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小学生

小学生おわりごろまで

車で何時間もかけて、新しい町にやってきた。前に住んでいたところよりかは、ちょっと都会な感じがする。

山に囲まれた、町。

冬だったので、どこも雪が()もっていた。まず、荷物(にもつ)()ろして、昼食をみんなでとり、

これから通う小学校の校長先生のところへ向かった。校長室から見える校庭(こうてい)には、雪の()る中

半ズボンで走る自分と同じ年齢(ねんれい)くらいの生徒たちが大勢(おおぜい)いた。


たぶん健康(けんこう)のため、校庭(こうてい)を走るんだと思う。たしか記憶(きおく)では、1キロくらいずつ走ったはず。

ボクも()れるまでは大変だったけど、友達と競争したりして、案外(あんがい)楽しいんだよね。


あちらでは、雪なんてほとんど見なかったものだから、この雪の()る中、半ズボンで走っているのを見ると、


正直ショックだった。


自分もこれをするんだろうか・・・・そんな不安(ふあん)が頭をよぎる。


まぁ心配しなくても予感は的中(てきちゅう)するわけだけど。


その日は帰り、次の日からかな。学校に行って、クラスに向かう。

クラスでは、自己紹介して、席に着くだけなんだけど。どきどきした。

(まわ)りの子にいろいろ聞かれて、ほんとは仲良くしたいんだけど。

()ずかしいのか人見知(ひとみし)りするせいか、行動がヘンになる。前の学校で使っていた

教科書をみせてと聞かれると、その教科書を「はいっ」といって、相手のイスのあたりの床に投げてしまった。


「そこは、手渡(てわた)すところだろ。()げちゃダメ!」


そう自分で自分につっこみたくなる。

どうしてそんな行動になるんだと。過去のボクを問い()めてやりたくなるくらいだ。

もうほんとに思い出すだけで自分の行動(こうどう)()ずかしい。


けれどうまく気持ちを表現できないってことは、もどかしいけど、こういうことなんだろう。


ほんとは仲良くしたいんだ。だれだってそうだと思う。


一人はさびしいよ。


でも運よく友達がたくさんできた。そんなボクでもみんな受け入れてくれた。

いまでも、あの最初にできた友達には感謝(かんしゃ)している。


ボクの手を、ちょっと強引(ごういん)に、引っ()ってくれたあの小さな手に。

あの時はボクの手も小さかったけどね。


ボクの表情は、きっと戸惑(とまど)っているように、君の目には(うつ)ったかもしれない。

でも本当は、君がボクを、友達にって、(さそ)ってくれたこと、すごくうれしかったんだ。


君がいなかったら、ボクはこれから起こることに()えられていただろうか?


友達って大切な存在だと思うよ。


学校に通う方法は、数キロの道のりを歩いていくんだけど、普通の車道(しゃどう)を歩くので、危険。

上級生が、班長(はんちょう)になり、班を作って、まとめてくれる。その班で学校に通うことになる。


けれどなんというか、理由もなくいきなり(なぐ)る上級生っているよね。

見た目がきにくわないとか、もう理不尽(りふじん)な理由なんだろう。

上級生だから、体も大きいし、(さか)らえない。


やっぱりこれもただ逃げるしかなかった。


けれどこの上級生、(ちが)う班のひとなんだけど、単に(ひま)つぶしなのかな?

