魔王の最初の終戦活動《1》
召喚騒動の次の日、王室は依然よりこざっぱりとした、戦争終結を行うとめと言う名目で王の事務仕事がなくなったため、王室にあった大量の書類は消え、綺麗な机には綺麗な皿に盛られた目玉焼き、野菜スープ、そしてパンが並べられている。
「ふぅ、幾年ぶりの優雅な朝食だろう、はは」
いつもは右手にパンを持って左手のペンでサインを書くと言う食事であったため、ここまで朝食とは美味しい物であったかと頬を濡らして感激している、泣きながら朝食をとるさまはさぞ滑稽であろうが、涙は止まらなかった
《コンコン》
ドアの音がなると僕の返事をまたずにドアが開いた、そこにはイブリースが立っていた、戦闘時でもないというのに黒い鎧を来ている、異世界では日常生活でも鎧を身につける習慣でもあるのだろうか。
イブリースは僕の机の前まで歩いてくると、僕の朝食を覗き込んだ。
「やあ、美味しそうな食事だな、その目玉焼きなんか最高に美味しそうだ、ただし醤油がないのが残念だ」
「イブリースはもう食事取ったよね?というかノックしたなら返事をまとうよ、、、着替えてたらどうするのさ。」
イブリースは僕の話を聞かなかったことにして机の右側にある席に腰を掛けて足を組んだ、その鎧を身に着けながらじゃ座りづらそうだなと思ったけれども地雷っぽい感じがしたのであえては触れなかった
「ところで、今後はどうするんだ?、まさか王宮で毎日おいしい食事を取っているだけで世界が平和に成るとは言うまい」
「そうそう、今日の昼にはここを出て、王都から北部に位置するバスティオンに行くよ、まずは国内の貴族で戦争を激化させる者を止めに行く」
「ほう、あまり政治には詳しくないが戦争を激化させる奴なんているのか」
戦争を食事にする貴族、これが戦争を長期化させた原因である、まずはこれらを排除しなければ戦争に使う金や物資は底なしになって泥沼化するのだ。
「うん、戦争特需で食べてる人にとっては戦争は宝だからね」
食事を終えると旅着というか、王家の仕事着(外交から戦闘までこれが正装扱い)に着替えるのだが、、、
「そ、、その着替えるから一旦退出してくれるかな?イブリース」
「構わんが、なぜそんな顔を真赤にしておるんだ?」
それはイブリースが着替えの途中で入ってきそうで不安だからだ、僕は衣服を机の右後ろにある衣装棚から取り出すと、ドアの外にいるイブリースに釘を打った
「その、絶対入ってこないでね?」
「わかってるよ、私だって着替えを覗くのは恥ずかしいって」
着替えを終えるとイブリースを室内に呼んだ、王家の服装は昔異世界から伝わったとされるもので、この世界ではかなり珍しい形状である。
イブリースは少し早歩きで僕の前まで来ると、右手を顎に当てて首を傾げている
「どうかな?イブリース、似合ってる?」
イブリースは少し不思議そうな顔をしている、もしかして似合っていなかったのだろうか、、、
「それ羽織袴だよね、、、何処から持ってきたのそんなもの?」
「え?これは昔異世界から伝わってきたものなんだけど、もしかしてイブリースの世界の物?」
「ま、、まあそんなところかな?」
ここに来てまさかの展開である、この衣服は異世界のものであるため基本的な情報は全く分かっていなかったのだ。
「じゃあ、これ何って言う名前なの?」
「羽織袴っていうんだよ、羽織っているのが羽織、中の服が袴だ、袖に書いてある絵は紅葉って言う植物の葉だよ」
羽織袴、なんだか少しカッコいい響だな、羽織は黒色、袴は灰色の作りで羽織の袖部分には綺麗な赤の絵が書いてある、イブリース曰く紅葉という物らしい。
「じゃあ背中のこれは何って書いてあるの?」
羽織の後ろには首の下のあたりに四角で囲まれた【畢竟】と言う記号が書いてある、イブリースならこの意味がわかるということだ、代々この模様の意味が謎であったため気になる
「ひっきょう、結論って意味合いだよ」
「結論!?、なんで背中にそんな文字が書いてあるの!?」
余計に謎が深まった、、、結論と書いてあっても何故書いてあるかという結論は不明だ
「ああ、そういえば似合ってるかどうかだったな、えーと」
