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第85話 正常な狂気

 翌日、カイトは何時ものような平和な朝を迎えた。

「おはよう! 朝ご飯できたよ~!」

 リビングには制服の上にエプロンを着たセレナがテーブルに朝食を並べており、リビングに入ってきたばかりのカイトは眠そうに目元を擦っていた。

「おはよう、姉さん」

 何時もの日常が戻った、朝食を並べ終えたセレナもまたテーブルにつくと二人で朝食を食べ始める。

 何気ない会話をしながら食事を済ませ、身支度を終えた後二人で学校へと向かおうとした時、セレナが弁当箱を手渡してくれた。

「はいお弁当、今日はカイトの好きなものい~っぱい入れてるからね」

「ほんとに? ありがとう、姉さん」

 手渡された弁当箱を鞄に入れ二人は玄関で靴を履き家を出ると、暫く歩き分かれ道でセレナと別れた後カイトは一人学校へと向かう。



 学校に着いたカイトは靴箱で靴を履き替え自分の教室に入ると、待っていたかのように三人の男子生徒がカイトを囲み始める。

「てめえ……昨日はよくもやってくれたなぁ」

 その内の一人がカイトの胸倉を掴んだ瞬間、担任の教師が教室に入ってきた。

「チッ、昼休みに昨日の償いを全部させてやるからな。覚悟しとけよ」

 教師の前では暴力が揮えない。

 三人は舌打ちをして自分達の席に戻ると、カイトも自分の席に座り鞄の中から教科書やノートを取り出し机の中に入れていく。

 一時間目、二時間目、三時間目、間の休み時間に三人はカイトにあえて手を出さない。

 何故ならその方が恐怖を煽る事が出来るからだ、内心震えて苛められるのを待つカイトを三人は楽しそうに見ていた。

 そして四時間目が終わり昼休みとなる、生徒達は鞄から弁当箱を取り出し昼食を取り始める。

 それはカイトも同じ、鞄からいつもの弁当箱を取り出すと、いつもは教室で食べるはずのカイトが弁当箱を持って教室から出て行ってしまう。

 その後を追うように三人の男子生徒は教室を出ると、どうやってカイトをからかい、苛めてやるかを楽しそうに相談しながらゆっくりと後を追い始めた。



 今日は天気が良い。

 雲一つない快晴、澄んだ青空の下でカイトは学校の五階にある屋上に着くと、一番遠くにあるベンチに座り弁当箱を膝の上に載せた。

 吹き抜ける風が心地良く、日の光りは優しく体を温めてくれる。カイトは膝の上に置いた弁当箱を手に取り蓋を開けようとしたその時、目の前に立った一人の男子生徒が勢い良く弁当箱を蹴り上げた。

