第8話 名付け
----第8話 名付け-------
「ようこそ、私たちの同盟のアジトへ」
言われるがまま、彼女に連れて行かれた先は、お城だった。
西洋宮殿と称したほうがイメージしやすくなるだろうか?
あまり城というものに詳しくないというか、縁もない。
私の言葉で精いっぱい形容できるとしたら…。
「で、でかい…」
「ほぉー、こりゃでかいなぁ、さすが夢の欠片最多獲得者!」
「集めようと思って集めたわけじゃないんですけどね」
彼女、槇原リオはそういいながら城の扉を開ける。
玄関口、いわゆるエントランスだろうか。
外観と同じく西洋風、明かりなんかはシャンデリアといった具合だ。
見るもの何もかもが私とは縁遠い。
「おかえりなさいませ、リオ様」
エントランスそばのいくつものある扉の一つからメイドさんが姿を現す。
「ただいま、小津さんも来ているみたいですね」
「はい、先ほど到着なさいまして、私に出迎えをしなさいと仰せられたところでございます」
「そうですか、では、私からもお茶会に新しいお客様を追加してもよろしいですかと聞いてきてもらえますか?」
「かしこまりました」
彼女とメイドさんはそう言葉を交わし、メイドさんは先ほど出てきた扉へと戻っていく。
いや、下がっていくのほうが言葉としてはあっているかもしれない。
少しの間待っているとまた先ほどの扉から今度はメイドさんではなく、少しやせ形の和服を着た男性が姿を現した。
「いやはや、リオさんが新しいお客さんを連れてくるとは珍しいですね、して、そのお客さんは…」
「こちらの二人です」
こいつも一人換算なのか…。
私は軽く礼をする。
が、このパペットは…。
「やぁ、あんたがこの城の城主なのかい?おれっちてっきりこの自称者が城主だと思っちまってたぜぃ。おれっちはこの相棒の人形、パペットってんだ、よろしくな」
初対面の人間にするあいさつではなかった…。
「ははは、よろしくお願いしますね」
意外にも相手は機嫌を損ねていなかった。
むしろ軽く上機嫌…?
「…このパペットの主人の藤村雪久といいます」
「…男性…でよろしいですか?」
「えぇ、はい。生物学上は一応」
毎度のごとく聞かれるテンプレートな会話を交わす。
「その、この槇原さんに誘われて、ここに来たのですが、よろしかったのでしょうか?」
「…そのよろしかったのでしょうかはこちらに迷惑になっていないかという解釈ですかね?それとも場違いな場所にきてよかったのかという意味合いでしょうか?」
「…どちらもです」
「そうですか、でしたら心配しなくても大丈夫ですよ。彼女が興味を示した相手なんですから迷惑にもなっていませんし、この場所にふさわしい相手でもあるんですよ」
彼はそういって彼女を見やる。
それほどまでに彼女は彼から信頼されており、そして敬意、もしくは畏怖の相手なのだろう。
そして彼は私の手を引いて、先ほど出てきた扉に誘導する。
「私の自己紹介は、お茶会の最中で行いますので」
そういい、私は扉の内側へと連れて行かれる。
そこには数人の人形遣いが座っていた。
後ろからついてきていた彼女がそっと私に耳打ちをする。
「彼らは、私の同盟の中でも指折りの強さを持った方たちです。みなさん、様々な人形をお持ちなので面白いと思いますよ」
彼らの視線は私とパペット、そして彼女に向いていた。
…どうも、こういった視線にはいつまで経っても慣れない。
人を品定めするような目線。
少し苦い思い出がよみがえってきそうだ。
「相棒、どうした?なんだか、気分が乗ってねぇみたいだな」
パペットが私の顔を覗き込む。
こいつの表情のない…いや、顔のない顔をみると…
「…お前のほうが気持ち悪いな」
「相棒、そりゃひでぇぜ。おれっちは素直に心配してるってのに」
「悪い悪い、ありがと、パペット。問題はないよ」
「そうかい?ならいいんだがよぅ」
そんな会話が私とパペットの間で一区切りになるのを見計らっていたように彼がお茶会のメンツにむけて言葉を放った。
「さ、みなさん、お茶会に一人新しいお客様が来ました。我らが長、槇原リオ氏に招待された期待の人形遣いです」
その言葉を聞いた数秒後、彼らはざわつき始めた。
彼女が新しい人を引っ張ってくるのは珍しいことなのだろうか。
ここにいる面々は彼女に引っ張ってこられたのではないのだろうか。
「へぇ、おもしろい人形を連れているな」
「ふむ、なかなか、これは…」
それを口火にお茶会のメンバーとやらがざわめきだす。
或る者は人形に或る者はその主人である私に目線を預けなにやら話し合っているようにも見える。
…やはり、慣れなくて居心地が悪い。
「みなさん、そんなにひそひそ話をされては新しいお客様の気分が決して良いものではないでしょう?」
それは窓際で座っている女性から発せられた言葉であった。
視線が私たちから外れ、そちらの女性に向けられる。
私もついその声につられ、視線を彼女に移す。
真っ白い髪…と思ったが、注視すると毛先にかけて黒いグラデーションとなっていた。
そしてなによりも、目を閉じたままなのである。
狐目のようにうっすらと目を開けているのかと疑ったが、どうやら完全に閉じている。
それに、色が白い。
先ほどの彼も色白というか、若干青さが混じっていたがそれとも全く違う。
髪の色と同じように真っ白なのだ。
「なんだい、目闇、今日は調子がいいみたいじゃないか、えぇ?」
