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009

丸一日。


アラタは、ほとんど休むことなく

その一冊の本を読み続けた。


ページをめくり、

何度も同じ行を読み返し、

理解できるまで考え続ける。


そして――

ようやく、分かった。


「……そういうことか」


この世界で使われる魔法。

それは――マナと呼ばれていた。


マナは特別な才能ではない。

誰の体内にも存在し、

空気中にも満ちているエネルギー。


だが、それを扱えるかどうかは別問題だった。


本には、こう書かれていた。


人は複数の魔法を学ぶことができる。

だが、ほとんどの者は一つの属性しか極められない。

才能があっても、三属性が限界。


マナを増やす唯一の方法は――

使い続けること。


マナを使い、

限界まで消耗し、

枯渇する。


そして再び回復する。


それを繰り返すことで、

体は少しずつ、マナを受け入れる器へと変わっていく。


「……筋トレと同じだな」


アラタは苦笑した。


理屈は分かった。


問題は――

どう使うか、だった。


その時、システムが反応する。


《練習クエスト発生》

《武器にマナを通せ》

《対象:刃物》


「……刃物?」


アラタは部屋を見渡し、

使い慣れた一本のナイフを手に取った。


深く息を吸い、

意識を体の奥へ向ける。


何度も失敗した。


何も起きない。

感覚すら掴めない。


それでも、

諦めずに続けた。


――そして。


ほんの一瞬。


ナイフの刃が、

かすかに熱を帯びた。


「……!」


火属性マナ。


それが、アラタの最初の魔法だった。


それから――

一か月。


アラタは、毎日同じことを繰り返した。


マナを使い切るまで練習し、

倒れそうになりながら休み、

回復したら、また使う。


一つの魔法だけ。

余計なことはしない。


ただ――

火を刃に宿す。


最初は一瞬。

次第に数秒。

やがて、安定して維持できるようになる。


そして、ある日。


ナイフの刃が、

はっきりと赤く染まった。


「……できた」


火属性付与。


初めて、自分の力で成し遂げた魔法。


その夜、アラタは久しぶりに

心から眠れた。


翌日。


アラタは街を歩いていた。


人通りの少ない路地。


突然――

一人の男が、前に立ちはだかる。


「……金、置いてけ」


低い声。


アラタの心臓が跳ねる。


(……やばい)


体は鍛えた。

魔法も少し使える。


それでも――

心のどこかで、まだ自分を弱者だと思っていた。


男は、アラタの胸ぐらを掴み、

壁へ押し付ける。


「逆らうな」


距離が近い。


息がかかる。


その瞬間――

アラタの中で、何かが切り替わった。


(……逃げるな)


足に力を込める。


――踏み出す。


アラタは、前に出た。


彼の視界では、

ただ普通に走っただけ。


だが――


男の目には違った。


一瞬で距離を詰められ、

消えたように見えた。


「な――」


言葉になる前に。


アラタの拳が、

男の腹に突き刺さる。


ドンッ!!


鈍い衝撃音。


男の身体が宙を舞い、

そのまま壁へ――


ズガァァン!!


壁が砕け、

男は崩れ落ちた。


――意識なし。


路地に、静寂が戻る。


「……え?」


アラタは、呆然と自分の拳を見つめる。


「……今の、俺?」


震える手。


心臓の鼓動。


だが――

恐怖は、なかった。


むしろ、

身体が軽い。


違和感に気づき、

近くの窓に映る自分を見る。


「……?」


目線が、いつもより高い。


壁の落書きが、

やけに低く見える。


「……まさか」


アラタは、壁に刻まれた目印と並ぶ。


――180cm。


「……伸びすぎだろ」


思わず、声が漏れた。


(なんで、こんな急に……?)


その答えを知るのは、

まだ少し先の話になる。


だが一つだけ、確かなことがあった。


――もう、

昔の自分には戻れない。

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