第2話 楽観少女と恋する乙女
自らを『最強』と称し美癒達の前に現れた男、甲斐斗。
黒髪と黒い衣服が印象的であり、地面に黒い大剣を突き立てた後、腕を組んだまま威風堂々と立っている。
「信じられないか? お前の組織が全滅したって」
甲斐斗はそう言うと呆気に取られたような表情を浮かべるドルズィに視線を向ける。
ドルズィは何度同じ事を言われようとも甲斐斗の言葉を信じる事が出来ず、それ所か困惑して言葉の意味すら理解できなかった。
「な、何をふざけた事を言っている……」
「ふざけてない。今日の朝、その組織の本拠地に行って全滅させてきたんだよ。ダブ・モウシュンって世界だろ?」
甲斐斗は淡々とした口調で説明していく、その口から出た『ダブ・モウシュン』という単語にドルズィは強く反応した。
「馬鹿なッ!? 何故組織の本拠地がある世界の名を……? ありえない……」
それは四天王、そして組織の長が居る世界最大の拠点。
その拠点の名と場所は極僅かの組員しか知らされておらず、ましてや組員以外の人間が知るはずのない情報だった。
「敵は全部千切っては投げ、千切って投げーみたいな感じで倒したぞ。あとこれ戦利品。高く売れそうだから近くに倒れていた死体から拾ってきた」
甲斐斗はドルズィに構わずズボンのポケットから一つの指輪を取り出しそれを見せ付ける。
「そ、それは組織の長が付けている指輪ッ!? 何故貴様がそれを持っている……ま、まさか本当に組織を……?」
「何回言わせんだ。人数とかどんな奴を倒したとかあまり憶えてないが、その世界にいた奴は全員殺したから多分な」
組織の長が身につけていた指輪を見せられてもドルズィには信じられなかった。
本拠地といえば幹部や四天王、そして組織の長が存在しており、次元の違う強さを誇る猛者が揃っている。
その中にはたった一人で世界を征服する者も何人も存在しており、文明レベルAランクの世界が束になってかかっても本拠地の制圧は困難、長期戦になる事は避けられない。それをたった数時間で実行してきたと言う男にドルズィは全身を震わせていく。
「あ、ああ……あり、えない……っ…」
戦意喪失し俯いたまま動かないドルズィ、その様子を見ていた甲斐斗は地面に突き刺していた大剣の柄を掴み引き抜くと、ゆっくりとドルズィの元に歩いていく。その行動が何を意味するのかなど分かりきっていた。
「待ってください」
だからこそ空は甲斐斗を止めようと声を上げた。
「止めを刺す気ですか? 彼にはもう戦う気力は残っていません、貴方にも分かるはずです」
このまま甲斐斗がドルズィの前に立てば必ずあの大剣で殺すだろう。
表には出そうとしていないが甲斐斗から感じる僅かな殺気に空は双剣を握り締めたまま甲斐斗の前に立ち塞がった。
「だからどうした」
そう言って足を止め、空の言動に心から疑問を浮かべ首を傾げてしまう甲斐斗。何故目の前に立ち塞がったのか、その意味が全く分からなかった。
「無抵抗の人を殺すつもりですか?」
その言葉だけでこの空という少年がどのような人間なのか理解するのには簡単な事だった。
空の言葉を聞いた甲斐斗は最初唖然としていたが、軽く笑ってみせると再び喋り始める。
「お前、俺が一番嫌いなタイプの餓鬼だな」
もう会話する気すら起きない。甲斐斗は大剣を握り締める右腕を振り上げた。
空ごとドルズィを殺すつもりだろう、空は咄嗟に応戦しようと双剣を構えようとした瞬間だった。
「やめてっ!」
両手を広げ甲斐斗と空の間に入る美癒。
その行動に甲斐斗は剣を握り締めている腕を止めると、静かに剣を下ろし構えを解いたが、空から見れば甲斐斗の行動に異様な不自然さを感じてしまう。
あれだけの殺気を漂わせていた甲斐斗が美癒のたった一言で止めてしまうとは思えなかったからだ。