「こんな人目のつかない所に態々来てくれてありがとよ、ここなら思う存分殴れるからなぁ」

 男子生徒を握り拳を作ると指の関節の音を鳴らしながら一歩ずつ近づいてくる。

「どうして?」

 宙に舞う弁当箱はカイトとは少し離れた場所にまで落ち、その衝撃で蓋が開いてしまう。

「あ? どうしてだ? てめえ昨日は───」

「どうしてそんな酷い事が出来るの? 僕が憎いから? 僕が弱いから? 僕が何をしたの?」

 その弁当箱に誰も目もくれない。

 毎日姉が作ってくれた弁当。

「理由なんてどうでもいいんだよね、ただ自分の中の欲求を満たしたいだけなんだよね───」

 カイトは落ちた弁当箱をじっと見つめていると、その視線に男子生徒達も振り返り視線の先を見た。

 そこにあったもの、それは中身の入っていない空っぽの弁当箱だけだった。

「───えっ?」

 次の瞬間、カイトの目の前にいた一人の生徒は宙に浮いた。

 青空が下にあり、生徒はその青空に浮かぶ太陽に手を伸ばす。

 屋上にいた二人の生徒が視線をカイトに戻した時に見えたもの、それは先程まで側にいた生徒が手足をバタつかせながら屋上から落ちていく姿だった。

「……え?」

 二人が同時に呟いた声は、生徒が地面に落ちた衝撃音で掻き消される。

 見間違いか? そんなはずがない、二人は直ぐに屋上の手摺にまで走り身を乗り出して下を覗き込む。

 そこには手足の関節が逆に捻られ口から大量の血が溢れ出る生徒の姿が見えた。

「お、おい!……嘘だろ……?」

 目の前で友達が死んだ、殺されたのだ。生徒は恐怖で足が震え全身から汗が噴出し始める。

「嘘じゃないよ」

 そんな生徒の背後でカイトはそう囁いた直後、カイトはその生徒の足を片手で掴むと、軽々と屋上から投げ飛ばした。

「ばいばい」

 優しく手を振るカイトの姿、それが生徒が最後に見た光景。

 一人、また一人と屋上から投げ捨てられ、最後に残った男子生徒は足が竦んでしまい逃げる事が出来ない。

「お、おまッ……お前ぇ゛! 人殺しがぁ! こんな事してどうなるか分かってんのかよ!?」

「……違うよ? 全然違うよ?」

 生徒の言葉にカイトは不思議そうに首を横に振る。

 そんなカイトの態度に生徒は戸惑っていると、カイトは静かに、ゆっくりと、一歩ずつ生徒に近づいていく。

「そこじゃない。重要なのは今後の僕じゃなくて今の君だろう?」

「ナッ……ナメんじゃねえぞクソがぁあああああ!」

 生徒は右手の拳を握り締めると、腕を振り上げカイトの顔面目掛けて勢い良く振り下ろす。

 が、カイトが目にも止まらぬ速さで腕を振り上げると、生徒が振り下ろした右腕は空を舞い足元に落ちる。

 余りの速さに生徒は痛みを感じない、しかし右手の感覚が無くなり傷口から血が吹き出るのを見て目に涙を浮かべながら悲鳴を上げようとした。

「ッ! ~~~!!? っ!?」

 声が出ない、幾ら声を出そうと力を籠めようとも生徒は悲鳴所か一つの言葉も発する事が出来ない。

「へぇ……魔法ってこんな事もできるんだ……」

 その声に血の吹き出る腕からカイトに視線を戻すと、カイトは右手に黒い魔法陣を浮かべていた。

「姉さんは死んだのに……どうしてお前なんかが生きてるの……?」

 見たことも無い複雑な魔法陣からは異様な光が滲み出ており、魔法陣の浮かぶ右手を男子生徒の腹部に当てた。

「魔法……他には何が出来るんだろう……」

 それからカイトによって魔法による実験が開始された。




「ほらほらー、早く来て来て」

 今は昼時、屋上へと向かう一人の少女は二つの弁当箱を持って階段を駆け上がっていた。

 というのも友達の女子と一緒に屋上で弁当を食べたかったので、その子の弁当を取り上げ半ば無理やり屋上へと誘導していた。

「返してよ、私のお弁当!」

 その弁当箱を取り返そうと緑色の髪をした小柄な少女も階段を駆け上がり屋上へと上ってくる。

 そして屋上に着いた弁当箱を持った少女は目の前に広がる光景に足を止め、後から追いついてきた少女は急に止まった少女の背中にぶつかってしまうと、少女が持っていた弁当箱を取り上げる。

