243『かりそめの教会』
「……の、信長様、さっきの話は本当ですか?
――《ローマ教会》
の様なものを」
ヴァリニャーノが帰った後、もう我慢できないといった勢いで――
黒人家臣彌介は信長に尋ねる。
「……ではない」
「えっ……でも……キリスト教を『国教』にするのですよね?」
彌介はその言葉をかなり落ち着かずに言った。
そう何故なら信長をある意味“神”のように尊敬している彌介であったが――
約十年間自らと共にあったキリスト教には当然今も共感しており、信者である。
信長は彌介の不安に対し――ゆっくりと首を振った。
「いや、キリスト教を国教にするつもりなどもうとうない。
ヴァリニャーノに見せたのは――“かりそめ”の教会である」
「――“かりそめ”ですか?
かりそめとは何ですか?」
「世の中に普遍なものなどない、ということである」
「?……えっ、どういう意味なのか……
まさか、キリスト教会では無いどころか、この総見寺か普遍ではないと……」
彌介は疑問符だらけで、
「で、では、さっきヴァリニャーノ様に教会と言ったのは――?」
「――時間を稼ぐためである」
「――時間を稼ぐ?」
彌介はもちろん何のことかピンとこない。
――さて次回、何に対して信長は“時間”を稼ぐのでしょうか?
この答えこそが、正に《信長の時代》を理解する上で、最重要なことなのである。
そして、信長がキリストになる!という『信長による福音書』計画を決断した、大きな理由なのであった。




