魔王の最初の終戦活動《2》
バスティオン領主の館の前にやってきた、館は王宮程ではないがかなり大きく、門の前にはゆうに30を超える警備兵と金髪の太った男が椅子を出して座っている、金髪の男はかなり綺麗な服を着ていて、まるで王様みたいである、僕が王宮内で着ていた服よりも装飾が多く施されている
「ようこそいらっしゃいました、国王様」
金髪の肥えた男は椅子から立ち上がりこちらまで歩いてくると、癇癪たっぷりな笑顔で膝をついた、
「貴様がピズラか?」
「はい、そうでございます、知ってていただいて光栄でございます」
「要件はこれだ」
《バサ!》
挨拶を終えると僕は懐から資料を12枚ほどピズラの頭に投げつけた、ピズラは表情一つ変えずに資料のみを通すと、癇癪たっぷりの笑顔を曇らせた、そして立ち上がり僕に顔を近づけて低い声で反論をする
「王、この内容だと我が領地に軍を駐留させるにはこの領地の治安維持能力がかけると言っているようではありませんか」
「察しが早くて助かる、その通りだ」
「それは困ります、我が領地は王国兵の戦時需要で栄えております、治安維持能力が無いと言われて、駐留許可の権利を剥奪されれば、この領地は滅びます」
「よくわかっているな、さっさと資料にサインをしておくれ」
領主は苦笑いを浮かべて後ろの兵士の群れに下がると、突然大声でとんでもない台詞を吐いた、顔に脂汗を浮かべているさまはまさに豚であった
「そ、、、その王は偽物だ!!!今すぐ捉えろ!!!、あのような非情な者、王であられるはずはない!!」
兵士は一斉にこちらに槍を向けてジリジリと近づいてくる、30対2、まあイブリースならば余裕で倒せるのだが、ここでイブリースを使えば僕の信用はさらに落ちる、ここはなんとしても僕の力で切り抜けなければならない
「イブリース、僕の命に関わりそうなとき以外は攻撃しちゃダメだ」
「分かったけど、どうするの?」
僕は詰め寄ってくる兵士の方へ歩き、領主に向かい提案を促す、正直こんな大勢の兵士を前にするのは恐ろしい。
「領主!、それでは僕が王たる力を示せば良いのであろう!、それならば決闘を申し込む、汝の持つ最も強い者を差し出せ!、それに見事勝利すれば僕が本当の王であると信じてもらえるであろう!」
「そ、、、そうだのう!、ならばこの館の警備長に無手で勝利する、これを成し遂げる事ができれば王として認めよう!!」
この世界にはまだ決闘なんて言う野蛮な習慣が残っている、以前イブリースが言った力で征服する魔王像なんていうのも実はまだ根強く残っているのだ、それ故こういう交渉の仕方は案外通じる。
兵士の中から大柄な男が出てくる、両手に大きな斧を持っていて、その背丈はゆうに2mはあるであろう、無手で挑むというのに相手は重装備とは凄く不利な状況である
「ははははは!!お前みたいな小僧に負けるものか!」
「お手柔らかに頼む」
周辺ではいつの間にか人だかりができていた、領主に喧嘩を売った馬鹿小僧と領主の兵士最強の男の決闘、周辺では軽い博打にまで発展していた
「やいやい!あの小柄な少年と、大柄な兵士長!、勝つと思う方にかけていきな!!!!」
「笑わせるな!、絶対に兵士長だろ!」
「いいや、ここは小柄な少年に賭けるのが男ってもんだろ!」
「私は小柄な少年に賭けるよ~」
最後の声は明らかにイブリースだ、女の子に勝ちを期待されたのだ、よもやここで負けるわけには行かなくなった、僕も男だ、いくら不利で、力量差があっても死力を尽くす!
