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第42話 引っ掛かる間

 空による午前中の魔法の授業は終わり、昼食を挟んだ後も魔法についての授業には続いていく。

 そして午後からの授業内容は魔法による戦闘方法の為、授業の場所は室内であるリビングではなく魔法を放っても大丈夫な屋外、学校の裏山へと移っていた。

 全員が魔装着に身を包み、CLTの領域内に居る為に自分達以外の人間や生き物が存在しないので森は静かなものの、次第に木々がざわめきはじめていた。

 と言うのも今、風の力を操る魔法を発動していたからだった。

 空は自分を中心とした竜巻を作り出したその力の一部を見せた後、風を止め竜巻を消してしまう。

 風を自在に操る空の力を見て美癒達は羨ましそうに見つめていると、鈴は腕を組みながら言葉を漏らす。

「ええなー、うちもそういうのやってみたい」

 魔法という魔法を発動した事が無かった鈴はそう言って手に持っているハリセンをぶんぶん振り回すが、空のように風を操るというより団扇で仰ぐような風しか出せず、その風を浴びる美癒と桜は髪を靡かせながら涼しそうにしていた。

「僕は風のレジスタルを持っているのでこれぐらいは簡単に出来ます。本来レジスタルに属性という概念は無いのですが、稀に僕みたいな属性の宿っているレジスタルがあるらしいです」

「つまりお前には才能が有るという事か」

 空の説明を聞いた桜がそう言うと、空は小さく首を横に振り話を続けていく。

「いえ、そういう訳ではありません。確かに風のレジスタルは珍しいとよく言われますが、そもそも皆其々にオリジナルのレジスタルを持っているので皆と違うのは当たり前なんです。それにレジスタルの力の全ては使う人の心身の強さによって決まります。僕も自惚れないようにしてしっかり精進するつもりです、でないと飲み込みの早い皆さんにすぐ追いつかれてしまいますからね」

「追いつくつもりはない、何れ追い抜くつもりだからな」

 自信満々の桜はそう言って軽く笑みを見せると、空もまた笑みを浮かべ桜の意思に強さを感じ取った。

「その意気です。では、早速練習を始めてみましょうか。基本は防御の時と同じ、強く念じる事で発動する事が出来ます」

 魔法を使う時に念じる事は想像する事でもあり、自分の頭の中で魔法をイメージすればそれに近い魔法を発動する事が出来る。そう空から教わってみたものの、美癒はふと空に聞いてみた。