ボクを追い()け回したり、ボクの制服(せいふく)帽子(ぼうし)(うば)って

走り回ったり、やっぱりどう考えても、遊びなんだよな。


それでひどくなってくると、やっぱり殴られる。


班の周りを走り回りながら、なんとか学校まで登校する毎日。

班長さんが止めてくれるんだけども、そんなことおかまいなしの上級生。

おかげでボクは、みんなの前で、泣きながら学校に通うことに。


このときかな、イジメラレテ()ずかしいって気持ちができたのは。


それまでは、いじめられているところを知り合いに見られることなかったし。

というか、いじめられることが普通だと感じているくらいだった。

殴られて逃げ回るのが、きっと誰もが経験することなんだと、そう思っていた。

それくらいのことがわからないほど、(おさな)かったんだと思う。


でも、このころには、いじめをみんなが経験(けいけん)するものではないと理解していた。


理解したら、途端(とたん)に、いじめられているところを知り合いに見られると、なんだかすっごく傷ついた。


いじめられてるところを、好きな子にでも見られたときは、ほんと落ち込んだ。


それを毎日だから。学校に通いたくなくなるんだ。

けれど、ボクはそのとき、学校に通わないという考えを思いつかなかったし、ずっと我慢(がまん)していた。

いや。思いついていたのかもしれない。けれど誰もそんなことしてなかったし、できる状況(じょうきょう)ではなかった。


あんまりつらいときは、家に帰ってから、ふとんに(くる)まって声を()(ころ)して泣いていた。

(わす)れっぽい性格が良かったのかな?泣くとわすれちゃう。何事も無かったかのように。すっきりできた。

で、友達から電話があると喜んで出かけていった。


きっとだれかのそばにいたかったんだと思う。


一人でいると同じ考えがループするからかもしれない。友達と()ごす時間。それがこんなに楽しかったことはない。

いまでも、あんなにいじめられたってのに、小学校なら戻りたいなとすら思う。それくらい友達とすごす時間は

いい思い出だった。


学校って、ボクにとってはつらいものだったけど、友達と知り合えたのはほんと感謝してる。


今思えば、給食とか体育とか楽しいこともあったかも。

勉強も好きだし。ってこれいうとよくいじめられたな。


このとき、ボクは、このほかに、二人くらいかな。いじめられていた。


けれどボクもさすがにこのときはやり返すってことを覚えた。相手が同級生なら、怖いけど、やれた。


一人は、ボクの家の近くにすんでいて、確か同じクラスだったかな。生意気だとかいわれて、(なぐ)ったり、()ったり、

ボクがやり返さないと思ったら、すき放題(ほうだい)された。二週間くらいかな。教室でそんな日々が続いて、

毎日大声で泣き(さけ)んだ。誰かに気づいてほしくって。なのに誰も助けてくれない。先生もとめてくれない。まぁいつも

その子が先生のいないときを見計(みはか)らっていたのだろうけれど。


それでその二週間くらいがたったある日、覚悟(かくご)を決めたボクは、びくびくしながら、小さな力で()り返した。


ものすごく怖かった。


もっといじめがひどくなったらどうしよう。そんな思いでイッパイだった。


でも、もう限界(げんかい)だったもの。これ以上いじめられ続ける毎日なんていやだった。


その子がこういった。


「なんだ、やりかえせるんだ。」


こんなことってあるのかな。その子は、まるでボクがやり返すのをまっていたみたいな口ぶりだった。

でも、(たし)かにその子の態度(たいど)は、ひっくりかえったように、()わったんだ。

なんだか急にやさしくなった。ちょっと(きつね)にでもだまされた気分だったけど。


二週間がうそのように、仲の良い友達になれた。


そのときのボクの気持ちは、説明できないけど、とにかく教室での安全は確保(かくほ)できた。


それだけでずいぶん(ちが)った。


もう一人は、これまた、自分の家の近くにすんでいて、よく(なぐ)られた。同じ年齢(ねんれい)だったから、むこうは、

ささいないじわるのつもりなのかもしれないが、身長が、30cmは違う。

圧倒的(あっとうてき)すぎた。上級生よりたちが悪かった。相手に

「いじめてる」って気持ちがない分、余計(よけい)きつい。ボクはびくびくして、その子にだけは

会わないようにと気をつけていたが、その子はどうもボクがお気に入りらしく、ボクを探し出しては、

いろいろいっては、殴りにくる日々だった。


