強引な彼と初恋ショコラ
トムトムさんと春隣豆吉さんとの合同企画『皆で初恋ショコラ』企画作品です。
企画にお誘いいただき、ありがとうございます。
ベタな設定ですが少しお付き合いくださいませ。
「ケーキとぼくのキス、どっちがすき?」
TVの中で人気アイドルグループのメンバーが画面の向こうにいるであろう視聴者に色気を振りまいている。そのCMの主役であるスイーツ、『初恋ショコラ』という名のチョコレートケーキにフォークを刺して豪快に口に運んだ少女は、醒めた目でこう言った。
「どっちも微妙」
少女はあまり甘い物が好きではない。
なのに何故チョコレートケーキを食べているのかというと、隣に住む幼なじみが「これおいしいよ」と持ってきたからである。しかもその幼なじみは今まさに台所で紅茶を入れて……。
「微妙ってなんで? おいしいだろー。しかもどっちもってさー……」
背後から脱力したような声。どうやら少女の呟きは聞かれていたらしい。
ため息と共に座卓にティーソーサーを置かれる。少女はためらいもせずカップに口をつけた。
「あちっ!」
「当り前だろ。今入れたばっかだぞ」
「だって甘いんだもん」
またため息。
「おふくろと妹はおいしいって言ってたのにな」
「私が甘い物苦手なの知ってるでしょ。どーせCMやるならポテトチップスとかのCMにしてくれればいいのに。それでスポンサーから大量にもらってきてくれれば文句言わないわよ」
幼なじみは今さっき見たCMに出ていた人気アイドルグループのメンバーの1人、ショウだった。
「そんなにポテチばっか食ったら太るぞ」
「チョコケーキの方がカロリー高そうだけど?」
「これは普通のチョコケーキよりカロリー控えめなんだよ。コンビニで今飛ぶように売れてるって担当が言ってた」
だからもらってくるのたいへんだったんだぞ、とショウは言う。在庫がなくなりそうなぐらい爆発的な人気だそうだ。
「別に私の為にもらってきてくれなくてもよかったけど?」
「かーっ!! かわいくねぇっ!!」
ショウは頭をかきむしるような仕草をした。
(どーせ可愛くないもん)
文句を言いながらも律儀に食べる少女は心の中で呟いた。
ショウがいきなりアイドルになる! と宣言してオーディションを受け始めたのは中学二年生の頃だった。
どーせ高校はお前と一緒のところに行くし、と余裕をみせた彼は中学三年生になる前に見事アイドルグループ「デュオ」のメンバーとしてデビューした。
本格的な活動は高校生になってから、と温情ある決定をしてくれた事務所のおかげでショウは少女と同じ私立高校に入ったのである。他のメンバーは芸能人ばかりが通う私立高校に入っているにもかかわらず、ショウだけはがんとして譲らなかった。とはいえ私立高校なので高校のイメージを損ねさえしなければどうにでもなる。宣伝がよかったのかすぐに「デュオ」は人気アイドルグループとして知らぬ者はいないまでになった。
休みの日はなかなかオフにならない多忙の中、やっと掴んだオフ日に少女と過ごすなど物好きにもほどがある、と彼女は思う。
そうでなくても学校でかまい倒してくるショウのおかげでいろいろ睨まれているのだ。休みの日まで一緒に過ごしたなんて知れたらファンの子たちにどんな目に合わされるか想像に難くない。
でも、と少女は思う。
ショウは生まれつきアイドルだったわけではない。
アイドルが幼なじみになったわけではない。
幼なじみがアイドルになったのだ。
それなのにいろいろ言われるのは理不尽この上ない。
そういったストレスやもろもろでついショウに当たってしまったのだった。
(そんなこと、言いたいわけじゃなかったのに……)
後悔しながら最後の一口を食べようとした時、横からフォークが奪われた。
「ん。やっぱうまいじゃん」
「……なんでショウが食べるのよ」
せっかくショウがくれたのに。
散々文句を言っておいてそんなことを思ってしまう。
「どっちも微妙? でもまだ俺とキスしたことないじゃん」
そう言うショウの顔が近い。少女は内心焦った。
アイドルになれるぐらいだから、ショウの顔はそれなりに整っている。しかも哀しいかな、少女は実はメンクイだった。
「……お、幼なじみでキスなんかしないでしょっ!」
「それもそうだな」
納得したように言うショウにほっとする。なのにその顔はますます少女に近づいてきた。
「恋人だったらキスしていいよな?」
「はいっ!?」
びっくりして聞き返した少女の唇に、暖かいものが重なった。
至近距離にあるショウの表情はよく見えない。
(え? なんで? 私、もしかして……)
やがて彼女はショウの腕の中に捕らわれた。
「……あー、たまんねぇ……。抱きてぇ……」
唇を解放されて言われた科白が脳に届き、少女の顔はぼんっと赤くなった。
「な、な、ななななななななにっ!? どどどどどどーゆーことっっ!?」
「……だから、今から芹菜は俺の彼女。次はポテチのCMに出られるように頼んどくから抱かせて?」
どうしてそうなるのだ。
「ま、ままままままてっ!! 落ち着けっっ!!」
「芹菜こそ落ち着いた方がいいと思うよ」
そう言うショウは少女-芹菜を軽々と抱き上げて2階に続く階段を上り始めた。
「俺とのキスの方が好きって、言わせてあげる」
少女は顔を真っ赤に染めたまま口をぱくぱくさせた。
そりゃあショウのことは大好きだけれども。物ごころついた時から好きだったけれども。
まさかチョコレートケーキからこんな展開になるとは夢にも思わなかった。
「絶対チョコケーキの方がいいと思う!!」
慌てて言った芹菜にショウの目がキラーンと光った。
「じゃあそれを証明しないとね」
証明なんてしなくていいと思ったけれども、芹菜の部屋の扉は無情にもパタンと閉められてしまったのだった。
Fin.
ショウ君はずっと我慢してたってことで(何
名前もネタもベタですんません(汗
他作品とは全く関係ない単発作品です。
よろしければ他作品も見てやってください。
強引で女の子に甘甘な男ばっかりの話が目白押しです(真顔