空とは裏腹に美癒は甲斐斗の行動を見て安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす。
すると甲斐斗は頭を掻きながら美癒達の後ろで跪いているドルズィを一目見た後喋り始める。
「本当に殺さなくていいのか? その男はお前を狙っていたんだぞ、もしここで逃がせば何時かまたお前を襲ってくるかもしれない。怖くないのか?」
「それなら大丈夫!」
そう言って笑みを浮かべる美癒を見て甲斐斗と空は何が大丈夫なのか分からなかったが、美癒は後ろで跪いているドルズィの前に膝をついて座ると、右手の小指を立てそっとドルズィの前に出した。
「ドルズィさん、もう襲わないって私と約束してください」
先程までその身を危険に晒し、刺客に狙われていた少女の言う発言かと疑うほど純粋な言葉に、ドルズィは唖然としたまま優しい表情を浮かべる美癒を見つめてしまう。
「あと、出来ればもう誰かを傷付けるような事はしてほしくないです。ドルズィさんはせっかく魔法が使えるから、その魔法で皆を幸せにするように使ってください」
「何だと……?」
「私、幼い頃にお父さんに教えてもらったんです。魔法には無限の可能性が有って、皆を幸せにしてくれる素敵なものなんだ、って」
幼い頃、魔法少女が世界を救うアニメに影響され一時期おもちゃのステッキを片時も離さず魔法使いごっこをしていた時があった。
アニメに出て来る魔法はどれも相手を傷付けるものではなく、一人一人の幸せの為に様々な魔法を使う少女、毎週誰かが幸せになって話が終わり、美癒は毎週そのアニメを見続けていた。
『将来は魔法使いになりたい』と、幼い頃の美癒はよく父と母に言っていたが、その時父に魔法の素晴らしさを語られ、美癒は益々魔法に興味が湧いてきていた。
時がたち、魔法の有る世界とは夢物語に過ぎない事を知った美癒だったが、それでも魔法が素敵で素晴らしいものだという事に変わりはない。
魔法の素晴らしさを伝えた美癒はそう言って笑みを浮かべていた。
ドルズィは少しだけ俯いてしまうが、下げていた右手をゆっくり挙げていくと、小指を立てて美癒の小指に優しく重ねる。
「分かった……約束、する……」
ドルズィの言葉に美癒は嬉しさでニコニコ笑っていた。
話せばきっと分かってくれる。互いに小指を重ね指きりをしてくれたドルズィを見て美癒は自分の思いが伝わってくれた事に喜びを感じる。
指きりを終えた二人。美癒はその場に立ち上がり後ろ振り返ると、甲斐斗と空に自分の思いが伝わった事を説明しようとした。
「ドルズィさん、話せば分かってくれました! これでもう誰も戦わなくていいし、傷つく事もないですね!」
嬉しそうに話しはじめる美癒。その少女の温かい人柄に空もまた肩の力を抜き安心していた。
交渉は不可能。戦う以外の選択は無いと思っていた空だが、美癒の説得によりドルズィは美癒を狙わないと約束してくれた。
美癒とドルズィに一連をやり取りを見ていた空と甲斐斗は最初冷や冷やしていたが、少女の優しさがドルズィに伝わったのだと思い空もまた笑みを浮かべる。
だがその直後、空の背筋をゾクリと殺気が走った。
美癒の後ろで跪いていたドルズィが、俯いたまま急に立ち上がる。
それは完全に美癒の背後を取った形となっており、その震える右手には鉈が握り締められていた。
美癒の思いは、ドルズィに何一つ伝わってなどいなかった。
腐敗した世界。幼い頃に両親に捨てられ孤児となったドルズィは、無法地帯の世界を生きていく為に何だってやってきた。
魔法が皆を幸せにしてくれる素晴らしい力? 違う、魔法はただただ己の欲を満たす為だけのものに過ぎない。それこそ魔法とはある意味『幸せにしてくれる力』と言えるだろう。魔法を使った強盗や殺人など日常茶飯事であり、自分が生きていく為に魔法は必要不可欠な存在だ。
