浦島さん、自殺しかける。~プロローグ~
むかーしむかし、といっても平成のお話であります。
あるところに、浦島 海という名の少女(JK)がおったそうな。
海は、その日まで幸せな日々を送っておったのじゃった……
「だあーーーーーーーっ!!!!!!!!!!あの野郎ーーーーーー!!!!!!!!!!!!!っっ」
普通なら近所迷惑の大声で、海は叫んだ。
その日はなぜか、怒る人はいなかった。
「本当…海って何もないよね………私とおんなじ。」
誰もいなかった。あるのは波の音と、静寂。その中に海はいた。
ー1時間前
「だからさ、無理なんだよ。」
「は?何が?」
「分からないの?」
「言うことあるなら早く言ってよ。」
「別れて」
「…は?」
「あと、俺のメルアドとか消しといて。」
「何一方的に…っ別にいいし、もともとそんな好きじゃなかったし、あーよかった!!」
ーそして、失恋した。
好き。大好き。誰よりも好きだったのに。
向こうから拒絶されるのが怖くて、自分で切った。結局、悲しいだけだった。
馬鹿馬鹿しくて、辛くて、情けなくて。そういうのがごちゃごちゃと混ざって、滴に変わってぼたぼたとこぼれ落ちる。
「裕っ……のバカ……そんな…好きって…いってくれた…のに…うらぎりものおおぉ……っ」
馬鹿は自分であって、彼氏は悪くない。そうわかっていても、感情が溢れでてくる。
人間、案外うまくで来ていないものだ。
(もう、いいや……)
海はもう、抜け殻のようになっていた。まるで死体が歩いているかのようだった。
ふらふらしているが、まっすぐ海へ向かう。
(早く、楽になりたい。早く。)
足を入れた海水は、とても冷たかった。構わず海は、どんどん入っていく。
首ぐらいまで浸かったところで、思い出が急に甦った。
(これが、走馬灯ってやつなのかな。)
海は、ふっと、微かに笑った。
「さようなら、私。さようなら………裕。」
目をつぶる。終わりだ。私の人生は、終わった。
「…あのさ、海で死なれちゃ困るのは、俺なんですけど。」
(あぁ、確かに、天使も海まで来るのは、大変だよなー……………ん?)
肌には冷たい水があたる感じがまだしていた。
(なんで…?もしかして、死ねてない………?まさか………!)
「裕!!」
ぱっと目を開けると、死ぬ前と同じ景色。と…?
「…は?裕?誰ソレ。あんた、どっかで頭打ったんじゃねーの。」
目の前にいたのは、少し長めの、黒髪の少年だった。しかも、自分はおんぶされていた。
状況が飲み込めず、あたふたしていると、少年が振り向いた。
「誰と勘違いしてるんだか知らないけど、亀の俺にだって名前くらいある。亀瀬 新太。間違えんな。」
混乱している海のことなどお構いなしに、新太は話を続けた。
「どーせ死ぬならさ、一回俺んとこ来いよ。うん。そうと決まれば、さっさと行くぞ!」
そう言うと、海を背中に乗せたまま、海へと潜っていく。
(え…亀?何??この状況?連れ込まれ………えええええええええーーーーー!?)
これが、浦島さんのお話の始まりだったそうな。