 しかし、先程から少女は一点だけを見つめ反応が無い為緑髪の少女は不思議に思い問いかけてみた。

「どうしたの?」

 その答えは少女の口から出る事はない、緑髪の少女はその答えを自分自身の目で確かめる事になる。

 屋上が赤い。何故なら赤い液体が辺り一面に飛び散っているからだ。

 それだけではない、人間の体の一部だと思われる部分が辺りに飛散までしていた。

 赤色の塊、ピンク色をした肉片、腕や足、眼球に、空っぽの弁当箱、そして一人の少年。

 その少年はこの学校の制服を着ており、まだ意識のある人間の手足を簡単に捥ぎ千切っていた。

 この光景を見て何を思う、何も思えない。ただ目の前の光景が現実なのか夢なのか、そんな事すらも考える事が出来ない。

「飽きた」

 少年はそう言うと、手に持っていた人間の形をしていたものを屋上から投げ捨てる。

 そして少年は微笑む、人間の顔とは程遠い悪魔の顔で。

 少年は赤く染まった手をゆっくりと振り上げると、まるで腕の力を抜いたかのように腕を下げた。

 その瞬間、少女達の視界には確かに映った。

 強烈な波動と共に視界に映っている全てのものが吹き飛ばされていく光景が───。



 これが魔法。

 カイトは一人瓦礫の上に立ち辺りを見渡していた。

 校舎も体育館も潰れ、住宅地に並ぶ家、マンションまでもが崩れ落ちている。

 何故自分がこのような力を持つようになったのか……カイトは次第に自覚し始めていく。

 辺りに散らばる瓦礫の下からは生徒達の助けを求める声やうめき声が聞こえてくるが、カイトはその声を耳にしても、この目の前に広がる光景を見ても『感情』といったものが一切湧いてこない。

 その時、ふと視界に入ってきた一人の少女。

 緑色の髪をした小柄な少女は学校の制服を着ており、埋まっている人間を助けようと瓦礫の隙間から出ていた腕を引っ張ろうとしていた。

 するとその腕は簡単に抜ける。そこに胴体はなく肩から千切れた腕だけが出てきており、虚ろな瞳をした少女は放心状態でその場に立っていた。

「外れ、残念だったね」

「えっ……?」

 声を掛けられた少女が後ろに振り返ると、そこには血塗れの制服を着たカイトが立っており、少女はその少年が先程まで人間を殺しこの町を破壊した存在だと理解したが逃げる事も出来ず、ただただ見つめる事しか出来ない。

