第9話 新しい風
ノートを無事に見送った美癒と空は学校に着くと、空は職員室へと向かい、美癒は自分のクラスに入っていく。
そして自分の席に向かって歩いていると、自分の一つ前の席、そしてその隣の席には仲良く喋る桜と鈴の姿があった。
「おはよう美癒、今日も可愛いな。ほら、私の膝の上に座るといい。今日からここがお前の席だ」
相変わらずの桜のノリに美癒はどうして良いかわからず戸惑っていると、隣の席に座っている鈴がハリセンで桜の頭を叩くとその音に少し美癒はビビってしまう。
「おはよう美癒っち! 朝からアホな事言うてる桜は無視してええよ!」
「う、うん」
桜に申し訳なさそうに少し頭を下げながら美癒は自分の席まで歩き座ると、鞄の中に入れてある教科書を机の中に入れていく。
その間にも頭を叩かれたショックで桜は少し寂しそうに俯いており、渋々前を向くと机に突っ伏したまま眠ってしまう。
「ほんと気にせんでええからね」
鈴はそう言ってくれるものの、何か悪い事をしてしまった罪悪感を感じた美癒は、そこで昨日二人から貰ったメモの事を思い出した。
(あ、そうだ……!)
美癒はスマホを取り出すと、昨日二人の番号とアドレスを登録したまでは良かったが、まだ連絡していなかった為、先ずは鈴にメールを送り昨日母に新型のスマホを買ってもらった事を伝える。
そしてそのメールの最後には、桜にはサプライズとして電話で報告するとのことだった。
そのメールを見た鈴は無言のまま親指を立てて美癒の意思に答えると、美癒は机に突っ伏して眠っている桜に電話を掛けた。
(桜さん、きっと驚くだろうなぁ! えへへっ)
どんな反応をするか楽しみな美癒は、嬉しそうに桜の後ろ姿を見つめていると、可愛らしい女の子の歌声が桜のスマホから鳴っている事に気付いた。
桜がスカートのポケットから自分のスマホを手にとってみるが、登録されていない番号の為、暫く首をかしげた後、その電話に出始める。
「はい、もしもし」
「もしもし、桜さん。美癒です! 実は昨日、お母さんにスマホを買ってもらったの!」
嬉しそうに喋る美癒、鈴もその様子を見ていたが、桜は無言のまま何も喋ろうとしない。
「あ、あれ? 桜さん……?」
電話越しに美癒の心配そうな声が聞こえてくると、桜は漸く喋り始めた。
「果たして、本当にお前は美癒なのか? 美癒の振りをした偽者という可能性もある」
後ろから間違いなく美癒の声が聞こえているはずなので直ぐに気づいてもらえると思っていたが、桜は電話の相手が美癒だと信じてくれない。
「で、でも。本当に私だよ? えっと、どうしたら……」
まさか疑われるとは思っておらず電話越しに美癒は困ってしまうと、すかさず桜がある提案を出した。
「もし、本物の美癒だと言うのなら私の質問に答えられるはずだ。これは本物にしか分からない事だからな」
「うん、いいよ! 何でも聞いて!」
その桜の提案に美癒は納得すると、昨日あった桜達との出来事を思い出しはじめ、桜からの質問が始まった。
「よし、ではまず。今穿いている下着の色は何色だ?」
「…………えっ?」
「なんだ、本物なら答えられるはずだぞ? やはり偽者か」
「えっ!? 違っ、偽者じゃないよ……!」
「そうか? だったら答えるられるはずだ」
「~~~っ!」
美癒の顔は見る見る赤くなり、恥ずかしさでもじもじと体を動かしながら俯いてしまう。
「そのっ……えっ……とぉ……」
本当の事を言わなければ自分だと信じてもらえない、だが言うのは恥ずかしい、自分は一体どうすればいいのか美癒は心の中で葛藤すると、意を決し、肩を震わせながら小声で呟いた。
「ぃ……し……っ……ろぉ……うぅっ……」
目に涙を浮かべ美癒がそう答えた直後、桜はスマホの通話を切ると、直ぐ様後ろに振り返り美癒の恥ずかしがっている表情を真面目に見つめながら喋り始めた。
「美癒、確認したい事がある。下着を見せてく──」
最後の言葉を言い終えるよりも早く、身を乗り出した鈴がハリセンを振り上げ叫んだ。
「死に晒せボケェッ!!」
桜の顔面をハリセンが直撃、激しい音と共に桜はそのまま後頭部を机に打ち付けてしまう。
「美癒、大丈夫? 美癒はほんと優しいなぁ、桜が既に気付いていると分かってて付き合ってあげてたんやろ?」
その美癒の優しさに鈴は感銘し宥めるように頭を撫でていくと、美癒は驚いた様子で鈴を見つめた。
「え、そうだったんですか? 私てっきり本当に信じてくれてないのかと思ってびっくりしちゃって……」
「嘘やん!? 美癒っち嘘って言うて! てっきり分かってて付き合ってあげてたのかと思ってたんよ!?」
「ご、ごめんね。なんだかスマホで電話するの初めてだったから、つい緊張しちゃって……」
その『初めて』という単語に桜が過敏に反応すると、倒れていた体を起こし手を差し伸べ美癒の頬に触れた。
「ほほう、それは私に美癒の初めてを捧げたという解釈で良──」
