浦島さん、亀と乙女と現実と。
「ちょっと…!」
必死に抵抗する海を、自分を亀だとか言うアブナイ少年は、気にせず海の奥深くへ連れていく。
溜め息がでた。
(私、なにやってんだろ…)
死ぬために、自分はここへ来たはずだったのだ。なのに、今生きている。
そう思うと、余計に死にたいと思い始めた。
(死ななきゃ。私には…何もなくなったんだから。)
命じられるかのように、海は亀瀬の手を振り払った。
亀瀬の声が急に焦りだした。
「おいバカ!!俺から離れたら死ぬぞ!!!」
好都合だと思った。確かに、さっきまでできていた息が、だんだん苦しくなってきた。
(やっと死ねる。本当に…ここからいなくなれる。)
口元が緩んだ。海は、死に際というより、幸せを噛み締めているような顔をしていた。
意識が、途切れた。
「…い、おい!!しっかりしろ!!」
(裕…?走馬灯かな、これ…)
「起きろやバカ女!!!!!!!」
(あれ、性格…変わった?)
同時に頬に痛みが走る。
「ったあああああああぁぁ!!!!!何すんの!?ゆ…」
言いかけて、止まった。
そこに居たのは、裕ではなかった。
「そんなに死にたいのか!!」
亀瀬だった。怒っているのだろう、目がつり上がっている。
「死にたいよ!!それを全部あんたが邪魔するんじゃない!」
ムキになって言い返した。
「…」
(ほら、黙った。お節介な奴はみんなそう)
「…っお前ら人間はすぐ辛いことがあると逃げようとする!!生をかんっ単に捨ててしまう!残されるものが、一番辛いのに、そんなこと考えもしない!!!あいつだって……」
「?」
(今、何か…)
「裕って、恋人か。」
「は、はぁ!?」
思わず、声が裏返った。
「図星か。本当どうしようもない奴。」
「悪かったわね!どーせ私は死に損ないよ!!」
「元気になったか」
「はぁ!?」
「仕切り直しするぞ」
そう言うと亀瀬はニコっと笑った。
なんだか、その笑顔が裕に似ている気がした。
「今度は絶対、離さないからな。」
そのまま、手首を引かれ、海へ連れていかれた。
冷たかったはずの海水が、心地よく感じられた。
「着いたぞ。」
海の目の前には、夢の中のような光景が広がっていた。
何よりも目を引いたのが、真ん中に建つ城。
花畑がそこにあるかのように、色鮮やかで、何よりキラキラしていた。
「すご……」
「亀ちゃあ~~~~~~~~~~~~ん♪」
誰かに抱きつかれ、ドキっとした。亀瀬は呆れ顔。
「乙さん…少し落ち着いてください。彼女が驚いてます。」
抱きついてきたのは、乙という亀瀬より少し上ぐらいの男性だった。
「新太、誘拐してきちゃダメでしょ!ママそんな子に育てた覚えは」
「はいはい。すみません。」
総スルーされる乙は、見ていてかわいそうだった。
乙はぶすっと頬を膨らませる。
「いーもん、この子に付き合ってもらうし。ね?」
さらに強く抱き締められる。
(さ、さすがに恥ずかしい…っ)
どうやって逃げ出そうか考えていると、亀瀬が手を掴んできた。
「これ、俺のなんで、手出さないでもらえます?」
(は、はいいいいいいいいい!?なんでそんなことを!?)
亀瀬の方を見る。平然としているのが、逆にムカつく。
私は、そのたった一言を、意識してしまっているというのに。
(ドキドキ、止まってよ…)
「ふーん…まぁ、いいけど。でも余計、欲しくなっちゃったな。彼女のこと。ね、名前聞かせてよ。」
びくっとして、戸惑いながら答える。
「う、浦島 海…です。」
「海ちゃん。単刀直入に言うよ。俺と、付き合ってくれない?」
(えええええええええええええ#%%@?}~~\]]]〃仝`;!?)
展開についていけず、あたふたする。
「あ…えっ……と」
「来い」状況整理の暇も与えられず、強引に連れていかれた。
連れていかれたのは、個室だと思われるところだった。
亀瀬が話始めた。
「…さっきのは、本気だから。」
「え…?」
「今日からあんたは、俺のものだ。海。」
鼓動が早くなる。
「でも…私は……」
「お前に拒否権なんてないから。では早速」
そういうと、亀瀬は顔を近づけて来た。
(まさかこれって…キス!?)
ぎゅっと目を瞑る。
「はい、じゃあこれからよろしく。」
ゆっくり目を開けると、目の前にバケツと雑巾がつき出されていた。
「えーっと…何?」
「俺のパシリになれってことだけど?」
(さ、最悪だあーーーーーーーーーーっっ!!!!)
こうして不覚にも、キュンとさせられてしまった海は、亀瀬 新太のパシリへと変わっていくのじゃった…