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第16話 守る覚悟

 甲斐斗が家に帰ってきたことで元気を取り戻した唯達、美癒と空も甲斐斗を心配していた為、美癒は胸の中にあった不安が解消され笑みを浮かべていた。

「甲斐斗戻ってきて良かったね! お母さんも元気になったみたいだし」

「ええ、そうですね」

 美癒の笑顔に答えるように空もまた笑みを見せるが、空は甲斐斗と話しをしたいと考え続けていた。

 その内容はアルトニアエデンについてと、ハレスオズモブの壊滅の件についてもそうだが、美癒を守れなかった責任をどう取ればいいのかを聞く為だった。

 空が龍馬に敗北したのは事実。今回は運良く龍馬に見逃してもらったものの、次会う敵が龍馬のような者である確率はほぼ無い為、自分の敗北は同時に美癒の危険を意味していた。

(僕はもっと強くならないと……今のままでは美癒さんを守りきる事なんて出来ない)

 空が心の奥底で更に強くなる事を決意し、二人は学校へと向かっていく。

 何時刺客が来るか分からない。空は新しく取得した『CLT』を何時でも発動できるように周囲の警戒を続けていく。

 美癒に悟られないようにしながら空は学校に到着すると、教室に入り授業の最中でも警戒を怠らない。

 何時もとは違う空の雰囲気に美癒は気付いていないものの、桜だけは空の異様な雰囲気を察知していた。

 しかし、これといった出来事が起こる事は無く。今日一日の授業は何事も無く平和に終わりを迎える。

 空と美癒は授業を終え、家へ帰宅しようと教科書を鞄に入れて支度を済ませると、二人は教室を後にした。

「空君、ちょっと寄りたい所があるの。いいかな?」

 教室を出た後、美癒は足を止めると直ぐに空を呼び止める。

「はい、構いませんよ。どちらに行くんですか?」

 すると美癒は笑みを浮かべると、廊下の奥を指差しこう答えた。

「図書室!」



 その美癒の声を教室の扉の前で聞いてしまった桜は、ふと口元に手を当てると体を震わせた。

(なっ……若い男女が放課後、図書室に残るだと……このシチュエーションはまずい)

