧を思い出していた。
(このカッパ坊主、尾張のいい加減な仏僧達とは違うであるな)
「――なのでまず先に伝えておきますが、我が教会の信者に成ろうとも、それで確実に今、救われる訳ではありません。
――何故なら、聖書には、一度皆が死した後に――
キリスト教信者にのみ、永遠の生命を得て復活することができる、つまり《救われる》と記されているからなのです」
「よし解った!
こんなやんちゃな俺をいつも信じてくれる親父には――
凄く感謝しておる。
もし今の病て亡くなったとしても、親父が復活できるのなら――」
信長は、真実に触れて目が生き生きと輝かせながら――
「――俺は、キリスト教の信者となろう!」
次回、ついに『信長・ザビエル邂逅編』最終回。
そして信長は、イエスに向けてその第一歩を期すことになる!