「空君みたいに風の魔法を私達が使う事って出来るのかな?」

「不可能ではないはずですが、自分とレジスタルによる魔法の相性も有りますからね。レジスタルの種類は千差万別なのでどのような魔法が使えるかは自分次第です」

 空の言う通り、レジスタルを持つ魔法使いが全ての魔法を扱える訳ではない。

 此処の持つレジスタルには向き不向きの魔法も存在しており、必ずしも思い通りの魔法が発動できるとは限らないのだ。



 三人はどんな魔法を発動しようか考えていた時、突如突風が吹き起こると三人は目を瞑りその場でたじろいでしまう。

「おい空、急に風の魔法を使うな……!」

 てっきり空が自分の魔法を見せようと突風を吹き起こしたと思った桜はそう言って目を開けるが、そこに空の姿は無く、代わりに一人の赤髪を靡かせる少女が立っていた。

 見た目は自分達と同じ高校生に見え、背は美癒より少し高く鋭い目付きで美癒を睨んでおり、その右手には人一人の大きさ程の巨大な鋏が握られている。

「てめえが天百合美癒だな」

 威圧的な声を咄嗟に掛けられた美癒は動揺したまま頷いてしまうと、それを見た桜は美癒の前に立ち手元に刀を召喚してみせる。

 この状況で名を聞き、手に武器を持っているのであればそれは間違いなく『刺客』。

 桜の読みは当たった、赤髪の少女は大地を蹴ったかと思えば一瞬で間合いを詰めて美癒目掛け鋏を振り下ろしていたのだから。

 間一髪で攻撃を受け止める事に成功した桜だが、鋏を振り下ろされた衝撃は全身に伝わり思うように体に力が入らない。

 それを見て漸く鈴も刺客が責めてきた事に気付くと、ハリセンを召喚し少女に目掛けて振り下ろした。

 すると少女は両手で握り締めていた鋏を一瞬でバラすと、左右に一本ずつ鋏の片方を握り締める。

 左手に握られた刃は鈴に、右手に握られた刃は桜に向けて振り回すと、鈴と桜は武器と共に軽々と吹き飛ばされてしまう。

 そして少女は両手に握り締めていた刃を連結させ再び鋏の形へと戻すと、その鋏を開き美癒の首に近づけた。

「水色の髪をした少女、『ノート』って子を知ってるよな。……どうやって殺した」

 少女の口から出た『ノート』という名前に美癒は驚くと、疑問を胸に抱きながら少しずつ話し始める。

「ノートちゃんを知ってるの……? で、でも待って、殺したってどういう意味……? 私殺してなんて───」

 美癒の動揺が少女には白々しく感じた、理由はそれだけで十分だった。

 鋏を構えた少女は容赦なく鋏を閉じ、美癒の首を切断したかと思えば、美癒の首の皮に振れる寸前にその刃を止めた。

「どうやって殺したかって聞いてんだよッ!! それ以上無駄な事を喋ると首所か全身をバラバラにすっぞ」

「あっ、ぅっ……!」

 恐怖で言葉が出ない、何よりも少女から感じる憎悪と怒りに美癒は足が竦んで動く事すら出来なかった。

「美癒っち!」

 しかし、そんな美癒の危機的状況に黙ってなどいられない二人がいた。

 少女の鋏を鈴はハリセンで打ち上げると、桜は抜いていたはずの刀を鞘に納め、抜刀の構えに入る。

「薄汚い刃を、私の美癒に向けるな───ッ!」

 居合い。だが桜と少女との距離は離れているにも関わらずその一撃は放たれた。

 教えてもらったのだから桜は知っている、思いは力となる。だからこそこの一撃も桜は自分の可能性を信じた結果だった。

 その結果、抜刀された紅色の刃からは斬撃が飛び、風を切りながら鋏を構えていた少女に向かっていく。

 だが、鋏を構えた少女は桜の放った斬撃を鋏で軽々と弾き飛ばすと、先程の攻撃を見て鼻で笑い始める。

「てめえ、それが魔法とでも言うつもりか?」

 少女は高らかに鋏を上げて構えると、夥しい程の魔力が一瞬で鋏に凝縮されていくのを三人は感じていく。

 容赦の無い一撃が降りかかる───桜と鈴は武器を構え美癒の前に立つと、その一撃から何としてでも美癒を守ろうと意識を集中させる。

「見せてやるよ、本当の魔法って奴をなァッ!!」

 少女は高らかに掲げていた鋏を三人目掛けて振り下ろすと、赤い残光と共に桜の放った斬撃とは比にならない程の巨大な斬撃が音速を超えて飛んでくる。

 つい先程空に教わった防御魔法を思い出す鈴と桜は、全身の魔力を武器に集うように集中させると、二人掛かりで斬撃を受け止めようとした。

 競り合うように斬撃と二人の武器はぶつかり合い、何とか斬撃の軌道を逸らす事に成功したのもの、その反動で二人は斬撃と共に吹き飛ばされてしまう。

「桜さん!! 鈴ちゃんっ!!」

 目の前で二人が吹き飛ぶ姿を見て美癒は二人の名を叫ぶが、二人は地面に倒れた後も中々起き上がれずにいた。

「ぐっ……くそっ……」

 桜は立ち上がろうとしても思うように足に力が入らない、全力を武器に込めて受け止めたはずだというのに、攻撃を止める所か受け流す事しか出来なかった。

「なんなんこの力……めっちゃ強いやん……」

 鈴もまた体を震わせながら賢明に立ち上がりはじめると、鋏を構えた少女の余裕の表情を見て額に汗が流れる。

 圧倒的力を見せ付けられ、鈴と桜は自分達がまだ魔法において未熟な事を嫌でも思い知らされる。

 少女は鋏を片手にゆっくりと歩き始めると、美癒の目の前に立ち再び鋏を構え、その刃先を美癒の首に突きつけた。

「懺悔するなら今の内に聞いといてやるよ。あたしの名はベリーチェ、今からてめえ等をぶっ殺す女の名だ」

 突如美癒達の前に現れ、己の力を見せ付けた少女『ベリーチェ』。

 三人の実力では先ず敵う事は無い強敵の登場に皆不安の色を隠せない。

 ふと桜が回りを見渡すが、そこに空に姿は無く思わず眉を顰めてしまう。

(美癒がピンチだと言うのにあいつはどこに行ったんだ……っ!)

