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第23話 美味円満

 テーブルに並べられた彩り良い料理の数々に、美癒と鈴の二人は満足そうにしていた。

 ご飯、味噌汁、肉じゃが、ブリの照り焼き、ホウレン草の煮びたし。どの料理も食欲をそそる出来栄えに鈴は眼を輝かせながら出来た料理の一つ一つをスマホのカメラで撮り始める。

「めっちゃ美味そうやぁ~! これも美癒っちの協力のお陰やね、ありがとな!」

 そう言って全ての料理の写真を撮りり終え誇らしげに写真を見ていると、リビングに私服に着替え終えた桜が入ってきた。

「やれやれ、どういう事か説明してもらおうか」

 桜には何故美癒がここに居るのか分からないが、美癒もまたどうして桜が鈴の家に居るのかが分からなかった。

 すると鈴が料理の並んだテーブルの椅子に座ると、桜と美癒を手招きし椅子に座るように促す。

「食べながら説明するから、料理が冷めんうちに食べよっ!」

 そう言われ美癒と桜がテーブルに座ると、桜はテーブルの上に並べてある料理を見渡していく。

「この手料理、全て美癒の手作りか。どれも美味しそうだな」

「この料理、私と鈴ちゃんで一緒に作ったの」

「そやで~美癒っちに料理教えてもろたんよ、食べてみ!」

 てっきり美癒が一人で作ったのかと思っていたが、鈴も協力している事に気付き桜は少し戸惑った表情を浮かべた。

「何、鈴が? ……ふむ、頂こう」

 三人は両手を合わせて『いただきます』と言った後、桜と鈴は先ず初めに肉じゃがを食べ始める。

「うまっ!?」

 今まで食べた事のない美味しさに鈴は驚愕した表情で固まってしまう、そして焦るように別の料理も一口ずつ食べていくと、どれも食べた事のない程の美味しさに感動していた。

「めちゃくちゃ美味い! 味も良く染み込んでるし、こんな美味しい料理が作れるなんてすごいわっ!」

 口一杯に料理を含み味を堪能していく鈴を見て、美癒も嬉しそうに料理を食べ始める。

「うん、何時もより美味しい。きっと鈴ちゃんと一緒に作ったからだよ」

 そう言って美癒は笑みを見せ、鈴は嬉しさで勢い良く料理を食べていく。

 しかし、肝心の桜は肉じゃがを食べても大したリアクションも見せず、ゆっくりと一つずつ料理の味を噛み締めており、その様子を見た美癒が少し不安になってしまう。

(あ、あれ……桜さんどうしたんだろう。美味しくなかったのかな……?)

 すると、突然桜は手に持っていた箸をお茶碗の上に置くと、真剣な面持ちで真っ直ぐ美癒を見つめ口を開いた。

「美癒、私と結婚してくれ」

「えっ!?」

 桜の突然の告白に美癒は顔を真っ赤に染め慌てていると、桜は口元に手を当て涙を流し始めた。

「完璧だっ……こんな美味しい手料理を毎日食べられると思うだけで涙が出てくる」

 美癒は何と答えたら良いのか分からないものの、桜にも料理を気に入ってもらえた嬉しさと安心で笑みを見せると。桜が感動している最中、料理を口一杯に含む鈴が桜に話しかけた。

「しゃくら~、今日にょ料理はひゅちも作っひゃんよ?」

 鈴はもぐもぐと口を動かしながら聞き取り辛い言葉を喋ると、桜は再び手に箸を持ち料理を食べ始める。

「信じられんな……けど、美癒が協力したのなら納得出来る、どれも美味しくて驚いたよ。つまり今日、美癒が家に来たのは鈴に料理を教える為なのだろう?」

 そう言って桜は視線を美癒に向けると、美癒は頷いてみせた。

「さて、次はどうして私が鈴の家にいるのかを答えよう。今の鈴だと何を喋っても聞き取り辛いだろうしな」

 料理を口一杯に含みハムスターのように頬を膨らませる鈴を見て桜はそう言うと、簡単に事の説明をしはじめた。

「私の家は通っている高校から遠くてな、そこで学校から近い鈴の家に住まわせてもらっているんだ。鈴の両親は仕事の都合で海外にいて家を空けているし部屋も余っていたからな。つまり鈴と私で二人暮しをしているのさ」

