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クリスマス

内容は無い。

 この『異世界』ではクリスマスはない。まあ、キリストの誕生日があったらびっくりだが。

 ただ『世界樹の祝日』があるそうで、クリスマス期間中似たようなイベントが設定されている。


 家族や恋人と過ごし、贈り物を送りあい、この日ばかりは神々ではなくエルフの住まう域にあるという『世界樹』に祈りを捧げる、らしい。まあ、異邦人(プレイヤー)は期間限定のクエストに走り回っておったわけだが。それでも一部、ゲーム内リア充な方々はいちゃいちゃしておった様子。私にそれは実装されていない不具合! おのれ……っ!


 そういうわけで共に過ごす恋人のいない現在、酒屋の三階でラピスを抱き上げている。シュークリームで円錐のタワーを作り、一番上のシューをラピスに飾ってもらっている。作業台に乗った、けっこう高さのあるタワーのてっぺんに踏み台を使っても、ラピスとノエルは手が届かなかったのだ。

 タワーはルビーベリーの甘酸っぱいムースとスポンジを交互に積んで山型にしたものに生クリームを塗って、シュークリームをくっつけたものだ。シュークリームの隙間をノエルとリデルが生のルビーベリーと小ぶりのサファイアベリーで埋めて行く。最後に私に抱き上げられたノエルが粉砂糖を降らして完成だ。


 定番のローストビーフ、中にシモフリキノコとご飯をバターで炒めたものを詰めた、丸々と太った九面鳥(・・・)の丸焼き――皮はあくまでパリパリ、身はしっとり。コンソメスープと野菜を生ハムで巻いたもの。潰したジャガイモを焼いたもの。芽ネギを散らした鯛のカルパッチョにお祝いらしく生ウニを和えたもの。野菜の酢漬け、ツナサラダ。


「おー、うまそうだな〜」

「今日はまた一段とおいしそうだ」

「彩が綺麗だわ〜」


「今日はラピスとノエル、リデルが飾り付けてくれたからな」

料理だけでなく、机の上に普段ない花が飾られ、燭台にはロウソクが火を揺らめかせている。


「主、白のスパークリングワインとスパークリングアップルでよかったですか?」

「ああ、ありがとう」

カルが冷やしておいた瓶を持ち出す。『世界樹の祝日』には炭酸を飲む習慣があり、スパークリングアップルは林檎の炭酸飲料で、酒の飲めないお子様向けにこの季節は出回っている。

商業ギルドからのリクエストで私もスパークリングワインを生産した。おかげさまで炭酸のレシピゲットだ。

 

 【料理人】の期間限定クエストだったのだが、他にも【薬士】で『消化薬』――恐ろしいことに、戦闘で相手を溶かす方だった――、【錬金士】で『星石』という宝石の中に星型の模様が出て魔法などを詰める場合、成功しやすくなる宝石の加工レシピをもらった。たぶん、他の生産職のクエストもそれぞれレシピがクエストの報酬なのだろうと思う。


「いただきます」

各自が席に着いたところで食事の開始。

 現実世界では一人鍋でシャンメリーだったのだが、一杯目を注いで適当に栓をしたシャンメリーが鍋で温められて炭酸が膨張、勢いよく栓が天井に向けて飛び出し私を呆然とさせてくれた思い出の一ページ。照明に当たらなくて何よりでした。


「この九面鳥、ほぐして『ごはん』に混ぜて食べるとまたいいですね」

「ほんと、胡椒とバターの香りが」

カルが言えばカミラが追随する。バターは春さん印なのでぶっちぎりで美味しいはず。


「主、カルパッチョも美味しいです」

「生苦手なのでよければ僕のもどうぞ。こっちのジャガイモもシンプルなのに美味しいですよ」

ノエルはどうやら肉より魚の方が好きな様子。ラピスはうぐうぐとローストビーフを一生懸命食べている。


「うーん、普段ビール派だけど、この期間だけはワインだなあ」

ガラハドがうまそうに酒をあおる。華やかな印象の香り高き酒、と説明に書いてあったが私は飲めないのだった。代わりに炭酸林檎ジュースを飲む。


 食事の終わりにラピスたちと作ったシュータワーを提供。あっという間になくなる春さん&タマミー効果。どうでもいいが、口元から生クリーム垂らして惚けるのはいかがわしさ倍増だから子供の前ではやめていただきたい。


「さすが、春さんのミルクと、タマとミーの卵を使っただけあります」

嬉しそうで得意そうなリデル。何か違う、ホムンクルスだから感性が違うのだろうか。いや、春さんとタマ、ミーの牛乳と卵は素晴らしいのは否定しないが。いいんだろうかこれで?


 いかがわしい大人どもから目をそらし、キラキラした目でシュークリームをほおばっているラピスの頬についた生クリームを拭う。



 そして、ガラハドがレーノに酒を勧めやがりました。慌てて食後のお茶を飲んでいるラピスの目を隠す。


「思い切って弱いなおい!」

「レーノ君、落ち着いて」

「ここで脱がないで!」

「酒には弱いですが、彼は強いですよ。君たちで取り押さえられますか?」

のんびりと茶を喫し、参戦する気の無いカル。


「風呂だ、風呂に連れて行け。水につければおとなしくなる」

ラピスはなんの抵抗もなく目を隠されたままおとなしくしている。リデルも見ているのか見ていないのか、気にした様子はない。ノエルだけが尻尾を膨らませてびっくりしている様子。



 私のクリスマスは現実世界も『異世界』(こっち)も事件で終わるようです。



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― 新着の感想 ―
スパークリングアップル。 シードル「………」 シードル・シー「………………」 シードル・シー・ドルン「………………………」 こいつらキノコだもんね。仕方ないね。
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