 如何わしい妄想を浮かべながら桜は美癒の事が心配になり、こっそり後ろから付いていこうとした時だった、後ろから手首を掴まれると強引に引き寄せられてしまう。

「桜何してるん? 今日ははよ帰らなあかん用事があるやろ、寄り道したらあかんで」

「放してくれ鈴! 私は、私は美癒を守らなくてはならないんだー!」

「美癒っち守るのもええけど期日も守らなな~」

 鈴に手首を掴まれ強引に引っ張られてしまい桜は逃げる事が出来ず、そのまま引き摺られるように連れていかれてしまう。

 図書室へと向かっていた美癒はふと桜の声が聞こえてきたような気がして後ろに振り返ってみるものの、そこには既に桜の姿は無かった。

「美癒さん、どうかしましたか?」

「今、桜さんの声がしたような……きのせいみたい。いこっか!」

 二人は隣の校舎の一階にある図書室へと向かい、部屋の中に入ってみると、そこには数人の生徒達が椅子に座り各自勉強や読書などをしていた。

 美癒は初めて来た図書室で回りを見渡していくと、自分の探している本がどこにあるのか本棚の一つ一つを確かめていく。

「美癒さんは今日、どのような本を借りにきたんですか? 僕も探すの手伝いますよ」

「ありがとう。でも大丈夫、私こうやって色んな本を自分の目で見て探すのが宝探しみたいで好きなの。空君も読みたい本とか有ったら探してきていいからね」

 そう言って再び美癒は本を手に取りながらお目当ての本を探し続ける。

「僕の読みたい本ですか……」

 美癒の言葉を聞いた空は、今自分が読みたい本が何かを真剣に悩み考えながら本棚に並んだ本を見ていくと、一冊の本が目に留まり手に取ってみた。

 その本は『武術』について書かれている本であり、その横には『体術』について書かれた本が並んでいた。

 少しずつでもいい、確実に強くなりたい。空のそんな心が無意識にそのような本を手に取らせていた。

 強くなる為に必要な知識を得たい。空は本棚の前で立ったまま『武術』について書かれた本のページを捲っていく。

 その様子を横で見ていた美癒は、空がどんな本を読んでいるか見えないものの、熱心に本を読む空を見て嬉しそうに微笑むと、再び本を探しを始めた。



 美癒と空が図書室で本を探している間、桜と鈴は靴箱の前で靴を履き替えると、二人で学校を後にする。

 ふと校庭では運動部の生徒達がランニングをしており、学校から出てきた桜を見ると数人の女子生徒が手を振った。

「城神さん、さようなら!」

「また明日ね!」

 その女子生徒の声を聞いた桜は笑みを見せながら手を振るが、頭の中は美癒の事で一杯だった。

 当然そんな事は鈴にお見通しであり、上の空の桜を見て声をかける。

「さ~く~ら~! 期日はもう直ぐなんよ? ほんとに分かってるん?」

「全く、本当お節介だな鈴は。お前は私の母親か? 十分に分かっているさ、家に戻ったら直ぐに取り組むよ」

「それなら別にええんやけどね」

 二人は何時も通り仲良く会話をしながら校門を抜け通路を歩いていると、ふと前方からがたいの良いサングラスを掛けた男が歩いてきていた。

 両腕には黒い刺青が入っており、異様な雰囲気を身に纏い見るからに柄の悪そうな男の登場に鈴は目を合わせないように歩くものの、桜は堂々と歩きながらその男の横を擦れ違った。

 その時、ふと男が一枚のカードのような物を見ながら歩いている事に気付いた桜は擦れ違い様にそのカードに目を向けると、そこには美癒の姿が映っており、一瞬眉を顰める。

 しかし桜は動揺を見せることなく歩き続けると、鈴はほっと胸を撫で下ろし桜に話しかけた。

「なんかさっきの人、ごっつ人相悪かったな。絡まれるんちゃうかと思って冷や冷やしたわぁ」

 通り過ぎてしまえば怖い事はない。鈴は軽く笑みを浮かべながらそう言って桜の言葉を待っているが、桜は口を開かず無表情のまま歩き続ける。

「桜? どないしたん?」

「あの男、美癒の写真を持っていた」

「えっ!?」

「振り向くなッ!」

 その桜の言葉に鈴は後ろに振り返りそうになるが、桜は静かに、けれども強い口調で鈴を止めると、鈴と桜は足を止めること無く歩き続ける。

「……あの人、美癒っちの知り合いなんかな?」

「分からん。だが、あの見るからに悪そうな男が美癒の知り合いだとは思えん。直接美癒に確かめるしかないな」

 そう言って桜はポケットからスマホを取り出すと、歩きながら操作し美癒のスマホに電話を掛けはじめた。



 桜が電話を掛ける少し前、図書室にいた美癒は数冊の本を手に図書委員の人に許可を貰い図書カードに名前を書いた後、空と二人で図書室を後にしていた。

「お探しの本があったみたいですね、どのような本ですか?」

 美癒が嬉しそうに借りた本を鞄の中に仕舞うのを見て、空はどんな本を借りたか聞いてみると、美癒は数冊借りた本の内の一冊を空に見せてくれた。

 その本の表紙には大きく『魔法物語』と書かれており、美癒が今日借りた本はどれも魔法が使われる小説や漫画などの本だった。

「こういう本を読んで魔法の世界を楽しみにしてるの、私もいつか魔法が使える時が来るかもしれないから」

 本を開けば、そこには魔法が溢れた幻想的で楽しい世界が広がっている。

 戦いもある、苦悩のもある、けれどその先に待つ未来はどれも素晴らしいものばかり。

 敵だった者と分かち合い、誰一人消えることなく、最後はハッピーエンドを迎える物語。

 それは美癒が望む理想の世界に近いものばかりであり、魔法を使って様々な困難に立ち向かったり、人々の為に使ったりなど、そういった話を読みながら美癒は何時か自分が魔法を使えるようになった時の事を思い続けていたのだ。

