241『サン・ピエトロ大聖堂』
ヴァリニャーノは不満を顔に少し表して続ける。
「しかし、なぜビジタドール(巡察師)である私に、
邪教……あっいえ、他の宗派の建築物を、しかも帰国準備で忙しい時に見せようとなさるのです……」
「はは、そう早まるなヴァリニャーノよ。総見寺に『寺』と仏教寺院を表す文字がついておるのは――
そう“称する”方が今は都合が良いからである。
――よってここは寺院では無い」
「では、この建物は何なのでしょうか……?」
「――《教会》である」
「きょっ……教会!?」ヴァリニャーノは信長の信じられない言葉に、一瞬言葉を失った。
そのヴァリニャーノの反応を確かめるように大きく頷いた後、信長は更にシンジラ~レナイ言葉を放った――
「ここを《ローマ総本山》のような――教会にする」
「……えっ?!」
ようやく信長の言葉を理解したヴァリニャーノはまたも……絶句。
――そう、この天正九年(1581)当時正に建築真っ最中で、世界に威容を現し始め――
現在はヴァチカン市国にある――ローマ教皇が鎮座するキリスト教カトリックの総本山――
初代教皇である使徒聖ぺトロの墓の上に建つ、
《サンピエトロ(聖ぺトロ)大聖堂》
のような教会をこの日本に――