 桜の説明を聞いて鈴も納得するように頷いていた。

「そうなんだ、それで桜さんが鈴ちゃんの家にいたんだね。二人だけで暮らしてるなんてすごいね、びっくりしちゃった」

「私も驚いたよ、起きて台所に行ったらエプロン姿の美癒がいるのだからな。しかし、私が寝ぼけて美癒に抱きついていたとは……何をしていたのか全く思い出せん」

 桜が憶えている事と言えば鈴に頭を叩かれ正気を取り戻した時からであり、美癒の胸を鷲掴みにした事や美癒の耳たぶを唇で銜えた事など全く憶えていなかった。

(で、出来れば思い出してほしくないなぁ……)

 今でも思い出しただけで恥ずかしくなり美癒の顔が赤くなってしまう。

「私は寝起きに時々ボケてしまって記憶が曖昧になる、まぁ今日は睡眠不足でもあったんだが」

 桜は未だに美癒にしでかした事を思い出せないが特に気にすることなく夕食を食べていく。

「というか、何故美癒が家に来る事を教えてくれなかったんだ? 美癒が来ると分かっていれば夕食の買い物だってついていったのに……鈴、わざと美癒の名前を出さなかったな……?」

 桜が鋭い視線を鈴に向けると、鈴はニヤリと笑みをうかべ横目で桜を見つめた。

「へへーん、美癒っちと二人きりのデート。羨ましいやろ~?」

 デートと言っても一緒にスーパーマーケットに行って買い物をしただけだが、その言葉は桜の怒りに火をつけた。

「この恨み、必ず晴らすッ」

 そんな何時もの桜と鈴の仲の良い遣り取りを面白そうに見つめる美癒。

 温かい雰囲気、賑やかな食事の時間にに美癒は終始笑みを浮かべ、楽しい食事の時間は続いた。



 その後、三人は夕食を食べ終えると。美癒が食べ終えた食器を重ね一人台所へと向かい始める。 

「よいしょ、それじゃあ洗物するね」 

「あ、ほんならうちも──」

 それを見て鈴も続こうとしたが、桜が強引に間に入ると鈴の方を向き洗濯物が山のように積まれている場所に指を向けた。

「鈴、私と美癒が食器を洗う。お前は洗濯物を畳んでおいてくれ」

「もー、しょーがないなー。これで美癒が家に来る事黙ってた件は終わりやけんね?」

 鈴が渋々洗濯物が置かれている部屋へと向かい、桜はそんな鈴の後姿を暫く見つめた後、台所へと向かう。

「美癒、私が食器を洗う。美癒は洗い終わった食器を布巾で拭いてくれ」

「うん、ありがとう!」

 桜が汚れた食器を丁寧に洗い、その横では美癒が布巾を手に洗い終えた食器の水を丁寧に拭き取っていく。

 そして美湯が二つ目の洗い終えた食器を手渡された時、不意に桜が美癒に言葉をかけた。

「ありがとう」

「えっ……?」

 突然の言葉に美癒は食器を拭いていた手を止めると、桜は微笑みながら食器を洗い続ける。

「すまない、突然こんな事言われたら戸惑うのは当然だな。気にしないでくれ」

 そう言って桜はそれ以上喋ろうとはしなかった。

 沈黙が続く状況に少し気まずいと思ってしまった美癒は、ふと気になる事を桜に聞いてみる。

「桜さんは、鈴ちゃんと何時頃から暮らしてるの……?」

「ん、二年前からかな」

「そんなに前から二人で暮らしてたの!?」

 てっきり高校生活からだと思っていたが、どうやら桜と鈴はそれよりも前から共同生活をしていたらしいが、ここであることに疑問を抱いてしまう。

「……あれ? でも桜さん、お弁当の時間いつもパンを食べてるような……」

 美癒の言うお弁当の時間というのは昼休みの事、鈴はいつも自分の手作り弁当を持ってきているが、一緒に暮らしているはずの桜が弁当を持ってきた事は一度もない為、美癒は不思議に思ってしまう。

