232『神業(かみわざ)』
「このままでは後継者が楽をしてしまう」
そう考えた信長は、自らを継ぐ者は、
つまり泰平の世を創出させるものは――
自覚と覚悟が必要であると考え、その為に使徒たちに試練を課したのである。
だから、信長は天下統一の確信がついたあの日――
そう明智光秀を除く重臣・つまり使徒たちが日本各地の敵勢力との隣接地に展開しているという計画準備が整ったあの日――
天正十年六月二日に決行させたのである。
そう試練の中で一番先に抜け出たのが、
『中国大返し』という常人では成しえない奇跡的・神がかり的な事を成し遂げた、農民出身の羽柴秀吉、後の太閤秀吉なのであった。
《神速》であった主君信長を受け継ぐ、秀吉のこの中国大返しという快挙は、この神速という神業は――
まさに彼を『豊国大明神』という神へと押し上げたのであった。
そして、もう一人、信長の同盟者であり義弟である徳川家康もそうである。
信長が亡くなったことで、二度も信長に攻められ恨み心頭の伊賀を少数の供だけで突破しなければならないという事態に陥った。
家康自らが人生最大の危機と述べたこの危機は、後に『神君伊賀越え』と呼ばれた神業は――
まさに彼を『東照大権現』という神へと押し上げたのであった。
「……まだたりぬ」しかし、
信長にはまだそれだけでは、『福音書計画』を達成するには足りない事を、知っていた。
何故ならイエスの昇天が教団の結成を導き、確かに世界宗教にまで成った。
それは凄いことであるが、だからといって世界は戦乱に満ち溢れ……
平和ではないからである。
そして、その理由も聖書を知る信長は理解していた。
真に平和な世を到来させるためにはあることが必要であると――
そう、その計画に必要なこと、それは……
《ハルマゲドン》であった。