その瞬間、強引に美癒と桜の間に鈴が入ると、桜に顔をぶつけるように近づけ睨み付けた。
「桜、あんた少しはまともな事喋ったほうがええよ? このままじゃただの変態やんっ」
堪忍袋の緒が切れそうな鈴はそう言って更に鋭い目つきで桜を睨みつけるが、桜はそんな鈴を鼻で笑いはじめる。
「全く、ただの軽いジョークではないか。コミュニケーションも必要だろう? それに私はまともだ、ただ赤面して恥ずかしそうに照れている美癒の顔が見たいだけだからな」
「あほ~っ! それが変態なんや~っ!」
怒りを通り越し逆に桜の醜態を哀れみながら鈴はそ言うと、悲しそうに自分の席へと戻ってしまう。
すると桜の前には目を赤く腫らした美癒が俯いており、本当に泣きそうになっていたのを知ると、少し罪悪感を感じてしまう。
別に美癒は桜に対し怒っている訳でも嫌いになった訳でもなかったが、桜から見れば美癒に嫌われるような事をしてしまったと今更ながら思い、美癒に向かって深々と頭を下げた。
「すまない美癒。ちょっと遣りすぎた……私はただ美癒と仲良くしたかっただけなんだ、不器用で申し訳ない……。どうだろう、今日の授業が終わった後。お詫びをかねて一緒に喫茶店にでも行かないか? 美味しい店を知っているんだ」
反省の意を込めて桜は美癒を喫茶店に誘うが、これも美癒から見たら怪しく思われてもおかしくい為、美癒に誤解を生んでしまったのではないかと後悔してしまうが、美癒は桜の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべた。、
「うん、いいよ! それに私は気にしてないよ。私も桜さんともっと仲良くなりたい。私の為に色んな事をしてくれる桜さんの素直な気持ちがとっても嬉しいから! 喫茶店に誘ってくれてありがとう、一緒に行こうね!」
嫌がる素振りや言葉が一つぐらい出てきてきもいいはずだというのに、美癒の口からそのような言葉は一つも出はしない、何故なら今言った言葉が美癒の本心であり、素直な気持ちだったからだ。
すると桜は今まで一度も恥ずかしがる素振りを見せなかったにも関わらず、真っ直ぐ向き合ってくれる美癒の言葉を聞いて照れてしまい、恥ずかしさで視線を逸らしてしまう。
「美癒っちは本当ええ子やなぁ……うち涙出てきたわ……」
その美癒の穢れない純粋な心に胸を打たれ、鈴はハンカチで自分の涙を拭いはじめていた。
一時間目のHR、A組に転校生が来るという噂は既に広まっており、誰しもがどのような転校生なのか期待しながら待っていた。
男子生徒と女子生徒、勿論来て欲しい転校生は男か女かの話題で盛り上がっており、そして運命の時は来た。
「皆はもう噂で知っていますよね。それじゃあ皆がお待ちかねの転校生を紹介します。入ってきて下さい」
女性の担任の指示の元、教室の扉を開け、一人の少年が教室に入ってくる。
服装を見れば男子生徒だと直ぐに分かるはずだが、その容姿はとても美しく、男女問わず誰もが少年の姿に釘付けとなっていた。
「初めまして、今日からこの学校の生徒になりました。風霧空と言います、皆さんよろしくお願いします」
そう言って軽く頭を下げた空に、皆言葉を失い空を見つめていた。
(あれ、反応が薄い。自己紹介が普通すぎたのかな。でも、ここで派手な振る舞いをする訳には……立場上、目立ちたくもありませんし……)
空が少し不安になってきた直後、教室にいた女子生徒達が一斉に手を挙げはじめた。
「はい! 風霧君の趣味を教えて下さい!」
「好きな食べ物は何ですか!? 嫌い食べ物は!?」
「転校してきた理由教えて! あと彼女はいるの!?」
「書道部です! 空様! サイン下さい!」
女子生徒達の黄色い声と共に幾つもの質問を投げかけられ、空は少し驚きながら一つずつ質問に答えていく。
その頃、教室にいた複数の男子生徒はその空の容姿を見て同じ絶望していた。
(めちゃくちゃすげえイケメンが来たぁぁぁっ……)
空は担任の教師に空いている席のある美癒の隣に座るように指示を出すと、空は足元に置いていた鞄を手に取り美癒の隣の席に向かって歩き始めた。
その姿を桜と鈴もまじまじと見つめており、二人の視線を感じながらも空は美癒の隣の席に座ると、美癒は笑みを浮かべて喋り始める。
「空君大人気だね!」
「い、いえ。転校生なので少しちやほやされているだけですよ。皆気の良い人ばかりみたいで良かったです」
こうして無事、空は美癒とクラスメイトになることが出来たが、桜は腕を組み僅かに振り返ると、椅子に座り美癒と仲良く会話する空を横目で睨み付けた。
「ほう、恋のライバル出現という訳か、面白い。美癒は絶対に渡さん!!」
「……桜、あんたもう今日は黙っとき」
空にライバル心を抱く桜はそう言って対抗意識を燃やしているが、その様子を鈴も横目で見つめながら呆れた表情を浮かべていた。