 カイトはこの町を破壊する寸前に屋上に現れた二人の少女を見たのを思い出す、この少女はきっと隣にいた友達を探しているのだと容易に理解した。

「君の探してる子、僕が探してあげるよ」

 そう言ってカイトは少女の足元にある瓦礫の中に手を入れると、勢い良く何かを引き抜き『それ』を少女に投げ渡した。

 少女は咄嗟に両手を出して『それ』を受け止めてみて初めて分かる、『それ』はつい先程まで一緒にいた友達の生首だった。

「きゃあああああああッ!」

 少女は悲鳴をあげ拒絶するように生首を捨てると、生首は地面に叩きつけられた衝撃で頭蓋骨が割れボールのように転がっていく。

 少女の制服は暖かい生首を受け取ったせいで血塗れに汚れており、現実に絶望する姿を見てカイトは考えていた。

 あのような死を遂げた人間がいる一方、この少女は目立った外傷などはなくこうして生きている。

 確か、二人の少女が屋上に立って居た場所が僅かに違っていた……ただそれだけで生死を分ける程の差が生まれていた事に気付いたカイトは心の底から思った事を口に出す。

「君は運が良い。この町で、君だけが無傷で生き残った。でもそれは皆に悪いと思うよね? だから君は特別に苦しんで、苦しんで苦しんで苦しんで……それから死ねばいい」

 カイトはそう言って右腕で少女の頭を鷲掴み、軽々と持ち上げていく。

 少女は抵抗しようと両手でカイトの右手に触れるが逃れられるはずもなく、必死にもがきながら苦しそうにカイトの顔を見つめていた。

「君から『死』という理を『抹消』する。君は自分の『死』を恐れる限り、決して死ねない───」

 カイトがそう告げた直後、黒い魔法陣が浮かび上がる左手に赤い稲妻が溢れ出すと、その左手を躊躇い無く少女の胸に当てた。

「ぁああああああああああああああああああッ!!」

 苦しみ叫ぶ少女の悲鳴は辺り一面から聞こえてくるうめき声を掻き消す程のものだった。

 全身の血液が酸のように熱く体全体に駆け巡り、激痛を及ぼす。

 見開いたその目からは涙を流し、全身が激しく痙攣して動きが止まらない。

「君は本当に幸せ者だ」



 魔法を終えたカイトは意識を失った少女をその場に落とすと、瓦礫の広がる世界の上で空だけを見つめていた。

 先程まで快晴だった青空も今では暗雲が立ち込めており、瓦礫の下からは助けを求める人間達の声が無数に聞こえてくるが、この状況下でさえカイトは何一つ感情が湧いてこない。

 発動した魔法の意味も、効果も、方法も、まるでカイトを『無』が蝕むように消えていく。

(僕は……どうしてこんな事をしているんだろう……)

 最早自分の存在する意味すら分からない。行動する意味も理由もなければ、自分という存在が分からなくなる。

 自覚はないのだろう、だがカイトの影だけは一人の少年から鎧を身に纏うような巨大な化身へと代わり始めていく。

 『無』の化身にして『最強』、『カイト』という存在が『無』に還る時も近い。

 もう何もかもどうでもいい───カイトは重くなった目蓋を閉じようとした……その時だった。

「オい、目ェ開けろッ」

 声を掛けられカイトは重い目蓋を僅かに開けると、そこには全く同じ姿の自分が立っていた。

(君は……誰……?)

「俺ノ事なんざどうでもいイ、それよりも大事な事があるだろうゥ?」

 大事な事……? カイトにはもう何も分からない、考える事も出来ない。

「俺に『全て』を委ネろ。こノまま『無心』となり消えてもイいのかぁッ? 勿体ねエだろそんなの」

 勿体無い? 消える……? それがどうしたというのだろうか……。

「お前ハ『最強』だ、誰モお前に敵わなイ、お前は己の全ての欲求を満たす事が出来る唯一の存在ダぞ」

(……もう、どうでもいいよ……そんなの……)

「『無』に干渉サれやガって……仕方ネェ、思い出させてやルか───」

 カイトの目の前にいた男が指を鳴らす。

 その瞬間、昨日と全く同じ光景───姉が死に行く光景が広がり始める。

 苦痛に顔を歪め、命が尽きようとする姉の姿……その光景を見せられたカイトは目を見開き姉の姿を食い入るように見つめ続ける。

 この世で最も大切な存在、セレナの死の光景も二度も見る事になったカイトの心は『無』から黒く歪み邪悪なものへと激化していく。

「思イ出せ、姉の死ヲ。何故お前がこンな目に合わなければならなイ? オ前は何も悪ク無いダろう?」

 ……そう、何も悪くない。

 何故ならカイトは『代償』を払い、今までの生活を続けてきたのだから。

 なのに何故? どうして? どうしてセレナは死んでしまったの?

 自分にとってそれが『全て』だというのに、残された自分に何も価値などない。 

 このまま生きながらえ、報われない人生を歩まなければならないのか……?

 ……悔しい、悔しい悔しい悔しい。

 何故自分だけこのような目に合わなければならない、何故自分から唯一の幸せを取り除かれなければならない。

 唯々憎い、唯々羨ましい、自分の世界にはないのに、どうして世界は───。

「オレに全てヲ委ネろ」

 目の前に広がる闇の中に立つ力強い自分自身がハッキリとそう告げると、カイトは助けを求めるように手を伸ばした。

 それはただ助けを求めただけの行動───しかし、カイトが目の前にいる自分に触れた直後、今まで『無』となっていた全ての感情が込み上げて来る。

『姉』の死───辛い悲しい苦しい涙が出て奇声を発し頭が脳が歪み始める。

『血』は飛沫を上げて溢れ出る、人間を殺しその命を奪った自身。目の前で自らの手で人間の内臓を抉り破壊した自分。その血と内臓を見るだけで吐き気を催し嗚咽と共に目に涙を浮かべる。