 すると桜は大きな溜め息を吐くと、美癒の方を向いて喋り始める。

「美癒、よく思い出してほしい。鈴は何時もどんな弁当を持ってきている?」

「鈴ちゃんのお弁当? ん~っと──」

 先ずは今日の弁当を思い出してみると、鈴の弁当箱にはぎっしりと『たこ焼き』が入っている光景を思い浮かべた。

 次に、昨日の弁当を思い出してみる。すると鈴の弁当箱にはぎっしりと『焼きソバ』が入っている光景を思い出す。

 一昨日、鈴の弁当箱には『お好み焼き』が、三日前は『たこ焼き』が──。

 そこまで思い出した瞬間、急に桜が美癒の両肩を掴むと迫真の表情で顔を近づけた。

「鈴が作れる手料理は三つだけなんだっ!! 他の料理を作っても全く美味しくない! 幾ら三つの手料理が美味くてもさすがに飽きるだろ!?」

 桜は鈴と暮らしている内にその三つの料理は毎日のように食べていた事により飽きてしまっていた。

 だから桜は弁当を必要とせず食堂のパンや、コンビニ等で買ってきたパンを学校に持ってきていたのだ。

「私は休日いつも鈴の手料理を食べているが、その三つの料理がループしているだけに過ぎない。鈴には悪いがもう懲り懲りなんだ……」

 鈴の手料理に感謝しているものの、さすがに同じ料理を二年も食べ続けていた桜にとっては過酷な事だった。

「そうなんだ……それで鈴ちゃん、私に料理を教えてほしいって言ったんだ……」

 美癒は桜の悲痛の叫びを聞いていると、美癒はどうして自分が家に呼ばれたのか本当の意味を理解した。

「鈴ちゃんは桜さんの喜ぶ顔が見たくて料理を教えてもらおうとしたんだよ!」

「鈴が、私の為に……?」

 美癒の言葉に桜は戸惑っていたが、美癒は元気良く頷くと桜を見つめながら笑みを浮かべた。

「絶対そうだよ! 鈴ちゃん桜さんの事大好きだもん!」

 すると、その言葉を聞いて洗濯物を畳み終えた鈴が扉を開けて現れる。

「半分正解や!」

「鈴ちゃん!? 聞いてたんだ」

 鈴は腕を組みながらニコニコと笑いながら美癒と桜に近づいていくと、二人を交互に見つめた後、話し始める。

「うちは桜の事大好き。そんでな、美癒っちの事もだ~いすきっ! だから美癒っちを家に呼んだのは二人の事が大好きやからなんよ」

 鈴はそう言って満面の笑みを浮かべると、大好きと言われ照れてしまう桜と美癒は互いに目を合わせると、軽く微笑み鈴を見つめ同じ思いを伝えた。

「私も二人が大好きさ」

「私も鈴ちゃんと桜さん、大好きだよ!」

 美癒もまた二人に続き少し照れ臭さを感じるがそう言って笑みを浮かべると、その言葉を聞いた桜と鈴が嬉しそうにニヤニヤと笑みを見せながら美癒を見つめる。

「今、確かに言ったな」

「言った言った!」

 桜と鈴が顔を見合わせ何かを確認した後、桜は美癒に話そうと思っていた事を伝え始めた。

「美癒、明日は学校も休みだし、どうだろう。今日は家に泊まっていかないか?」

「え、ええっ!?」

 突然の話に美癒は動揺を隠せず、桜はそんな美癒の肩に手を置き話を進めていく。

「案ずるな、着替えは私が用意しよう」

 まさか鈴の家に泊まる等と思っても見なかった為に、美癒は嬉しさと同様に少し戸惑いもあったが、たった今二人の事を『大好き』と言ったので断り辛い雰囲気なのは言うまでもない。

「うん、ありがとう。私も是非お泊りしたい、今から泊まってもいいのかお母さんに聞いてみるね」

 ただ、美癒も二人と共に過ごしたい気持ちが有った為、断ろうとなど思ってもいなかった。

 美癒の返事を聞いた鈴は嬉しそうに笑みを浮かべると美癒に近づき手を取ってみせる。

「パジャマパーティー! 美癒っち、いっぱいお話しよな!」

「うん!」

 美癒と鈴が二人が嬉しそうに見詰め合っている最中、桜は口元に手を当て不敵な笑みを隠しながら美癒を見つめ続けていた。


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