ホワイトデー
短いつもりが
ホムラ:おはよう、早いな
ペテロ:おはよう、猫に起こされた
ホムラ:下僕の朝は早い
ペテロ:時間合わせに一度ログアウトしてくるよ
ホムラ:はいはい、いってらしゃい
VRゲームは適度な休憩時間をとらせれる。ログインして一定時間が過ぎるとアラームが鳴って、強制的に落とされるため、時間合わせは大切だ。クエスト中に一人だけ落とされてはたまらない。
クランハウスの共有倉庫にみんなが使いそうなものを詰め込み、レオが詰め込んでくれた魔物の魔石を引き出す。【魔物替え】のレベルはのんびりあげよう。
さて、ペテロを待つ間何をしようか。
……今年も『雑貨屋』にバレンタインデーのチョコを大量にもらっている。お返しにホワイトデーの菓子を買い物客に配るか。
何にしよう? アーモンドの粉は貰い物があったな、マカロンでも焼こうか。余分につくって『雑貨屋』でも食べられるようにしたいし、味覚が弱いリデルのために色とりどりなものの方がいい。
卵白・グラニュー糖・アーモンドプードル。色はやはり白とピンクとかだろうか?
白が若干面倒だな、アーモンドプードルは皮なしの白いものだが、焼き加減が――『異世界』なら平気か。
フレンチメレンゲかイタリアンメレンゲか。配ることを考えたらイタリアンメレンゲだろうな。滑らかで光沢があり、ちょっと頑丈だ。
ピンクは生地にルビーベリーを。白にはガナッシュ、ピンクには――まて、甘いものと甘さ控えめなものが必要だな? だったら色でわかるようにしておこう。
メニュー欄で済ませず、実際作る派だが時短になるスキルなどは遠慮なく使っている。いくつか配合と焼き加減を試して、良さそうなのをレシピに登録。
「ただいま」
「おかえり」
毒草園の個人ハウスでログインしたのか、ペテロが玄関からクランハウスに入ってきた。
「何作ってるの?」
「ホワイトデーだし、『雑貨屋』で何か買った客に菓子を配ろうかと思ってな」
覗き込んでくるペテロにマカロンを見せる。
「食うか?」
「もちろん」
「こっちからこっちが甘い方、こっちが甘さ控えめ」
「はい、はい。ピンクの見分けはクリームだけ? 事故りそうだけど」
そう言いながらマカロンを摘んで口に運ぶペテロ。
人が選ぶのを事故る前に、私が事故って甘い方も甘さ控えめも同じ色に作ってしまったのである。白用に摘んだルビーベリーが大量にあって、そろそろ新しく生る時期なんで、使い切りたかったんですよ! 片方もうちょっと薄いピンクにすればよかった……!
「うん、酸っぱさがちょうどいい。ルビーベリー?」
「正解」
甘くない方は1つ及第点のようだ。
「グッモーニング! 何作ってるの? ちょうどいいから朝ごはんちょうだい」
台所でゴソゴソやっていたらお茶漬がログインしてきた。
「マカロン。朝飯には向かないぞ、ちゃんと作るから待て。先にちょっと大量生産仕込む」
「大量生産? もしかして『雑貨屋』で配る?」
お茶漬が聞いてくる。
「そのつもりだが」
「悪いことは言わないから、マカロンはやめといた方がいい」
渋い顔をして言うお茶漬。
「何故?」
「菓子言葉が『あなたは特別な存在』」
菓子言葉。
「あれか、ホワイトデーのお返しにクッキーは義理だとか、マシュマロはやめろとか、何か騒いでいる周囲がいた記憶があるが、それか?」
「そそ。はたから見て不特定多数に適当に配ってるの丸わかりでも、思い込むのは思い込むのよ。回避できるものは回避!」
お茶漬がきっぱりと言い切る。
「ああ……。『私だけがアナタの特別な存在』」
そう言ってマカロンをもう一つ口に放り込むペテロ。
「さすが粘着絡まれマスターは用心深い」
過去のゲームで何かに絡まれていたのはお茶漬がダントツ――途中から回避し始めて聞かなくなったが。なお、レオも絡まれていたが、本人が気づかないパターンで、むしろ巻き込まれた周りが困った。
「去年は一昨年のバレンタインデーアイテム配ってなかったっけ?」
「うむ。だが今はサーバー満員だし、新規がおらんのでは?」
バレンタインに『雑貨屋』がもらう贈り物ではダントツでバレンタインイベントのアイテムが多いため、在庫がたくさんある。
