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第35話 助太刀の一手

『終わりの始まり』、その言葉を合図に、ドルズィの全身から伸びている鞭のような紅き刃が美癒に向けて一斉に放たれる。

 すると美癒の側に立っていた鈴が前に立つと、ハリセンを振り回し次々に刃を叩き落としはじめた。

「美癒っちに手ぇ出させんで!」

 鈴のハリセン捌きによりドルズィの攻撃を次々に叩き落としていくが、ドルズィは余裕の笑みを浮かべ視線を美癒ではなく鈴に向ける。

「その言葉、危機感が足りてないんじゃあないかァ?」

 次の瞬間、ドルズィから放たれていた刃の数が倍に増えると、鈴は息を呑み集中してひたすら刃を叩き続けていく。 

「端から俺の狙いがお前である事に気付くべきだ、人の心配をしていられる程の余裕は無い────だろォ?」

 ドルズィの言うとおり今の鈴に余裕などない。これ以上の攻撃をされては一溜まりもなく、鈴はこの状況をどう打破しようか考えようとしたが、そんな考えがドルズィに通用しない事を今、思い知らされる。

 何故ならドルズィの声は前からではなく、自分の背後から聞こえてきたのだから───。

「かはッ───!?」

 鈴が振り向いた時には既に遅く、横腹を抉るような蹴りを受け気を失いそうになる程の痛みを感じながら軽々と蹴り飛ばされてしまう。

 その時、蹴り飛ばされた鈴をすぐさま空が受け止めると、抱きしめている鈴を優しく地面に下ろし、美癒の目の前で睨みつけるドルズィの元へと高速で飛んでいく。

「『可能性の候補者』とはどういう意味ですか、それに貴方の言う『奴』とは誰ですか!?」

 ドルズィの力の秘密に第三者が絡んでいるのではないか、そう思いながら空は攻撃と共に言葉を投げかける。

「そのままの意味だが、三流魔法使いのお前如きが理解する必要は無い」

『可能性』という言葉を聞いたのは初めてではない、刺客グロスからも聞いた『可能性』を持つ存在という言葉に、空はドルズィがノートやプラーズ、そしてグロスを送り込んできた側の者達と繋がりがあると断定する。

 互いが刃を交える中、余裕の表情を浮かべるドルズィに対し空は真剣な面持ちで見つめ続ける。

「その三流の魔法使いに一度負けている事を、貴方は忘れていませんか?」

 挑発に対し挑発で返す空、その言葉をドルズィが聞いた途端、声を荒げ全身から魔力を解放させる。

「忘れてなどいないッ! 忘れていないからこそ今の俺が有るのだからなァッ!!」

 覇気を身に纏いその気迫をぶつけられた空は、思わず圧倒されてしまう程の力に身震いしてしまう。

「敗北する事で己の非力さに嘆き、勝者に甚振られながら絶望し生を懇願する。だからこそ今の俺が存在し、こうしてお前の前に立っている」

 敗北があってこそ今のドルズィが存在する、それは紛れも無い事実。

 ドルズィからしてみればあの敗北は必要不可欠だっとさえ感じていた。

 空の双剣に対しドルズィは無数の紅き刃を自在に操る事で圧倒的手数を誇っているが、攻撃速度は空の方が若干速く次々に刃を弾きドルズィに一撃を与える為の機を伺っていた。

 その様子を見ていた鈴はハリセンを振り上げると、がら空きの背後から強力な一撃をぶつける為にドルズィに襲い掛かる。

 だが、その鈴の気配を察知したドルズィは後ろに振り返る事無く自分の肉体から伸びる無数の刃だけを背後に伸ばし鈴の一撃を軽々と受け止めてしまう。

 鈴による奇襲攻撃を受け止め、前後同時攻撃すら通用しない。

 しかし、空から見れば鈴の奇襲はドルズィに見破られる事を想定しており、一撃が当たるか当たらないかが重要ではなかった。

 重要なのはたった一つ、圧倒的手数で向かってくるドルズィの紅き刃の注意が自分から逸れる事。

 鈴の攻撃はあくまで陽動であり、空は双剣を構えると自分の周りに突風を吹き起こし一瞬で竜巻を作り出すと、その風の力を利用すると共に大地を蹴ってドルズィの懐へと飛び込んだ。


 風の流れのままに振り下ろされた一撃。

 攻撃を終えた空は振り返る事無く双剣を握り締めており、斬られたドルズィはその場に膝を着いてしまう。

 その様子を見た鈴はガッツポーズをとり、空もゆっくりと後ろに振り返り自分の一撃がドルズィに通用した事を確認する。そんな三人の戦いの一部始終を見ていた美癒は困惑した表情を浮かべたまま戦いの行く末を見守っていた。

