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第40話 秘密の特訓

 今日は魔法の基礎を終わる為の授業と特訓が有る為に学校はお休み。

 本来甲斐斗は美癒の学校行事を休ませたくはなかったが、何時また刺客が現れるか分からない以上少しでも早く教える必要があった。 

 美癒は眠そうにうとうとしながら一人リビングでマグカップに注がれたホットミルクを飲んでいると、玄関のチャイムが鳴ったのが聞こえ急いで玄関へと向かい勢い良く扉を開けた。

「おはよう! 桜さん、鈴ちゃん!」

 そこには私服姿の桜と鈴が立っており、二人は美癒に挨拶を返すと家へと上がり始める。

「いやー何か学校をズル休みしてるみたいでドキドキするなー」

「私は普段仕事で休む機会が多いからなんともないけどな」

 学校を休む事に違和感を感じながら鈴は嬉しそうにしていたが、桜は普段通りの様子でリビングへと入っていく。

 すると美癒は台所へと向かい冷蔵庫を開けて牛乳を取り出すと、二人の方を向いて声を掛けた。

「今ミルク淹れるから座ってて。あ、ココアとかコーヒーもあるよ」

「うちココア!」

「それなら私はコーヒーを頂こうか」

 美癒が飲み物を作ってくれる間に桜と鈴は椅子に座ると、桜はテーブルの上に置いてあった白いマグカップに気付き手に取ってみせる。

「ん、これは美癒のマグカップか。ペロペロ」

 その余りの堂々とした態度と行動は誰が見ても違和感を感じない程熟練した動きだったが、美癒のマグカップを舐める桜を見た瞬間に鈴は目を光らせた。

 音速を超えて振り下ろされた鈴のハリセンが桜の後頭部に直撃、桜のおでこは勢い良く机に叩きつけられる。

 その轟音に驚いた美癒は両手にマグカップを握り締めながら慌てて二人の元に戻ってくる。

「ど、どうしたの!?」

「なんでもないでー美癒っちありがとなー」

 鈴は笑顔でココアの入ったマグカップを受け取るが、桜はテーブルに突っ伏したまま一切動かない。

 明らかに何かが起きたのだろうが美癒はその場面を見ていない為首を傾げていると、桜はゆっくりと起き上がり差し出されているマグカップを手に取る。

「ありがとう美癒、頂くよ……」

 赤く腫れたおでこを摩りつつ桜はコーヒーを飲み始めると、リビングの扉が開き空が現れた。

「皆さんおはようございます。早速ですが魔法についての授業を行おうと思います」

「あれ、教えてくれるのは親戚の人ちゃうん?」

 再び甲斐斗の事を親戚の人と言ってしまう鈴に空は苦笑いを浮かべてしまい、名前を呼ばれない甲斐斗が少し可哀想に思えてきてしまう。

「僕も甲斐斗さんだと思っていましたけど、昨日僕から教えるように言われましたので僕がやります」

 それを聞いた鈴は頷いて納得していたが、桜は少し表情を曇らせた。

「そうか、少し残念だな。昨日簡単に聞いてはいたが、あの甲斐斗という男は傭兵の魔法使いなんだろう? しかも見た目の年齢を魔法で変えているらしいじゃないか。私も是非その魔法を覚えてみたいと思っていたんだがな」