ほんとついてない。


でも体の大きさが違うから、どうしても勝てそうに無い。だからずっと()えていた。

でも自分の中ではもう限界をとっくに()ぎていたんだとおもう。


こんなことならと、自殺を考えるようになっていた。


(いた)そうだし、苦しむっていうし、怖くてできない。


同時に、自分が死ぬくらいなら、


こいつを殺せばいいんじゃないかって考えた。それならボクは生き残れる。


でも警察(けいさつ)逮捕(たいほ)されるな。きっと。ボクの親もつらい思いをするだろうな。

こんな不名誉(ふめいよ)なボクを生んでしまったことを後悔(こうかい)するだろう。


理由はどうあれ、人殺しだもの。


ここをずっとループした。


殺す理由は、(にく)くてというよりかは、仕返しが怖すぎるから。やり返さないともう自分は限界で、

でもいったん、やり返したらきっとこの子のことだから、もっとひどくなる。


そして圧倒的(あっとうてき)すぎる、その力の差で、ボクはもっとひどい目にあう。

どんなひどい仕返しが待っているだろう。

やるときは、最後までやらなきゃ。そんなどす黒い思いに()しつぶされた。


頭の中で、自分で自分を追い()めていく毎日。


出くわして、殴られて、泣くたびに、殺したいという思いは強くなる。


でも冷静(れいせい)に考えれば、普通ならそんなふうに感じない。


やめてとか口でいうほうが先だし。親に言えばよいはずなんだ。実際(じっさい)簡単(かんたん)に止まっただろう。

大人になった、いまならわかる。大人の力に子供が何人、(たば)になっても、かなうはずない。

あいては何人もいるからとか、すごく背が高くて力が強いとか。


いまならいいきれる。大人と子供じゃどうがんばったって、子供は、勝てやしない。

人数が、何人いてもダメ。中学生くらいまでなら間違いない。高校生すぎたら、

ちょっと自信ないけど。でも大人も数人(すうにん)()れば、高校生でも問題ないと思う。


ましてや小学生。ボクの母親でも、二度と何もいえなくなるくらいに、その子を、はり(たお)せたろう。

ボクにとって、いくら怖い大きな相手でも、親からみれば、小さな存在(そんざい)。そりゃそうだよね。

大人なんだから、経験(けいけん)してることが違いすぎる。子供が大人と勝負しようなんて、

どうがんばったって、できないことなんだ。


けれどボクの世界では、親に行っても無駄(むだ)に思えたんだ。きっとそんなことじゃ

この子をとめられない。とめられないで中途半端(ちゅうとはんぱ)に、とめようとしたら、

余計(よけい)ひどくなるはず。だから殺す。


そしてとうとうその日がきた。公園の砂場(すなば)に呼び出して、


まず砂で目潰(つぶ)し、相手の目が見えなくなったところを、片足を持って、砂場に()(たお)す。

これで相手の顔面(がんめん)近くに攻撃(こうげき)できる。顔をグーで(なぐ)り続け、口が開いたところに、砂を()()んで

殴った。ここらへんで記憶(きおく)がない。


ただこう覚えている。気持ちよかった。


けれど後悔(こうかい)はすぐに後ろからやってきた。


ボクは、気がついたら、自分の家の玄関(げんかん)の前にたっていた。


ボクの手は相手の血でべたべたしていたと思う。砂と一緒になってカパカパしていた。


気が動転(どうてん)していてわからなかったけど、ボクはひとを殺したかもしれない。

その瞬間(しゅんかん)()(さき)に思い()かべたのは


父の顔。


あの怖い父が、ボクをどうするだろう。幼いころ、模型を(こわ)したときは、そうとう殴られた。

人を殺したとなれば、ボクはただではすまない。

どんなことになるか想像したら、あぶらのような汗がじわじわと体から()き出してくる。


怖くてふとんに(くる)まって(ふる)え続けた。


何時間すぎたろうか?ずっと(ふる)えていたけど、何も起こらなかった。


あの子は死んでなんかいなかった。


すごくほっとした。すべての圧力(あつりょく)から解放(かいほう)された感じだった。


でも今思う。殺してしまっていたらどうなっていたかなと。


そのせいかな。今でも夢でこの瞬間(しゅんかん)にであうことがある。あの逃げられない後悔(こうかい)が後ろから、じわりと(おそ)ってくる感じ。

いやな汗みたいなものがどっと体から噴出(ふきだ)す。あの感覚(かんかく)。そこで目覚(めざ)める。夢でよかったと(いの)るように思う。


ひとことでいえばこの夢は、恐怖(きょうふ)


