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第38話 統べる者達

 美癒の持つ『無限の可能性』のほんの一部を垣間見たゼオスは、転移魔法を発動し元の世界へと帰ってきていた。

(ん……これは……?)

 だが、元の世界に帰ってきた瞬間に違和感を感じると、ゼオスは宮殿の一室へと帰るやいなや部屋の窓を全開に開き外の景色を見渡した。

 普段、窓を開ければそこには長閑な森が広がっており、青空の中で太陽が眩しく輝いているのが見える。

 しかし今は違う、大空には次々に巨大な魔法陣が現れ始めると、その魔法陣の中からは空中に浮いた戦艦が何隻も転移されはじめていた。

 龍馬が呼び出したアルトニアエデンの軍隊が到着、ゼオスの要る宮殿へと進軍してきていたのだ。

「んー……私の開けた道を辿って場所を特定したみたいだね」

 落ち着いた様子のゼオスだったが、宮殿内にいた少年『タクマ』が慌てた様子でゼオスの部屋へと入ってくると、あたふたしながら窓の外を指差した。

「ゼ、ゼオス! なんかいっぱい来てるよ!? あれってアルトニアエデンの軍隊だよね!?」

「ええ、そうです。どうやら私のせいでこの場所がバレてしまったみたいだ」

「どどどどうにかしないとヤバイよね!? よし、僕行ってくるよ!」

 先程まで慌てていたタクマはガッツポーズをとって勇敢にも外へと出ようとするが、その肩をゼオスに掴まれてしまう。

「落ち着きなよ、それに私達の出番は有りません」

 そう言ってゼオスはその場に跪くと、気配を察知したタクマもまた後ろに振り返り慌てて跪きはじめる。

 扉を開けて現れた一つの存在。

 それは此処にいる者達を統べる絶対的存在であり、全ての計画を牛耳る者。

 巨大な体格は鋼の鎧で全身を纏い独特な紋章の描かれた黒いマントを羽織っており、高圧的な雰囲気と威圧的な覇気が全身から漂っていた。

 その者は跪くゼオスとタクマには目もくれず窓の外の景色を眺め始めると、ゼオスは跪きながらも喋り始める。

「ジン様。可能性の候補者をまた一人見つけ出す事に成功しました。名は天百合美癒と申します」

 ゼオスは魔法により一枚のカードを召喚すると、そのカードには美癒の顔が写っており、跪きながらそのカードを差し伸べる。

 するとジンは振り返りゼオスからカードを受け取ると、美癒の顔が描かれたカードを見つめ続ける。

「これで候補者は二名揃いました、計画を次の段階へと進めます。よろしいですね?」

 その問いに静かに頷くジンを見たゼオスは徐に立ち上がると、ジンに背を向け部屋から出て行ってしまう。

 それを見ていたタクマも慌ててゼオスの後を追うと、恐る恐る後ろに振り返ってみる。

 そこには既にジンの姿は無く、その様子をゼオスは見なくても分かっていた為振り返りなどしない。

 計画が次の段階へと進む喜びを胸に抱き、ゼオスは薄っすらと笑みを浮かべながら歩き続けていた。



 アルトニアエデンから送り込まれた戦力は戦艦五隻であり、その戦力は一つの国を一晩で落とす程のものだった。

 戦艦からは次々に戦闘機が発進し、軍艦と合わせその火力は宮殿の一つを消し飛ばす事など造作もない程である為、最早歩兵部隊の必要は皆無。大量の爆薬と戦艦の主砲による攻撃で全てを焼き払う作戦が決行されようとしていた。