「おかげさまで。それよりもここに初めていらしたお客様がおびえてますわよ?」
「はん、こんなじろじろひそひそされただけでビビってるようじゃ、ここでやってけねぇんだよ」
「…品位の問題ですわ。その永劫に口を閉じたほうがよろしいのではなくて、烏像?」
「はっ、こんな欲望叶える場所で品位もへったくれもあるかよ」
…見た目清純そうな女性が先ほどの女性と口論している。
それに水を差すようにちゃらちゃらとした男性が口を出す。
「きみらそこまでにしたほうがいいんじゃなーい?そのうちメイドの拳骨がとんでくるかもよ?ま、ともあれ、新しいお客さんに対してまずは自己紹介だねん。俺は演者、よろしく」
それにつられ、他の主人も口々に名を口にしていく。
「初めまして、新しいお客様、私は目闇と申します」
「アタシは黒烏、ここいらの奴らにはそう呼ばれてる。たまーにそこのクソアマみたいに烏像なんて呼ぶ奴もいるがな」
…私が抱いた一つの疑問。
それを先ほどの男性、演者に問いかける。
「あの、ここの人たちってその、アクターとかクロウとかめくらとか…、コードネームみたいなのついているんです?」
その質問にその場にいる全員がきょとんとする。
その数秒後、目線がすべて先の和服の男性へと移った。
「おい、伯爵、こいつ夢の街にきてどんくらいだ?」
「さぁ?私もそこまでは把握してないんですよね。なにせ、我らが長が連れてきたわけですし?」
「ちっ…、で、そこらへん説明してくれるんでしょーね?我らが長の自称者様?」
話が私をここに連れてきた彼女へと振られた。
その問いに答えるべく、彼女の雰囲気が…。
特に変わりはしなかったが淡々と答える。
「この方は、ここにきてまだ数時間ちょっとですよ?」
あっけらかんと言い放った。
全員がその場で深い息をつく。
姿勢は皆それぞれ違ったが、感じ取れたのは一つ。
これは完全に呆れられているときの溜息というものだ。
「…ど素人もど素人じゃねぇか…。まがいなりにもここは上位のしかも数人しか入れないようなトップクラスの同盟なんだぜ?それをプレイヤー名すらしらねぇ野郎なんかをこのお茶会に呼びやがって…」
「んー。別に私は上位ランカーを入れるために同盟を作ったわけじゃないですよ?私が欲しいと思った人を集めたくって作ったんです」
「…ですけれど、ここに数か月来ている人ならともかく、数時間の人は…、ちょっと私も賛成しかねますわ」
「俺もその意見にさんせーっすよ。せめてもうちょい様子見てからでもよかったんじゃないっすかね?」
反対意見多数。
ごもっともな意見である。
私はまだここの事情というかルールを何一つ理解していないのだ。
ただパレードに参加して勝利するって単純なルールならいいけれど、現実の世間様と同様にしがらみやら暗黙のルール、常識ってものもあるだろう。
それを何一つ知らないものを自陣の仲間に引き入れようとしているのだこの自称者様とやらは。
そりゃ、反対されるのは目に見えているだろう。
そんな空気をよそに彼女はある一言でこの場を黙らせた。
「彼は、ここにきて数時間ですけどゴールドランクに勝利したんですよ?しかも、初のパレードで、ルールなんて言うものもろくに知らずに。」
この一言だけで彼らは黙り込む。
しかし、口を開く者もいた。
「…けど、いかにゴールドに勝ったからってよ、まぐれかもしれねぇだろ?相手は誰だったんだよ?」
「彼の対戦相手は、同盟、星々の双子座でした。」
「……あぁ、そら認めざる負えねぇな。なんせあいつルーキーを全力で潰すやつだからねぇ」
「それでしたら…まぁ、本当に認めざる負えませんね…」
私が辛くも勝利したあの人はどうやら名の通ってる人のようだった。
そんな人相手をぶち当てるとか、次会ったら花楽里の野郎全力で殴る。
「だったら申し分ないねぇ、じゃ、おれらで、彼のプレイヤー名つけてあげよーや!」
「そうですわねぇ、でしたら…」
「樹人形でいいんじゃねぇ?だいたいこういうプレイヤー名は人形のイメージからくるもんだろ?」
「まぁ、そんな怖い名前、かわいくありませんわ」
「だったら、もっといい名前あんのかよ?」
「それを今考えている最中でしょう!?」
また、女性二人の口論が始まった。
私としてはてきとーな名前で十分なのだけれど…。
「じゃあ、私がつけてもいいですか?」
心を読んだように、彼女が声をかけてくる。
その申し出を無下にも出来ないため、私は軽くうなずいた。
「では、先程の戦いから、道化師でどうでしょうか?」
「あぁ、いいですね、気に入りました」
彼女は安堵の表情を見せた。
私、そんなに拒絶するような顔していた覚えはないのだけども。
「きまったみたいだなー」
「えぇ、せっかく可愛らしいお名前にしようと思いましたのに!」
「はは、道化師だってよ、ぴったりじゃねぇか。おどおどビクついた野郎があの初心者キラーの双子座に勝った野郎だ。まさにどっちの顔がほんとかわかんねぇ道化師だな」
最後のは失礼だと思うがもうこういう人なのだろう、ながす。
「では改めて、ようこそ、私達の同盟へ、道化師」
どうも、アマギです。
いやはや、大変お待たせいたしました。
約1年ですねぇ、書いてなかったの
さてはて、今回は名付け。
主人公に二つ名…というよりプレイヤー名が付けられました。
正直、本名忘れそう…
と、いうわけで次回は本格的に戦闘面で動き出します。
あぁー、書くの大変そうだァ。
では、書き上がるその時まで
まて、次回!