表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/10

腹の底から出る嗚咽

悔しかった。許せなかった。

一番に、私自身を・・・・

二番に、コンビニを・・・

三番に、優しすぎた彼を・・・

やっぱり、許せない!

3月31日、コンビニとの契約が終了し、次の経営者との引き継ぎが行われた。

その日、久しぶりにコンビニに行った。

沢山の人だった。本部の人と、棚卸し業社の人達だろう。

今、棚に並べられてあるものは全て・・・今日までは私の物である。値段にすると、約700万円ぐらいになろう。その一つ一つを数えていくのだ。店では、三ヶ月に1回棚卸しを行っている。その慌ただしい店の中の様子がガラス越しからでも伺えるほどだ。

店に入る前に、入り口横を見てみた。あっちゃんは、店の角にある吸い殻入れが置かれた場所でよく煙草を吸っていた。お客さんと話しながら・・・よくそこに立っていた。


事務所の中は、あっちゃんが、いた時より少しだけ綺麗に片付けられていた。


でも、やっぱり廃棄商品の山だ。雑然としている。誰がしても、なかなか整理できないよね。こんなに商品があっては。

「無駄な。必要のない。無計画な商品の山」が所狭しと置かれていては・・・と、無性に腹立たしくなった。もう関係ないのに。


よく見ると、お気に入りの椅子が、揺れている。さっきまで誰かが座っていたのだろう。

あっちゃんは、椅子に座って片肘ついて頭を抱え毎日沢山の発注をしていた。疲れたら椅子にもたれかかり背伸びをする。

まだ、あっちゃんがいるようだった。

いま、ここに居ないのは、

「はっはぁ〜ん。また、煙草吸っているなぁ。」なんて、思わせるほどそこは、全く変わっていなかった。

そっと腰を下ろしてみる。椅子からかすかに彼の匂いがした。目を閉じ椅子を揺らした。

そして、「お疲れ様でした。」と、小さい声でつぶやいた。思わず涙が出てきた。


あーぁ。

もう、ここにも い な い。


コンビニとの話し合いは、今日で終わったわけじゃない。今日からが本番だ。商品の数を正確に数え金額に表す。それから私の資産を計算すると言う訳だ。どれだけのお金の請求がくるのかと思うと・・・・怖くて怖くて。生きた心地もしない。


挨拶をして、足早に去った。

思い出はあるけれど、どうしても居心地の良い場所とは言えない。彼の苦しんでいる悩んでいる姿が浮かんでくる。命を削った場所には、違いないから。

棚卸しの様子を見て、契約終了の紙に印鑑を押しただけなのに、何故かとても疲れたような気がした。


車を走らせ家へと向かった。玄関を開ける気持ちが重い。「よしっ」と、声に出し一気に開け「引っ越し」のための準備をまた始めた。

いつ・・・でも、出ていけるように。

この家から・・


片付けは、3月29日から始めているが一向に進まない。

21年間の家族の生活蓄積物は多すぎて、思い出はあるし、なかなか捨てられないのが現状だ。


あっちゃんのメモ書きが出てきたり、写真でも出てこようものなら、もうその日の片付けは、終わり。

涙・・・・涙

で・・・とてもできない。


片付けても、

片付けても・・後から、後から出てくる。ゴミと言えば、ゴミの様な・・・何とも、捨てがたい大切なゴミが。


21×2+13=55


今年の誕生日が来たら、あっちゃんは55歳になる。彼の年齢と同じ数。たわいもない、偶然の一致にもかかわらず、 思わずこの数の不思議に頬が緩む。

人間には決められた「定め」があるかのようにも感じられる。

緊急入院や突然の死、そして、多額の借金の発覚。突然降りかかってきた絶望の雨?・・・・も、決められていたことなのだろうか。と、考えてしまう。


私は、何もかも予測していなかった。だから「 あっちゃんの裏切り」を感じていた。


でも、こうして、3人で暮らしたこの家に、「さよなら」しながら片付けていると・・


娘が保育所に通っていた頃の絵や鞄が出てくる。思わず胸に当て泣いてしまう。

「あれ?

ここは泣くところじゃないだろ?」って、独り言。


バービー人形の頭はハゲ頭・・・・・

思わず、笑ってしまう。


日記帳に、ノート・・・・自作の漫画や小説まで。手を止め、夢中で読む。泣いたり可笑しくなったり結構忙しい。


そして、そっとあっちゃんのタンスを開けてみる。「止めた」と、言って閉める。昨日からの雨で、部屋がタンスの中が湿っぽい。だからなのか妙に臭う。あっちゃんの香水の匂い。


あっちゃんと暮らした家

あっちゃんの居場所

あっちゃんの好きだっだ本、香水、服・・・・・・・は、

私たちの荷物の邪魔をしないように、主張はするものの遠慮深げに置いてある。


そうだった。



いつも、自分のことより私のこと。

「どこ行きたいんかあ〜。」


「何が食べたいんかあ〜。」


「ええぞ。俺がする。心配すな。」


あっちゃんは、ただ家族の笑顔が見ていたかっただけなんだ。

あっちゃんは、ただ自分の事で心配かけたくなかった 。

あっちゃんは、きっと自分一人で解決しようと思っていたんだ。


自分一人でなんとかしようと・・・


家族が笑っていられるために・・

私と娘の笑顔だけを見るために・・


泣き顔を見たくないから・・・。


言えなかっんだ。

体のことも。お金のことも。コンビニのことも。


私達の笑顔を消したくなかったから。

嘘を・・・死んでからも突き通していたんだ。



愛していたから、裏切っていたんだ。


切なかっただろう。

苦しかっただろう。


今の私より、何倍も。

ならば、この悔しや怒りは、いったい誰にぶつければよいのだろうか。


黙ってはいられない。

私に出来ることは、彼が命をかけ一生懸命に働いた事実を知らせることだと思った。まずは、店担当のSVスーパーバイザーに電話しよう。きっと、細やかな小さい小さい抗議だろが・・・・。


悔し・・・・いから。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