242『信長による日本キリスト教【国教化】計画』
日本キリスト教の“総本山”を信長は、しかもここ天下の主府である安土城内に造ると言っているのである。
――そう、だから日本をキリスト教国にしたいヴァリニャーノが驚かない筈が無かったのだ。
「しかし、そのようなこといきなり…」
「であるな、ちょっとこれを見てほしい」
信長に促され、総見寺の本堂に入ってみるとそこには――
たくさんの異教の偶像が並んでいるのだが……
「あっ、イエス様!」
床に異教の偶像たちが並ぶその上方には、十字架にかけられしキリスト像が大きく壁に掛けられていた。
本堂の配置は、『イエズス会日本年報』によると床に仏像、天上近くにはロフト上の棚に“盆山”と信長が称する、総見寺の御神体が置かれてあるのだが、
どう考えても、壁に大きく掛けられたキリスト像が一番目立つではないか!
「で、ではキリスト教を真に《国教》に――!!」
普段物静かな話口のヴァリニャーノが驚喜し、声が上ずる!
「いずれはな。まだ朝廷の問題もあるし、民達もいきなり安土城内に教会を建てたと言えば驚くのは必至であるから、
天下統一が実現してからであるな――
《教会》と名乗るのは。
このことをしっかりお主の教会長と、そしてローマ教皇に伝えるであるぞ!」
「は、はい、ありがとうございます。教会長いや、
ローマ教皇猊下に代わって天下統一の早期実現をお祈り申し上げます」
ヴァリニャーノは恭しく片膝をつき、アーメンと十字をきる。
やはり信長“様”は、偉大なお方である。
今までキリスト教に興味を示しつつ、尚且つこんなに我が教会を保護しながら、それでも入信しなかったのは――
一重に国家統一の為には今は立場を鮮明にしない方が良いと判断されたからだったのですね。
こうなれば、信長様が天下統一すれば、その時こそ邪教徒を殲滅する時です!
――こうして、ヴァリニャーノは日本での布教が期待以上になっていくのを確かに感じながら――安土を発ったのであった。
そしてこの時信長から贈られ狩野永徳作の《安土城屏風》を持ち、
キリシタン大名の子息・伊藤マンショら三人を連れてローマに凱旋したのが――
かの有名な《天正遣欧少年使節団》なのである。
そう、ヴァリニャーノはこの日本が信長によってキリスト教国になる事を信じて疑わなかった。だから彼ら少年たちを次代のキリスト教国日本のリーダーに育てるつもりだったのだ。
そう、だから信長があんなことになろうとは……
いや、信長があのようなことを考えていたとは……
この時のヴァリニャーノには、思いもつかないことであった――