 魔法で見た目の年齢すら変えられる事を知った桜にとってその魔法はとても興味があった。

 人間、それに女性なら誰だって考えた事があるだろう。歳を取らずに永遠に若いままの自分を保っていたいと。

 すると空は難しそうな表情を浮かべると、申し訳なさそうに桜に説明をしはじめる。

「確かに魔法は万能とも言える力ですが、あのように年齢を変える魔法は聞いた事もありません。恐らく超高難易度な魔法のはず、僕達では困難だと思いますよ」

「そうなのか? だとすればあの男、多少は出来るみたいだな」

 それほど難しい魔法を扱うとなれば、あの甲斐斗という男が多少強い事も納得できる。

「自分の事最強言うてたもんなー」

 ココアを飲み終えた鈴はそう言って甲斐斗の事を思い浮かべてみる。

 未だに甲斐斗の力も存在感も薄い印象の鈴に空は何と甲斐斗の事を説明していいか分からず少し困っていると、テーブルの上に置かれた白いマグカップに気付いた。

「あ、僕の分まで用意してくれたんですね。ありがとうございます」

 空はテーブルの上に置いてあった白いマグカップを手に取ると、そのまま自分の口元へと近づけていく。

「なっ!?」

 その行動に桜が動揺し声を上げる、何故なら美癒のマグカップだと思っていたはずなのに空がそのマグカップを手に飲み物を飲もうとしていたからだ。

「えっ!?」

 同様に鈴も声を出す、先程桜がマグカップに口をつけていたのを見ていた為、このままいけば間接キスになると思ったからだ。

「あっ!?」

 空が手に持っている白いマグカップを見て美癒もまた驚いてしまう。

 本来自分のマグカップは白いマグカップだが、そのマグカップには可愛らしい動物の絵が描かれている為、空が何時も使っている白いマグカップと間違えて使ってしまった事に気付いたのだ。

 マグカップを手にホットミルクを一口飲んだ空は三人が驚愕した表情で見つめているのに気付き、ゆっくりとマグカップを口から離すと、何をそんなに驚いているのかを恐る恐る聞いてみる。

「……ど、どうかしたんですか?」

「ふんっ!!」

 次の瞬間、桜の渾身の右ストレートが空のみぞおちにクリティカルヒットする。

「ゲフゥッ!?」

 思わぬ不意打ちに空は跪き腹を抱えて俯いてしまうが、ゆっくりと顔を上げ苦しそうな表情で桜を見上げた。

「さ、桜さん。いきなり何をっ……」

「十万だ」

「えっ……?」

「十万出せ。私のファンならもう一つゼロが多くても出すだろう、本来金で解決出来る事ではないが私は優しいからな、今回だけは特別にそれで許すかどうか考えてやろうじゃないか」

 威圧する態度で腕を組んだ桜に空は何故自分が殴られたのかも分からず困惑していると、美癒は慌てて空の元に駆け寄り申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめんなさい空君! 私間違えて空君のマグカップ使っちゃった」

「そ、そうなんですか……」

(あれ、でもそれだけでどうして僕は桜さんに殴られたんだろう……美癒さんも謝る必要なんかないのに……)

 空はお腹を摩りながら漸くその場に立つと、その美癒の発言を聞いた桜がある確認を始める。

「何? そのマグカップは確かに空用だが、先程までは美癒が使っていたのか?」

「うん、そうだよ」

 その一言を聞いた途端に桜は組んでいた腕を解くと、未だに苦しそうにしている空の肩に手を置いた。

「よし、なら許す」

(僕は一体何を許されたんだろう……)

 満足気な表情を浮かべる桜はそう言うが、空は困惑したまま暫く動けずにいた。



 気を取り直し、空はリビングに大きなホワイトボードを持ってくると、美癒が少し驚いたように聞いてみた。

「あれ? 空君、それって何処から持ってきたの?」

「唯さんが用意してくれたんです、僕も聞いてみたんですけど外の物置にあったと言っていましたよ」

 初めて見るホワイトボードの存在、そして物置から持ってきたといわれたホワイトボードに美癒は少し不思議がっていると、空はペンを使い何やら簡単な図を書き始めた。

「今日は魔法の基礎、先ずはレジスタルについての説明をしようと思います」

 人の全身を描き、その胸元にレジスタルという字を書いた後に丸で囲むと、空は自分の胸に手を当て語り始めた。

「レジスタルとは魔力の源です、そして僕達魔法使いは体内に宿るレジスタルを利用し魔法を発動します。こんな風に───」

 そう言って空は右手を前に出すと、右手に光りが集い美しい剣を召喚される。

「これも魔法の一種です、体内にあるレジスタルを具現化して作り出した物ですから、言わばこれもレジスタルの一つですね。皆さんも出してみてください」

 簡単に言ってみせる空に桜と美癒はどうやって出せばいいのか分からず戸惑っていたが、鈴は右手を大きく上げると簡単に自分のレジスタルである『ハリセン』を召喚してみせる。