「小僧、俺は手を抜かねえからな、首が飛んでも恨むなよ?」
「わかってるよ、じゃあはじめようか」
大柄な男は早速斧を振り下ろしてきた、しかし僕は避ける、横薙、避ける、かぶと割り、避ける、突進、避ける、防戦一方だが全て攻撃を避けていく、次第に男は疲れてきたのかどんどん攻撃が遅くなっていく
「この餓鬼!!!ちょこまかと!!!」
男が斧を僕の元へ振り下ろしてきた、その瞬間に刃先に飛び乗って思い切り顔を蹴り上げる
「威龍脚!!!!」
《ガン!》
「いって!!この糞ガキ!!!!!!!!!!!!!」
兜に蹴りが炸裂し金属音が鳴り響いた、その金属音からかなり痛いことが伺える、男は頭を揺らすながら足をふらつかせる
少しして大柄な男は激怒してもう片方の斧で斬りかかる、しかし疲れでだいぶ遅くなっている攻撃なんてもはや隙でしかなく、そのまま避けて僕は思い切り上に飛んだ、男は僕を見失ってキョロキョロしている
「何処だ!!この糞ガキ!!!!」
僕は自由落下の威力と空中で回転してどんどん速度を上げていく、そして男の頭にそのまま落下と同時に蹴りを入れた
「鬼技畢竟!!龍脚閃」
《ガン!!!!!!!!》
男の兜は割れて落ちた、そして男はそのまま膝から崩れ落ちて動かなくなった、周辺は一瞬静まり返ってその後一気に騒がしくなる
「すげえええええ、あの餓鬼めちゃめちゃつえええええ」
「本当に勝ちやがった!!!!」
「うをおおおおおおおおおおおおおお」
僕には魔力がない、精々そこら辺の魔族より身体能力が高いのと、物を食べる事で手に入る【魂魄】と言う力で身体能力を強化できる、それぐらいしかできないく魔法と比べれば明らかに地味で非力なものだ、それゆえに身につけた武術、これが僕が魔王たる戦闘能力であった。
「僕に近接戦で勝つには、まだ能力不足だったね、おじさん」
イブリースがこちらに向かって歩いてきた、なんだか少し誇らしげな顔である、僕の元まで来ると突然ハグしてきた
「よくやった!!カッコ良かったよ~、見なおした!」
「ちょ、ちょ、やめ、やめてえええええ」
綺麗な女性にハグされるのは気分の悪いものではなかったが、鎧が頭にあたってかなり痛かった、イブリースの顔を見上げて見ると凄く嬉しそうな笑顔をしているものだから、少し嬉しかった
僕は怯えて腰を抜かしている領主の元まで行く、先ほどの威勢は消えて、ただの豚だ、小物臭がすごい
「おい、さっさとサインを書け」
「ふ、、、、ふざけるなああああああああああああああああああああああああああああああ」
領主は約束を反故して兵士をすべてコチラに向けてきた、ギャラリーからは大ブウイングである、しかし数が多すぎる、あの数を僕が捌くのは少々厳しい物がある、いつの間に呼んだのか、先ほど30人ほどであった兵士は50人ほどまで増えている、、、
「はは、このクソ王め!!!この数相手だ、そうするんだ!? あ!?」
「いや、、、もうお前ただの反逆者だよそれじゃ」
「だまれぇぇ」
イブリースが後ろで腹を抱えて笑っている、笑って腰が抜けていて立てなくなっている、確かに目の前の小物は滑稽だが、、イブリースの世界では珍しいことであったのだろうか
「ふはははははははは、今の時代、、敵役もカッコいい時代なのに、こんな露骨な雑魚って、何時の時代だよ、ふあははははは、絵に描いたような小物、ふあはははは」
「そんなに面白いの?」
「私の世界じゃあの手の馬鹿は、軽く数年前に絶滅したよ、絶滅危惧種だよ、ふあははは」
そんなことをしている間にも少しずつ兵士は近寄ってきている、どれもかなり怯えた感じで、士気の高さは最悪、ほぼ無理やりやっているという感じだ
つまり士気を挫けば終わりだ、それならばイブリースに頼んで士気を挫いてもらうのが得策であろう
「イブリース、ちょっと力振りかざして彼らの士気を挫いてくれないかな」
イブリースは立ち上がって、少し深呼吸をすると僕の前に来た
「是非もなし、そうだな、少し派手にやったほうが良いかな、さらに気分爽快できるやつ」
「任せたよ、イブリース!」
彼女は両手を屋敷の方へ向けると、今まではなかったまともの術式を唱え始める、頭上には黄色い光の球が4つほど浮かび上がっている
「光は我に、破滅を彼に、行く万を焼きつくすは光の刃、天を焼きつくせ light littl eeraser」