二度とみたくないんだけど、神様はそれを(ゆる)してくれないらしい。この夢は自分への(ばつ)なんだと思う。


そしてその夢を見るたび思い出す。殺さなくてほんとに良かったという気持ち。


それからその子に学校では会わなくなった。でも卒業写真には写ってるし、間違いなく生きている。

心配になって、何度も確認(かくにん)したから間違いない。


その子はたぶんボクを()けるようになったんだろう。


と、こう書いておきながら、正直、この話、本当だったかなと自分でも思うことがある。


私は、少しおかしいなって思っている。たしかに、しばらくその子に

会わなくなったのは間違(まちが)いないんだけど。そして記憶(きおく)もすごくリアルで、

何度も卒業写真を見直したりってことは今でもやる。

そして、誰にも攻撃的にならないでおこうと思ったのもこれがきっかけのように思う。

だからここに書いた(なや)みも夢でみるってことも全部本当なんだけど、


けれど、私が思うに、ボクにこんなことができるかというと疑問(ぎもん)もある。


ボクはすごく臆病(おくびょう)なんだ。たしかに喧嘩(けんか)くらいはしたけど。ここまでやれたろうか?


もしかすると、この話は、ボクによって作られたウソであったかもしれない。


ボクは、この先もいじめられないようにといろいろなことを考えついた。

そのなかにこれがあったのかもしれない。いや、そう考えるほうが自然かも。

いじめられないために周囲を(こわ)がらせるためにつくったウソ。

ボクに手を出すと、ここまでやるぞという意思(いし)表示(ひょうじ)だったのかもしれない。

でもそれにしては、あまりにも記憶(きおく)がリアルだし、もしウソならこんなに今、私が苦しむ必要はないわけで。


というよりも、現実かウソかで(なや)むなんてこともあるのかな。

実際(じっさい)(なや)んでいるけど。

案外(あんがい)記憶(きおく)って当てにならないものかもしれない。

でもそうだとすると、私は、自分でついた自分を守るためのウソに(なや)まされているってことになる。


正直、思い出そうとすればするほど、(あたま)がいたい。


それくらい作り物としては良くできすぎている。自分でもわからないくらいだから。

たぶんほんとに聞こえやすいように、

ほんとにおこったいじめられた思い出、苦しんだ思い、思いつめた毎日に

最後、自分の願望(がんぼう)のようなものをくわえてできたのではないか?