アイテムはほぼ無限に持てるのをいいことに、整理もせず突っ込んだままだ。イベント「限定アイテム」かと思うと、つい。
「『雑貨屋』からってことに意義があるのよ」
うんうんと頷きながら言うお茶漬。
「そうか? まあ、確かにカル、ラピスやノエルたちにバレンタインアイテムを渡されたら嬉しいかもしれん。そうしようか」
『雑貨屋』の店員さんは目の保養だ。
「過去イベントのアイテム配布、ますますNPC説が捗りますな」
笑いながらマカロンをまたひとつ口にするペテロ。
大量生産は中止となった。
◇ ◆ ◇
「お疲れ様」
お茶漬の言う通り、バレンタインアイテム目当ての客で『雑貨屋』は混雑した。いや、混雑は元々なのだが、何か客の気迫がこう……。
私は何もしていないので、あれだが、店頭に立っていたみんなは気疲れしたことだろう。
「バレンタインデーほどじゃねぇが、今回もすごいな」
ガラハドが贈り物の箱を見て言う。
「神殿に寄付するにしても、【鑑定】を済ませてからのほうがいいでしょう。妙なものが仕込まれていても困ります」
カルが言う。
甘いものも高そうなアイテムもあるようだが、自分で食べるとか使うとかの選択肢はない模様。
「私の分もあるなら、それも頼む」
私もカルに倣う。
悪意のないお呪いによる異物混入とか、お茶漬とペテロの二人がかりで散々脅されてきたので……。送ってくれた人よ、すまん、すまん。
「ランスロット様もすごいけど、ホムラがダントツよね。あまり店に顔を出さない私たちにまであるわ」
「あまり接点がないのだが……」
カミラとイーグルが少し呆れたような戸惑ったような声。
「いつもより『属性石』の買取も多かったですよ。とりあえず『火の属性石』は酒屋に出しておきます」
レーノが言う。
「ありがとう、頼む。さてご飯にしようか」
本日はホワイトデーということで、コース料理風に。白身魚のカルパッチョ、タコのフリット、生ハム、サラミ、カポナータ、野菜――サラダと前菜代わりの皿。蕪のポタージュ、メインはマッシュポテトの上に厚みのある肉。
私とお子様、レーノは炭酸水、他は赤ワイン。
「はー! 肉うめぇ! 焼き加減最高!」
ガラハドが嬉しそうに言う。
肉は炭火で燻すようなつもりで焼いた。柔らかいが厚みがあり、肉の主張がしっかりあるのでガラハド好みだろう。ラピスとノエルの分は、少し薄く切ったが、獣人だし厚いままのほうが良かったかもしれない。
デザートはバウムクーヘンの焦キャラメル掛けを用意した。
「どうぞ。あとマカロンがあるが食うか? 試作だが」
試作のマカロンはクランハウスでだいぶ減った。
「試作ですか?」
カルが皿を受け取りながら聞いてくる。
「『雑貨屋』の客に配ろうとしたら、友人に止められた。菓子に『あなたは特別な存在』という意味があるそうだ」
「それはご友人に感謝を」
笑顔のカル。
若干圧が。
「潰しても潰しても湧いて出るよな」
忌々しげなガラハド。
「めげないわよね」
カミラ。
「節度を守っていただきたいですね」
レーノ。
「大部分は無害なんだがな」
イーグル。
「ラピス、邪魔は排除する!」
「客ではなく害悪です」
ラピスとノエル。
……もしかして、私の知らない危険人物がいるのだろうか。あぶない、マカロンを配ってもらっていたら、店員さんに粘着されるとこだった……っ!
「ところでバームクーヘンにも意味があるのかしら?」
カミラが聞いてくる。
「年輪のようにいくつもの層が重なるのを、時間を積み重ねる様子になぞらえて、『幸せがずっと続くように』だそうだ」
せっかくなので意味を軽く調べて作った。キャラメルは『一緒にいると安心できる』。
クランでも配ろうかと思ったが、お茶漬が意味を知っていそうで、恥ずかしいので止めた。マカロンは配ったが、改めて作って配るとなるとハードルが高かった。
「主が今を『幸せ』と感じてくれているのでしたら嬉しいです」
微笑むカル。
「続くように願ってくれるのもな」
白い歯を見せるガラハド。
頷く面々。
やっぱり気恥ずかしいが、『雑貨屋』の面々は素直に喜んでくれるので。うん。
「新しいゲーム始めました。」11巻発売いたしました!
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