イブリースは何処からか出してきたヘアゴムを手に持って僕の後ろに立っち、僕の髪の毛を後ろに持って行った、僕の髪の毛は切る暇がなく男とは思えないほど長くなっていた。
《キュッ》
「な、なにをやったの?」
イブリースは僕の髪の毛を後ろで束ねた、おでこが出て少しスウスウする、鏡を見ると髪の毛を全部後ろに持って行って束ねてある髪型だ。
「総髪って言う髪型だよ、うん、カッコいいと思うよ私は」
イブリースは少し笑顔で言った、カッコいいという台詞が少し嬉しくて僕も笑顔になった
「似合ってるか、うん、ありがとう!」
出発の準備が終わると、代の前には馬車が用意されている、それに乗り込んで僕たちは最初の仕事をしにバスティオンに向かった
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セイロン領バスティオン、ここは領主ピズラが統治する地域であり、兵士の駐留場所でもある、街は兵士が駐留するため物が飛ぶように売れ活気づいている、そこら中の飲み屋があるどれも人が入っている光景は戦時中だと思うとなんとも言えない気分になる、
これは戦争商売がうまく行っている証拠なのだ、戦争でカネを動かす、確かに富は豊かになるが戦争が長引く原因である、王としては嬉しくも悪くもない複雑な心境になった
「うわ~、なんかカウボーイがいそうな感じだな~」
イブリースが周りを見渡している、この世界の町並みは珍しいのであろうか僕に反して彼女はとても楽しそうだ、確かに見ず知らずの土地に来ればこの世界の風景もとても斬新に見えるのであろう
「カウボーイってなに?前の世界の職業かな?」
「牛飼いだよ、馬に乗ったカッコいい男のことでもある」
しかしここらへんにいるのは兵士ばかり、牛飼いはいない、牛飼いどころか農夫もいない、いるのは酒場の店主と宿屋の店主、一部の商人と兵士だけ、ここは戦争特需のみで成り立つ戦争街だ。
「とりあえず何処かで休むか、それから行動でも遅くはないし」
「そうだな、馬車って案外揺れるんだね、疲れた、、、」
《ガン!!》
突如石が飛んできてイブリースの腹部を直撃し、鎧にあたり金属音が耳を劈いた、石の大きさは握りこぶし程度である、こんな物が頭にでも当たれば場合によっては死んでしまう。
「大丈夫!?」
「私の鎧は特別製なんだ、大した攻撃じゃ感覚すら無い」
「それは良かった、しかし何だいきなり」
イブリースは少し驚いた表情で腹をさすっている、どうやらその装備はかなりの反則装備らしく、痛がっている素振りはない。
石が飛んできた方向を見ると、少し先に人間が貼り付けられていてそれを石打にしている、つまりこれは流れ弾だ、奴隷の人間の悲鳴はここまで聞こえてくる。
「ああ、戦時中なんだってねここそう言えば、私の世界でもあったみたいだし予想はついていたよ、助ける?」
イブリースは少し落胆した目で貼り付けの人間を眺めている、こんなところを見られるのはこの国の王としては少し情けなく、恥ずかしい気持ちになって僕は下を向いた
「助けられないんだよ、、、仮にも敵国の人間を助けるなんて僕がやれば、城にいた側近も、メイドも、兵士も危険にさらされる、、、情けないが助けられない」
下を噛んで苦し紛れに言い訳をした、仮にも戦時中、ここで動けない自分が情けなくて涙が出そうだ
「まあ、そんなものだよね、しかしあの磔台の隣の檻の中、あれどう見ても人間じゃないよね」
「え!?」
磔台の隣を見ると、檻が置いてありその中にはボサボサの髪の毛、赤い瞳、長い鉤爪の少女が入っている、人間にはない鉤爪と赤い瞳から魔族であることは明白、おそらく種族はレッドキャップだろう
「なんで、、、なんで同士が奴隷になっている?」
「わからんが、あれは助けなくて良いのか?」
怒りが喉まで湧き上がった、人間ならば、戦地での恨みからだと我慢はするが同士までもをあの扱い、もはや擁護はできない、この場であのあの兵士共を皆殺しにしたくてたまらない、目が乾いて手が震える、息はどんどん荒くなっていった
「イブリース、、、あそこの兵士共を全員生かして返すな、、、」