自分がやり返していたら、そういう場面をウソとして()(くわ)えてできたものかもしれない。

そうなると砂場によびだしてというあたりからが本当には、起こってない話となる。

であれば、まぁボクらしいな。結局、最後まで()えただけ、頭の中で考え続けていたやり返すシーンを

あたかもそれが本当にあったことのように記憶(きおく)の中にすりこんだのかもしれない。


自分がいじめられないようにするために。


でも結局それで今苦しんでいるわけだから。


考えれば考えるほど頭が痛い。あんまりウソはつくなってことかな。


にしたって、自分でついたうそと現実の区別がつかないのはボクくらいのものかもしれないが。


なんかまぬけだな。()ずかしすぎるよ。


とりあえずいじめられることはなくなったんだ。時間が解決してくれたのかもしれない。

正直自分でも、ここはわからない。記憶をつくりかえてしまっているかもしれないし。

とりあえずその子が生きていることは間違いないし、

いじめもずっとつづいたわけではなかった。


そしてその夢で今も苦しんでいることと、いじめられて死ぬか殺すかで思いつめていたことも本当。


しばらくして、ボクをいじめ続けた上級生も卒業した。

中学では会わなかったから、別の学校にいったんだと思う。


まぁ中学では、また別の人がボクをあらたにいじめるんだけどね。


でもそのころには、ボクにも抵抗力(ていこうりょく)みたいなものはついていた。

人間死ぬきで考えれば、どんなことも乗り越えられる。


大事なのはどんなことをしてでも生き残ってやるという気持ち。


でも殺すのはやめたほうがいい。ほんと後悔(こうかい)すると思う。相手が生きていてもこれだから。

っていっても妄想(もうそう)かもしれないし、なんともいえないけど。

はっきりわかるのは、こういうこと。


殺そうとするくらいなら、親にいじめられてるって、いってみて。いうだけいってみて。

これよりかはずっと(らく)なはず。


親に心配かけたくない。その気持ちもよくわかる。でも死ぬ前にいってみて。


君が死んだら、親は何より大切な君を失うんだから。知らない間に死んじゃうなんて絶対(ぜったい)だめ。

いってくれたほうがずっといいんだから。君と一緒(いっしょ)(なや)むほうがずっといいんだから。


君は親にとって、かけがえの無いものなんだよ。



それから、小学校を卒業するまで、まったく平和だったかというとそうでもない。

むしろこっちのほうが(おどろ)きはあるかもしれない。

けれどいじめっていうか、わるふざけっていうか、なんて説明すればいいのかわからないけど


あんまり、いやってわけでもなかったかも。


「相手」によるのかもしれないね。


まぁひとついえることは、やっぱりボクってついてないのかなってこと。


はじまりは、事故(じこ)とでもいうべきかな、


ボクはそのころ、家を引越(ひっこ)して、といっても、同じ町の中。

だけど、学校と家の距離(きょり)は、ずいぶん(とお)くなっていた。


歩いて(かよ)わなくちゃいけないんだけど、ほんとは、その地域はぎりぎり

別の学校に通うはずの範囲(はんい)なんだ。


だから、通学に、一時間半くらいは、かかる。ボクは歩くの(おそ)いほうだから、二時間くらいみておいたほうがいい。

というわけで、班ではなく、ひとりで、朝早くに学校に向かうんだけども、(おく)れても、先生に、(とお)いからっていいわけできるってのが

よくなかったかな。()り道しちゃう。あぜ道を歩いて、川の流れや、魚の動きをひととおり観察(かんさつ)してると

学校に向かって歩いてるってことをついわすれちゃうんだよね。自分でもわすれっぽすぎるとは思うけど。


それで、朝、先生が連絡(れんらく)事項(じこう)を伝えてる途中(とちゅう)に、こっそり教室に入るってことがよくあった。


ようするに遅刻(ちこく)


しまいには、それすら(とお)()して、一時間目の授業(じゅぎょう)前に、きちゃうこともしばしば。


でも、毎朝(まいあさ)友達への挨拶(あいさつ)はかかさなかった。グラウンドを通って、教室へむかうと、友達が、

教室の(まど)から乗り()して、手を()ってくれる。もちろんボクも()りかえす。


そんな日もあったってことね。いつも遅刻(ちこく)してたわけじゃないと思う。よく(おぼ)えてないけど。


その日も、まぁ遅刻(ちこく)して、学校にやってきた。グラウンドを通って、教室へむかう。


けれど誰も手を()ってくれない。今思えば、このときヘンだと考えるべきだったかも。


教室のドアに向かう。中からみんなの楽しそうな声がきこえる。


ボクはなんとなく,

その楽しそうな声に、ひっぱられるように、そのドアを思い切り開けた。


そのとき、ボクのちょうどまたの間あたりに向けて、足が飛んできた。


にぶい音がした。


どうもボクは股間(こかん)を、()り上げられたらしい。


あとで聞いた話だと事情(じじょう)はこうだ。

教室で、男の子が、(さわ)いでいて、()り上がりすぎて、ズボンをぬいだそうだ。

その状態(じょうたい)で、女の子を追い()け回していたらしい。


(ねが)いだから、だれか止めてよ。


それを聞いたときは、ほんと(うん)がないなって思った。

ボクはその女の子のにげまどう先にいたってわけ。

もちろん苦しくなって、開けたドアを、そのまま閉めて、学校から家に帰った。

だけど、その途中(とちゅう)、歩きづらいことに気がついた。


急に不安になった。


道のそばにある小屋のなかで、確かめてみた。


ひとつちゃんとあった。


きっと歩きづらく感じるのは気のせいだと思い。家に急いだ。

家について、ゆっくりしていると、不安になってきた。


もともと、ひとつだったっかな?