そして魔法を使い人の命を奪う事で今まで生きてきたドルズィからしてみれば、美癒の言葉や優しさが自分にとって最大の屈辱であり、侮辱に他ならなかった。
魔法を夢見る愚かな少女、魔法の有る世界の現実を何一つ理解していない。魔法とは私利私欲の為に使われる事が大半であり、戦争を生み出す強力な兵器にもなりうる。
能天気な夢物語を語るこの少女が『憎い』。ただそれだけの感情がドルズィを戦いへと掻き立てる。
組織は壊滅しもう自分が帰る場所もない、そしてこのまま甲斐斗や空と戦えば敗北するだろう。
しかし今、自分の目の前には穢れの無い瞳をした愚かな少女が背を向けている。
ならば、せめて……この少女を殺す───。
「美癒さん!!」
空がドルズィの真意に気付き声を荒げて腕を伸ばすが時既に遅く、ドルズィは美癒の首目掛け右手に握り締める鉈を振り下ろしていた。
空の声と視線に美癒は戸惑いながら後ろに振り返ってみる。
綺麗な桜の花弁が風で舞い。桜の並木道が続いているが、そこにドルズィの姿はなかった。
「あれ……?」
先程まではたしかにいたはず。美癒は辺りをきょろきょろと見渡してみるものの、何処にもドルズィの姿は見えない。そしてドルズィだけでなく、空の後ろに立っていた甲斐斗の姿も消えている事に気付いた。
忽然と姿を消した二人、その場には美癒と空だけが取り残されてしまう。
「あ!」
突如美癒が驚いたように声を上げる、空は再び刺客が襲ってきたのかと思い周囲を警戒するが、美癒の 視線の先には大きな時計の付いた電灯が有り、時刻は八時五十分を示しているのに気付く。
「入学式に遅れちゃう! あの、助けてくれてありがとうございました!」
空に深く頭を下げた後、美癒は近くに置いていた鞄を手に取り走り始める。
「入学式? そうか、彼女は今日から高校生に……」
空と言えば事の状況が掴めず呆然と立ち尽くしていたが、公園の時計と少女の学生服、そして咲き誇る桜の木を見て納得する。
美癒は息を切らしながらも走り続ける、今から走って学校に行っても入学式には間に合わないと分かっていたが、それでも少しでも早く学校へと行きたかった。
(どうしよう、入学式に遅刻するなんて……)
あれだけ楽しみにしていた高校生活一日目で遅刻するはめになるとは思っていなかった美癒、腕時計を何度見ても時間が止まる事などなく、刻々と迫る時間に焦りが募ってしまう。
その過程が生んだ偶然、横断歩道を渡ろうとした美癒、歩行者用の信号は確かに青だったが、一台の車が信号を無視して横断歩道へと向かって来ている事に気付いていなかった。
「えっ───」
車が来ている事に気付いた時には既に自分の真横にまで接近しており、一切速度を緩めていない車を避ける事など美癒には出来ず、恐怖の余り反射的に目を瞑ってしまう。
宙に浮く体。全身に激しい痛みが襲ってくる……はずだった。
地面から足が離れ、吹き飛ばされているはずの美癒。
だが体には何処にも痛みを感じず、まるで誰かに抱かかえられているような感覚にゆっくりと目蓋を開け始める。
そこに広がる光景、それは自分が暮らしている町の全景だった。
朝日に照らされる町の光景の美しさに美癒は見惚れてしまい言葉が出せなかった。
「大丈夫。貴方は僕が守ります」
声を掛けられた美癒はようやく自分が今、空と名乗っていた少年に抱かかえられながら大空を飛んでいる事に気付いたが、大空を高く飛ぶ事に恐怖よりも嬉しさを感じ満面の笑みを浮かべていた。
空は目を輝かせる美癒を見つめたまま黙っていたが、ふと学校らしきものが視界に入ると指を指した。
「あれが美癒さんの高校ですか? もう直ぐ入学式が始まるみたいですけど……」
町の景色に心を奪われていた美癒はここでようやく自分が今、入学式に遅刻しそうになっている事を思い出すと、空が指差す高校に向けて同じように指を指す。