 先程まで魔法を教えていたはずの空がいないのには理由が有った、だがその理由を三人はまだ知らない。



 ベリーチェが現れる寸前、空を含め四人は突風に包まれていた瞬間にある出来事は起きていた。

 突風の中、笑みを浮かべ美癒目掛けて飛んで来る一人の少女が空には見えたのだ。

 空は美癒を庇う為に双剣を構えその少女の前に立ちはだかるが、その少女の両手には何も武器などが握られておらず動揺してしまう。

(なにっ……!?)

 武器を持たない少女を攻撃する訳にもいかない、そう思った空は双剣の構えを解くと武器を振るう事が出来ず、少女は空の前にまで来ると両手を広げ強引に空に抱きついた。

 そのまま空を美癒達から引き離すように進み続け、空は抵抗しようとしたが少女の力は並外れており、思うように抜け出せる事も無く森の中へと消えてしまう。

「は、離してくださいっ!」

 空は全身に魔力を込め自身を纏うような竜巻を発生させた瞬間、少女も空の魔法に気付いたのか直ぐに手を放し距離を置くと、にやにやと笑みを浮かべながら空を見つめていた。

 見た目は幼く明らかに子供だが、その少女から漂う魔力からは異様な雰囲気を感じてしまう。

(子供!? まさかノートやプラーズのように洗脳されている刺客か……!)

 子供相手に手荒な真似は出来ない、空は双剣を構えつつもどのように少女から洗脳を解こうかと考えていた時、少女は右手を大きく振り上げ自己紹介を始めだす。

「は~い! 初めまして~! 私の名前はピタリカ。キュートでかわいい女の子でーっす!」

「……キュートもかわいいも意味は同じです。それより貴方は何者ですか、まさか貴方もゼオスという方の指示で美癒さんを狙いに来た刺客ですか?」

 満面の笑みを浮かべ手を上げた少女を見ても空は警戒を怠らず見つめ続けると、ピタリカと名乗る少女は右手の人差し指を軽く左右に振って顔を背けてしまう。

「はいダメ~、女心を全然分かってないね~。そーやってすぐ本題に入りたがるんだから~」

 せっかくの登場にもうちょっとまともなリアクションをしてほしかったピタリカだったが、空は終始警戒したまま話し続ける。

「貴方がどれだけ可愛らしく振舞っていたとしても、貴方からは……血の匂いを強く感じます」

 外見はただの小柄な少女。しかし空はそのピタリカから漂う異様な気配を強く感じ全く油断が出来なかった。

 するとピタリカは首を傾げた後、ふと空にある疑問を聞いてみた。

「似た者同士だからじゃない? ねえねえ、そんな事よりどうしてあの時私を斬らなかったの~?」

 てっきりピタリカは美癒に飛んでいった際に空から攻撃を受けると思っていたのだが、有ろう事か空は攻撃をせずにそのままピタリカを受け止めてしまったのを見て不思議がっていた。 

「貴方が武器を持っていなかったからです、無抵抗の人を攻撃したくはありませんからね」

 極力人を傷つけたくはない、ましてや相手が女性であり子供、更にゼオスから洗脳を受け無理やり戦わされている可能性も有る為、空は攻撃を仕掛けなかったのだが、そんな言葉を聞いたピタリカは大笑いしてしまう。

