浦島さん、心の奥。
今回は短めです。
次の日の朝が、やって来ましたよ。「亀瀬」となる前の、「吉瀬」の過去を新太に話された海は、どうやら心ここにあらず、といった様子にございます。死のうとしたはずなのに、と原点に帰っているのかも知れません。けれど私が何を言おうとも全ては、海の心の内にあるのでございますー………
(凄い話……聞いちゃったな ……)
起きて早々、海は深い溜め息をついていた。ついでに、体も重い気がする。頭の中は、昨日新太が話した佐伯 楓のこと、乙が元々女性であったこと、新太が年をとらなくなったこと……そればかりが、頭を巡っている。一番中心は、
(20年前16歳だったってことは、…………………………今、36歳ってこと!?)
何よりも、海にとっては衝撃的な事実だった。ずっと、自分と同じくらいの年だと思い込んでいた。あのナリで36、と言われても、説得力はないだろう。見た目は、16歳のままだったのだから。
「てことは、乙さんは何歳なんだろ………神様だし、尺度すらわかんない………まさか、120歳とか!?」
「俺の年がどうかしたの?海ちゃん?」
ひょこり、と扉から顔を覗かせた乙に驚き、派手に尻餅をついてしまった。
「い、いつからそこに…?」
「深刻な溜め息をついた辺りから。…俺の年なんて、今更気にすることでもないでしょ?」
「それはそう……なんですけど……」
乙は察したように、「亀瀬くんに何か、言われたね?いや、語られたのかな?」
図星を突かれて、どきり、とする。海の反応を見て乙は「ああ、やっぱり」という顔をした。乙は二人の会話の一部始終を聞いていたのだが、そのことはあえて海に言わないようにした。
言ってしまえば、恥ずかしがって何も言わなくなってしまうだろう。予想通り、海は自分で亀瀬から聞いた話を乙に話した。
乙は適度に相槌を打ち、話を聞き終わると、海に聞いた。
「で、海ちゃんはなんでそんなに悩んでるのかな?」
すると海は、「そんなに大したことではないんですが……」ともじもじする。なるほど、可愛らしい。亀瀬が海に惚れたのも、分かる気がする。
「…っ新太って、三十路ですよね!!!!!???」
「へ?」予想外の質問に、言葉が出せなくなってしまった。
「だってそうですよね!いくら見た目が同じでも、生まれてから経った年数は変わりませんし!」
「いや……実質そうなんだけど……もっとこう………ねぇ?」
「?」
(あれだけの話を聞いておいて、気になるのはそこなんだ……こりゃ、大物だよ。亀瀬くん。)
その頃新太は自分のくしゃみで起きた。
「………うう、風邪か?海の男とあろうものが…」
独り言を言いつつ起き上がると、台所へ向かう。部屋に洗面所がないので、台所まで行って洗顔やら歯磨きやらするのが朝の日課である。その途中で、話し声が聞こえた。
(海の部屋の方?…乙…あいつ、また)
足早に海の部屋の方へ行くと、さっきより話がはっきり聞こえた。
「……のこと、どう思ってるのさ。」
「えっ…………うーん…………どうって……」
「簡単だよ。亀瀬くんのこと、好きか、嫌いかって。単純な2択だよ。どっち?」
(!乙の奴、何聞いて…?!)
「う…」
「小さい声でいいからー!ささ、どーぞ?」
海は、こそこそっと乙に耳打ち。その様子に、なんだか腹が立ち思わず扉を開けてしまった。
「…何してんだ、乙。」
「あっ、ちょーどいーとこに来たね。亀瀬くん。……でも、盗み聞きはいけないなあ」
「!気づいてー」
「これでも神様だよ。俺が気づかないと思った?」
「………………」
海は乙の発言を聞いて、顔を真っ赤にして新太を見た。
「き、きき、聞いてたの!?」
新太は慌てて弁解しようとする。
「いや、その、だな………………」
「……………っ新太のバカ!!!!!!!!最低!」
海は、そういい放つと、新太を押しのけ、廊下を突っ走って行ってしまった。乙はそれを見て、ニヤニヤと新太を見つめる。
「………何ですか」
「いやー♪…………もうすぐ、俺も元に戻れるかなー、って」
「…?まあ、悪いことしたのは事実なので、海に謝ってきます。そしてあんたはさっさとこの部屋を出ろ」
乙は気に止める様子もなく、また、ニヤニヤし始めた。
「聞かないんだー、俺が海ちゃんに聞いた、"答え"。」
新太は振り向き、乙にはっきり言った。
「俺以外の野郎から言わされた"答え"なんて、俺には必要ないですから。」
「ふーん、顔に似合わずロマンあること言うね。さすが実年齢36歳」
新太は乙を無視し、部屋を出た。
(……カッコつけたけど、本当は、すげー気になってるよ。あのとき、どう海が答えたのか。)
…頑張ります