271『獣のような者』
「なんだ、この獣のような……」
フランシスコ・ザビエルは、目の前に立っている“その者”に驚愕している。
「なんだ……この獣のような……惨憺たる格好は……」
ザビエルはこの国のチョンマゲの風習を当然もう知っていたが……
通常のチョンマゲが寝た状態“もとどり”では無く――
髷が天を衝くように、上を向く――《茶筅髷》。
しかもそれを巻きとめているのは派手な黄色いひも。
上着は、通常入浴時に着る湯帷子。――しかもその袖を外し、ノースリーブにしている。
腕には極太の麻縄を巻き付け、ブレスレットといったところだ。
腰の帯には猿遣いの様に火打ち袋やヒョウタンやら、七、八をジャラジャラ付け、刀の大小にはそれぞれ金の延べ板を巻き付けてある。
これだけでも“ヤバイ”のに、(どっちの意味で??)
極め付けは――
なんと左側半分がトラ柄、右側半分がヒョウ柄の袴という――
大阪のオバチャンもびっくりの《獣柄》のファッションなのである!
なんだこのさたん……
いやもとい、……
このさんたんたる着こなしは……
そう……この常人ならざる、野獣のごとき姿……
そしてあの圧倒的プレッシャー……
だからザビエルが、彼のその慘憺たる格好にビックリして、
“サタン”の成り変わりだと感じても無理もないというものだった。
その青年のあまりのファッションセンスのヒドさ?に、ザビエルは思わず呟いた……
「う、うつけ!
……そう、馬鹿殿だ!」
――そのザビエルの“呟き”を、
その青年は聞き逃さなかった――
「おいお前!この俺様に一番いってはならぬ言葉を言ったな~!
誰がうつけ、誰が馬鹿殿であるか!」
その者は一気に額に青筋が走り――激怒してザビエルを蹴り飛ばした!
よろめき倒れながら青年の顔を見てザビエルは思った。(や、やっぱり、こいつはサタンだ……)
それを程の……サタンつまり《魔王》の様な怒りの顔だったのだ。
その魔王が、蹴られ仰向けに倒れているザビエルの顔を覗き込んで言った――
「よく人の事言えるな!
真冬にそんなボロい格好で震えておって、寒いのは当然でろう、よってそちのが馬鹿である!」
「そんな……」
これは信仰心から着ているものなのに……あなたと一緒にされては……と彼は思った。
「馬鹿という者が馬鹿なのである、親父がそういっておったであるぞ!
今度この織田信長様を馬鹿にしたら次は無いと思え!
この、カッパ坊主め!」その目は明らかに、頭頂部を見ていた――
※青年信長の姿は『信長公記』参考
次回『カッパ坊主ザビエルVs.大うつけ信長』
乞う、ご期待!