「あっ、そうでした! すいませんあの高校まで送ってください!」
「了解です!」
ゆっくりと飛んでいた空は素早く学校へと飛んでいくと、地上にいる他の生徒達に見つからないように校舎裏に降りると、抱かかえていた美癒をそっと下ろし体育館のある方を向いて話し始める。
「突然の出来事の連続に色々と戸惑っていると思いますが、今はその説明よりも入学式の方が大切そうですね、詳しい話は後でしますので行ってきてください」
「はい! 行ってきますね、送って頂いてありがとうございます! それと、二回も助けてくれてありがとうございました!」
大きく頭を下げた美癒はそう言った後、小走りで体育館へと走っていく。
そんな美癒を見送る空は安心したように笑みを浮かべるが、何時また美癒を狙う刺客が現れるか分からない為、再び風の力を使い宙に浮くと、入学式が行われる体育館へと向かった。
朝から波乱万丈の連続に戸惑いながらも、無事に美癒は入学式に間に合う事が出来た。
学級担任の指示の元、集まった男子・女子生徒達は雑談しながら列を作り、入場の準備に取り掛かる。
その時、何やらふと人だかりができ騒がしくなっているのに気付いた美癒は足を止めるとその人だかりに視線を向けてみる。
十人程の女子生徒に囲まれる一人の少女。背が高く桃色の長髪を括り、顔は小さくスタイルもモデル並、そしてスラっと伸びた細い足には丈の長い黒のサイハイソックスを履いており。その少女の美しさはとても印象的だった。
(わぁ……綺麗な人……)
思わず目を奪われてしまう程の美少女に美癒もその桜色の髪の少女をぼーっと眺めていたが、その視線に気付いたのか少女はふと美癒の方に視線を向けると、思わず二人の目が合ってしまう。
少女は真っ直ぐ美癒の目を見つめ、美癒もまた少女の目を見つめていたが、入学式の準備をする教員達の指示を受け小さくお辞儀をした後その場から去ってしまう。
綺麗なブロンドの髪を靡かせる美癒の後ろ姿を少女は見つめ続けていたが、回りを囲っている生徒達に話しかけられ再び雑談しはじめていた。
待ちに待った入学式に美癒も当然緊張と期待が入り混じり興奮していたが、朝に起きた出来事について今更ながら深く考え始めていた。
突如自分を襲ってきた魔法使い、そして自分を守る為に現れた風の魔法を使う一人の少年。
更に突如現れた黒髪の男、目の前で繰り広げられた光景は現実離れしたものであり、未だに興奮が抑えられずあの時の衝撃が頭から離れない。
夢ではない現実。これから先、一体自分の身に何が起こるのか、普通の高校生活が始まるはずだと思っていた美癒にとってそのことばかり考えてしまうが、それは不安よりも期待の方が遥かに上回っており、 美癒は笑みを浮かべ終始上機嫌で入学式を行っていた。
こうして無事に入学式を終えた美癒、そして学校の生徒達は教員の指示の元割り振られた自分達の教室へと向かっていた。
美癒のクラスは『1-A』であり、A組には続々と生徒達が入っていくのを見て美癒もまた教室に入っていく。
黒板に書かれてある席順と自分の名前を見つめ、自分の席が一番後ろの窓際だと気付き歩いていくと、自分の席の一つ前の席に座る少女、そしてその少女と仲良く喋る小柄の少女の二人が美癒に気付いた。
(あ、この人さっきの……同じクラスなんだ)
席に座っている少女は入学式前に目が有った桜色の髪の少女であり、その少女も美癒に気付いたのか顔を上げ視線を向けると、少女は徐に立ち上がり美癒の前に立ち、じーっと美癒の顔を見つめ続ける。
見詰め合う二人。まるで時が止まったかのような状況だが、二人の間にはもう一人の少女が首を傾げなが
ら入ってくる。
「桜ー、二人で何やってるん?」