かなり不安になってきた。


授業とかで、先生が教えてくれてるときに、もっと真剣(しんけん)にきいておけばよかった。

親が帰ってきたとき、とにかく自分の考えを(たし)かめたくて、

玄関(げんかん)に、かけていってきいてみた。


「・・・・ってひとつだよね?」


そのまま血相(けっそう)をかえた親が、病院に()れて行ってくれた。


ふたつなんだよね。


地方の病院じゃ正確(せいかく)検査(けんさ)無理(むり)って言われて、

紹介状をわたされて、大きな病院に。

どうもお医者さんの話をきいていると、手術が必要らしい。それもかなり大掛(おおが)かりな。

ベッドがあくまで()たないといけないということで、春休みまでだったかな。

とにかく待つことになった。


それで、ボクは、ひとつが上のほうにあがった状態(じょうたい)で、ずい分、長い間、学校生活をおくることになった。

またつらいことに、(さむ)くなると体がしまって、それが(いた)む。


で、それを友達に話したのがいけなかった。いや、先生がみんなに、説明したのかも。体育の授業(じゅぎょう)とかに

でれなかったからかな。よく覚えてないけど、とにかく友達がそれを知ることになった。


友達はいいやつだけど、子供だからね。ボクが困ってる顔が楽しいんだろう。

よってたかって、ボクのそこをたたきたくなるらしい。


結局(けっきょく)、追い()けられる日々だった。


ほんとついてない。


毎日にげまわった。でもそれほどいやでもなかったかも。いたいことには違いないんだけど。

友達は、めづらしそうに、見せて見せてとボクにねだる。仕方(しかた)が無いから見せてあげる。

でもやっぱり最後は追いかけられる。

ほんとよく走り回った。


されてることが同じようなことでも、そのふんいきと相手(あいて)次第(しだい)ってことなんだろうか?


まぁ殴られてるわけじゃないんだけどね。(いた)さとしては、殴られるのとかわらないくらい(いた)かった。

あたりまえかな。(ちが)う場所にあっても急所(きゅうしょ)は、急所(きゅうしょ)なんだし。

精神的(せいしんてき)には、それほどつらくもなかったかも。


ただやっぱりどんなものでもやめてほしいけどね。たたかれるのとか


こっちはつらいだけだから。


まぁとにかく、休みに入って、待ちに待った手術日。ようやく解放(かいほう)される。

手術前に、先生から言われたこと。手術は、失敗する可能性があって、安全を考えるなら、とってしまうことになるらしい。

かなり可能性は低いらしいけど、失敗するとしばらくして、ガンになるかもしれないということ。


小学生に、いきなりガンかとるかって(せま)られても(こま)る。


(なや)んだ(すえ)、怖いけど、とらない方向でお(ねが)いしました。

お医者さんの努力(どりょく)で、長時間にわたる手術は無事(ぶじ)、終了した。

その後、ボクは3日、目覚(めざ)めなかった。なんでも麻酔(ますい)がおもいのほか()いたらしい。

はじめてだったからかな。ボクが予想外(よそうがい)麻酔(ますい)によわかったそうだ。

3日目には、(どろ)のような顔色(かおいろ)になっていって、今日、目覚めなかったら、

戻ってこれないと母は、お医者さんから言われたらしい。


ボクは、運よく目覚(めざ)めることができた。


生死(せいし)(さかい)って案外(あんがい)、身近にあったりするかも。

それともボクの運が悪いだけなのかな。


いや、これで、生き残ってるんだから相当(そうとう)運がいいってことかも。

とにかく神様に、ひたすら感謝(かんしゃ)した。


その後の検査(けんさ)で、ガンの可能性(かのうせい)はなくなった。


と、こう書いておきながら、やっぱり、この話、本当だったかなと自分でも思うことがある。


人に話してるうちに、おもしろおかしく、自分にとって都合の悪いところを書き()えてないか?

そう考えるとこの話もひとつだけ(へん)記憶(きおく)がある。

それもなぜかほかとつながらないパズルのピースのような記憶(きおく)


股間(こかん)をけられた瞬間(しゅんかん)、ボクは教室の中にいたような気がするってこと。

いまとなってはどっちが本当なのかわからないんだけど、


もしそうだとすると、その女の子を追い回してたのがボクで、

()ずかしながらボクが、ズボンを()いだのだろうか?

いくらなんでもそんなことはできないだろうと思うけど、

子供のときならありえるかも。

子供のときって、後から思い出したくないような奇妙(きみょう)な行動はイッパイあったように思うし。

できればわすれてしまいたいが。


仮にそうだとすると、とめるべきはボク。


なんて話だ。


思い出したくなかったかもしれない。


これはつらいな。ほんとつらい。


どうかこっちが間違(まちが)いでありますように。ボクの自尊心(じそんしん)


はずたずただよ。まぁいまさらだけどね。


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