「ほいできた!」

「「おおー」」

 鈴は自身満々にハリセンを構えると、桜と美癒は尊敬の眼差しで拍手をする。

 空は手に持っていた剣を消すと、レジスタルを具現化できない桜と美癒にコツを教え始める。

「自分を信じて強く念じてみてください、お二人ならきっと出来ますよ」

「うーん、念じればいいと言われてもなぁ……」

 強く念じろと言われても桜はどうもしっくり来ない為、中々思うようにレジスタルを具現化する事が出来ず、そんな桜に空はアドバイスを告げた。

「そうだ、何か強い感情と共に念じてみるのはどうでしょうか。レジスタルは扱う人の心に影響されますからね。例えば誰かを守りたいからとか、何かを成し遂げたいから、みたいな感じで」

「強い感情か、よし」

 空に言われた通りに桜はある感情を抱き目を瞑ると、右手を突き出し目を見開く。

 その瞬間、桜の右手には鞘に収められた刀が召喚されると、桜は驚きながらも嬉しそうに鞘から刀を抜いてみせた。

「お、出来た」

 美しい刀に見惚れながら桜は立ち上がり刀を構え、そんな凛々しい姿を見た美癒は桜がどんな事を思い念じたのか聞いてみた。

「すごいね桜さん、何を思って念じてみたの?」

「頭の中で『みゆみゆLOVE』と百回唱えただけさ」

「えっ?」

「さあ美癒、次はお前の番だ」

「え、あ、うん! わかった!」

 桜も鈴もレジスタルの具現化に成功した。

 美癒は自分も早くレジスタルを具現化しあの白いステッキを召喚しようと強く念じ始める。

 しかし、美癒の思いとは裏腹に一向にレジスタルが具現化される事は無く、その時美癒は有る事を思い出した。

「あ……そういえば、私のステッキは折られたんだった……」

 自分のレジスタルはドルズィに圧し折られたていた事に気付いた美癒、もしかしてもうステッキを出す事が出来ないのかと一瞬不安が過ぎったが、そんな美癒を安心させるように空が声をかける。

「大丈夫です、時間がたてば壊れて傷付いていてもレジスタルは修復されます、まだ美癒さんのレジスタルは修復されていないのかもしれませんね。僕も何度かそういう時がありましたし心配いりません」

 空は自分も似たような経験が有ると伝え美癒の不安を取り除くと、刀を構えていた桜がその刃を鞘に戻しある事を聞いてみた。

「空、今はこうして刀が出てきているが、念じる事で数を増やしたり、他の種類の武器を作り出す事も可能なのか?」

「いえ、レジスタルを具現化して作られる武器は基本一つだけです。それに種類も固定されます。レジスタルが具現化されて出てきた武器こそがその人にとって一番扱いやすい武器になりますからね」