「魔法の世界で皆が楽しく暮らせたら良いもんね! 空君はどんな本を借りたの?」

「僕ですか? 僕は格闘技等の自分の戦いに活かせる本を借りました。美癒さんを守る為に強くならなければいけませんからね」

 その言葉を聞いた美癒は複雑な心境だった。

 空の純粋な気持ちは嬉しい。けれど、いつも戦いの事や強くなる為に行動する空を見ていたくはなかったからだ。

 魔法で強くなる事に拘りすぎないで欲しい、そう思ってしまうものの。今、自分が置かれた現状がそんな生易しいものではない事ぐらい薄々感じ始めている。

「空君……他に借りた本も、そういうのなの……?」

「はい、そうですよ」

 空にとってみれば悪気のない返事だったが、美癒は本を借りてみてはどうかと空に言った事が、まるで空に強くなるよう強要しているかのように考えてしまい落ち込んでしまう。

 勿論、空が美癒の言葉をそのような意味で捉えている訳ではない事ぐらい美癒にも分かってはいた。

「私の為に……ありがとう」

 その美癒の表情は何処となく寂しさを見せていたが、空は美癒の心の変化に気づく事はなかった。

 すると、突然美癒のスカートのポケットの中に入っているスマホが振動しだすと、美癒は急いでスマホを取り出してみる。

「桜さんからみたい、どうしたんだろう?」

 不思議そうに美癒が電話に出ると、スマホからは桜の声が静かに聞こえてきた。

『美癒、まだ学校を出ていないな?』

「えっ? う、うん。図書室を出たばかりだけど、どうしたの?」

『実は学校の近くでお前を探している不審な男がいてな。今外に出るのは──』

 その直後、不自然に電話が途切れてしまう。

「桜さん……?」

「美癒さん、どうかしましたか?」

 不安な表情を浮かべる美癒を見て空は声をかけると、美癒は説明しながら桜に電話を掛けなおしてみた。

「それが、桜さんが私を探している不審な人がいるって言って、でも電話が途切れちゃって……」

 桜の身に何かあったのか心配しながら美癒はスマホを両手に持ち電話に出てくれるのを待っていると、電話はあっさり繋がった。

 しかし、そこから聞こえてきた声は桜ではなく、一人の子供の声だった。

『もっしもーし。天百合美癒って君ですかー?』

 幼い男の子の声に美癒は首を傾げてしまうが、言われるままに答えてしまう。

「はい、そうですけど……」

『素直だね。じゃあさっさと学校から出てきてねー。さもないと二人とも殺しちゃうから』

「えっ───」

 その言葉の直後、通話は一方的に切られてしまうと、美癒は両手が震えてしまい手に持っていたスマホを落としてしまう。

「さ、桜さんと鈴ちゃんが……っ!」

 美癒は頭の中が真っ白になり、直ぐに校庭に向かう為に廊下を走り始める。

 空は美癒が手に持っていたスマホから僅かに漏れた声を聞いていた為、異様な事が起きている事は直ぐに理解し、美癒が落としたスマホを拾うと美癒と共に廊下を駆け抜けていく。

「ええ、話は僕にも聞こえました。恐らく美癒さんを狙いに来た刺客、僕が様子を見に行くので美癒さんはここに残ってください」

「ううん、私も行く! だって私が行かないと、二人がっ……!」

 美癒は目に涙を浮かべながら走り続けた、空はこれ以上美癒に何を言っても足を止めないと悟り、二人は靴も履き替えず校舎の外に出ようとした時、一人の男が二人の前に立ち塞がった。

「よう」

 立ち塞がった男を見て空と美癒は驚きを露にする。それは立ち塞がった男が刺客だからではなく、『甲斐斗』が腕を組んだまま二人を見つめながら立っていたからだった。

「甲斐斗さん!? どうしてここに……!」

 口を開いたのは空だった。緊急事態に甲斐斗が駆けつけてくれたのは分かったが、何故自分達の前に立ち塞がるのか理由が分からず二人は困惑していると、甲斐斗は一人喋り始める。

「美癒、俺はまだお前から直接聞いていなかった事がある。お前の『理想の世界』を聞かせてくれ」

「私の、理想の世界……?」

「そうだ、お前の望む、理想の世界だ。だが、それを聞くのは『今』じゃない、この校舎を出てからお前の素直な気持ちを聞かせてもらう」

 それだけ言うと甲斐斗は壁に凭れ掛かり、二人の邪魔はしないと言わんばかりに道を開けた。

 甲斐斗の言葉の意味を考えながら美癒は駆け抜けていくと、空も美癒に続き甲斐斗の前を通り過ぎようよした時、ふと甲斐斗が口を開いた。

「……悪かったな」

「えっ?」

 その言葉に空は足を止めると、壁に凭れ掛かりながら見つめてくる甲斐斗を見つめ返した。

「お前の好きにしろ。お前も美癒も唯も全て、最初から関係無かったんだ。あいつ等の望む世界は俺が守る。俺がする事はそれだけだ」

「甲斐斗さん……?」

「今まで散々毛嫌いしてすまなかったな。唯の言うとおり、お前が美癒を守ってくれていたのは事実だ。ありがとよ」

「い、いえ。僕は、そんなっ……」

「じゃ、後は決めろ」

「決める……?」

「この先の光景を見た後、お前も美癒も決めなければならない。俺はその後、美癒の『理想の世界』を聞く」

 それだけ言うと甲斐斗は腕を組んだまま俯き、何も語りはしなかった。

 この時、空は嫌な予感しかしなかった。

 不安で押し潰されそうになる、一体この先に何が有ると言うのか。

 空は甲斐斗に聞くよりも直接自分の目で確かめる事が大切だと思い、すぐさま美癒の後を追い校舎を出た。

 そこに広がっていた光景に美癒は立ち尽くしたまま絶句しており、空もまた言葉を失いその光景から目が放せなかった。



 校庭に広がる血の海。

 校庭には血塗れの生徒達が転がっており、誰一人生きている者はいない。

 そして美癒の足元に転がっている二つの死体を見て美癒と空は息を呑んだ。

 胴体を切り裂かれ、口から血を吐き出し死んでいる二人の人間。

 それが城神桜と鈴音鈴の死体だという事を理解するのに時間など必要無かった。

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