「きゃははは! あっま~い、プリンみたいにと~っても甘々なんじゃ~ん」

 馬鹿にするようにきゃっきゃとはしゃぎ笑うピタリカに空は少し眉を顰めると、笑い終えたピタリカは目に浮かべた涙を指で拭った後、空の目を真っ直ぐに見つめ話し始める。

「でもそんな甘い考えなのに、殺る時は容赦無く殺るんでしょ? あのドルズィみたいに」

「っ!……」

 容赦無く殺る。確かにピタリカの言う通り、ドルズィとの戦いで空は容赦無く双剣を振るい風の刃でドルズィを八つ裂きにした。

 今思えば、何故自分があそこまで極端にドルズィを殺す必要が有ったのかと疑問を抱いてしまう。

 あの時確かに強い感情が芽生えたが、自分があの時何を思い出したのか、その記憶が全く頭に残っていなかった。

「誰も傷付けたくなーいとか、平和の為にーとか言っちゃってるけど、結局邪魔な存在は八つ裂きにしちゃうんだもんね~」

「そ、それは……」

 美癒とその理想の世界を守るためにドルズィは不必要な存在なのだから仕方が無かった。

 あの時空はそう思い行動を実行したが、今になってそう言われてみると自分の行動や疑問が本当に正しかったのか迷いが生じてしまう。

「だから私、貴方の事が好きになっちゃった」

「は?───っ!?」

 思いがけない言葉に空は動揺すると、ピタリカは空の直ぐ目の前に立っており、空を見上げるように見つめ笑みを浮かべる。

「さっきも言ったよね~、私と貴方は似た者同士。貴方は仮面を被って優しい人間を演じているけど、貴方の中にはもっと狂気に溢れた貴方がいる。私には分かっちゃうんだよね~」

 ピタリカの言葉を聞きながら空は直ぐに距離を取ろうと後方に下がるが、ピタリカは空の速度に追いつくスピードで接近してくると、空の驚く様を見ながら自分の顔を空に近づける。

「ねえねえ見せてよ~、貴方の本当の素顔をっ!」

 突如ピタリカの両手にカボチャのオブジェが付いた杖が握られると、その杖の先端を空に向けた。

「弾けちゃえー!」

 杖の先端に光り輝く魔法陣が浮かび上がると、杖の先端に巨大な火球が形成されたかと思えば、空に目掛けて火球が放たれる。

「くっ!」

 空は火球を放たれたのを見て双剣を振り上げると、突風を吹き起こしその力で火球の火を掻き消していく。

(この子は炎の魔法を扱えるのか───っ!?)

 それだけではない、空は直ぐにそのピタリカの魔法の力を思い知らされる。

 空は自分の背後を瞬時に取ったピタリカの早さに目を見開くと、ピタリカの周りに僅かだが魔力を帯びた風が漂っているのが見えた。

(炎だけじゃなく風までも!? まさか……!)

「ほーらー! 全力出さないと死んじゃうよー! きゃははは!」

 ピタリカの持つ杖の先端には火球ではなく水球が作られていくと、高圧力で圧縮された水球が空に向けて容赦無く放たれる。

 すると空は先程と同じように風の力で水球を掻き消そうとしたが、火球と比べて質量の高い水球に違和感を感じ咄嗟に魔法を止めると体を捻り間一髪の所で水球を避けて見せた。

 水球は空に避けられ木々が生い茂る森の中へと突っ込んでいくが、水球に振れた木々は悉く砕け散りながらなぎ倒されていく。

 それを見て空は自分の判断が正しかった事に気付くが、水球に気を取られピタリカの気配を捉えていない事に気付き咄嗟に振り返る。

 しかしピタリカは次の攻撃を仕掛けようとはせず、多彩な魔法を扱う魔法使いの存在を知り動揺が隠せない空を面白そうに見つめていた。

「私は魔女だもん。魔法が使えてとーぜんじゃーん」

 ここで空は初めてこの少女『ピタリカ』がゼオスから送られて来た刺客では無い事に気付く。

 ましてや洗脳なんてもっての他、何故ならこのピタリカからはゼオス同様に強い『思念』を感じたからだ。

 ゼオスと同等の存在。だとすれば今、『無限の可能性』を確かめる為、美癒が別の刺客に襲われている可能性が高く、空は直ぐにでも美癒の元へと駆けつけたかったが、それをピタリカが許してくれるはずがない。

 相手は子供で女性、なるべく手荒な真似はしたくない。そう思っていた空だが、美癒を守ると決めた空にとってその感情は少しずつ薄れていくと、双剣を強く握り締め構えてみせる。

 先程とは明らかに雰囲気が変わった空にピタリカは興味津々に笑みを浮かべると、カボチャの杖を地面に立てて喋り始めた。

「良いじゃんその表情~。い~っぱい私を楽しませてよね!」

 険しい空の表情を見ても尚、ピタリカは余裕の笑みを浮かべる。

 そんな笑みを浮かべるピタリカとは対照的に空は焦りを募らせていた。

 当たり前だ、空には時間が無い。ピタリカを倒し早急に美癒を守りに行かなければならないのだ。

 だからこそ空は冷静になる為にも一度目を瞑り深呼吸をすると、意を決しピタリカとの戦闘を開始した。

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