「なるほど、どうりで鈴のレジスタルはハリセンなのか。納得した」

 ハリセンを指先で器用に回す鈴を見て桜はそう言うと、鈴は自信満々にハリセンを構えてみせる。

「うちの自慢のハリセンやねん」

「知ってる、いつも叩かれてるからな」

 その痛さも誰よりも理解している桜は手元から刀を消すように念じてみると、刀は光り輝く粒子となり消えてしまう。

「それで、次は何を教えてくれるんだ? 魔法による戦闘方法でも教えてもらえれば嬉しいんだが」

「魔法による攻撃等、戦闘に関する事はまだ駄目です。魔法の基礎を覚えなければいけませんからね。桜さん、もう一度刀を出してみてください」

「ああ、分かった」

 桜は再び強く念じて刀を難なく出してみせる、どうやら既にコツは掴んだらしい。

「その刀で僕を斬ってみてください」

「どりゃぁぁあああっ!!」

 刹那の瞬間、空と桜の思考が冴え渡る。

「いっ───!?」

 空は確かに『斬ってみてください』と言ったがそれは軽い冗談のつもりであり、そんな事を突然言われても桜は刀を振らないと思っていた。

 例え振るにしても弱々しく振り下ろしてくるだろうと考えていたが、その考えは甘かった。

 桜からしてみれば恋敵を正当的に排除できる機会であり、どうせ魔法で何とかするのだろうと思ったので容赦無く刀を振り下ろす。

 空は瞬時に両手を上げると、振り下ろされた桜の刀を間一髪の所で真剣白刃取りしてみせる。

 その額には汗が滲んでおり、刀の刃先は目の前にまで近づいている状況に息を呑んでしまう。

「おおー! かっこええー!」

 鈴は目を輝かせて空の勇姿を目に焼き付けると、美癒もまた空の一瞬の行動に驚いていた。

「すごいね空君! それも魔法なの?」

「い、いえ……これはッ、魔法ではなくて……! って桜さん! もういいですから力を籠めないでください!」

 白刃取りしても尚桜は腕に力を籠めて刀を振り下ろしにかかる為、空は両腕を震わせながら耐え続けていた。

「ふん、お前が斬れと言ったのではないか」

 桜は刀を鞘にしまい不貞腐れた態度で空を見つめると、空は額の汗を拭い一息つく。

「まさか全力で斬りかかって来るとは思ってませんでしたよ……やり方を変えますね」

 空は漸く落ち着きを取り戻すと、レジスタルを具現化し両手に双剣を召喚してみせる。

 それを見た桜は慌てて刀を抜き、空に襲われると思い警戒態勢になってしまう。

「お前が斬れと言ったのだろ!? やる気か!!」

「やりません。それに僕の剣では桜さんに傷一つ付ける事は出来ませんよ」

「……どういう事だ?」

「こういう事です」

 徐に空が剣の刃先を自分の腕に強く当てると、勢い良く剣を引いてみせる。

 その場にいた空を除いた三人はその咄嗟の行動を見て思わずビビってしまうが、空は平然とした様子で剣を最後まで引き抜くと、その腕を美癒達に向けた。

 先程剣の刃が腕に当てられていたにも関わらず、そこには傷跡一つ付いていない。

「これがレジスタルで具現化された武器の代表的な特徴です。金属で作られた物とは違い、自分の意思で威力をコントロールする事が出来ますし、肉体にではなく相手のレジスタルにダメージを与える事も可能です。これを使えば例え戦闘になろうとも相手の命を奪わずに倒す事だって出来ます」

 魔法とは争いを生み、人を傷つけるだけのものではない。

 当然人を癒し、守り、助ける力でもある。全ては魔法を使う人間の意志次第。

 レジスタルを具現化した武器も同様である為、その効果は使う人間によって様々に変化する。

「さっき桜さんに斬ってみてくださいと言ったのは、桜さんが僕の事を考えて加減してくれると思っていたからです。ですが、あの時の桜さんは恐らく本気で僕を斬ろうとしたので焦りましたよ。ちなみに僕が桜さんにこの剣で切りつけても、僕は桜さんを傷付けたくないと思っているので傷一つ付けられません」

 これもまた不可能を可能にする魔法の力。

 美癒は魔法の素晴らしさを今一度体感し空の話しを聞いていく。

 魔法で襲ってくる刺客から大切な人達を守るには、同様に魔法を使うしかない。

 授業はまだまだ続く。三人は楽しく、そして真剣に空の話しを聞いていくのであった。

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