腹の底から出る嗚咽
悔しかった。許せなかった。
一番に、私自身を・・・・
二番に、コンビニを・・・
三番に、優しすぎた彼を・・・
やっぱり、許せない!
3月31日、コンビニとの契約が終了し、次の経営者との引き継ぎが行われた。
その日、久しぶりにコンビニに行った。
沢山の人だった。本部の人と、棚卸し業社の人達だろう。
今、棚に並べられてあるものは全て・・・今日までは私の物である。値段にすると、約700万円ぐらいになろう。その一つ一つを数えていくのだ。店では、三ヶ月に1回棚卸しを行っている。その慌ただしい店の中の様子がガラス越しからでも伺えるほどだ。
店に入る前に、入り口横を見てみた。あっちゃんは、店の角にある吸い殻入れが置かれた場所でよく煙草を吸っていた。お客さんと話しながら・・・よくそこに立っていた。
事務所の中は、あっちゃんが、いた時より少しだけ綺麗に片付けられていた。
でも、やっぱり廃棄商品の山だ。雑然としている。誰がしても、なかなか整理できないよね。こんなに商品があっては。
「無駄な。必要のない。無計画な商品の山」が所狭しと置かれていては・・・と、無性に腹立たしくなった。もう関係ないのに。
よく見ると、お気に入りの椅子が、揺れている。さっきまで誰かが座っていたのだろう。
あっちゃんは、椅子に座って片肘ついて頭を抱え毎日沢山の発注をしていた。疲れたら椅子にもたれかかり背伸びをする。
まだ、あっちゃんがいるようだった。
いま、ここに居ないのは、
「はっはぁ〜ん。また、煙草吸っているなぁ。」なんて、思わせるほどそこは、全く変わっていなかった。
そっと腰を下ろしてみる。椅子からかすかに彼の匂いがした。目を閉じ椅子を揺らした。
そして、「お疲れ様でした。」と、小さい声でつぶやいた。思わず涙が出てきた。
あーぁ。
もう、ここにも い な い。
コンビニとの話し合いは、今日で終わったわけじゃない。今日からが本番だ。商品の数を正確に数え金額に表す。それから私の資産を計算すると言う訳だ。どれだけのお金の請求がくるのかと思うと・・・・怖くて怖くて。生きた心地もしない。
挨拶をして、足早に去った。
思い出はあるけれど、どうしても居心地の良い場所とは言えない。彼の苦しんでいる悩んでいる姿が浮かんでくる。命を削った場所には、違いないから。
棚卸しの様子を見て、契約終了の紙に印鑑を押しただけなのに、何故かとても疲れたような気がした。
車を走らせ家へと向かった。玄関を開ける気持ちが重い。「よしっ」と、声に出し一気に開け「引っ越し」のための準備をまた始めた。
いつ・・・でも、出ていけるように。
この家から・・
片付けは、3月29日から始めているが一向に進まない。
21年間の家族の生活蓄積物は多すぎて、思い出はあるし、なかなか捨てられないのが現状だ。
あっちゃんのメモ書きが出てきたり、写真でも出てこようものなら、もうその日の片付けは、終わり。
涙・・・・涙
で・・・とてもできない。
片付けても、
片付けても・・後から、後から出てくる。ゴミと言えば、ゴミの様な・・・何とも、捨てがたい大切なゴミが。
21×2+13=55
今年の誕生日が来たら、あっちゃんは55歳になる。彼の年齢と同じ数。たわいもない、偶然の一致にもかかわらず、 思わずこの数の不思議に頬が緩む。
人間には決められた「定め」があるかのようにも感じられる。
緊急入院や突然の死、そして、多額の借金の発覚。突然降りかかってきた絶望の雨?・・・・も、決められていたことなのだろうか。と、考えてしまう。
私は、何もかも予測していなかった。だから「 あっちゃんの裏切り」を感じていた。
でも、こうして、3人で暮らしたこの家に、「さよなら」しながら片付けていると・・
娘が保育所に通っていた頃の絵や鞄が出てくる。思わず胸に当て泣いてしまう。
「あれ?
ここは泣くところじゃないだろ?」って、独り言。
バービー人形の頭はハゲ頭・・・・・
思わず、笑ってしまう。
日記帳に、ノート・・・・自作の漫画や小説まで。手を止め、夢中で読む。泣いたり可笑しくなったり結構忙しい。
そして、そっとあっちゃんのタンスを開けてみる。「止めた」と、言って閉める。昨日からの雨で、部屋がタンスの中が湿っぽい。だからなのか妙に臭う。あっちゃんの香水の匂い。
あっちゃんと暮らした家
あっちゃんの居場所
あっちゃんの好きだっだ本、香水、服・・・・・・・は、
私たちの荷物の邪魔をしないように、主張はするものの遠慮深げに置いてある。
そうだった。
いつも、自分のことより私のこと。
「どこ行きたいんかあ〜。」
「何が食べたいんかあ〜。」
「ええぞ。俺がする。心配すな。」
あっちゃんは、ただ家族の笑顔が見ていたかっただけなんだ。
あっちゃんは、ただ自分の事で心配かけたくなかった 。
あっちゃんは、きっと自分一人で解決しようと思っていたんだ。
自分一人でなんとかしようと・・・
家族が笑っていられるために・・
私と娘の笑顔だけを見るために・・
泣き顔を見たくないから・・・。
言えなかっんだ。
体のことも。お金のことも。コンビニのことも。
私達の笑顔を消したくなかったから。
嘘を・・・死んでからも突き通していたんだ。
愛していたから、裏切っていたんだ。
切なかっただろう。
苦しかっただろう。
今の私より、何倍も。
ならば、この悔しや怒りは、いったい誰にぶつければよいのだろうか。
黙ってはいられない。
私に出来ることは、彼が命をかけ一生懸命に働いた事実を知らせることだと思った。まずは、店担当のSVに電話しよう。きっと、細やかな小さい小さい抗議だろが・・・・。
悔し・・・・いから。