そう言って二人の顔を交互で見つめる小柄な少女。栗色の髪をしたボブカットが印象的であり、見詰め合う二人をきょろきょろと見比べていた。
「鈴、私は今一目惚れというものを体験したみたいだ」
桜と呼ばれた少女は腕を組み何かを納得したかのように頷くと、組んでいた腕を下ろし再び美癒を見つめる。
「私は城神桜。よろしく」
軽く自己紹介を済ませる桜はそう言って微笑むと、美癒もまた笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。
「私は天百合美癒って言います。よろしくお願いします、城神さん」
「私の事は桜と呼べ。ちなみに『桜お姉様』もしくは『桜お姉ちゃん』でも可。だから私も『みゆみゆ』と呼ばせてもらう、良いかな?」
目を輝かせながら桜はそう言って美癒に詰め寄っていく。すると桜の横に立っていた鈴から振り下ろされたハリセンに桜は頭を叩かれてしまう。
「何言うてんの!? 美癒っちめっちゃ引いてるやん!」
美癒は別に引いている訳ではなかったが、どのようなリアクションを取ればいいか分からず戸惑っており、桜から助けるような鈴の突っ込みが炸裂していた。
「驚かせてしまってごめんなー、桜は興奮すると周りが見えなくなるタイプなんよ! あ、ちなみにうちは鈴音鈴! 上下左右何処から書いても鈴音鈴! よろしくなー!」
「うん、よろしくね!」
満面の笑みで元気良く自己紹介をする鈴に美癒も笑顔を見せると、鈴は自信満々にガッツポーズを取って見せると桜に言ってみせた。
「決まったで! うちが昨日徹夜で考えた高校生初の自己紹介! どや、憶えやすい上にインパクトあったやろ!?」
「そうだな。それより美癒、早速だが電話番号とアドレスの交換をしよう。登録したい」
鈴の自己紹介に興味の無い桜は軽く流した後、早速ポケットからスマートフォンを取り出し始める。
すると美癒は困った様子で両手を横に振り謝ってしまう。
「えっ? あ、ごめんなさい。私持ってないんです」
「何……だと……?」
今では誰もが持っている物を持ってないと言われ、桜は露骨に拒否られたと思いショックが隠せない。
そんな桜を面白そうに見ていた鈴は自分のスマートフォンを取り出すと、早速美癒から電話番号とアドレスを聞き始める。
「あかんな~桜は、第一印象最悪やもんな。でも美癒っちはうちなら教えてくれるもんな!」
「ご、ごめんなさい。本当に持ってないんです」
「うそん……」
まさか自分も拒否られると思っておらず、鈴は放心状態で美癒を見つめ続ける。
「ほ、本当だよ!? 本当に持ってないの!」
どうやら二人に誤解を与えてしまったらしく慌てて美癒は信じてもえるように説得するが、その美癒が慌てふためく様子を桜は舐めるように見つめ微笑みながら喋り始める。
「心配するな美癒。軽い冗談だ、誰も疑ってなどいない、ただ少し驚いただけさ。鈴もそうだろう?」
「とーぜんっ! 美癒っちの事疑う訳ないやん」
そう言って鈴はポケットからメモ帳と可愛らしい小さなボールペンを取り出すと、自分の電話番号とアドレス、そしてその下に可愛らしい猫の絵を描きメモ帳を美癒に手渡した。
「これうちのな。良かったら持っててや」
「うん! ありがとう鈴ちゃん」
二人のやり取りを見ていた桜も鞄からノートを取り出しボールペンで何やら書き始めると、一ページを切り離しそれを美癒に差し出した。
「これは私のだ、受け取ってくれ」
「うん! 桜さんもありがとう……ん?」
渡された紙を見てみると、そこには電話番号とアドレスだけでなく血液型、誕生日、スリーサイズ、趣味、性癖、その他諸々の個人情報がビッシリ書かれ、最後に桜自身のセクシーな裸体が描かれており美癒は度肝を抜かれてしまう。
そんな美癒を見て鈴は横から覗き込むように紙を見た後、再び桜にハリセンが炸裂したのは言うまでもなかった。