「ク……」

 ドルズィは斬られた自分の胸を押さえるように鷲掴んでおり、それを見て心配した空がドルズィに一歩近づこうとした瞬間、ドルズィの肩が震えているのが見えた。

「ククク───ギャハハハハハハハッ!!」

 狂気。

 ドルズィは不気味な高笑いをしながら徐に立ち上がると、あろう事か自分の胸元に出来た傷に指を突き刺しはじめた。

 胸元から吹き出る自身の血を心地良く浴びる光景に、鈴は口を開けたまま固まっており、空は手に汗を感じつつも双剣の柄を力強く握り締めていく。

 戦いの最中、ドルズィが徐々に強くなっていくのを感じた空は、ドルズィの『異質』といえる能力に気付き始めていた。

 それは、ドルズィに与えた傷はそのまま力となり、攻撃をすればする程より一層ドルズィは強化されていくという事。

 傷を付け、血を浴び、湧き上がる力に酔いしれるドルズィは空達のいる方へと振り返ると、黒く濁った瞳を見開き笑みを浮かべながら自らの首に親指を突き立てた。

「殺シてミろよ」

 お前に出来るのか───そう問いかけるような言葉に、空は決断をする時が来たのだと悟った。

 生半可な覚悟で戦えば誰一人守れず確実に殺される、美癒の前で殺し合いを繰り広げたくなかった空だが、この相手から美癒達を守る為には相手の命を奪うしかない。

 空は深呼吸をした後、自分の事を心配そうに見つめている美癒を見ると、その横に立っていた鈴に視線を向けた。

「鈴さん、あの人の相手は僕がしますので美癒さんの側にいてください」

「な、なに言うてるん!? あんなのに一人で立ち向かうなんて空っちでも無理や! うちも戦う!」

 怖気づいている訳ではない、空と同じ美癒を守りたい気持ちでいっぱいだ。

 しかし鈴は、自分の足が微かに震えている事に気付いていなかった。

 そんな鈴を見て空は首を横に振ると、肩の力を抜いて話し始める。

「この戦いでは相手の命を奪う必要が有ります、貴方に命の重みを背負わせたくはありません。それに、彼が僕ではなく美癒さんを攻撃してくる可能性もあります、鈴さんが側にいてくれた方が僕も戦いに集中出来ますからね」

 そう言って今度は美癒の方に視線を向けると、美癒は何か言いたげな表情をしていたが、何も言い出す事が出来ず戸惑い続けている。

 そんな美癒に心配をかけまいと、空は自分の素直な気持ちを優しい口調で伝え始めた。

「美癒さん、僕は貴方を守りたい。それと同時に貴方の望む理想の世界も守りたいと思っています。僕も争いは嫌いです、出来れば戦いも避けたい。けれど、平和を望むのであれば時に戦う必要も有ります、それは決して避けられない運命さだめなんだと思うんです。僕の魔法、僕の力で、僕自身が望む世界の為に……終わらせてきます」

 それだけ言って空が後ろに振り返った瞬間、赤い仮面を付けた女性が空の横に現れる。

「貴方は昨日……加勢してくれるんですね」

 仮面の女性、桜は静かに頷くと、鞘から刀を抜き構えはじめる。

 空はこの仮面の女性が敵ではない事を信じると、仮面の女性に背を向け臨戦態勢に入った。

「貴方の正体、目的を今は問いません。ですがっ───」



 ───声を出したくても声が出せない。

 何故言葉が出ないのか空には分からない、今はっきりと分かる事と言えば自分の体が微かな衝撃で揺れた事だけだった。

「ゲフッ───」

 口から漏れた物は言葉ではなく赤い液体、その液体が自分の『血』だという事を理解した瞬間、空の全身は震えた。

 見下ろしてみれば腹部から紅い刀の刃先が出ており、背中から貫かれた事に気付くとすぐさま刀を抜きその場から離れる。

 突き刺さる痛み、湧き上がる疑問、動揺不可避の状況に空は足に力が入らず片足だけその場に跪いてしまう。

「どう、してっ……貴方は、味方ではなかったんですか……?」

 空がその言葉を投げかけても、後ろから突き刺した仮面の女性、桜は何も答えはしなかった。

「空君!!」

 背中を刺され衣服が血で染まっていく空を見た美癒は直ぐに空の元へと向かおうとしたが、仮面の女性は刀を振り上げ美癒を制止させる。

 それを見た鈴は美癒を守る為直ぐに美癒の前方に移動すると、ハリセンを構え声を荒げた。

「仲間のフリして後ろから攻撃とか卑怯下劣やなッ! あんたも美癒を狙ってきた刺客なんやろ!?」



「はい、その通りです」

 鈴の問いに答えた若い男の声。

 それはドルズィでもなく、仮面の女性でもない。

 突如空中に在る空間が歪み一枚の巨大なカードが光りを発しながら現れると、そのカードの中から一人の白髪の青年が現れる。

「彼も、彼女も。天百合美癒、貴方を狙う刺客です」

 そう言って青年は右手をドルズィに、左手を仮面の女性に向けると、その二人の間に降り立った。

 まるでこの状況を楽しんでいるかのように青年は笑みを浮かべると、戸惑う美癒を見つめながら喋り始める。

 これから何が起こり、何が始まり、どのような結果を迎えるのか、その全ての『可能性』に期待して───。

「初めまして、私の名はゼオス。『可能性』の力を敬愛し、育み、導く者です」

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