『悲鳴』は辺りから聞こえてくる、全て自分の力により引き起こされたもの、何の罪もない人達までもが痛み苦しみ絶望しながら死を迎える状況は決して逃れられない現実。

 感情は激化していく、より強く、より強大に、カイトの中に溢れる感情が限界に達した時───カイトの目の前に赤く濁った瞳の自分が手を伸ばしてきた。

「狂えよ、楽になるぜ?」

 それはカイトの心を誰よりも何よりも理解する存在の一つだからこそ言えた言葉。

 カイトは藁にもすがる思いで再び目の前の自分自身に手を伸ばす。

 そして自分自身がカイトの手を握った瞬間───カイトは……『代わった』。



(ああ、そうだ……僕は何も悪くない……)

 世界が見える。

 美しい世界、凛とした世界、綺麗な世界、可愛い世界、優しい世界、暖かい世界。

 確かに存在する世界だ、それは架空の世界でもなければ夢物語でもない現実の世界。

 羨ましい、ただただ羨ましい、どうしてそのような世界の住人なれるのか分からない。

 自分もそうなりたかった、その世界の住人となり明るい人生を過ごしたかった。

 しかし叶わない。何故? どうして? ああ、あああ……思わず嫉妬してしまう。

 他人、他の世界の住人は、その価値も分からず平穏に過ごしていく。

 なのに何故、どうして自分はその世界を望んでも、その世界の住人になれない。

 その世界の住人になればきっと愛しい者とも永遠に暮らせたであろう。

 それ所か自分が傷つくこともなければ苦しむ事もない、平和な世界の住人の一人として過ごせる事が出来たはずだ。

 あの世界の人間は誰からも慕われて生きている。

 あの世界の人間は皆楽しく笑顔で生きている。

 あの世界の人間は幸せな環境で生きている。

 あの世界の人間は愛されて生きている。

 あの世界、あの人間、あの存在、強く生きている、楽しく生きている、思うがままに生きている、望むままに生きている、莫大な富に溢れて生きている、数々の愛に抱かれ生きている、強大な力を振るい生きている。

 仲間に恵まれ、人から愛され、絶対なる力を振るい、その人生を輝かしいものにしていく極僅かであり誰もが望む唯一の存在達。

 ああ……自分も……あのような存在になれたら……。

 羨ましい。

 世界とは不公平だ。

 悔しい。

 人生とは不平等だ。

 許せない。

 あのような存在が無数の世界には数多くあるというのに、どうして自分だけが───。

「ならなろうゼ? それ等を全て超越した存在に」

 成れるものなら成ってみたい、そんな存在に……。

 ……いや、そうではない……そんな存在になりたいと思う一方で、自分の心はもう一つの答えを導き出す。

 そうだ、例えそのような存在になれなくてもいい……ただ……ただ……。

「それともナるか? それ等ノ全てを超越した存在、全てを───歪める存在ニ」

 それだ。

 今の自分に相応しい存在は誰からも慕われ好かれ愛され英雄視される存在ではない。

 そのような存在の全てを己の力で捻じ伏せ陵辱し虐待し思うが侭に出来る存在になることだ。

 あの世界の男を、あの世界の女を、あの世界の存在を、絶対的存在であり誰も敵わない『最強』の力で捻じ伏せる。

 それこそが今、カイトが成りたいと心から願った存在であり。

 その願いを叶える存在がカイトの直ぐ側にいる。

 ならば答えという結果は一つだけだった。



 悲鳴が響き渡る瓦礫の上で自分の顔面を両手で覆い立ち尽くしていたカイト。

 肩を大きく震わせながらその手をゆっくりと退けていく。

 その表情は最早少年の浮かべる顔ではない、誰よりも全てを憎み、何よりも全てを羨む。

 それは嫉妬から生まれた化身といっても過言ではなく、少年……の姿をした化身である『邪神』は目を見開き口を開いた。

「俺はカイト、最強の男だ」

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