「おお、魔族をいたぶるのは絶対許せないんだ、仲間思いなのはいいことだと思うよ」
「あのバカ共もは仮にも王国の兵士、それが同士を奴隷にするなど許せはしない、頼むよイブリース」
イブリースが磔台の方へ手を向け詠唱を開始した、長い髪の毛は重力に少し逆らって陽炎のように揺らめいた、地面からは緑色に光る魔法陣が浮かび上がっている。
「Greenmagic、floraAmen」
イブリースはあいも変わらずとんでもない上級魔法を魔法名だけの詠唱で発動する、こんな事出来るのはこの世にそうそう、、ヘタしたら彼女しかいないであろう。
地面から植物のツタのようなものが出てきて、その蔦は磔台に向かって伸びていく、そして兵士たちを巻きつけると空中高くに吊るしあげた、吊るしあげられた兵士は悲鳴を上げて身を悶えている。
「さあ、後は魔法を解除すれば落下で死ぬよ?」
「ああ、良いよ、やって」
《ガタン!!!!!》
兵士たちは蔦が消えるとそのまま落下して血を吹き出して死んでしまった、打ち付け台の付近にいた者達は全員こちらを見ている
「だれだあの二人?」
「わからねえ」
周囲がざわついていると、他の兵士たちがやってき、僕の正体に気がついたのかすぐさま膝をついた
「こ、、国王様!!!、ようこそいらっしゃいました!!!」
「今すぐそこの磔台に火を放て、奴隷はこちらで引き取る、魔族に手を出した報い、わかっているな」
兵士はガタガタと震え、急いで奴隷を引き渡し、磔台に火を放って逃げ出した
「結構恐れられえてるんだね~、強いの?」
イブリースが僕の隣でにやにやしながら訪ねてきた、まるで酔っぱらいのおじさんみたいな笑顔だ
「まあ、一応魔王だからね、、、」
仮にも魔王、そんじょそこらの兵士1~2相手には負けない自信はある、とは言えエクスプロージョンを秒で撃つようなイブリースと比べれば砂にも等しいのだが
「あ、、、ありがとうございます!」
レッドキャップの女の子は礼を言ってきた、幸い怪我はなさそうだ、背丈は僕よりも小さく、赤い瞳はイブリース程ではないが色が濃い
「どうして捕まっていたんだ?レッドキャップだろ?」
レッドキャップの女の子は少し唇を震わせながら状況を説明した
「人間の捕虜だった物は人間の手先だと、人間から逃げてきた者をこうやって、、、」
ここはもう兵士の統制すら保てなくなったということがよく分かった、この治安で軍の駐留を許可するわけにも行かなくなった
「うん、ここにはもう軍の駐屯地としての能力がないことは分かったね」
僕がそう言うとイブリースが少し白けた顔で口を開いた、しかしその表情に見合わずレッドキャップが珍しいのか、レッドキャップの少女の髪の毛を撫でたり鉤爪を見たりと好奇心にあふれている。
「ここの軍の駐留地としても権利を剥奪しても戦争は終わらないぞ?」
「ちゃんと終戦への意味合いもあるよ」
僕はイブリースに近づいて真剣な顔で説明を続ける、イブリースは少々混乱している表情だ、しかしレッドキャップの少女から手は離さいない
「今回、治安を保てなかった地域への制裁を加える事で、治安を維持するための金を使わせることによる財力への圧力、さらに治安を維持しなければ制裁が来るという見せしめ、そしてこの行動で得られる僕への支持は今後の役に立つよ」
僕が説明を終えるとイブリースはぽかんとした顔で立ち尽くしている、何か驚いているのだろうか、しかしレッドキャップの少女から手は離さいない
「お、、、お前頭良かったんだな!!」
「失礼な!!これでも魔王だよ!、てかそろそろその娘から手を離してあげなよ!!いつまで触ってるの」
「魔王というのは圧倒的力で全てを踏み倒す恐怖の化身ではないのか?、あとこの娘可愛いじゃん!撫でてて気持ちいし!可愛いし!」
「一昔前じゃあるまいし、王に求められるのはカリスマ性と知能だよ!」
いったいイブリースの世界はいったいどんな世界だったのか不安になった
「じゃあ、領主の元へ向かうか、行こうかイブリース」
「そうだな、じゃあ世界平和の第一歩と行こうかね」
こうして僕たちは領主の元へと向かった