 戦艦の司令室では数多くの兵士達が作戦開始に向けて準備を進めていると、一人のオペレーターが有る者に気付いた。

 宮殿の最上階に位置する場所に、黒いマントを羽織った一つの存在が立っている。

「何だ、アレは……」

 その映像は全ての戦艦に転送されると、館内にいた誰もがジンを見つめていた。

 鎧により顔は見えず性別も分からないが、その体格は大きく、分厚い鎧に身に纏う姿は『魔人』とも思える程だった。

 その時、ジンの姿を映していたモニターから一人の男の声が聞こえてくる。

『汝等に問う。魔法とは何だ』

 篭ったような声、その声の主は間違いなくジンから発せられているものと気付く。

 だが、突然の問いに兵士達は緊張した面持ちで黙っており、誰一人答えられる者はいない。

『力とは何だ』

 ジンの言葉が続く中、艦隊は隊列を組みその場に浮遊したまま停止すると、司令官から各戦艦に居る兵士達に向けて命令が飛ぶ。

『神とは何だ』

 その命令の内容の兵士一同は騒然とした、何故なら戦艦の全て火力を宮殿にではなく、只管質問を繰り返す鎧の男に向けて放つように指示をされたからだ。

 五つ艦隊は全ての砲門を開きはじめると、戦艦の先端にある扉も開き、巨大な砲門がその姿を現す。

 巨大な砲門を宮殿の外で見ていたタクマは頭を抱え怖気づいていると、その横には複数のカードを自分の周りに漂わせるゼオスが立っていた。

「あわわわ!? 僕達死ぬの? これで全部終わっちゃうの!?」

「……ここで終わるのだとすれば、所詮私達はその程度の存在で有り、この世にとって『無価値』である事に過ぎないだけ。価値が無いのなら消えても本望です」

「えええーっ!?」

 急に弱気とも言えるゼオスの発言にタクマは驚いていたが、相変わらずゼオスは澄ました表情で艦隊が並ぶ大空を見つめていた。



『誰も、答えられぬか……』

 ジンは失望したようにそうに呟くと、やや視線を下げてしまう。

 普段から魔法を扱い、力を振るう世の中で、誰も神を理解していない。

 既にアルトニアエデンの全て艦隊は砲撃の準備が整っており、司令官の一言で全て砲門が一斉に火を噴いた。 

 その瞬間ジンは右腕を高らかに振り上げると、黒く眩い光りがジンの右手に集い始める。

『魔法とは不可能を可能にする理の外にある光』

 右手に集った光りは形を成し巨大な鉄槌へと変化する、その大きさはジンを軽く上回る程であり、鉄槌は形を成してもなお光り輝き強力な力が圧縮されるように集い続ける。

『力とはこの世の頂点に立ち己の強さを確立させる闇』

 その言葉の直後、ジンは巨大な鉄槌を前方に浮遊する艦隊に向けて振り下ろした。

 鉄槌から放たれた黒い波動はジンへと向けられた全てのミサイルを潰していくと、戦艦の主砲であるビーム砲まで湾曲させ地面に向けて垂直に圧し折ってしまう。

「前方に高エネルギー反応を確認! シールドを展開しますッ!!」

 戦艦の司令室にいた兵士が戦艦の魔道兵器を起動、戦艦を覆うように半透明のシールドが形成されはじめる。

 だが、ジンの鉄槌から放たれた黒い波動はシールドに触れても尚勢いを落とす事は無く、容易くシールドを粉砕してしまう。

 黒い波動は艦隊を飲み込み、周りに飛んでいた戦闘機もまるで紙くずのように潰れながら丸められていく。

 戦艦に乗っていた兵士達は皆、自分の体に強力な重力が加わるのを感じた直後、その余りに重力に机や床へと平伏していた。

『神とは不可能を可能にし全てにおいて頂点に立つ存在』

 ジンの言葉は全ての兵士の耳に届くが、その言葉の意味を考えられる者は誰一人いない。

 何故なら今この場は『地獄』と化し、人々は絶対的な『死』を突きつけられていたからだ。

 そして、その地獄からは次々に兵士達の断末魔が聞こえてきていた。 

「ぎゃああああああああッ!!」

 一人の男性の兵士は重力に耐え切れず全身の骨が折れ、肉が潰れはじめる。

「痛い痛い痛いぃ゛、嫌あぁぁぁぁぁ!」

 一人の女性の兵士は自分の肉体が潰れ、皮膚を破り血肉が噴出す光景を見て血の泡を吹き出す。

 その場にいる誰もが絶望し、激痛と死の恐怖を味わい続ける中、空中に浮遊していた全ての艦隊は轟音を唸らせながら地面へと墜落した。

 巨大な爆発と共に大地が震え、熱風が全てに向けて襲い掛かる。

 その熱風にタクマは目を瞑り腕で顔を隠すが、ゼオスはその心地良い熱風を全身に浴びていた。

 ジンの目の前には巨大な炎の山が出来ており、その強い火の光りで全身を照らされながら、悠然とした態度で背を向ける。

『故に───我は、神成り』

 それだけ言うとジンは何事も無かったかのように宮殿の中へと戻り始める。

 ゼオスはジンの力の一部始終を見た直後にある魔法を発動、周りを漂っていたカードが一斉に世界各地へと向けて飛び立っていく。

「タクマ、どうやら私達はまだ終わらないみたいだ。というより、これから始まるみたいだね」

「は、始まるって。何が……?」

 タクマにはこれから何が起きようとしているのかなど分からない。

 そんなタクマと向かい合うようにゼオスは目を合わせると、炎の灯りに照らされながら呟いた。 

「戦争さ」




 時を同じくして、美しい巨大な基地の中にある一室では、純白の甲冑に身を包み床に剣を突き立て一人の女性が椅子に座っていた。

「戦争か」

 今まで閉じていた目蓋を開き女性が呟いた直後、部屋の扉が開くと白い修道服を身に纏った小柄な女性が姿を現す。

「ティア、向かわせた艦隊が全滅したみたいよ。おまけに世界の位置情報を歪めたみたいで彼等の居場所も分からなくなってしまったわ」

「そうか……」

 愛する祖国の為に戦う仲間達が死んでしまった、その悔しさを胸に抱きながらもティアの目は決して揺るがない。

「シルト、引き続き調査を頼む」

「ええ、分かったわ。それと一つ報告が有るの」

 ゆっくりと歩み寄るシルトは、ティアに顔を近づけると耳元で囁いた。

「『審判の日』に向けての準備は順調よ、全て計画通りだわ」

「……ありがとう」

 そのティアの一言を聞いた途端、シルトは顔を赤らめ嬉しそうに笑みを浮かべる。

 だが、直ぐにまた平静を保った表情に戻りティアから顔を離すと、一度頭を下げ部屋から出て行ってしまう。

 ティアは再び目蓋を閉じて瞑想を始めたかと思えば、地面に突き立てていた剣を引き抜き立ち上がってみせた。

「我がジャスティア・リシュテルトの名に誓い。必ずこの手で終わらせる」

 全ては審判の日の為に計画を進める必要が有る。

 それは『結果的には』祖国アルトニアエデンの為にもなり、全世界の為にもなるのだから。



 世界は変動する。

 それは巨大なうねりと成り、あらゆる人々を巻き込んで行く。

 天百合美癒、風霧空、甲斐斗。

 この三人もまたそのうねりに巻き込まれた人達であるが、そのうねりの中心に辿り着く事はまだ無い。

 人々は『魔法』に振り回され続ける。

 何が正しく、何が間違い、何が『真実』なのかを求めて。

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