彼女が術式を終えると、光の球体から屋敷の方へ向かって光が伸びていき、屋敷にあたった瞬間に、、、屋敷が爆散した、そこ光景はあまりにも異常であり、周辺の人間も、兵士も、領主も、僕さへも釘付けになる光景であった、先程まであった豪華な屋敷は、まるで消しゴムでもかけたかのように無くなって、ただの更地に鳴っている
数秒後に周りがざわつき、兵士は逃げ出し、領主は泣き崩れた、その光景はまさに地獄絵図である
「わたしのやしきがあああああああああああああああああああああああああああああああ」
領主は泣き叫ぶとそのまま失神してしまった、気持ちはわかる、そんな領主をみてケタケタとイブリースは笑っている、僕は彼女の隣に言って屋敷を遠い目で眺めながら言った
「すごいね~、何今の、すごすぎでしょ、どうなってるの~」
「気分爽快だぜ!!」
「気分爽快って、、、やり過ぎでしょあれは」
「チョモランマ」
「頼む、、、言葉のキャッチボールを成立させてくれ!」
召喚した時は威厳に満ちた感じがしたが、そうでもないということが最近良くわかったきがする、イブリースは僕の手を取って、頬を上げながら僕の手を引いた
「さて、少し遅れたけど飯食べに行くよ、腹が減っては戦はできぬってね」
「もう戦は終わってるよ、はぁ、じゃあそうだね、酒場にでも行こうか」
こうして僕たちは、悲惨な惨状を無視して酒場に向かったのだった。
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後日談、ここの軍の駐留権の剥奪はなかったことになった、その代わりこここの領主が住民の代表がすることになり、以前のような奴隷貿易は無くなった。
現在僕たちは酒場で食事を取りつつ、次の仕事についてを話していた。 酒場内は2階建てで木のテーブルと樽の椅子が並べられている、酒場の中は酒の匂いが立ち上り、旅の者や兵士が酒を飲んでいる
「で、次は何処に行くんだい?、南か東か?」
イブリースはビールを片手に骨付き肉を食べながら次の目的地を訪ねてきた
「次はここから少ししたところにある場所にある、不当な武器取引をしている街に行くよ」
僕は蜂蜜酒とパンを持っている、次に向かう所は武器取引の現場だ、武器取引は容認すると戦争が激化する。 食事を一通り終えると、食後の雑談が始まった、イブリースは案外話が好きなようだ
「そう言えば、あんたのやってたあの格闘術って何って言うの?」
「僕のは鬼式近接術っていのと王宮武術っていうやつをベースにした自己流だよ」
「あれはカッコ良かったね、うん」
「そんなに言われると照れちゃうよ」
まあ、館を一瞬で更地にした人に言われると少し情けない感じもするが、イブリースと比べたら大体の者が雑魚と化すからあまり考えないことにした、
会話の中でふとイブリースが頬杖を付いて僕に質問を投げかけてきた。
「そういえば、あんたの能力ってなんなの?、何かあるんでしょ?」
「あるけど、そんなに強くないんだよね、、、、僕の能力は【物質の存在】の概念である【魂魄】を使って体を変化や強化する【身体変化】、魂魄で分身をする【偽装変化】、魂魄で体の再生ができる【逆性変化】ができるっていうものなんだ、まあ魔法の劣化品だよ」
「ほう、魔法に劣るね」
改めて言われると心に刺さるものがある、まあ確かにその通りで、今言ったことはすべて魔法でもできるのだ、そのため魔法には遥かに劣る劣化品だ。
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その後店を出て、僕たちは宿をとることにした、宿はそう綺麗なものではなく、部屋にはベットが2つあるだけだ、僕は寝間着に着替えて布団に入る、するとガチャリと隣のベットから金属音が聞こえた
「ま、、、まさかだけどさ、、、イブリース、、鎧着てる?」
「しょうがないでしょ、、、これ以外持っていないんだから!」
隣のベットには【鎧のまま】イブリースが寝ていた、今の今までずっと鎧を着ているものだからなにかおかしいとは思ったが、まさか衣服が無いとは思わなかった
「明日にでも服を買おうか、、、」
「頼む、、、、」
こうして今日は床についた、明日は衣服でも買いに行こうと思う